Beau-Paysageの岡本英史氏を尋ねて

津金と聞くと、ほとんどの方は?でしょうが、山梨県北杜市の一角で、清里の僅か南に所在し、ある意味では穴場的なトコロです。
北に八ヶ岳、南に南アルプスが望める、文字通り「眺めの良い場所(=Beau-Paysage)」なのです。そんな風光明媚な所で、まさに泥臭く農業に営むのが、かの岡本英史氏です。
ご存知の方もおられると思いますが、氏はWebページにあるように、醸造設備を持たず、自ら畑を開墾し、黙々とブドウ栽培、いや農業に日夜いそしんでいるのです。だから、岡本氏はワインメーカーというよりも農業を営む一人の青年なのです。
ここで、「農業」と敢えて書いているのは、メディアで取り上げられているの氏の姿が自社畑でのブドウ100%でのワインを製造する知る人ぞ知るブティック・ワイナリーというように描かれているのですが、それはごく一面であって、農産物としてのブドウを自然な姿で栽培してその結果得られたのがワインであって、決して単なるワインメーカーでは無いことです。だから、ワインは勿論のことブドウ栽培だけにこだわっているのは無く、人間の手を加えた工業製品の様な農産物に対するアンチテーゼとして、自然と共に農業を営んでいます。従って、将来はブドウに限らず同じ志をもった人達との活動を行うことを視野に入れてます。
(以前は受けていたのですが、最近ではメディアへの露出も殆ど断っているそうです。)
当然ながら、畑は完全無農薬。しかも、実演で、枝の中に潜むブドウの木を巣くうカミキリムシの一種をカッターで丹念に削り取る所を見せて頂きました。こういう地道な作業に毎日終やしているのですが、その一方で農学部出身ということもあり、その土地の気候・風土・土壌にあった方法を入念に検討した上で栽培を行う研究肌も持ち合わせています。
畑を見学しながら岡本氏の考えをいろいろと聞かせて頂いたのですが、ハッとさせられたのが「『美味しい』というのは人間にとっての概念で(それも個々人によって『美味しさ』の嗜好が異なってくる)、本来農作物が持っている味わいとかを無視し、作為的に演出されたものに過ぎない。」という哲学です。そして、引き合いに出された例として、「カリフォルニアやチリのワインが安くて美味しいともてはやされているが、カリフォルニアではメキシコ系の、チリでは現地の労働者を安く雇ってこき使い、散々農薬を撒いて何も知らない労働者がバタバタと倒れていってるのが現実です。そしてブドウ本来の味でなく醸造技術でもってワインの味を出している。それをもって果たして美味しいと言えるのでしょうか?」と静かに訥々と語ったのが印象的でした。つまり、我々は単に「グラスの中だけの世界」しか見ておらず、その背景には様々な物語が潜んでいるのです。そして、その物語が、果たして人間にとって都合の良い事だけに執着しているのではないかという疑問があるのです。
こうやって書くと、岡本氏の事を、「ストイックな求道者」とか「エコロジスト」とか、「宗教っぽく感じる」と思われるかもしれませんが、岡本氏は素朴に純然たる農業を営んでるだけで、宗教のように考えを人に決して強制はしてません。本当に共感できる人にのみ、ワインを販売しております。
この文章だけでは、岡本氏のことを全て言い表したものではありません。本当に、彼のワイン、というか農作物を頂きたいという人だけに、自身で足を運び話を直接聞いて見る事をオススメします。
敢えてキビシク書きますが、決して、ミーハーや単なるワイン愛好家には行って欲しくないと忠告しておきます。

ちなみにワインは、現在北杜市が津金の旧学校校舎を改築して作った「おいしい学校」のイタリアンレストランでのみ頂くことが出来ます。購入は本当に自身で足を運び話をして岡本氏が納得して頂ける方にのみ販売してます。

(追記)
レストランで頂き自宅に持って帰った「La montagne」(2003)、おいしい学校で購入したパンや野菜を料理して作った食事と一緒に頂いたのですが、素朴な味わいの身体にスッと染み入るメルロのワインでした。普通のメルロには無いスパイシーさが特徴です。ワインに身体をあわせるのではなく、身体に自然とあってくる希有なワインでした。