都農ワイナリー訪問

都農ワイナリーのブドウ畑

今回の遠征も今日で最終日。
最後の目的地は、今年1月に平塚の某レストランで開催されたワイン会タケダワイナリーの岸平典子社長が注目されているワイナリーとして挙げておられたのが心に残っていたので、数少ない九州のワイナリーを訪問する絶好の機会と考え、屋久島遠征とセットで計画したのです。
朝一安房発の「トッピー」に乗船、(レンタカーで大急ぎで宮之浦と安房の間を走って行った時は、M.シューマッハーのような鬼神のような運転でした。汗)、船中で城島の大リーグ移籍第1号ホーマーにしばし驚嘆し、今後も頑張って欲しいと願うのでした。鹿児島中央駅からJR日豊本線で宮崎へ行き、宿泊先のYH宮崎県婦人会館に一旦大きい荷物を預けて、再びJRに乗って都農駅へ向かいました。
都農町は、宮崎市延岡市のほぼ中間にあり、東に日向灘・西に尾鈴連山が連なるのどかでありながら雄大な風景の町です。ブドウ、特にキャンベル・アーリーを主体とした果物の栽培が盛んですが、これからの食生活の変化を見越してワイン造りをスタートさせたのが、1996年のことです。ワイナリーは駅からタクシーで山側に10分ほどの丘の上にあり、日向灘が一望できる場所にあります。(当日の天気が曇り時々雨だったのが残念。)
この日、案内をして頂いたのが工場長の小畑暁氏です。ワイナリー技術担当の赤尾誠二氏と共に都農ワイナリーを支える両輪で、事実上この二人で栽培と醸造の殆どを手がけているというパワフルで情熱溢れる方です。(でも気さくな一面を持っておられ、仕事が多忙な現在は遠ざかってますが、登山が好きで妙に意気投合しました。)
このお二人だけで設備の殆どを動かしているため、瓶詰めや打栓、ラベリングの機械は徹底的に自動化され、その分栽培と醸造に心血を注ぐようにしておられるとの事です。また、醸造設備の圧搾機とステンレスタンクにはキャスターが設けられ、臨機応変に屋内配置を変えられるよう工夫が成されてます。
第三セクターの強みを生かし、こうして設備には徹底的にお金を懸けてますが、三セクにありがちな単なるふるさと振興のお土産ワイナリーではなく、地産地消をメインに地道に営業努力を重ね、イギリスのワイン評論家トム・スティーブンソン氏の著書「ワインリポート」で2004年と'05年と共に高評価を受けております。そして、今もその評価に胡座をかく事なく、多雨や台風の悪条件(なんと、
'05のカベルネ・ソーヴィニヨンは出来が良かったにも関わらず収穫寸前に台風で大打撃を受けてしまったそうです。涙)にもめげず、日夜研鑽を重ねてます。そして、将来は、瓶内二次発酵による本格的スパークリングワインと、グラッパにチャレンジしたいとおっしゃってました。
(周りが焼酎文化に染まった宮崎ではワインを認知させる事も大変だと思います。そのことを考えると、グラッパは狙い所だと思います。)
さて、このワイナリーの最大の特徴は、土造りにあります。ここの土壌は鹿児島のシラス台地よりも痩せた土壌で、最初は醸造用ブドウ栽培に適していると考えられていたそうです。しかし、実際はロクにブドウが育たず、散々な労苦を味わったそうです。そこで、地元の有機農法研究会のノウハウを導入した所、見違えるように元気なブドウとなり、結果ワイン醸造に申し分ないモノに生まれ変わったというのです。まぁ、教科書に書いてある事ばかりが全て正解とは限らないことが痛感できた一例だとつくづく思います。
詳しくは「私たちの栽培方法、醸造方法。」のページを参照して頂ければ分かりますが、鶏糞や堆肥を土にすき込み微生物を繁殖させたフカフカの土壌で栽培してます。見学したこの日は、まだ春になったばかりなので土だけが見えている状態でしたが、本当にフカフカの絨毯のようで、夏になると草木が元気に育っている健全な土壌になるとおっしゃってました。実際に木を見て、幹が適度に締まりしっかりしている事、また芽と芽や節の間隔が揃っているのが良く分かりました。
そして、試飲ですが、現在販売所の斜め向いに本格的テイスティングルームを改装して作っておられる最中でした。その一部の出来上がった所で頂くことが出来ました。以下は全て2005年のヴィンテージです。
○スパークリングワイン(キャンベル・アーリーのロゼ、炭酸ガス充填疑似スパークリング)
単純に甘いだけではなく、適度な酸味がアクセントとなってキリッとした締まりを見せた親しみやすい味の発泡ワインです。
シャルドネ・アンウッド
名前の通り、ステンレスタンク発酵&熟成をさせたピュアなシャルドネのワイン。スティルのキャンベル・アーリーのロゼに次いで売れ筋の商品だそうです。このヴィンテージは少々硬め(小畑氏談)ですが飲みやすいです。
シャルドネエステー
私のイチ押しの内の一つ。古典的なシャブリの風味を彷彿とさせ、たまたま旅の車中の暇つぶしに持ってきていた故麻井宇介氏の「ワインづくりの思想」(中公新書ワインづくりの思想のエピローグの項にある古典的シャブリの逸品の話に相通じるトコロを感じました。樽発酵・樽熟成で、シュール・リーとマロラクティック発酵(MLF)を施し、酸味よりもまろやかさを前面に押し出してます。樽も出しゃばる事なく効いています。(買いました)
シャルドネ・アンフィルタード
柔和な風味のエステートと異なり、こちらはちょっとエッジが立ってます。樽発酵・樽熟成は一緒ですが、その後は名の通り無ろ過で瓶詰めしているので果実味がのっています。
エステート・マスカットベリーA
もう一つのイチ押し。数あるマスカットベーリーAのワインがありますが、これは他にないキャラクター。小畑氏曰く、「グルナッシュのようでしょう。」とのコメント通り、腰の据わった所を持ちながら南国のマスカットベーリーAの果実味がさりげに出てくる飲みやすさとしっかり感を両立させたワイン。(生食用っぽく無くイイ意味でベーリーAらしくないワイン。買いました)
○マスカットベリーA
こちらは、典型的なマスカットベーリーAワイン。ライトボディーに仕立てて飲みやすくしてます。
今回、赤尾氏はオーストラリア留学のためお留守になってましたが、小畑氏始め、スタッフの皆様には本当に親切にして頂きました。本当にはるばる訪れた甲斐のあるワイナリーでした。今後が楽しみなワイナリーです。
(追記:2006-08-25
一部訂正です。オンラインショップの詳細をクリックして頂ければわかるように、正式にMLFを施しているのは「シャルドネ・アンフィルタード」です。「シャルドネエステート」は気候の関係上ヴィンテージによってMLFが入る時と入らない時があるそうです。エステート(2005)は裏ラベルに記載されている通りMLF入りです。(小畑様、フォローをありがとうございました。)