大和葡萄酒訪問

「甲龍」の甲州ブドウの樹

甲府での楽しい一夜が終り、今日はこの土日の最後のお楽しみ、大和葡萄酒さんへ訪問しました。
4月6日の記事で取り上げた大阪の新興ワイナリーである「仲村わいん工房」の仲村光夫・現二親子が足繁く通い、交流を持った名門ワイナリーとして記憶に残っていたことから関心を持ち訪れることになりました。場所は、等々力の交差点から西にちょっと向かった所にあり、白百合醸造さんと中央葡萄酒さんとの中間地点になります。
甲府市内からは笛吹フルーツ公園へ車で行き、そこに駐車して愛車のロードバイクを降ろし、早速丘を下って等々力方面へ疾走しました。晴天に飢えていたボクにとっては昨日のリベンジとばかりに、ひたすら漕ぎまくってました。(笑)
到着しますと、営業担当の佐藤成(たいら)氏と三代目当主で常務取締役の萩原保樹氏が出迎えてくれました。まずは一通りの設備見学と説明を受け、自社畑へ案内をして頂きました。
大和葡萄酒さんは、江戸時代から油やロウソクの卸売業で生計を立てていた萩原家が、ロゴにも有るように1913年に新たな収入源を求めてワイン醸造を開始したのが始まりですが、他の山梨のワイナリーと一線を画すのが、樹齢100年以上のオリジナルの甲州種の樹の醸造権を所有(このブドウは天然記念物として指定されており、「甲龍」という名のワインで出されてます。樹そのものの所有と管理は別の個人が行ってます。蛇足ですが、カタシモさんは樹齢80年を超えるカタシモ本ブドウを所有してます。このカタシモ本ブドウが「甲州葡萄辛口」の元になってます。)しており、この精神に基づいて人一倍に原料ブドウの品質に拘ってます。萩原氏の言葉を借りると「ワイナリーが畑を所有するのは当たり前。問題はいかに高品質の醸造用ブドウ造りを追求するかが重要」と語っており、大半の山梨のワイナリーが農協からの買い取りで原料確保するのが主流を占める中で、自社栽培を重視し、かつ生産者との共生も目指して周辺農家による契約栽培でも醸造用ブドウを生産し、生産者には海外研修など積んでもらうことでで啓蒙に努めております。そして、畑も名高い鳥居平(甲州種)だけでなく、標高の高い牧丘地区(山梨市・甲州種やシラー)にも構え、さらに勝沼では高品質のものが温暖化で収穫が難しくなっているという現実を踏まえ長野県松本市の旧四賀村でシャルドネやメルロを育成しております。そういう意味では、勝沼の御三家(丸藤さん、中央さん、勝醸さん)よりも、遥かに先を見据えてワインはもとより原料のブドウそのものに関しても技術を研鑽してきた孤高のワイナリーといえるかもしれません。
それと、甲州種に関しては困難とされてきた垣根栽培を、7年間の歳月をかけて研究し、2005年にその成果が文字通り「結実」したのも特筆すべきコトです。この垣根栽培では、最初は樹勢が強いという甲州種独特の理由から最初は剪定に苦労した(しすぎて結実しなかったことも有る)そうですが、年月を経てノウハウが蓄積され、棚式より高品質の小粒で凝縮感の有るブドウを収穫することが出来るようになったとのことです。(棚式では、収量制限して育成しても高品質の小粒で凝縮感の有るブドウを作ることが難しく、選果せざるを得ないが、垣根方法では高品質のものが結実するため結果的に高品質のブドウの収穫率が高く、かえって効率良く収穫出来るとのことです。) 将来は甲州に関しても全て棚式に置き換わるのも時間の問題です、実際に、垣根栽培の甲州の畑(鳥居平)を見せて頂いたのですが、樹勢の揃った綺麗な樹になっており、しかも、除草剤は撒かずに自然な環境で育成されてました。この辺は、前日のルミエールさんと共通しております。
その成果はWebページ(トップページを右側へスクロールすると出てくる)やパンフレットに書かれた数々のコンクール受賞歴に現れており、声高に宣伝はしておりませんが、相当の実力が有るワイナリーであることが伺えます。逢えて控えめにしているのは、単純に受賞歴が多く優れたワインと自慢するのでは無く、「後から成果がついてきた」という認識でいることの現れだと思います。また、「甲斐ドラフトビール」という地ビールも生産しており、こちらも評価が高いです。
ちなみに、仲村さんとの交流は4月6日の記事にあるように10数年前からで、主にマスカット・ベリーAの原料調達を中心に世話してあげたそうです。つまり、自分の畑で納得の行くものが出来るまでには時間がかかる為、それまでは原料ブドウを大和葡萄酒さんから仕入れ、ワイン醸造に関する技術を磨き上げていったと推察します。まぁ、光夫氏が亡き今は詳しい経緯が聞けなくなったのでそこが残念ですが、、、。何にしろ、これだけの技術力の有るワイナリーを選んだのも、光夫氏の彗眼があったからでしょう。ボクはそう考えてます。
さて、お待ちかねの試飲ですが、当主の萩原氏の求めるワイン像が凝縮感を重視するという嗜好もありますが、これだけ栽培に人一倍神経を使っていることもあり、全体的にブドウそのもののポテンシャルを感じる凝縮感(単純に「濃い」のでは無く日本人の嗜好にマッチした凝縮感で、イイ意味での「押し」を感じさせます。)のある味が共通して感じられました。全てのワインにおいて、一貫したコンセプトの味わいが根底に流れていることには正直ビックリしました。前日のルミエールさんが、全てのワインにおいて優しい口当たりであるという共通項だったのとは対照的ですが、これはこれでワイナリーの個性と言えましょう。以下はその感想です。
<白ワイン>
○古代甲州(2002)
先程触れた樹齢100年以上の甲州ブドウの樹から枝分けした由緒正しきブドウを契約栽培農家に委託して栽培したものを用いた辛口ワイン。ステンレスタンクで1年発酵後、樽香がつきすぎないように2ヶ月のみ樽貯蔵しています。
まさにこのワイナリーの顔というべき商品で、コクの有る味わいの中にスッキリした口当たりの辛口ワインです。
(2005国産ワインコンクール銀賞受賞)
○遅摘み甲州(2003)
名前の通り完熟ギリギリの甲州ブドウを用いた甘口ワイン。蜂蜜のような香りが印象的で、ビビッドな甘味が詰まった味わいながら後口がスッキリしてます。
(2005国産ワインコンクール銀賞およびカテゴリー賞受賞)
甲州古酒(2000)
サッパリとしたキレのあるワインでありながら、長期間樽で熟成させた古酒独特の落ち着いた風味が同居しているワイン。古酒というけれど、ハツラツさと枯れた味わいが両立してエエ塩梅に同居している希有な味わいの中口ワイン。
(2005国産ワインコンクール銅賞受賞)
○鳥居平甲州(2001)
独特の酸味を持つ甲州種を生み出す鳥居平(その酸味の表現は言葉にするとナカナカ難しいが、変にエッジのたった酸味では無くほのかで円やかでありながら腰のある酸味。)の甲州種を他社では独特の酸味を生かして辛口にするのを凝縮感を重視し、中口に仕立てたワイン。
ほのかな酸味が味を引き締め、深みの中にアクセントを持たせてます。
(2005国産ワインコンクール銀賞と2005ジャパン・ワインチャレンジ銀賞受賞)
<赤ワイン>
○右八(2003)
油問屋であった萩原家の屋号を銘柄にしたシラー種の赤ワイン。信州のたかやしろさんのリリースしているモノとは違い、こちらはパワフル。しかし、南仏や新世界の海外のシラーのような「墨汁感」は一切無い日本人好みの穏やかな味わい。スパイシーな風味でシラー種の良い所が余す所無く出ています。チト値が張る(¥5,250-)のがネックかなぁ。
○Vin de Royal YASUMASA(2000)
2005年のリュブリアナ国際ワインコンテスト銀賞受賞ワイン。過去のヴィンテージでもリュブリアナだけでなくジャパン・ワインチャレンジで金賞(2004年、1999ヴィンテージで。)も受賞している「甲龍」と並ぶ大和葡萄酒さんのフラッグシップワイン。
勝沼カベルネ・ソーヴィニオンとカベルネ・フランに、四賀のメルロをアサンブラージュしたもので、濃厚なルビーガーネット(訂正:同じ赤でも濃厚で暗めのがガーネット、鮮やかな赤色がルビーですね。失礼しました。)色でチョコレートの風味にキリッと香り立つ果実香が印象的で、力強さの中にも円熟した味わいを見せる銘品。前日の「シャトールミエール・赤(2004)」と対照的な雰囲気の力のある赤ワインです。
こう書いていると、何となく仲村さんのワインと味わいが同じ傾向であることに気がつきました。現二氏のお父様で今は亡き光夫氏が大和葡萄酒さんを選んだのも必然の帰結であったかも知れません。好みが合ったのでしょう。隠れた実力派で、中々総合的に良い力を持っておられると素直に感じました。今度来た時は、ビールでも頂きにフラッと寄りますか!(笑)