「『朝焼』の光の彼方に未来が見える」金井醸造場訪問

6月15日、究極の「醸し」甲州ワインがついに発売された金井醸造場さん。今回は、その待望のワイン、『万力甲州 朝焼』(2005)の直売所仕様エチケット版(栽培醸造責任者、金井一郎氏のご祖父作の絵画をあしらったもの。)の購入も兼ね、自然栽培の畑を見学させて頂くことを目的に訪問しました。
金井氏のワインとの出会いは近所の行きつけの酒屋さんで、『シャトーキャネー・カベルネソーヴィニヨン』の2001から2003ヴィンテージの垂直試飲(但し、2001は樹齢が若く収穫量も少なかったのでメルロがアサンブラージュされてました。)を頂き、その奥行きのある味に感銘したことが最初です。そして2005年の甲斐Vinワインセレクション以来初めて顔を合わせ、ことある毎にお邪魔させて頂いたり、イベントでもお目にかかったりと贔屓にさせて頂いているワイナリーの一つです。(3月19日5月20日の記事も参照して下さい。)
メディアには『ビオディナミ農法の実践者』とか、『日本の自然派ワインの寵児』と語られることが多い金井氏ですが、私が実際にお付き合いして感じるのは、『ワイン造りの原点に立ち返った』の一言に尽きると思います。つまり、「ビオディナミ」や「自然栽培」、「天然酵母による発酵」は目的では無くあくまでも手段で、『人・栽培・醸造』の三要素からなるトライアングルのどれかが突出するのではなく正三角形をとりその中心にワインがあるという原点へ振子を戻し、その結果として『自然派ワイン』が出来たのだと考えております。それは、やはり金井一郎氏の真摯かつ繊細なお人柄によるものが大きいのだと感じてます。
さて、雨が収まってきたので早速畑から見学です。畑の方は、先代のお父上がワイナリーをこつこつと始めて以来、デラウェア甲州を栽培しておりますが、金井氏が継いでから自身の畑として1999年よりシャルドネカベルネ・ソーヴィニョン、メルロも植え、これら全品種を無農薬・無除草剤にし、その過程でビオディナミ農法の良い所のみを実践して取り入れて手間暇掛けて育て、現在は結果としてビオの調合材にも頼ることなくごく薄いボルドー液(硫酸銅消石灰の合剤で、水溶液として散布。)の使用(回数も極少ない)のみで元気に育つブドウへ変身していったということで、自然の生命力の素晴らしさを痛感させられます。でも、基本はやはり『ブドウにとって気持ちの良い環境を整える』という、ごくごく当たり前のことを継続させることで、畑の地面はルミエールさんの時と同様、雑草も野放図にボウボウではなく綺麗な野原という感じです。ちなみに下草は冬に枯れて土に返りやがて養分として循環していくので、当然堆肥も入れる必要も無い自然のサイクルが営まれていく訳です。
一通りの畑の見学をさせて頂き、直売所に戻った後はお待ちかねのワイン登場です。
○『万力甲州 朝焼』(2005、直売所ではすでに完売!)
このワインに出会ったのが、前述の2005年甲斐Vinワインセレクション。醸造したばかりのサンプル参考出品を初めて見て飲んだ当時、Webページの「WINE LIFE」のコーナーではありませんが、正直「なんだ、この色は?」(驚)でした。でも、ぶどうを丸ごとかじった味そのものが感じられ、なんかコレはオモロイと素直に感じました。その後、金井氏に会う度にご厚意で試飲させてもらう機会に恵まれ、製品版に近くなるにつれ金井氏の意図しているエッセンスをようやく感じ取ることが出来ました。そんな訳で、その成長過程を見守って来た私にとっては感慨深いワインです。
地のものを自然に育て、必要な所のみ手を入れ、慈しむように面倒を見る。それが結実し、形となったワインで、ぶどうの全てを体現させるに当たり、皮ごと「醸し」をして作ったのは当然の帰結だと思います。
ちなみに、抜栓したてと、数日間置いたのと両方頂いたのですが、個人的には果実味の全てが収斂されて出て来ている前者の方が好きでした。でも、後者も丸みを帯びたまろやかな味わいで、金井氏の全てのワインに共通する「シンプルで奥行きのある訥々と語りかける味わい」は当然言うまでも無くちゃんと残ってます。(自然に作ってあるのでワインが健康で、キチンともつのです。たまたまですが同時にヴィノ・ダ・万力のカベルネ抜栓10日後のも口にしたのですが、少し酸化されていてもワイン自体の骨格はしっかりしておりました。)
醸しによる渋みとぶどうの持つ酸と甘さが調和された他に真似の出来ない、文字通りの鮮やかで澄み渡る橙色のワインです。
(直売所仕様のエチケットには鮮烈な感動を覚えずにはいられませんでした。まるで図ったかのようにこの絵が出てきたそうです。一般仕様のエチケットも素晴らしいですが、こっちもホントに素敵です。)
お忙しい中、畑見学と試飲に果てはワイン談義にと付き合って下さった金井氏にはホントに感謝しております。「日本のワインの未来形の一つが見えて来るのでは。」そう感じることしきりの今回の訪問でした。
幸いにも雨は上がり、晴天に。ホント気持ちも晴れやかになりました。(ホッ)