「普段の食卓にさりげに並ぶ甲州ワインを追求する」 シャトー酒折ワイナリー訪問

兼々気にしていたワイナリーであったシャトー酒折さん。甲斐Vin等でその存在を知り、5月20日のワインフェス醸造責任者の井島正義氏と初お目見えとなったことから、今回訪問と相成りました。
シャトー酒折さんを気にしていた最大の理由として、クリーンな果実味溢れるワイン造りと山梨では珍しい上品な甘口の上質な甲州種ワインを生産されている事です。その味は先日のワインフェスの記事の通り、我が故郷のカタシモさんの甲州種甘口の『柏原ワイン、白・甘口』を彷彿とさせるもので、また辛口のワインも必要以上に出しゃばらない所が魅力なのです。勝醸さんとは180度味の個性が異なりますが、実は甲州種に特化したワイン造りという点では、アプローチが異なるだけで、目指すゴールは「優れた甲州種ワインを国内に認知させ、やがては外国に。」というところでは共通していると思います。
メディアの多く(例えば、石井もと子氏監修の「休日はワイナリーに行こう」(イカロス出版刊))では「コストパフォーマンスを追求」だけが強調されがちですが、実際に話を伺うと、それは日本の食卓にワインが浸透して行くための手段の一つであり、原料ブドウの品質が上がれば上級クラスもいつかは併売する事を視野に入れてます。その証拠として、井島氏と長年のつき合いであります6月11日の記事で紹介しました池川総合ブドウ園の高品質なマスカット・ベリーAを昨年からまずは試験的に導入し、池川氏のブドウの滋味を最大限に引き出すマスカット・ベリーAのワイン造りにチャレンジされています。
会社の母体が輸入ワイン商社である木下商事さんであることから、確かに安い輸入ワインとの価格競争に晒されている訳で当然コストパフォーマンスを追求するのは企業として運営して行く以上ある程度必然性を伴います。しかし、同時に高品質輸入ワインも扱っておられることから、単に安いだけを目標にしていたのではお土産ワイン主体のただの「観光ワイナリー」となってしまい本当のワイン文化が曲解されてしまいます。そこで「美味しい本格ワイン」で呼び込む観光ワイナリーとしての役目を自ら担い、ワインに親しむ入口となってもらおうというコンセプトで運営されていると私は感じた次第であり、実は一見簡単そうだが非常に難しい役目を背負っているのではないのか? と考えてます。
さて、この日の訪問は継続的に甲州種に真摯に取り組む二つのワイナリー訪問と冒頭に書きましたが、シャトー酒折さんは1991年にこの地でワイン造りを始め当初は欧州系品種中心でしたが、当然本場のものと比較されると価格に見合うワインが造りにくい壁にブチ当たります。そこであるべき姿を模索していた所に木下商事さんが代理店を務める『ドメーヌ・ジャン・コレ・エ・フィス』のジャン・コレ氏(故人です)[訂正があります。現当主のジル・コレ氏の指摘によるものです。失礼しました。]が定例のテイスティング会で「なんで日本には甲州があるのにどうしてをちゃんとワインを造らないのだ」と指摘された事がキッカケで、甲州種によるワイン造りに特化することに数年後方向転換、それが功を奏し現在では甲州種を中心にした充実したラインナップのワインを揃えてます。
さて、甲州種をメインとするにあたり貫かれているポリシーは地元農協との連携を重視されている事です。すなわち、地場に根ざしたワイナリーである事は勿論のこと、農協経由にすることにより広く沢山の甲州種ブドウを確保出来、生産量も上がって一本あたりの単価を下げる事が出来ます。そうすると、いろんな質のブドウがワイナリーに入ってくる訳ですから、質の悪いのも含めて入って来るのですが、それを逢えて突っ返さずに引き取り、醸造技術を駆使してクリーンなワインに仕上げる一方で、ワイナリースタッフが農家さんの所に自ら出向き、醸造用に適したブドウとそうでないブドウの区別を懇切丁寧に説明することで、地道にブドウの品質を上げて行き。農家さんとの信頼関係を築き上げて行く。そうしたアプローチで農家さんとの信頼関係を勝ち取っているのです。現在ではワイナリーのある酒折地区、韮崎に近い穂坂地区、山梨市の笛吹フルーツ公園に近い八幡地区の三地区よりブドウを仕入れてます。
こうして信頼関係を築くことで、ブドウの品質が徐々に向上し、次第に農家さんの意識も変ってワイン用の高品質ブドウへと変貌し、ワイン醸造で次第に余計なテクニックを減らして行って、何かが突出するのでは無くバランスのよいワインを完成させることに寄与して行ってます。
面白いのが、普通他のワイナリーでは甲州種独特の苦味を抑える為に搾汁率を減らしたり、フリーランとプレスランを分離して発酵させてからアサンブラージュしたりするのですが、ここでは皮と実の間の旨味を引き出すため搾汁率を70%と高い値にしフリーとプレスを分離せず、余分な渋味をポリフェノール吸着剤で知られ食品添加物として認められているポリビニルポリピロリドン(PVPP・リンク先はWikipedia、下方に記述あり。)を加えて吸着除去してポリビニルポリピロリドンを分離し、それから発酵に入るという技術がポイントであることです。(これは実際に外国のワイン造りでも行われている手法で、下記で記す海外情報を参考にしたとのことです。)
また、バックに木下商事さんがついておられるアドバンテージを充分に活用してます。例えば、設備投資はそこそこの規模を導入する事が出来たことから、ロット間差を無くす為に一回のロットで生産可能な大規模な設備を導入し、それで生じた余裕を設備の衛生管理に徹底的に時間を割いています。こうした事は他では中々真似出来ない事です。また輸入ワイン業者でもあることから、世界のワイン造りの情報を入手しやすい(特に生の声でも!)メリットもあり、1991年創立と後発ながら質の高いワイン造りが出来たのです。それに加え、井島氏のクールですが熱心な研究肌を持ち合わせたワイン造りの姿勢がこのシャトーを支えていると言っては過言ではありません。
(それを示すエピソードとして、元々営業出身だがワイン造りをしたいという志を元に転身され、ワイナリーへ1993年に赴任(この頃に甲州種中心に転換し出した。)してからは、輸入濃縮果汁の余剰分を使って日々ワイン造りの実験を繰り返し、実践で腕に磨きをかけたという気合いの入れようです! 生のブドウでしたら一年に一回しか出来ないのをこうやってカバーしたのです。スゴイですね。)
さて、一通りの設備見学を終え、試飲です。今回はワインフェスでも頂いたものも再確認でまた頂くことにしました。
○月の白・甲州 辛口&甘口(2004)
シャトー酒折の名刺代わりといえるメインのシリーズ。1,200円と非常に財布に有難いワインでありながら、繰り返すようにクリーンな味わいの酒質も優れた美味しいワイン。辛口甘口とも全てにおいてバランスがとれ、上品な口当たりが特徴。本当に普段飲みにピッタリのワインです。
甲州ドライ&甲州スイート(2004)
月の城の上級版といえるシリーズ。ワインフェスでも頂いたのがコレ。1,320円であるにも関わらず美味しいワイン。酒折・穂坂・八幡の三地区のをうまくアサンブラージュして味を整え、スッキリした味わいになっているワインです。甲州ドライはシュール・リーの期間が2ヶ月なので余計な厚みとシュール・リーの味を抑える事で果実味を充分に引き出してます。また、甘口は本当に上品な味わいでカタシモさんの『柏原ワイン、白・甘口』を彷彿とさせます。
未発売の2005ヴィンテージも頂いたのですが、まだ若いワインということもありちょっとキャラが立ってますが、しばらく経てば2004と同様のバランスが出てくるでしょう。
シャトー酒折物語(2002)
国産ワインコンクール2004銅賞受賞のワインで、酒折地区のフレッシュ・フルーティーで甘味溢れる独特の滋味(酒折の「テロワール」というコトです。)を充分に生かしたシャトー酒折の芯骨調である上品な甘口ワイン。ボディー感も程よくあり、非常に上質に仕上がってます。こちらは2,000円ですが、この値段でも充分すぎる価値があります。
ちなみに、毎年11月頃には『にごりワイン』と称した甲州ワインのヌーボー(新酒)が地区別で出ますが、これらは期間限定で地区別の味わいを楽しめるというコトです。いつか試してみたいです。
他社とは異なるアプローチをあえて行くシャトー酒折さん、こちらも固定観念に囚われず熱心に甲州種に取り組む真面目なワイナリーです。是非とも訪問をオススメします!
(案内して頂いた醸造責任者の井島様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。)


(訪問記、全部のアップが遅れて申し訳有りませんでした。ちょっと「中田引退ショック」が大きかったので。スミマセンでした。)