(書評)『イタリアワイン最強ガイド』を読んで

イタリアワイン最強ガイド
何かと物議を醸す(笑)ワイン専門誌『リアルワインガイド』、その雑誌に良く登場されます川頭義之氏の入魂の力作です。
日本自体がワインに対してフランス偏重主義であることは、随所で問題点として指摘されてますが、この書籍はその風潮に対して一石を投じたことだけでも意義があると小生は考えております。
よく『リアルワインガイド』が批判される一因として挙げられるのが、「客観性の無い独り善がりなワイン評価」ですが、(アマゾンのレビュアーも同じ指摘をしておりますなぁ) 逆に「主観を一切廃した科学的にも根拠のあるワイン評価」というものがあるのかしらんと聞きたいです。
ソムリエやワイン専門家のテイスティングならともかく、一般人もワインは飲む以上何らかの評価をしない限り取捨選択は出来ません。そこには、やはり感覚的な「好き嫌い」が人間である以上存在する訳で、単なる工業製品ではなく、嗜好品・いや日常の食卓に並ぶ農産物の一つと考えると、タケダワイナリー会長の武田重信氏の言葉通り変に気取って考えずに、まずは『美味しいか・そうでないか』が最大の判断基準であると思います。その問題の第1章の「イタリアワインとフランスワインの飲み比べ」は確かにワインの選択等多少ミステイクはあるとは思います。それは事実としても、大体お国の異なるのを完全に同じ条件の下で比較というのは現実的に不可能ですし、そこだけを取り上げて「鬼の首を取った」かの如く揚げ足取っても不毛な議論になるだけで、せめてなら「こういう選択で対決させるのはどうでしょうか?」と言った方がまだ建設的です。
話が逸れてしまいましたが、著者の川頭氏は、イタリアワインへの熱い愛情の下(奥様もイタリア人です)、5年の歳月をかけて足繁くイタリアへ通い、見ず知らずの東洋人が尋ねてきたこともあり最初はなかなか相手にされなかったのですが、綿密な取材と信頼関係の構築を重ねようやく完成に漕ぎ着けたのとのことです。
従って、単なる「消費者目線のイタリアワイン指南書」ではなく、イタリアワインの歴史や州別の生産事情を平易な文章でかつ詳細に紹介しており、果ては『匠に聞け!』のコーナーで現代イタリアワイン界をリードしている真摯な生産者の声も目にすることも出来る良書ということで、7月7日の『ジンファンデル、、、』が「アメリカワインの教科書」なら、こちらは「イタリアワインの教科書」といえるでしょう。
(特に、『匠に聞け!』は必読です。様々な考えの異なる人々にインタビューをしてその哲学を余すことなく伝えており、立場や思想信条が異なろうともそれに対しては否定も肯定もせず、生産者の生の声を忠実に伝えることに徹しています。)
で、この本でも日本のワイン界が学ぶべき事が記されてます。それは良質の白ワイン(品種は主にソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴェツトラミネール)を生み出す北部地域のトレンティーノ=アルトアディジェ州の話です。オーストリアに近いアルトアディジェ地区では伝統的に生産者が共同組合形式として成り立っており、所属している周辺の農家からブドウを買い取って醸造を行ってます。その原料買い付けに当たっては、組合の下で厳しい品質チェックが行われ、買い叩くのではなく品質に応じた対価をキチンと支払い、一方で醸造に関してもそうした農家の声に答えるべくブドウのポテンシャルを最大限に引き出して上げるワイン造りを信条としてます。このように一つの組合でガッチリと農家と醸造家が手を携え二人三脚で歩みを取れる理由は、組合の上部組織が強力なリーダーシップを持ってキチンとした姿勢を示し範となるべき行動を取っているというまさに「基本のキ」を押さえている以外の何者でもありません。また、企業体としての自覚を促すべく、組合員「全員」での会議を行ったり他国はもちろんのこと他の組合で造られたワインの試飲も行ったりするなど、日々の努力の積み重ねによって名声を維持しているのです。
ボリュームがあり全て読み終えるには時間がかかりましたが、それだけ充実した内容でありながら読み飽きさせない工夫もタップリと込められた良書です。ワインを飲み始めた人には魅力溢れる文字通りの『最強ガイド』として、そして心底から素直にワインが好きな人には本質的な理解を深めるための一冊として、様々な人々に読んで欲しいです。