「”こころみ”の名の下、現実と真摯に対峙する」ココ・ファーム&ワイナリー訪問

ココファームさんのショップ&カフェの

一日間を置き、夏季休暇ワイナリー巡りの4軒目、もう一つ訪問を待望していたワイナリー、ココ・ファームさんを訪れることになりました。
私がここを訪れたい動機となった理由は色々ありますが、NHK出版の教育テレビのテキストバックナンバー「知るを楽しむ・なんでも好奇心2005年 8・9月号 - ワイナリーへいらっしゃい」で掲載されていたブルース・ガットラブ氏の寄稿による日本の固有種・甲州ブドウに関する鋭い現状考察と建設的な提言を読んだ事が最大の理由です。
そのブルース氏は、1989年よりココ・ファームさんに招かれ、アメリカンワインの研究の総本山といえるカリフォルニア大学デイヴィス校出身で現在は取締役醸造責任者として活躍されており、今やワイナリーの「顔」といえる存在です。
詳しくはWebページの「ワイナリー小史」をご覧頂くとして、こころみ学園園生が携われる創造性のある労働の場として、生食用ブドウ栽培から長きに渡って生計を立てる事が出来るワイン用ブドウ栽培とワイン造りへ転換したのが1980年代。そして、ブルース氏がスタッフとして加わり現在は年間約20万本近くの中堅クラスワイナリーとして地道に成長を遂げました。
折角ですので、併設のお洒落なカフェで昼食を頂く事とし、しばし待つと、ブルース様とヴィンヤードディレクターの曽我貴彦様(3月25日に訪問しましたオブセワイナリーさんのヴィニョロン、曽我彰彦氏の弟様です。)と醸造部長の柴田豊一郎様が出迎えてくれました。そして、一寸時間を頂き個人的な質問に対するコメントを頂いた後、まずは曽我様の案内で、カフェとワイナリーの建家の前に拡がる4haの自社畑を案内して頂きました。
その自社畑ですが、上段付近はチャート質の堆積岩の層からなる岩の多い地層で独特のミネラル感が反映されるそうです。そして傾斜は45度近くあるかのような急斜面です。ちなみに栽培している品種はざっと下記の通りです。

上段は、ベリーAは古くから栽培されている大切な樹であること、また条件が最も良い所なのでリースリングを植えてます。その一方で、なじみの少ないタナやノートンという品種や「試験栽培中の品種いろいろ」と書きましたが、実際足利の気候もどちらかというと温暖な方になるので、そこできちんと熟してくれる品種を模索中で、国際品種で頑張るかそれとも足利の気候に合うモノを選択するか悩みつつも前向きに取り組んでいます。ユニークなのは、オーストラリアの有名なブドウ栽培学者リチャード・スマート氏を招いてアドバイスを受けた「カーテン・システム」と呼ばれる仕立て方法を取っている事で、大体頭の高さぐらいに長梢を伸ばしてそこから出る枝を真下に垂らし名前の通りカーテン状にするシステムで、自然に枝先の成長が下向きでは止まるので、労働力を軽減出来るという訳です。しかも、ほぼ顔のちょっと下の位置に結実させるため、実の観察がしやすくなります。これには驚きました。
このように模索しながらも合理的な考えの下で減農薬・自然農法で栽培してますが、さすがに80人分の園生の労働力があるとはいえ、スタッフも含めて全てを面倒見る事が出来るのはこの畑だけが限界です。そこで、ブルース様を始め曽我様と柴田様の「3人のサムライ」が全国津々浦々行脚して、信頼出来る農家を探し契約を結んで原料を調達するのですが、そこにはとても人間臭い悲喜こもごもなドラマがあり、実際、重量単位ではなくあえて面積単位での契約を結んだり、農協さんと色々やりあったりするなど、互いの立場を尊重した上で関係を築くのは並大抵な事ではありません。ただ、大企業と違い意想決定でウダウダすることが無いので、一旦信頼関係が築けば有る意味緊密な関係が構築出来るのではと小生は考えております。
引き続き、柴田様の案内で醸造設備を案内して頂きました。以外と知られていなかったのでビックリしたのですが、'91年からは一部の健全なブドウで野生酵母による発酵を行っている事です。やはり、乾燥酵母に比べて複雑で深みの有る味わいが表現出来る事がメリットで、そのためにも農家さんとの妥協無き交渉で健全なブドウあってこそなのです。圧巻は、8,000Lのタンク12本が置かれた醸造室と山をくり抜いて造られた貯蔵庫で、貯蔵庫はナント園長先生が何を思い立ったのか自らユンボーで山に穴を空け始めて造ろうしたのがキッカケで、専門の業者を呼んでトンネルをこしらえたというエピソードがあるのです。
その貯蔵庫は年間通して17〜18℃・90%の温湿度に保たれており、ここで瓶内二次発酵方式の本格スパークリングワイン「NOVO(のぼ)」の製造や樽貯蔵を行ってます。ここで、バレルサンプルをいくつか頂いたのですが、シャルドネ(樽状ステンレスタンク)とタナー(樽貯蔵)のには余りの美味しさに驚かされました。その柴田様、ココ・ファームさんで醸造を学び独学で極めたのですが、実践の過程でいろんな事を勉強出来たのが良かった事とココさんでいろんな事を教わったと謙虚に語っておられたのが印象的でした。
さて、試飲ですが、ブルース様と柴田様と小生の3名、そして途中から曽我様も加わり4名であれやこれやと語りながらテイスティングしました。各アイテムについて私なりのコメントを以下に記します。
○足利呱呱和飲(あしかがここわいん、白・2005)
山梨・勝沼産の甲州種を用い低温発酵でじっくり丁寧につくった白ワイン。透明感溢れるとってもクリーンな造りで、軽やかかつ優しい後口の味わいで和食なら何でも合います。ココ・ファームさんで最も人気のある一本だそうで、納得です。
○こころみシリーズ 甲州樽発酵(2004)
山梨の契約農家さんの甲州種を使用し野生酵母で発酵させてます。以前、勝醸さんで頂いた「アルガ・ブランカ ピッパ」(2002)とほぼ同様の造り(冷凍濃縮は無し)の樽発酵ワイン。勝醸さんのが優雅で圧倒的なボディー感なのに対し、こちらはココ・ファームさんらしくソフトでエレガントな味わい。さらに年月を経て寝かせておくと、きっとより美味しく頂けると思います。
○こころみシリーズ ミスター・ブラウン(2004)
出ました!ココさん初の試みの橙色の醸し甲州ワイン。金井さんの「万力甲州・朝焼」に対するココ・ファームさんからの解答、ではありません。偶然に時を同じくして出た意欲作で2004ヴィンテージであることからココさんでも独自にトライしていたのです。こちらも野生酵母による発酵で、18ヶ月間の樽熟成を経ている所が「朝焼」と異なります。その分、こちらはまろやかな印象に仕上がってます。でも、「朝焼」同様甲州ブドウをかじった生の果実味(酸と甘さ)と醸しによる渋味がバランスよく同居してます。
醸し甲州ワインはとかく評価が二分しがちですが、甲州種の独特の特徴を逆手に取りよい方向へと生かしたワインとして先入観無しにもっと素直に評価してもエエんちゃうのと思います。
○風人シャルドネ(2004)
山形・上山と長野・須坂のシャルドネブレンドした樽熟成ながらスッキリした味わいのワイン。樽と果実味のバランスが取れているまとまりの良いワインです。
○こころみシリーズ 北海ケルナー(2005)
余市産のケルナー種を用いた独特のシトラスの心地よい香りが印象的な爽やかワイン。このヴィンテージでは若干中口に仕上がってますが甘さは控えめなので、食中酒としても充分いけます。
専門料理2006年8月号』(柴田書店刊)にも「ミスター・ブラウン」と共に登場していますが、ケッサクなのが裏話でボトル撮影後に雑誌スタッフや料理人等が全て飲み比べた時に一番好印象だったのが「北海ケルナー」で、思いっきり評価が二分したのが「ミスター・ブラウン」だったそうです。(苦笑)
○こころみシリーズ 小公子(2004)
天童ワインの「オリンピア」の項で登場した澤登晴雄氏により産み出された山ブドウ交配種を用いた赤ワイン。野性味の中にこじんまりとしたまとまりのあるワインで思ったより酸味がまろやかだったのにはビックリ。いやー、ワイルドな風味の品種なんでここまで出来がヨカッタのには素直に脱帽です。
○第一楽章(2003)
自社畑最上段の選りすぐりのマスカット・ベリーAを樽熟成した赤ワイン。頂いた時は少々堅めに感じましたが、重厚な雰囲気で落ち着きの有る中にもベリーA特有の果実味が感じれられ、樽の風味にも負けていません。
ココさんの赤ワインのフラッグシップに相応しい存在で、洒落たデザインのエチケットもその佇まいに花を添えてます。
○こころみシリーズ カベルネ・メルロ(2004)
カベルネ・ソーヴィニヨン75%とメルロ25%のブレンドによる赤ワインです。まだ若い印象でもう少し時間を置くと良いかもしれません。
総じてココ・ファームさんのワインはしっかりとした中にも優しい風味が備わってます。性格が異なる中にも、共通項が伝わっているのは中々のものであると考えてます。
福祉事業とワイナリー事業との両立というただでさえ大変な事に加え、日本でワインを造り出す事の意義に対しても悩みながらも対峙していることから、奇麗事だけでは済まされない現実がココ・ファームさんのスタッフの皆様には色々と降りかかっているに違いありません。それでも、前向きに”こころみ”の精神の下で真摯に取り組んでいることで、心ある人々がこのワイナリーに訪れるようになりワインを愛する人が増えている。そんな気が感じられた有意義な訪問でした。
(取締役醸造責任者のブルース・ガットラブ様は勿論のこと、ヴィンヤードディレクターの曽我貴彦様、醸造部長の柴田豊一郎様、そしてアポイントメントを取って下さった総務課長の佐井正治様にはお世話になりました。改めてこの場を借りて厚く御礼申し上げます。)
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(「YOMIURI ONLINE」より)
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