「家族の心がこもった妥協無きワイン造りを目指す」kidoワイナリー訪問

青空に映えるkidoワイナリー

日本のワイン界のこれからを担う「ウスケボーイズ」の皆様。それぞれの考えと想いを胸に四者四様のワイン造りを模索し、切磋琢磨しながらもよき仲間として年月を経ても交流を続けています。これまで、

三箇所のワイナリーを訪問させて頂きましたが、ついに城戸亜紀人氏とそのご家族が一丸となって営まれている「kidoワイナリー」さんを訪問することが出来ました。
設立は2004年と出来たてホヤホヤの新興ワイナリー(詳しくはKidoワイナリーWebページ、「Kidoワイナリーが出来るまで」をご覧ください。)ですが、ジワジワと心あるファンが増え、mutsu様リンク元:日本ワイン応援Webページの一つ「ぶどう畑」)のように虜になっていく方が全国におられます。
その理由として、「飲み手に対し必要以上に媚を売らず、自身の考えを盛り込んだワインを造りたい!」潔くも清々しい姿勢が一番だと思います。この事は、Webページにはモチロンの事訪問時にも城戸氏自身の言葉でハッキリと語っておられますが、小生は単純にそれだけで無く、自身に厳しく妥協無き姿勢に加え今日本で失われつつある「家庭の温かみ」が存分に詰まった心のこもったワインであるということが最大の魅力だと考えております。この想いは、頂いたチラシやWebページにもキーワードとして「家族みんなの思い」を大事にしていると記されていることからも窺えます。
ワイナリーは小じんまりとした清楚な建物で、枕木を並べた回廊と手入れされた芝生が綺麗な入口となって建物に続いており、正面右手には訪問客を出迎えるための「小さなぶどう畑」があって様々な品種が植えられ訪問客の心を和ませてくれます。これぞ、「心のこもったワイナリー」の証と言えるでしょう。その建物は、塩尻の燦々と太陽の光が注ぐすがすがしい青空をバックに美しい風景を織りなしてます。
現在は、1haの自社畑に欧州系品種はメルロを中心としシャルドネを垣根式で、米国系はコンコードとナイヤガラを棚式で栽培されてます。そして高品位のブドウを栽培してくださる契約農家さんの分と併せて醸造を行ってます。(詳しくは後述) そして今年の春にはナイヤガラの畑を改植し、主力のメルロ始め、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールピノ・グリの4品種を植えました。注目は日本で栽培例を殆ど聞かないピノ・グリで、実は桔梗ヶ原は適度に肥沃な土地で、メルロ・シャルドネそしてこのピノ・グリはこの土地柄を反映しふくよかな味わいとなるのでうってつけの品種だとということです。そして、五一さんが日本で数少ない貴腐ワインを生産していることから窺えるようにこの地は貴腐菌(ボトリティス・シネレア)がつきやすい地域だそうです。品種によっては「灰色カビ病」となる厄介で有名な(?)菌ですが、フランスのアルザス地方のピノ・グリも貴腐菌がついた状態で醸造されるものもあり、桔梗ヶ原の風土を生かしたワイン造りをピノ・グリという品種で体現させることを目標にしており、とても期待させられます。ちなみに、新しく植えられたこれら4品種の一部は五一さんと同様のスマート・マイヨルガー方式ココさん訪問記に登場したリチャード・スマート氏の考案によるもので、カーテン・システムとはまた異なる仕立て法。リンク元:「D-aji(ダジ):信州・松本エリアの新しい魅力」に掲載の『信州葡萄酒事情』より。リチャード・スマート氏は日本ワインの発展に貢献されている事がよく分かりました。)を試みるそうで、既存のメルロと併せ垣根式とどちらが適しているかも探って行くという研究熱心さにも頭が下がります。
○関連資料
グローバルスタンダードを志向する日本のワイン用葡萄品種(「WANDS Online」より)
余談になりますが、醸造用ブドウ栽培に関しては教科書では水捌けの良い痩せた土地が良いと頻繁に見受けられます。しかし、ここ最近ワイナリーや農家巡りをして思うのは、(1)適度な肥沃度、(2)必要最小限の保水力を保ちつつも水捌けの良さを有する、(3)ミネラル含有量と成分、の三要素のバランスが土壌に関しては重要だと最近は富みに感じてます。まぁ、外国の一部の事例を全体のように捉えるのもナンセンスな話で、実際世界でも色んな土壌が存在し、それぞれの風土にあった品種や栽培法を模索している訳ですから、教科書はあくまでも「教科書」であり、現場に行って見聞きして勉強する方がよっぽど為になるではないのでしょうか?
脱線してしまいましたが、話を元に戻しましょう。今回はお盆期間中ということもあり亜紀人氏お一人で店番をしておられたので、事前にお互い了解の上ワイン談義と試飲に絞ってということになりました。普段はボトムレンジの「オータムカラーズ・シリーズ」のみの試飲ですが、お盆期間中ということでラッキーなことにプレミアムシリーズのメルロも開けておられ頂く事が出来ました。各アイテムについて試飲順に私なりのコメントを以下に記します。
○オータムカラーズ・セイベル(白・2005)
自社畑のセイベル9110をステンレスタンクで発酵貯蔵後に瓶詰めしたもので、樽貯蔵した「セイベル・バリック(2005・完売)」とは兄弟分にあたります。発酵まで同一のロットで、貯蔵で丁度半分に分けてバリックの方はセイベルが樽負けしないようにと一空き樽に6ヶ月間貯蔵しているとのことです。以前、気楽斎様とmutsu様のご厚意で幸いにもバリックを頂いていたのですが、ノンバリックバージョンは爽やかですっきりとした酸味がアクセントに、バリックバージョンは丸みを帯びかつ樽が醸し出すふくよかな味わいにと仕上がっておりますが、共にブドウの特徴である口当たりの良さが生かされてます。
○オータムカラーズ・ナイヤガラ・ブリュット(2005)
城戸氏のこだわりを体現させた力作と言える日本でも珍しいラブレスカ種のナイヤガラの辛口白ワイン。
このワインにとても興味があったこともワイナリー訪問の原動力となったのですが、期待にたがわず素直に「美味い!」です。品種によらず手抜きしないで造ったこのワインはまさに城戸氏のポリシーを表しています。低温発酵で丁寧に醸造されたことから狐臭が非常に抑制されているキリッとした辛口ワインで、まずは甘口から一歩踏み出してみたいという飲み慣れてない方々に上記の「セイベル」と共にお勧めしたいワインです。(お手ごろ価格の税込み1,365円というのも嬉しい値段です。ちなみにセイベルも1,575円とお買い得です。)
○プレミアムシリーズ・メルロ(2005)
優秀な契約農家さんのメルロを用いた上質でエレガントなワイン。香りの上品さと口当たりの円やかさが口にした瞬間にアッとさせられ、さらに複雑な果実味が余韻となって印象に残ります。樽もそれほど感じさせずバランスよく風味に出ています。
ちなみに桔梗ヶ原のメルロの農家さんは10a当たり1.7tの収量ですが、城戸氏の契約農家さんはメルシャンさんの高級ワイン用と同等の1.3tに抑えられています。契約農家さんの良質なブドウはプレミアムシリーズとして、自社の垣根栽培(なんと0.5tに収量制限!)のブドウはプライベートリザーブシリーズ(良年の作柄時にはフラッグシップの「Project K」シリーズ)としてリリースされます。詳しくは商品案内のページをご覧下さい。
Project K」のWebページの項にありますように、目指すは『究極のフィネスとエレガンス』です。濃さや押しの強いワインでは本来ブドウが持っている旨みや溌剌とした果実味を殺してしまう上に飲んでいて気合入れんとアカンのでボクは好かんのですが、城戸氏のワインはボトムレンジからフラッグシップまでそのポリシーがきちんと反映されている所が素晴らしいと感じてます。
○オータムカラーズ・ロゼブーリュ(2005)
前日訪れた「Brasserie ので Vin」さんのオーナー、古田氏に教えて頂いたワイナリーでの直売のみで入手できるアイテム(Webページには掲載されてません。来店した方のみ味わえる特別バージョン。)で、城戸氏曰く、「半分お遊びで造りました。」ものです。
ブラッシュ製法のコンコードロゼに、セニエで抽出したメルロを加えたロゼワインでしかも澱をそのまま残していることから、単純な甘口ロゼでなく、澱による豊かな味わいとメルロのスパイシーさがアクセントとなり飲んでて無茶苦茶楽しい気分になるワインです。(どちらかというと中口ですね。)この遊び心もよろしいなぁと素直に思いました。虜になり即購入となりました。(笑)
○オータムカラーズ・ナイヤガラ(2005)
同じナイヤガラでもこちらは甘口版で、しかも畑が違います。ブリュットの方が酸味を利かせるため少々高い山手の畑のを用いているのに対し、こちらはワイナリーの建屋と同じぐらいの所にある畑のを使用してます。ブリュットと同様に丁寧に醸造しており本格ワインとして出色の仕上がりで、ベタベタした甘さでないことから食中酒としても充分に勧められます。
好き嫌いは各人の嗜好なのでそれはともかく、『食中酒=辛口』という固定観念には囚われずに飲んでみて欲しい。そう感じました。
○オータムカラーズ・コンコード(2005)
甘口の赤ワイン。ナイヤガラと同様シッカリした造りなのでこちらも本格ワインとしての風格を備えつつ、飲みやすい控えめな甘口に仕立てております。天童ワインのコンコードの甘口も美味しかったですが、出来は城戸氏のが正直言って一番だと思いました。甘口ワインにもきちんと手を抜かず造っておられますのでホントにどのワインを選んでも外しは無いと思います。
今年は例年に無く日照不足が心配されてますが、塩尻の地も例外では無く近隣のぶどう園はまだ開園してない所が多く、出来はいつもの年より遅めだそうです。朝早めの訪問に設定したのでじっくりとお話を聴くことが出来ましたが、城戸氏の説明は本当に懇切丁寧で、静かな語り口の中にもブドウやワイン造りに対する秘めたる想いを感じさせられたのが印象に残りました。本当に訪問した甲斐があり、また色々と教えてくださった事で勉強にもなりました。
天高く映える青空と城戸氏のおもてなしの心に、自分の心が洗われました。次回は機会を狙って、設備や畑の見学に訪れたいと思います。
(オーナーの城戸亜紀人様にはお世話になりました。改めてこの場を借りて厚く御礼申し上げます。)