実録『金井一郎物語』〜金井氏自身と氏のワインが織り成す未完の大作

実は、東日本のワイナリーで小生個人による訪問の皮切りとなったのが金井醸造所さんです! 記念すべき第一歩を踏み出したのが第4回甲斐Vin 2005ワインセレクションの翌日、11月27日(日)。このBlogを書く以前のことです。
その後、2006年6月16日の訪問を始め事ある毎にお目にかかってますが、あれからもう一年、奇しくもグッドなタイミングでご当主の金井一郎氏を迎えたワイン会が、今やブルゴーニュだけで無く日本ワインの「水先案内人」ぶる魂様こと西片裕次氏プロデュースの元、平塚のハッピーキュイジーヌブラッスリーH×Mさんと姉妹店のmoto Rossoさんにて10日に開催されました。(オーナーの相山氏は優秀なスタッフと共に地域に愛されるお店造りを実現されているだけでは無く、日本ワインに対する理解と愛情が深いことでリスペクトを受けております。)
運命のいたずらか、バッカス(酒神)の導きによりこの会の開催をいち早く知る事が出来た上に小生の背中を後押しし、真っ先に「参加表明」させてもらいました。
今回のレポは金井一郎氏のワインの魅力を余す事無く伝えるために、長編として仕上げました。(此方も参照あれ! 小生お手本の日本ワインサイト自転車で行く 訪問・日本のワイナリー」の金井醸造場/キャネーワインの項参照。)
以下はこちら(↓)をクリック!!
さて、初訪問の時ですが当時の模様を某掲示板にカキコした小生の文章を以下に再録しますと、、、。

翌日は車を「ぶどうの丘」に停めて、チャリで金井醸造場へお邪魔してきました。
甲斐Vinにも参加されていた他のグループの方々とご一緒に見学と試飲をしました。シャトーキャネーの垂直試飲の機会(小生注:2005年11月13日(日)に参加した思い出に残る試飲会。”あの”行きつけの酒屋さんにてです! 『シャトーキャネー カベルネ・ソーヴィニョン(2002&2003)』『シャトーキャネー メルロ/カベルネ・ソーヴィニョン(2001)』を試飲し、驚愕したのです。ハイ。)があってその時に虜になったのですが、白ワインの方もホントによかったです。特に惚れ込んだのが、『2005 キャネー甲州 万力村』。果実味あふれる優しい口当たりでワインとしての旨味も出ているGooなワインでした。でも何故か正統派のこの白を出さず、素朴な昔の地ワインをイメージした実験的な作品「万力甲州 2005 朝焼」(未発売)を大胆にも辛口の部に出してたのにはビックリしました。セレクションに出してたら絶対に投票してたのに、、、。
(とはいうものの、見学に来た私たちの前で、「ホントは『2005 キャネー甲州 万力村』出して白の部でも1位取りたかったかなぁ。」と本音をポロリ。一同大爆笑でした。)
テイスティングイベントだけではホントの評価は出来ないですね。実際に足を運ぶことがどんなに大事かよく分かりました。
真摯な姿勢で、何事にも前向きに取り組む一郎さん。応援したくなる贔屓のワイナリーがまた一つ増えました。

(懐かしい! まだ駆け出しの頃の金井様のワインに懸ける想いを知らずに無邪気に書いたウブなコメントですね。苦笑。でも、これは一つの思い出としてイイんじゃないのと今は感じております。)
脇道にそれてしまいましたが、本題に戻りましょう。会のほうは二部構成で、
○一部=moto Rossoさんにて軽食と共に、フリートークと試飲を。
○二部=H×Mさんにて、メーカーズディナーによる『金井ワールド』を堪能。
というプログラムです。一部では金井様のワインをティスティングしながらくだけたお話から技術的な詳細を聞かせて頂き、二部では専属の菊地シェフによる料理との組み合わせから繰り広げられる絶品のハーモニーによって引き出される金井様のワインの醍醐味を堪能出来ました。そのメニューを以下に記しますと、

  • 食事のはじめにアミューズ・グール
  • 岩手産牡蠣のエチュヴェ 岩海苔の香り
  • フォアグラのソテー 蕎麦の実と一緒に
  • 鱈の白子のムニエル トリュフの薫りのブランダード添え
  • エゾ鹿モモ肉のロースト ラズベリー風味のソース
  • ホワイトショコラのビスキュイとマスカットのムースのアンサンブル
  • カフェ

の7点。イマジネーション1級(いや特急、もとい特級、、、。スンマセンくだらん駄洒落で。苦笑)のシェフによる単なる思い付きではない豊富な知識に裏付けされた中にもアヴァンギャルドさをさりげに忍び込ませた創作料理には、ホント感服するほかありません。
(第2部の方ではテーブルの面子が結構『濃い』メンバーだったので、少々度が過ぎた盛り上がりではしゃぎ過ぎだったのかなぁ?と日が変わって冷静に振り返り、反省しております。平にご容赦を。)
今回登場したワインは色々な機会に恵まれ既に個人で頂いているものも有りますが、本記事では改めて頂くことにより小生の感じたままのコメントをキチッと記し、併せて金井様のワイン哲学を自分なりに咀嚼(そしゃく)した形でお伝えしたいと思います。
○『キャネー マスカット・ベリーA バレルNo.12(2005)』(一部のみ登場)
川上善兵衛氏による(ぺーリー×マスカット・ハンブルク)の交配によるワイン用ブドウですが、生食用としても供されてます。それは、甘いキャンディー香があるが故にとボクは考えております。
しかし、新酒ではともかく、普通に赤ワインとして醸造すると時としてその香りが却って邪魔になる場合があります。即ちワインではなく「ブドウジュース」っぽい風味となって腰砕けになってしまうからです。
そんなネガティブなイメージが、古樽での高温熟成によって「枯れた味に化ける」ことを見逃さなかった金井様が試行錯誤しつつ現在進行形でありながらも、リリースされたワイン。
「8ヶ月で熟成はまだまだ。」と仰ってますが、若干甘い香りが残るものの、ふくよかでスルリとした味わいでありながら深みもキチンと備えたワインだと思います。イイ意味で「枯れた」ベリーAの完成形が、恐らく来年のヴィンテージで出てくると思いますがどのようになるかが期待大です。
○『キャネー甲州 万力山(2006)』(一・二部共に登場。二部のトップバッター。)
金井様が目指す甲州ワインの完成形の道程において一つの集大成と言えるワイン。
抜栓したては、ピチピチの果実味あふれる優しい口当たりの『キャネー甲州 万力村(2005)』を、そして中盤には果実味と複雑な香りが『万力甲州(2004)』を、そして最後には『万力甲州・朝焼(2005)』の醸しによるブドウの滋味を全て詰め込んだ風味を彷彿とさせる、これまでにリリースした甲州種ワインの系譜を辿るかのような「歴史」を感じさせるワイン。
甲州種ワインの一つの完成形として重要な立ち位置にありますが、自家農園ではなく『万力村』でもブドウを提供した契約栽培農家の斎間進吾氏が金井様に共鳴して低農薬栽培に取り組んで下さったブドウを用いた事もエポックメイキングとして記すべきでしょう。
よく「生牡蠣にはシャブリ」と判を押したように言われますが、ボクはハッタリやと思います。あのキリッとした酸味が余計に生臭さを助長させるので、むしろ繊細な果実味と酸を併せ持つ甲州種がベストマッチングだと思います。『牡蠣のエチュヴェ 岩海苔の香り』にピッタリのワインでした。
○『万力甲州・朝焼(2005)』(二部のみで二番手に登場。)

地のものを自然に育て、必要な所のみ手を入れ、慈しむように面倒を見る。それが結実し、形となったワインで、ぶどうの全てを体現させるに当たり、皮ごと「醸し」をして作ったのは当然の帰結だと思います。

2006年6月16日の訪問記で、このように触れた『甲州種のありのままの姿』を叩き出した"あの"ワインが再降臨しました。ちなみに、2006年12月4日の記事では

嗜好品なので好き嫌いはともかく、「嫌い」だけでこのカテゴリーを全否定するのはチョット淋しいかなぁと思います、、、。

と記しましたが、「醸し」に関して先入観無しに素直にオモロイと感じた小生にとっては、当時の賛否両論に対し違和感と同時に固定観念に縛られる事の悲しさをも覚えました。
このワインに関するコメントは、前述の6月16日の訪問記に詳細を記しておりますのでそちらをご覧頂くとして、後日、菱山さんでの仕込みの手伝い時に地元の農家の方より教わった「甲州ブドウの正しい食べ方」が「果肉を食べるだけでなく、口の中で皮離れした後の皮の裏を舐めることで旨味を味わえる。」と耳にした時、12月4日の記事に記したように「醸し」に対する自身の考えはより確固たるモノへ昇華したのでした。それ故、甲州の当たり前の姿を素直に体現させるとこうなるのはごく自然な事だと思います。
『フォアグラのソテーと蕎麦の実』と一緒に頂きましたが、醸しによる豊かな風味がフォアグラのボリューム感にも負けず口に残る余分な油分をサッと洗い流し、しかも素朴さが蕎麦の実とマッチしていました。
○『ヴィノ・ダ・万力 シャルドネ(2004)』(二部のみで三番手に登場。)
天然酵母による発酵を取り入れた記念すべき第1作。完全な球体の如く全ての要素において調和がとれたシャルドネ種によるワインで、シャルドネの特徴である酸のみならず甘味も感じられる本当にふくよかな味わいが特徴的です。ノンバリックのシャルドネワインのような爽快感とも、木樽熟成&マロラクティック発酵を施した厚みと円やかさが同居した古典的シャルドネワインとも異なる、他に例の無い唯一無二の存在のワインでしょう。
『朝焼』が『フォアグラのソテーと蕎麦の実』をガッツリと受け止めるのに対し、こちらは柔らかくそっと受け止める趣の優しい風味かつ懐の深いワインです。
○『ヴィノ・ダ・万力 メルロ(2006)』(一・二部共に登場。二部の四番手。)
プリムール(新酒)らしい瑞々しさの見本のメルロ種赤ワイン。以外だったのが金井様のワインでは始めてのサン・スーフル(亜硫酸無添加)なのです。それもそのはず、バッド・ヴィンテージであった今年は収穫が少なく熟成させて置く量まで届かなかったことから、新酒として出し、瑞々しさを押し出すためにもサン・スーフルとした訳です。
「災い転じて福となす」とはこの事で、結果意図した通りのワインが完成したと同時に、天然酵母による発酵がよりスムーズに行く事を学んだそうです。和食にも合う料理を選ばないワインで、赤が苦手な人でもすんなり受け入れそうです。
『鱈の白子のムニエル トリュフの薫りのブランダード添え』とは申し分無い食べ合わせで。白子の旨みを引き立てつつも程良いボリューム感に抑えてくれるだけでなく、元々持っているメルロの特徴である「土臭さ」も程良く備わっている事から、トリュフとも相性は抜群です。
○『シャトーキャネー カベルネ・ソーヴィニョン(2002)』(二部のみで五番手に登場。)
○『ヴィノ・ダ・万力 カベルネ・ソーヴィニョン(2005)』(一・二部共に登場。二部の五番手。)
真打ちのカベルネ二点。
前者は、初めて金井様のワインを頂くことが出来た上記の垂直試飲の機会にてノックアウトされた赤ワインの内の一つで、これがキッカケで『日本ワイン』へ再び真剣にコミットする様になった『朝焼』と共に想い入れのあるワインです。
年月を経て、より円熟味を増した深みと味わいの複雑さに加え、相変わらず飲みやすくも芯の通った基本骨格が優れものであることを再認識出来ました。ちょっと前までは、マスコミ等が『朝焼』ばかりがクローズアップしてましたが、金井様のワイン造りは赤ワインでよりその真価が発揮されるのです。
そして、後者、木樽のニュアンスを無くし「日本・いや万力のカベルネの滋味を素直に表現する」ためにステンレスタンクによる熟成(本当は、より日本の個性を表す事を狙い、焼酎と同様に亀壺での熟成を考えていたようです。焼き物による貯蔵だとより柔らかな味わいが期待出来ます。素敵なアイデアだと思いました。いつか金井様の願いがかなうとイイですね。)を施したワインで、天然酵母による発酵を取り入れる事でより万力のテロワールが素直に表現されていると感じました。ステンレスタンクでの熟成でありながらリリースしたての今でも口当たりの滑らかな風味で、さらにセラー等で寝かせても、前者の『カベルネ・ソーヴィニョン(2002)』と同様に月日を経ても存分に味わえる予感のする優れた出来のワインです。
『エゾ鹿モモ肉のロースト ラズベリー風味のソース』がこれらのワインにハマりました。特にラズベリー風味のソースが非常にワインと調和して、お口の中で素敵な協奏曲が奏でられてる様でした。
甲州甘口 一升瓶貯蔵(1972)
最後のデザートワインは、金井様のお父上が「息子さんのために」と仕込んだもので、ある意味金井様自身にとっての「記念碑的」ワインなのです。今回は特別にこの会のために提供して下さった貴重な物です。
黄金色に輝く透明感溢れるその姿は、時空を超えた言葉では語り尽くせない『何か』を感じさせます。



そして、粋な計らいとしてあの『朝焼』の直売所販売版のエチケットの原画の油絵(こちらもわざわざ持参して下さったのです。)をバックに思い出のワインを頂ける事に対し、感謝する他ありません!
控えめな甘さと古酒独特のハチミツのような香りが、ブドウをあしらったデザートの『ホワイトショコラのビスキュイとマスカットのムースのアンサンブル』をそっと脇から支えるかの如く、エピローグに相応しい組み合わせで〆となりました。
金井様のワイン造りは、がんじがらめに束縛された現代のワインから一つずつ軛を剥がして行ってます。その姿勢は、束縛で傷ついたワイン達を癒すかの如く慈愛に満ちたもので、ブドウ造りから醸造まで一貫して必要な所のみ手を加え、スッピンでも美しい姿になる素敵なワインをきちんとリリースされておられます。
こうして造られたワインは、無用な縛りが無いが故に口当たりが優しい所を持ち併せつつ、しっかりと自律し健全な仕上がりになっている故に抜栓してからも決して色褪せないもの(むしろより美味しい方への味わいの変化も時には示す。)となってます。それは、自由に大空を満喫しつつ自らの意思で持って空を飛んでいるカゴの中からとき放たれた鳥のようです。よって、小生が金井様の記事でよく記すフレーズに集約される「シンプルでありながらも奥行きのある訥々と語りかける味わい」が全てのワインに根底して流れております。
「『枯れた味わいのマスカット・ベリーA』が一体どのような形で完成されるのか?」、「木樽のニュアンスを排除した『日本のカベルネの滋味を素直に表現したワイン』に、『瓶壷』での熟成という素敵なアイデアが果たして実現出来るのか?」、「1972年の甲州から『万力山』に繋がる甲州の系譜とその未来型とは?」、など未完成の『物語』は沢山残されてます。金井氏がどういったストーリーを綴って行くのか? そういった物語達の今後の展開を暖かい目でじっくりと見守って行きたいです。
(当日は、ご当主の金井氏始め、会を企画して下さった西方氏、ブラッスリーH×Mさんとmoto Rossoさんオーナーの相山氏を始めとする川端店長や菊池シェフ他スタッフの皆様にはいろいろとお世話になりました。改めてこの場を借りて御礼申し上げます。有り難うございました!)