『北風と太陽』の物語〜鈴木御夫妻がワインに込めたひたむきな愛情を味わう

それは、2005年の12月頃でした。
お世話になっている行きつけの酒屋さんにめぐり逢って、半年近く経ったぐらいかなぁーと記憶してます。親切な若旦那様が教えて下さったのは『千野甲州』(2004年物でした)。2006年5月28日の日記にあるように、「甲州種に対する概念をいい意味で変えてくれる素晴らしいワインです。」というお世辞ではない絶妙のセールストークに心を突き動かされました。
たまたま'06年1月に勝沼ぶどう郷YHにて新田商店さんによるワイン会の予定があったので、翌日伺って見学&『千野甲州』の引き取りをメールで旭洋酒さんへ申し込んだ所、丁寧な返事を頂き(当時、メールが上手く送れずFAXにて頂いたのですが、その紙は今でも大切に取ってます。)嬉しかったのを憶えてます! そして丁度一年前、新生旭洋酒の門出を祝う『それいゆ』3兄弟お披露目会(2006年3月11日)に出席。その後のピノ・ノワール収穫(2006年8月27日)と、節目節目の行事にも参加させて頂いている思い出深いワイナリーです。
その御披露目会から丸1年、本当に日本ワインが真の意味でムーブメントとして根付きつつある湘南で、2006年12月10日に続いて企画されたワイン会が、ぶる魂様こと西片裕次氏プロデュースの元、平塚のハッピーキュージーヌ、ブラッスリーH×Mさんと姉妹店のmoto Rossoさんにて開催されました。
前述の『それいゆ』3兄弟お披露目会では2004ミレジムのピノ・ノワールが初登場したのですが、この日は、西片氏やH×Mスタッフの皆様により収穫された2005ミレジムのピノ・ノワールが初登場なのです!
今回もレポは鈴木剛氏・順子氏御夫妻のワインの魅力を余す事無く伝えるために、またまた長編として仕上げました。
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『Soleil』(『ソレイユ』、フランス語で太陽の意味)のブランドネームで知られる旭洋酒さん。詳しくは上述の2006年5月28日の訪問記をご覧頂くとして、鈴木御夫妻がイソップの『北風と太陽』になぞらえて付けた通り、太陽が持っている「温かさと内に秘めたる大いなる力」をまさにそのまま写し取ったかのような素晴しいワインをリリースされております。それは、共同経営の頃からの根強い顧客だけでなく、その素晴しさに惚れ込んだ人々がいつの間にか口コミ等でその良さを伝え自然と輪が拡がる今や注目のワイナリーです。
その「温かさと内に秘めたる大いなる力」は、旗艦商品の「それいゆ」シリーズを筆頭に全てのワインの根底に流れており、ワインファンは勿論のコト県内外のフツーの人々にも親しまれる存在で、それがだんだんと全国区の人気となって現れていると感じてます。
今回も、会は二部構成で、
○一部=moto Rossoさんにて軽食と共に、フリートークと試飲を。
○二部=H×Mさんにて、メーカーズディナーによる『ソレイユワインのキャラクター』をたっぷり堪能。
というプログラムです。一部では鈴木御夫妻のワインをティスティングしながらくだけたお話から技術的な詳細を聞かせて頂き、二部では専属の菊地シェフによる料理との組み合わせから繰り広げられる絶品のハーモニーによって引き出される鈴木御夫妻のワインの醍醐味を満喫しました。そのメニューを以下に記しますと、

  • 食事のスタートにお楽しみ一口
  • 京イモのムースと芝エビを 海水ジュレと一緒に
  • アスパラガスをパッションフルーツとオレンジのサバイヨンソースで
  • メダイと蕪のポアレ ベーコンの香り
  • 高座豚とハマグリのポッシェ タイム風味
  • ピンクグレープフルーツに紅茶のジュレを乗せて
  • カフェ

の7点。シェフが練りに練っての力作とソレイユワインとの饗宴にワクワクします。
リストアップされたワインは色々な機会に恵まれ既に個人で頂いているものも有りますが、本記事では改めて頂くことにより小生の感じたままのコメントをキチッと記し、併せて鈴木御夫妻のワインに込めた想いを自分なりに咀嚼(そしゃく)した形でお伝えしたいと思います。

○『ソレイユ 甲斐ノワール(2005)』(一部のみ登場)
山梨県果樹試験所が創出した、ブラック・クイーン(BQ)×カベルネ・ソーヴィニョン(CS)の交配品種でワイルドさが特徴の癖のある赤ワイン用ブドウ。それぞれの親の特性を受け継ぎ酸味とタンニンが強く、『ワインフェス2007・春の足音』の時にも書きましたように醸造の腕が問われる品種やと小生は思います。
しかし、ソレイユさんの甲斐ノワールは他のワイナリーと比較すると本当に出来栄えのよい物です。初めて2003ミレジムを頂いた時の甲斐ノワールとは思えない口当たりの良さは特筆モノ。ミレジムを経る毎に仕上がりは円熟味を増し(2005では醸しによる抽出期間を短くしていってる)、それでいてタフでへたりの無いワインなのでエスニックから濃い味の中華、洋食と守備範囲は広い(濃い味の和食にも会うかも)赤ワインです。後述しますが、信頼のおける契約農家とのタッグを重視し、二人だけで切り盛りして行かねばならないワイナリーを強力にバックアップする方々がいて下さるのがのが旭洋酒さんの最大の強みで、「一文字短梢式」で栽培されている雨宮進氏の畑のブドウのみを使用してます。だから自社畑や醸造の面倒を見る事に少しでも多く精力を注げられ、美味しいワインが出来るのです。
○『ソレイユ クラシック白(2006)』(二部に登場。二部のトップバッター。)
濃厚系以外なら、どんなジャンルの料理問わず合わせる事の出来るコストパフォーマンスに優れた万能選手の甲州種白ワイン。
抜栓したてはカリンの香りと果実味溢れるソフトな飲み口の辛口白で、残糖を僅かに持たせているので少し甘味も有り誰もが飲みやすいと評判でした。アフターのほんのりした苦味がアクセントで、甲州らしさもシッカリでているので甲州ファンにも納得の一本。
『京イモのムースと芝エビを 海水ジュレと一緒に』との組み合わせは、後述する『ソレイユ甲州』と甲乙つけがたいもので、どちらかというと甘口のワインが好きな人や飲み慣れてない人にはまずコチラをオススメします。まずはソレイユさんのワインの入門として真っ先に挙げたいです。
○『ソレイユ甲州(2005)』(一・二部共に登場。二部では二番手に登場。)
ソレイユワインでスタンダード的存在の、シュール・リー仕込みの甲州種辛口白ワインです。
あえて除梗せず房を丸ごとしぼるので、圧搾率が低くなりえぐ味が少なくクリーンな味わいで、果実味を充分に感じます。リリースしたての頃と比べると熟成され、奥行きのある味になってます。どちらかというと本格派です。違いの分かる人で、甲州の辛口ワインを好みにしている人なら絶対に好きだと思います。
シュール・リー仕込みの辛口ということで、『京イモのムースと芝エビを 海水ジュレと一緒に』の海水とのマッチングはコッチの方がイイかな? 辛口好きなら『ソレイユ甲州』ですね。
○『ソレイユ 甲州プティ・ポワゼ(2005)』(一・二部共に登場。二部では三番手に登場。)
前述の『ソレイユ甲州』と同じ原酒ですが、あちらは発酵後の熟成ではタンク+シュール・リーに対しこちらはフレンチオークを用います。だから『ソレイユ甲州』の兄弟分と言え、比較して見ると面白いです。
名前の通り、「ちょい樽甲州ワイン」なので樽の雰囲気は僅かで果実味を重視しており、なおかつ味の奥行き・香り・余韻はコチラの方がタップリあります。
『ソレイユ甲州』が切れ味たっぷりの細身の刺身包丁という感じでどちらかと合わせる料理はあっさり系がベターで選びますが、『甲州プティ・ポワゼ』は万能洋包丁という趣でしかも『クラシック白』より格上なのでムッチャ濃厚物で無い限り合わせる料理のレパートリーは広いです。一家に一本の白ですな。
○『千野甲州(2005)』(一・二部共に登場。二部の四番手。)
小生が知る限りでは日本で一・二を争う質をもった甲州ブドウから樽発酵を経て出来た、至高の甲州種ワインの一つ。何てったって、旭洋酒さんとの出逢いのきっかけとなった「思い出の一本」。
溢れんばかりの香りと果実味のパワーはブドウの持つポテンシャルが他と圧倒的に違うからで、最近とある同じ樽発酵甲州ワインと飲み比べてその差にビックリ! グラスにまとわりつくほどの香りは『千野甲州』ならではでした。それもそのはず、「一文字短梢式」の生みの親で栽培先生役の顧問・小川孝郎氏による契約畑の甲州種の持つポテンシャルを最大限に引き出したワインだからです。ピノ・ノワールの存在がクローズアップされますが、実は「温かさと内に秘めたる大いなる力」というソレイユさんのキャラクターの象徴であると小生は断言します!
2005年物では新樽率が減っているのでさらに果実味が引き出され、ますますボク好みに。『アスパラガスをパッションフルーツとオレンジのサバイヨンソースで』では柑橘系と青りんごの香りがオレンジソースとピッタリ。パワーある果実味から『メダイと蕪のポアレ ベーコンの香り』とも相性は抜群です。
※一文字短梢式=棚式の作業性の良さと垣根式のブドウの質の良さという両方のエエトコどりした仕立て法。棚と同じ高さで、主幹から二次元に生やすのでは無くT字状に一次元(=一文字)に生やす。
○『ルージュ・クサカベンヌ(2005)』(二部のみで五番手に登場。)
かつて共同経営時代だった頃の旭洋酒さんの社員の一人、手島宏之氏がネーミングの由来となっているワイナリー近所の日下部地区にて栽培する完熟の特製マスカット・ベリーAを、ボージョレ・ヌーヴォーでお馴染みのマセラシオン・カルボニック(MC)法で仕込んだもので、シナモンなどのスパイシーさとイチゴ系の華やかな香りがチャーミングに立ってきます。(リンク先は、手島農園さんの『クサカベンヌ解説ページ』。文責は旭洋酒さん。)酸、タンニンも適度に感じられるライト〜ミディアムボディーの飲みやすい赤ワインです。(地名がそれとなく名前に入っているのがボクは好き。笑)
『アスパラガスをパッションフルーツとオレンジのサバイヨンソースで』とワインの組み合わせがドンピシャにハマりました。(今回の組み合わせで一番サイコー!)特にパッションフルーツとオレンジのソースの酸味がワインのそれと相乗効果を生み、シナモンの香りがさらに引き立ててくれます。
○『それいゆ ピノ・ノワール(2005)』(一・二部共に登場。二部の六番手。)
小川孝郎氏と鈴木ご夫妻が共同で一文字短梢にて栽培するピノ・ノワールが原料として用いられた、フラッグシップ『それいゆ』シリーズの一つ。収穫のお手伝いをした一人であるH×Mの菊池シェフが、余りにも大変だったので思わず人目を盗んで横になった(笑)こぼれ話に皆が大笑い。コチラは西方さんとH×Mの関係者諸兄にとって「思い出の一本」! (小生は翌年お手伝い)
2005ミレジムではブルゴーニュ・クローンとスイス・クローンが1対2でアッサンブラージュされ、両方の良さを上手に組み合わされ完成度が上がってます。お陰でより美味しい味となり、2006の収穫時の昼休みに振る舞われた時では「収斂味がかっていた酸味」が、瓶熟により落ち着き飲み頃を迎えつつあります。ほんのりとしたチェリーと紅茶の香りが徐々に開き、やがて香り立つとさらに美味しく感じます。これも、しみじみと味わいながら飲みたくなるウキウキ感溢れるワインですなぁ〜。
高座豚とハマグリのポッシェ タイム風味』の豚の油をそっと包む込み、「温かさと内に秘めたる大いなる力」が食事の美味しさをさらに引き立ててくれます。それと、これは洋食だけでなく和食、特に醤油とカツオだしの効いた煮物系に合わせて見たいデス(それも、カチカチの高級料理でなく家庭の味で!)。間違い無く一家の食卓に彩りを添えてくれます。正月、コストパフォーマンスの高いブルゴーニュをたまたま手に入れおせちと一緒に食べた時の感動は忘れられません。だから、『それいゆ ピノ・ノワール』ならきっとドンピシャです。是非お試しあれ!(小生も買ったらそれで行こう)
○『それいゆ メルロ(2004)』(二部のみで七番手に登場。)
最後のワインは、順子様自らが自社畑で独特の仕立て法にて栽培したメルロをメインとし、剛氏が仕込んだもので、御披露目会以来丁度一年ぶりに賞味します。
非常に長命なワインと感じます。1年前の味はちゃんと健在で、これからも熟成によりますます美味しくなります。一口味わった瞬間の「柔らかい!」という印象に感心! 最初は独特の土の香りが沸き立ちますが何と言ってもこのワインはエキゾチックな果実香が心地よいです。味も滑らかさとゴリ押しでは無くじわーと湧く厚みが感じられ、タンニンによる渋さと濃厚さと果実味のトライアングル・バランスが取れている美味しいメルロです。素晴しい!
このメルロは、『高座豚とハマグリのポッシェ タイム風味』のタイムの香りとの相性が抜群で、バランスの良さ故に脇から程良い主張で食事を存分に引き立ててくれます。
優しさ、あるいは温かみだけでは無く大いなる力を内から放つこれらのワインは、二人のお人柄があってこそ出来る傑作です。その評判ゆえに人づてに聴いたお客さんが一見何でもない住宅街のちょっと奥まったトコロに立つワイナリーを探し当ててやって来る(それも首都圏問わず関西とか遠方からも!)ことと、そうやって来たお客さんがまた惚れ込みそれから輪が拡がるということが何よりもその事実を雄弁に物語ってます。
鈴木御夫妻が、地元の優秀なブレーン達とタッグを組みまた自らもブドウをこしらえて、丹精込めて栽培されたブドウの魅力を余す所無く引き出し「温かさと内に秘めたる大いなる力」がたっぷり詰まったワインを造り出すその「こころ」は、地道に一歩一歩と地位を築き「暗闇」だった日本のワイン界に「光明」を照らし出してます。まさにその事実は、自分達が名前の元としたイソップの『北風と太陽』のストーリーのようです。その「光明」がやがて大きな光となり、静かながらも燦々と人の心に温もりと力を与えてくれる存在となるよう祈ると同時に、より数多くの人がそのワインを賞味して欲しいなぁ〜と思います。
(当日は、ご当主の鈴木御夫妻始め、会を企画して下さった西方氏、ブラッスリーH×Mさんとmoto Rossoさんオーナーの相山氏を始めとする川端店長や菊池シェフ他スタッフの皆様にはいろいろとお世話になりました。改めてこの場を借りて御礼申し上げます。有り難うございました!)
(余談)
『甲斐ノワール』や『甲州プティ・ポワゼ』の素敵なエチケットをデザインしたのはワインフェスの記事にも書きましたように『それいゆ』シリーズ(コチラも秀作です)も手掛けたよしだみよこ様です。
で、木の根元で「モグラくん」が顔を出してますが、もう一匹隠れてます。何処でしょう? 買って見た方は捜して見て下さい。正解した方には、、、ウソです。それだけは勘弁して下さい。(でも、遊び心というのもまたイイですね。ハイ。)