ボルドーの伝統と名家の歴史が紡ぐ〜渡邊葡萄園醸造(那須ワイン)訪問

創業1884年明治17年)、日本有数の歴史を持つ伝統のワイナリー・那須ワインさん。那須山麓の高原の黒磯に近い所に居を構え、小規模に徹しこつこつとワインを造り上げています。初代が那須野に入植し、開墾を進めた際に政府の殖産政策にならってブドウを植えたのが始まりで、現当主の渡邊嘉也氏はワイナリー四代目。実直なまでのボルドースタイルによる醸造という明快な方針です。
嘉也氏は1993・94年頃に渡仏し、およそ8年間ボルドーのシャトーを渡り歩いた後帰国。その間在籍したシャトーには、シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド(Château Pichon Longueville Comtesse de Lalande、ボルドー格付け第2級・ポイヤック)、やシャトー・ヴァランドロー(Château de Valandraud、サンテミリオン)も含まれます。かの、ミシェル・ロランとも顔を会わせてます。
日本ワインを造る人々 - 北海道のワインボルドースタイルを取ったのは簡単な理由で、本人が好みでかつ安定した酒質で有り続けられるからです。ちなみに本家ボルドー、昔はカベルネ・ソーヴィニョンとメルロ、カベルネ・フラン等がごちゃ混ぜで植栽されており、近代化の後にそれが「ブレンド」として定着したもので、単一品種のブルゴーニュと違い安定した出来になるのに「ある意味」貢献してます。まぁ、後付けですが上手い事商売にかの地の人は結びつけた訳です。(出典:『ワインの科学』、講談社ブルーバックス・この書籍もオススメ。)
話を伺って感じたのは、渡仏での経験は氏に圧倒的な本家と日本の質・量の差を思いの他知らしめる事となったようです。また、良くも悪くもワイン界の裏表を知る良い機会となった模様。この経験を元に、限られた資源を活用しポテンシャルの差がある日本のブドウを生かす為に、テクニックを最小限に抑えたクラシックなスタイルが確立されたわけで、むやみにあれこれと手を出さないことで集中してワインとブドウ造りに勤しめることになりました。
栽培では、昔の棚式に加え、2003年の帰国後に垣根で樹間1m×畝間1mでギュイヨ仕立て(ドゥブルとサンプル併用)とし、カベルネ・ソーヴィニョンとメルロ、カベルネ・フランの黒葡萄を主に植栽してます。(ベリーAや白葡萄も有りますが、家族経営での身の丈を踏まえ赤に集中させて行く予定。) また醸造では、無理な抽出を避ける為、ルモルタージュ(ポンピング・オーバー)のみで、ボルドー樽で有名なセガン=モロー(スガモロ)社のを使用してます。
試飲では、ベリーAやメルロを頂きましたが、前者は樽香が程良く付きその結果キャンディー香が抑えられつつもしなやかな風味に、後者は熟成でこなれた結果ビロードのような滑らかさと深みが溶け合ってます。面白かったのが、ナイアガラ・セレクション(2005)。樽には入れてませんが解放タンクでの酸化熟成を取っているため、あのラブラスカ特有のフォクシー・フレーバーがとれて古酒の様なハチミツの旨味とシェリーチックな薫りになっているところが良かった。それも、先述した様に限られた資源の活用のため、現在では低温発酵とか密閉雰囲気下とかの通常白ワインに取り入れる醸造法ではなく赤ワインのそれを転用し、そこを逆手にとって上手に仕上げてます。
嘉也氏が帰国して約3年、ボルドーの頂点に一矢報いるべく日夜こつこつと地に足をついた歩みを踏み出し始めた那須ワインさんに関し、評価を云々するのは時期尚早。その物語はまだまだこれからも続きます。陰からそっと見守って行きたいと思います!
●関連資料
キャッチ The 生産者(第28回) 現当主、嘉也氏へのインタビュー記事が掲載されてます。
日本ソムリエ協会サイト−「ワイン村」より)