「ミュラーは僕にとっての初恋の人」・いとしのブドウと自然体で向き合い13年〜松原農園訪問

小樽よりJRで約2時間、ニセコよりも西方の日本海にほど近い地に蘭越町と言う小さな町があります。そこに口コミとネットでその存在がじわじわと浸透しつつあるちょっとしたブドウ農家さんがあります。松原農園さん(6月17日の日記参照)です。
畑は町を望むなだらかな山麓の上方に有り、後方羊蹄山(しりべしやま、リンク先はWikipedia)も望まれ(天気が悪くあいにくでしたが、、、)、絶好の眺めの地です。かつては登山や自転車等のアウトドアスポーツにも親しみ北海道の山にも通ったことのある園主の松原研二氏、時には厳しい姿も垣間見るとはいえここの自然が大層気に入っている様です。
さて、表題にも掲げたようにミュラー・トゥルガウにぞっこんの松原氏、選んだにも理由があります。それは、
(1)どちらかと言えば豊産で収穫がそれなりに見込める。
(2)時として襲われる冷夏にも耐えうるだけの強さを有する。
(3)何と言っても、一番最初に巡り合った美味しいワインが「北海道ワインさん」のミュラーだった!
至極分かりやすい簡潔な理由だったのです。
そして、天候に恵まれたドイツではのびのびと育ちすぎて過熱状態となって凡庸なワインとなってしまいます(これが、ドイツで冴えない理由だった訳です。)が、北海道の地では秋の長雨で生じる水分過多さえ留意すれば酸がしっかりと乗り芳醇な薫りも出て本来のポテンシャルを発揮することから、むしろ本国より適地となるのです。
ちなみに、松原氏がBlogで触れてますように今年の北海道は雨が少なく(お陰で充分な日照時間を得てますが、、、。)干ばつ気味でその点を心配してお尋ねしました所、案の定「皆さん、ブドウは乾いた地がイイと仰るでしょう。でもね、ある程度水分が無いと駄目なんですよ。」と意の答えを下さりました。そして、根を適度な深さに留め、必要以上に深く張らさないようにすれば水分(と養分)過多には対処出来る。と、屈託なく仰っていたのを聴いて、「この人はブドウとちゃんと対話してはるんや。」と感嘆したのです。そして、会話を経るにつれ、教科書的(単なる外国の受け売り)では無い、理論も細かい観察力で肌から感じ取りつつ思考を絶やさない実践派とお見受けしました。

<筆者注>
植物生理、というか人間もそうですが、水分、ならびに栄養過多は健康状態からむしろ肥満につながります。逆に、水分、ならびに栄養失調は飢餓状態になります。(何でも程々が一番なのです、、、)
植物の場合、一般に根から養分と水分を吸収する訳ですから、同じ土壌であれば根の張り具合が吸収の強弱を左右します。ワイン用ブドウを栽培すると普通は「密植して根を水平方向では無く地中に深く張らせる。」と言うのが通説と思いがちですが、欧州のそれとは異なり日本では肥沃で水分が多いので、逆に必要以上の水分を深く張った根から吸収することになります。また、密植は却ってストレスとなります。(適地とされる欧州等は、乾燥しかつ養分が程々な土壌なので、自然とこじんまりとした樹勢となり水分を得る為に深く根を張る傾向になるのです。だから、乱暴な言い方ですが長年の歴史から「結果として密植となった」と言えるでしょう。)
詳しく書くと長くなるので割愛しますが、地面の上(樹勢)と下(根の張り具合)を適切にコントロールし、地勢や土質に応じた上と下のバランスを取ることが重要なのです。
(参考)
全国さくらんぼ普及会のWebページ(たまたま一年ほど前にネット検索して見つけました。読んでて素直に面白いと思います。)

このように、松原氏、自身がドイツを始めとするミュラーのワインも実際に口にし、また前籍の「北海道ワイン」時代も含め長年畑に関わった経験を踏まえ冷静な分析と積み重ねの結果が今ここに現れていると感じました。
快活で明瞭な受け答え、それでいて思慮深い山男の松原さん。明快な哲学を持ち、家族と共に真摯に時にはのびのびとブドウ栽培に精を出すその姿は、醸造を受け持つ北海道ワインの社員さんを始め、色々な仲間達の心を捉えて離さない懐の深い人です。自然がもたらす厳しい現実と隣り合わせの毎日ですが、沢山の人々の温かい目に見守られつつ、来る日も来る日もブドウ造りに励んでおられることでしょう。
(謝辞)
最後に、松原研二様に対し改めて御礼申し上げます。この度は本当に有り難うございました。
●関連資料
前日に引き続き、『日本ワインを造る人々 - 北海道のワイン』です。(2006年9月24日記事参照)
(おまけ)
エチケットやお客さんへのDMにもキャラクターとして登場するワンちゃん、可愛らしかったです。躾が行き届き人にもよく懐くので、犬が苦手(その昔、ガキンチョの時に野良犬に追っかけ回されたのがトラウマに、、、)なボクが「オウオウ、よしよし。」と自然に撫でているのでした。
自然の中では、人は開放的になるんですねぇ〜。