おやじさんの小さな夢に支えられたローカル・ミニワイナリー〜マルサン葡萄酒訪問

酒折さん見学後はめいめい別れてその後ぶどうの丘から自転車に改めて跨りました。そして、午後の訪問先にへと向かいました。
  勝沼の上町の交差点を西に向かうと「若尾果樹園」という看板が出てきます。普通なら勝沼に普通に存在するぶどう園と見間違うこのお店がマルサン葡萄酒さんの売店醸造場です。ひょんな事がきっかけで『美和くぼ』というメルロ&プティ・ヴェルドーの赤ワインを頂き興味を持ったボクは「どんなとこやねん」という想いからここを訪れたのです。
  かつては農家共同で自家消費のためのワイン(葡萄酒)を作っていた所謂「ブロック・ワイナリー」だったのですが、中心人物であった若尾家以外の人々以外は殆ど手を引き、実質若尾果樹園のワイン部門といった感じで現在に至ってます。年間約20tのブドウをワイン用に回しており、主に甲州シャルドネ、そして前述したようにメルロ&プティ・ヴェルドーを主な品種として栽培してます。
驚かされるのは、このような超マイナー「醸造所」が欧州系品種を垣根で栽培し・主要商品(『美和くぼ』シリーズがそうです。)として展開している事で、葡萄園近くを流れる日川の河川敷側の段丘上にその垣根畑が有ります。(メルシャンさんの側にあるぶどう橋と大月側に架かる祝橋の丁度中間ぐらい。)もともと河川敷近く故に石ころの多い所でしたが、土木工事で出た残土を持って来て表層にしき、その一部が1997年に垣根栽培の畑として生まれ変わったのです。甲州の畑も自前で所有しておりますが、他のブドウ(マスカット・ベリーAとアジロンダック等)は仲間の農園の方々から調達しています。あと、醸造場の建屋は入口側の売店よりさらに奥にありますが、その小さな建屋には密閉式の発酵タンクやウィルメスのバルーン式圧搾機とかが置かれてあり、設備もそこそこなものをちゃんと持っています。
さて、ここのワインは『美和くぼ』シリーズの赤がメルロ&プティ・ヴェルドーをアッサンブラージュしたというあまり他でも例を見ない組み合わせ(プティ・ヴェルドーといえば、丸藤さんの赤が代表例で他ではさほど見かけません。あと耳にしているの所では、スズラン酒造さん)がなんといっても特徴です。その赤を中心に試飲してみました。
○『美和くぼ(赤)』
御厚意により、2003年から2006年ミレジムを垂直試飲させて頂きましたが、共通しているのはアタックの強さ。上述したように以前少し飲ませて頂いた時は「結構濃いなぁ」と感じましたが、改めて試飲してみるとどちらかというとアルコール分が多くその分アタックが強いという趣です。色も昼間の室内でみれば標準的な日本ワインとそれほど変わり有りません。ちなみに果汁糖度は毎年大体21度になるぐらいで、補糖で23度にしてから発酵させるそうで、瓶熟オンリーで熟成させています。したがって、年毎の出来が分かり易いです。(^^; 2003年は熟成のピークが過ぎて枯れ気味、2004年が飲み頃でまだ1年は行けるかなといった感じで、'05以降はまだ角が取れず若い雰囲気。
特別何かが優れていたりとか、酸味・薫りを楽しむというよりも、一世代か二世代前のオーソドックスな雰囲気です。実際アルコール度は高めに13度位と高めに設定されており、(地下セラーに保存してますが)保存で変に気を使わなくていいからというのが本音だそうです。
○『美和くぼ(白)』
こちらはシャルドネ種を用いており、2005年収穫のが販売中です。少し酸化のニュアンスを感じ枯れ気味で、やはり、こちらもつんとした感じがします。
ほぼ個人経営のミニワイナリー故に醸造が我流なのと、樽を使うだけの余裕が無いのが惜しまれる所です。やはり、欧州系醸造専用種はデリケートなのがよく分かります。
○『甲州・百』
勝沼の地ワイナリーにしては珍しく辛口に仕立て上げたワインで、ほんの少しだけ残糖が感じられますがそのお陰でボディーもあり、中々良く出来ています。エチケット等に記されてませんが、2006年収穫の物です。
プレスランが入ってる為少し色がついてますが、それも目立つ程では有りません。薫りも最初に爽やかなシトラス香がほんのりと(ノンボルドーでは有りません)し、それからはオーソドックスな甲州ワインに特徴的な垢抜けない趣の洋梨の薫りがします。懐かしのワインで有りながらも辛口なので結構楽しめます。古き良き甲州ワインで有りながらも食中酒としてのしっかりしたのを求める方にはお薦めです。
○『若尾オリジナル(白)』
同じ甲州でも、こちらは甘口で甲州ワインの常道に乗っ取った奇をてらわないワインです。所謂「勝沼の地ワイナリーの味」ですが、辛口がボディー感を持たせているのに対し、後味がしつこくなく飲みやすさを持たせて親しみやすさを全面に押し出してます。(こちらも、2006年収穫の物です。)
取り立てて何かが凄いとか(強いて言うなら、超ローカル地ワイナリーでありながら欧州系品種がトップグレード用であること。しかもプティ・ヴェルドーというのがミソ。)、国際的に通用するワインを目指すとか言うのはこれっぽっちも感じさせない、まるでエアポケットに取り残された趣の「醸造所」というのが率直な印象。でも、奥様の支えの下でご主人(といっても、御年60越えてた感じです。)が栽培と醸造を一手に引き受け、繁忙期には親戚や仲間が助けに駆けつけて周囲の人々に支えられる事で成り立ってます。そこには、ご主人が最後に語ってくれた親の代から続く「素朴にワインが好きでやっている」想いが有るからこそ、何か引きつけて止まないものを感じさせると同時に、こんなワイナリーも有ってもエエやんという仄々とした気にもなるのでした。
●関連資料
マルサン葡萄酒〜人とワイナリーは見かけによらず〜(「自転車で行く 訪問・日本のワイナリー」より)