塩尻ワイナリーフェスタを存分に堪能す

あっという間に台風が太平洋岸を抜けてカラリと晴れ渡った日曜日、この日は『ワイナリーフェスタ』が塩尻で開催されましたので参加して来ました。
塩尻の全ワイナリーが協賛して市が主催するこのイベントは、いわば「合同収穫&新酒祭り」、一会場で集結する催しと異なり、メインの塩尻駅前東口会場からシャトルバスで各ワイナリーを回るよう嗜好も凝らしてます。単なるイベントに留まらず、ワイナリーによっては見学も随時行われており、いろんな層にも楽しめて飽きさせない仕掛けにしている所が有り難いですね。(これも、ワイナリーの数と町の規模のバランスがちょうど良いから出来ることなのでしょう。)
さて、本日は勿論自転車でぐるぐる巡回。山梨よりはワイナリー間と駅との距離は近いですが、自転車で回ると便利です。レンタサイクルも駅で貸し出しされているので、マイペースで行くならシャトルバスよりもこの手をお勧めします。
Kidoワイナリー
朝一番に訪問させて頂いたのが、昨年8月15日に訪れたKidoワイナリーさん、建屋正面の「小さなぶどう畑」にはデモンストレーション用に様々なブドウの樹が植えられてますが、たわわに実が付いてました。
ビックリさせられたのは、ソーヴィニョン・ブランの房が見事に貴腐化していたこと。なんでも、亜紀人氏によるとこれ程綺麗に貴腐になったのは草々無いことで、私自身も有り難い物を見せて貰い得した気分になりました。(笑)
でも、これだけで驚く無かれ。以前訪問したときに語っておられた改植した畑が2年目を迎えましたが、生育が順調で来年に収穫の可能性が見えたことです。メルロ始め、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールピノ・グリがスマート・マイヨルガー方式の仕立て詳細は林農園さんの所で後述します。)で育てられており、わざわざこの日のためにカベルネピノ・グリの房を残していたのを拝見することが出来ました。特に、ピノ・グリは日本でも数少ない栽培例(他に聴く限りでは北海道の中澤農園さん。)で、見事に『グリ』のブドウが成っていました。
また、醸造面では、今年からオータムカラーズも含め全てのグレードで、天然酵母による発酵にもトライして無事発酵も進んだとの事。(ただし、品種はメルロ、シャルドネ等の欧州系ブドウを用いたワインです。)今まで以上に味わいが深まると予想され、ますますこれからが期待させられます。
ちなみに、試飲では有料でプレミアムシリーズ(信頼が置ける栽培農家さんの上質なブドウを使用)2種が頂けましたので下記にコメントを。
○プレミアムシリーズ・メルロ(2006)
前回の訪問では2005ミレジムを頂きましたが、この年のは艶やかでスルリとした趣です。でも、後からじわりと渋みが味わえます。しかも上品な感じですので、『旨み系』が大好きな方にはお奨め。kidoさんのメルロは同じランクの桔梗ヶ原のメルロの中でも頭一つ抜け出た感じがします。まだ薫りが完全に開ききっていないので、1年ぐらいの熟成後に飲むと更に良くなること請け合いです。お勧めです。
○プレミアムシリーズ・シャルドネ(2006)
どちらかというと熟期の早いシャルドネにとっては2006年の気候は余りよろしく無かったのですが、それでも完成度は高くその分当たりは柔らかいです。きっと労苦があったことだろうと推察されます。上述のメルロと同様、ノンフィルターで瓶詰めされてますので、シュール・リーに基づく酵母系の旨みと樽の風味と薫り、そして果実味の調和が崩れず味わい深かったのが印象的。今からが徐々に飲み頃に入りつつあるこれもお勧めワインです。
2007ミレジムは7月の長雨が収量に響いたそうですが、耐えたブドウが8・9月の晴天で遅れを取り戻し、収穫では量が少なかったものの質的には平年並みのが得られたそうです。今年はひとまず一段落ですが、来年以降は(ひょっとしたら)カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールピノ・グリがプライベートリザーブシリーズのラインナップに加わるかもと考えただけでわくわくします。これからも目が離せないと同時に、栽培醸造両面共果敢に挑戦されている新しい試みが成功することを願って止みません
井筒ワイン
律儀で手堅い造りと「無添加ワイン(火入れ有りですがブドウ含め純国内産です)」で知られる井筒ワインさん。最近では、国産ワインコンクール等でも入賞を果たし、実力面でも評価が高まっています。
今回は見学コースも組まれており、試飲も有料ではNAC(長野県原産地呼称認定品)シリーズプラス特別樽出しメルロと大判振舞い。銘柄はNACカベルネ・フラン、NACシャルドネ[樽熟]、NACメルロ[樽熟]、NACカベルネ・ソーヴィニョン[樽熟]、NACメルロ[樽熟/スープリーム]、NACカベルネ・ソーヴィニョン[樽熟/スープリーム]、NACナイアガラ[氷搾]7種と自慢の品々を惜しげも無くサービスされてました。(無料でもいろんな銘柄が頂けます。)おまけに樽出しメルロは2,000円支払えばボトリング体験してお持ち帰りが可能とあり、結構人が溢れてました。まさに大賑わいです。
さて、見学では醸造設備と自社畑(棚式と垣根式)を一通り見て回る事が出来ました。「ウチは狭くて見づらいですが、、、。」と案内の方が謙遜されてましたが、きちんとレイアウトされておりしかも設備はシャトー酒折さんや北海道ワインさんに優るとも劣らないぐらい綺麗そのもの。衛生管理が本当に行き届いてます(使用済みの発酵タンクがピカピカでステンレスの面が磨きに磨かれてるのが一目瞭然!)。ろ過と瓶詰めの工程は別途ブースが設けられて外気の流入を遮断しており、品質管理に気を使っていることが伺えます。(無添加ものをいち早く手掛けている自負がそうさせるのでしょう)
一方、自社畑は7haを有し、内1.2haは垣根式で残りは棚式です。栽培されているのは、NACシリーズ用が殆どで、別途写真にありますように品種は白ブドウでは主に4品種シャルドネピノ・ブラン、ケルナー、セミヨン)、赤はメルロと「NACで無いけれど個人的に一押し」のドルンフェルダーが植栽されています。垣根では降雨対策で欧州系白ブドウ中心にハウスが施されている所もあり、今回の催しのためにここでもピノ・ブランとシャルドネが実を付けたまま残してあって食することも出来ました。で、実はこのピノ・ブランが本当なら9月中頃収穫(シャルドネと同時期)なのを残しているのですが、これだけ長く樹にぶら下げているにもかかわらず酸が残っていたことには驚きました。案内の方に聴くと、ピノ・ブランは烈果が少なく塩尻の風土に合っているとの事。ケルナーやドルンフェルダー共々、ドイツ系の品種もこの辺りでは適しているとは以前何度かお目にかかっている営業の小田一成氏の言。前例のドルンフェルダーや無料試飲で頂いたピノ・ブランとケルナーが品種特性がしっかり出ていたのに併せ、ブドウそのものからも小田氏の言葉通りであったことを裏付けられ、小生にとってはまさに「収穫」の一時でした。
有料試飲に関しては個人的に特にお勧めの銘柄をセレクトして頂きましたので、下記を参照してください。
○NACカベルネ・フラン(2006)
カベルネ・ソーヴィニョンの片親(もう片方の親はソーヴィニョン・ブラン)でありながら子の影に隠れがちな品種。でも、華やかな黒系イチゴの香味と軽やかな渋みなのでもっと見直されても良い(風味的にドルンフェルダーと並んで日本の赤として相応しいと個人的に思います。)なぁというのが小生のこの品種に対する見解です。で、ありがちなピーマン香(未熟果に由来する3-メトキシピラジンの芳香)が残っていますが、上記の特徴も出ています。ドルンフェルダーよりしっかりしているのが欲しい、でも渋さは程ほどなのが良いという方にはお勧め。
○NACメルロ[樽熟](2005)
○NACカベルネ・ソーヴィニョン[樽熟](2005)
いずれも、2007国産ワインコンクール銀賞受賞ワインで、正統派の奇をてらわない堅実な造りに対し好感度を持てます。後者は今年の9月16日記事にて取り上げさせて貰いました。
メルロがブルーベリー系の薫りとほんのりとした甘さが隠し味程度に残り、樽の香ばしさと風味とが絡まっています。グラスの内壁には涙が出ており程よい濃さであることが伺えます。こちらは今が飲み頃で桔梗ヶ原のメルロの素材を知るには格好のワイン。(樽がキツくないのでうってつけなのです。)
一方、カベルネ・ソーヴィニョンはしっかりとした渋みと酸味が特徴。試飲用に抜栓してから長く時間が経っていたのか青臭さが取れこなれた感じですが、それでもまだ飲み頃まで待って置きたいと思わせるいいワインです。
写真では分かりにくいかもしれませんが、三つ並べると色の違いが一目瞭然。(左から、カベルネ・フラン、メルロ、カベルネ・ソーヴィニョン)濃いルビー色のフラン、濃色ガーネットのメルロ、濃色ガーネットに薄く橙色がかったカベルネと教科書を見ているようで、井筒さんのワインは風味も含めテイスティングの格好の教材でもあり、飲んでいてお役立ち度も満点(笑)です。
小生が思うに、ここ井筒さんは栽培技術の更なる向上が率直に課題かと。今以上更に栽培のレベルが上がればもっともっと良いワインが出来るに間違いありません。頑張って欲しいなぁと本当に思います。
メルシャン勝沼ワイナリー塩尻分室>
桔梗ヶ原メルロではメルシャンも深い関わりがありますが(林農園さんの項で出て来ます。)、ここは貯蔵庫のみで設備は全て勝沼になります。
今回は、特別に貯蔵庫が公開。年月の重みが本当に溢れています。
サントリー塩尻ワイナリー
こちらは普段非公開ですが、ワイナリーフェスタの時は特別に受付での試飲が催されます。登美の詩シリーズだけでなく塩尻ラベルのシリーズも試飲できました。(塩尻シリーズは有料)

塩尻ワイナリー特別醸造 安曇野ソーヴィニヨン・ブラン 2002 通販
中でもユニークだったのが、「特別醸造 安曇野ソーヴィニョン・ブラン(2002)」。滅多に無い日本のソーヴィニョン・ブランがこんなところに出ていたのが驚きでした。シュール・リーならびに樽貯蔵してますが、アシスト程度に施しておるのみで、品種の最大の特徴である柑橘香と爽快感ある果実味が失われずに封じ込められているのには感心しました。
林農園
桔梗ヶ原の歴史とともに歩んできた「五一わいん」こと林農園さん。故浅井昭吾氏(メルシャン)と共にメルロの改植に心血を注いだ創業者故林五一氏(数年前に御年百歳を超え逝去)の名前をブランド名に課したこのワイナリーは、まさにこの桔梗ヶ原の顔的存在です。
あいにく醸造設備の見学時間には間に合いませんでしたが、畑の案内をして頂くことが出来ました。
さて、ここのブドウ畑はさながら見本市の様で、棚式からポット栽培、垣根とありますが、なんと言ってもKidoワイナリーさんの項で記しました「スマート・マイヨルガー方式」の畑が見ものです。
この方式、一見XやH字の棚栽培と見分けが付きませんが、主幹から出る新梢を太陽光線の差す方角と真逆に*1平行して伸ばす仕立て法で、看板にありますようにオーストラリアのブドウ栽培学者、リチャード・スマート氏の発案によるものです。
実際は、主幹の一部も新梢と同じ方向に伸ばし、片側だけに棚を形成してその主幹から約2m程新梢を切り揃えて結果母枝とし、その母枝一枝に付き一房成らせるのです。(模式図も用意しましたのでこちらも参照してください。)
写真1
まずこれがスマート方式のシャルドネ畑の全景です。





写真2
仕立てを横から見るとこのようになります。





写真3
結果母枝が一つの方向に揃えられているのがこれだと良く分かります。葉も重ならずまんべんなく日当たりと風通しが確保され、光合成による実への養分蓄積に一役買っています。結実のさせ方もこの通りで、普通の棚と異なり房にも日光が良く当たるようになり黒ブドウでは着色を促すことに繋がります。
メリットとしては、

  1. 日照量と風通しの確保
  2. 栽培管理作業性の向上
  3. 既存棚資源の活用(ここが最も重要なのです。)

が挙げられます。そして、城戸氏はワイン用ブドウに相応しい凝縮度を得るため、よりコンパクトな樹体とし植栽密度を高めた改良スマート・マイヨルガー法模式図で示した様に取っているのです。
写真4
Kidoさんでのスマート方式では主幹はT字の部分のシンプルな構成になります。あとは新梢を矢印の方向に生やすのみで(一文字短梢に似ているが新梢の向きが片側のみなのが相違点)、来シーズンからが本格的な栽培となります。
この方法、桔梗ヶ原独特のものですが、それもそのはず。地勢を見ると奈良井川によって刻まれた谷筋と日照の方向が同じ南北方向なので、風向きと日照方向と新梢の向きを揃えることが出来るまさに「うってつけ」の方法だと小生は考察してます。
(参考)
塩尻付近のGoogleマップ(衛星写真つき)と、マピオンマップ


大分スマート方式に話を割いてしまいましたが、これ以外にもポット栽培(根の張り具合と土質を路地植えとと異なり人為的にコントロールしやすい)やオーソドックスな垣根も存在し、栽培に関心のある方は一度見ておくことをお勧めします。また、現在のメルロ畑はスマート方式が多いですが、五一翁が植えたメルロ(樹齢約50年)記念のために一本のみ残してあり(こちらは昔のV字仕立て)、歴史も感じさせます。とても参考になる畑見学でした。
以上、5軒訪問しましたが、丸一日でこれだけの内容を拝めるのはそう滅多に無いことです。試飲・見学併せてまとめて出来るイベントは草々無く、他にあるとすれば山梨の勝沼ワイナリーズクラブの「ウイークエンド・蔵めぐり(毎年3月実施)」ぐらいでしょう。新酒を頂いて楽しむことに徹するも良し、ワインの現場をもっと見たいというのも良し。どんな人にも満足感溢れるいいイベントでした。

*1:太陽は南から照らされるが、枝は北向きに伸ばします。