まほろばの郷を一大ワイン産地として進化させた地域に根付く新興ワイナリー〜高畠ワイン訪問

果樹栽培で有名なまほろばの郷、高畠町。そこでは1990年に産まれた新興ワイナリー・高畠ワインさんが街の顔として貢献しています。実は、2002年に登山で山形訪れた後に一度寄ってますが、この時はワインの購入のみ。今回チャンとした見学で5年ぶりに訪問しました。

ポッと出たかのような高畠ワインさんですが、かつては塩尻に居を構えていた太田葡萄酒さんが前身なのです。塩尻では数あるワイナリーが居を構える街であることは先日の「ワインフェスタ」で触れた通りですが、会社の発展を新天地に求める事により心機一転を図った当時、熱心に誘致したのが高畠町でした。出資企業(南九州コカ・コーラボトリング株式会社マルスワインで有名な本坊酒造のグループ企業)も得て山形に移った後は街の名前を社名に果し、以来「地場産業」に徹する方針の下、翌91年に本格ワイン製造へ乗り出す事に成ったのです。
こうしてワイン用ブドウの栽培に取り組み始め、20年近く経った現在ではシャルドネが定着してメイン商品として展開されているだけでなく、付近の上和田地区でピノ・ブラン(こちらは垣根が主体)も栽培しており、こちらも高畠の風土にマッチした品種として前日の日記で触れたようにもう一つの看板品種になってます。
メインのシャルドネは棚式栽培ですが、糖度は平均24度、酸度は7g/Lを優に越えるものがコンスタントに収穫されておりその品質は折り紙付きです。それでも、数値では現れない豊かな風味やブドウの質向上を求め、2年前に行われた契約栽培農家さんとの更新の際には糖度だけではなく色々な要素(下草の管理、一枝当たりの葉数等)も評価に加え多面評価を行う事にしたのです。
勿論、農家さんの間には戸惑いも有りましたが、先行してパイロット試験を行って実績を重ねていた篤農家の方の畑を見学してもらいそこで造られたワインを味わって実感してもらったりするなどのワイナリー側の熱心かつ地道な活動も巧を奏し、新しい契約形態へ無事移行出来た訳です。
こうした、農家とワイナリーが綿密に連携して質を向上させるユニークな試みはこれだけにとどまらず、温度が低い夜間に収穫を行う「ナイトハーベスト」も社員総出で取り組んでおり、収穫時の果実の傷みを減らしたり香味を保つと言った効用も確認され、実際に一級畑でのナイトハーベストシャルドネの2005ミレジムが商品化され発売開始されました。
一方、醸造設備は資本力を生かしイタリアより輸入された瓶詰めの一連の機械のラインが整備され、見学者がガラス越しにその様子を眺めることが出来ます。醸造用タンクも殆どが密閉式のガス置換も出来る温度調整可能なタイプで、瓶詰めのラインの有るメインの建屋と、裏側の建屋計二ヶ所にざっと見て40基設置されています。これらの設備を見るのはとても壮観で、中には直径と高さの比が一対一とした平べったい円筒の特注タンクも存在しています。(左写真参照。右側の2基がそのタンクです。)これは、醸造責任者の畑貴嘉氏が赤ワインの醸造で破砕後醸し中のタンクでより広い面積で果帽が液面と接触させる事を目的としてオーダーしたもので、設置面積を広く採らないと行けないものの結果として果帽の厚さが薄くなる事からピジャージュ(櫂入れ)もしやすくなるといった利点が有り、香味や旨味成分を無理なく抽出出来る(仕込み中のワインそのものだけでなく作業者に掛かる余計な負担を軽減させた)ように成ったとの事です。
こうした栽培・醸造の様々な取り組みが現在シャルドネピノ・ブランを中心とした主力商品の底上げに大きく寄与していますが、残されているのが赤ワインへの取り組みで、特にカベルネ・ソーヴィニョンとメルロは香味の点では課題があると謙虚に受け止めてます。実際、試験的な位置づけでカリフォルニアAVA指定地区産のカベルネを用いて敢えてベンチマークとしてリリースした「嘉 2001カベルネ・ソーヴィニョン/アンフィルタード(現在はワイナリー直売分のみ)」と、100%高畠産の「2003カベルネ・ソーヴィ二ョン」では香味や旨味の格が違う事を認識しており(※)、「外国産のブドウのような質が赤ワイン用のブドウでも出す事が出来た時、それが本当の高畠産のワインとして胸を張って出す事が出来る。」と云う考えの下、更なる研鑽を図っています。
(※:高畠の土地にフィットした赤ワイン用ブドウの栽培技術向上が成された時に、ミレジムや産地が異なりますがカリフォルニアAVA産での醸造技術をフィードバックした上でより良い赤ワインを出す事が狙いで、あくまでも「カリフォルニアの後追い」を高畠産のブドウに求めている訳では有りません。念のため。ただ、ここからは小生の考えですが、多分に営業的な理由もあって白ワインのアイテム数とのバランスを取るために出された赤ワインだと考えられます。)
さて、見学がひとまず終了し案内して頂いた営業グループ高橋和浩マネージャーの計らいにより先日出たばかりのヴィンテージシリーズを試飲する事が出来ましたので以下にコメントを
○「2005 シャルドネ樽発酵 ナイトハーベスト
前述した夜間収穫の記念すべき最初のリリース作。
芳醇な洋梨の薫りと果実の旨味が出ています。一空き樽に仕込んだ事も有りますが、それでも樽に基づく物で無く上記の薫りと旨味の余韻が柔らくとも長く残るのはそれだけのポテンシャルが有るブドウだからでしょう。
○「2001 シャルドネ樽発酵
こちらは良年とされる2001年のブドウを用いたもので、長年の熟成からか色が綺麗な黄金色へと変化し熟成感が出ています。ほんのりとした甘味も感じ熟成感と相まって味わいに奥行きを与えてます。収穫から6年間の時を経てリリースしてますので、丁度今が飲み頃。熟成を待ってリリースして下さるのは、ついつい早のみしてしまう危険性(苦笑)から開放される有り難い事だと思います。
○「2001 嘉シャルドネ樽熟成
選りすぐりかつこだわりのワインである『嘉』シリーズ。文中にて取り上げた醸造責任者の畑貴嘉氏の名前の一字を冠したワインで、先の2種のシャルドネ種のワインに比べかなりドライな仕上げで樽の風味も相対的に強く感じますが、ブドウのキャラクターとも相まってツンとしていない風味なので、食中酒として出しゃばり過ぎないところがイイと思います。
○「2003カベルネ・ソーヴィ二ョン
程よく有りながらもまろやかな渋味と角が取れつつも酸味が特徴的な高畠のカベルネです。青臭さの無い所がよろしい(ここはきちんと評価されて然るべき)ですが、確かに香味と旨味ではまだまだ改善の余地が有ると言うのが分かりました。
それでも、カベルネ単独仕込みのワインとしては日本でも高いレベルの部類に属します。
資金回収的な面も有って、お土産ワインや外国産のブドウを用いた「まほろばの貴婦人」が販売されているのも事実です。しかし、その陰には連綿と地道に続く地元の人々との歩みも欠かさなかったワイナリーの努力があるのも事実。やがて、高畠産ブドウ100%となる日を夢見て年月を積み重ねて行くワイナリーの姿を垣間見る事が出来た有意義な訪問でした。
(今回の訪問に当たっては、営業グループ高橋和浩マネージャーのご協力を頂きました。この場を借りまして改めて御礼申し上げます。有難うございました。)