「日本のワインの理想郷」を訪ねて〜サントリー登美の丘ワイナリー訪問

本州では髄一の園場面積を誇る登美の丘ワイナリー、今回、小生が申し込んだ「技師長が語る特別ワイナリーツアー」に参加する事となり、訪問と相成りました。

登美の丘ワイナリーは、単独での農場面積では北海道ワインさんの「鶴沼ワイナリー」に次ぐ150ha(東京ドーム約115個分、ちなみにドームは1.3ha=13,000m²)と広大な敷地を有しますが、その歴史は1909年までに遡ります。中央線の建設関係者であった鉄道参議官・小山新助が広大なぶどう園「登美農園」を開墾しますが、ベンチャービジネスの先駆けとも言える余りにも壮大なその試みは程なく行き詰まってしまい、半ば放置状態と化したのです。だが、寿屋(サントリーの前身)の社長、鳥井信治郎がマスカット・ベリーAの生みの親で知られる川上善兵衛と出会った後の1935年に現地へ視察に向い、以来この農場を寿屋の傘下として取得し現在に至るのです。よって、農地法による法人格の農地経営が認められなくなった戦後でもここは既得権から例外とされました。
ワイナリー内部は大きく二つのエリアに建屋が分れており、標高400mの醸造場エリアとその上部にレストランショップが設けられたワインガーデンエリアとにそれぞれ存在します。そして、最上部は標高600mの「見晴らし台園」というカベルネ・ソーヴィニョンを中心とした垣根仕立ての畑が拡がっていて、その見晴らし台からの展望は絶景です。そして、9つの小さな丘がワイナリー内に点在しており、それぞれの地勢に応じ、メルロ、カベルネ・フランシャルドネセミヨン、ソーヴィニョン・ブランリースリング・リオン(サントリーさんが開発した三尺とリースリングの交配種。出典は(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 果樹研究所のWebページ)、甲州、そして日本国内ではここだけと思われるアリゴテ種等が栽培されています。(区分図はこちらを参照)自園である事と大企業故に手広く手掛ける事が可能な強みを存分に生かしており、栽培では恵まれた環境にある事がよく分かります。また、ブドウの搾りかすを肥料化したりする等、周辺環境に配慮した循環型農業を極力取っています。
そして、醸造場エリアでは収穫されたブドウが除梗・破砕するための集荷場から発酵タンク群、整備が進んだ機械による瓶詰めライン、貯蔵庫(樽ならびに瓶熟庫が別々の区画にあつらえた半地下の巨大セラー)と見学出来ましたが、圧倒的な設備群にはただただ圧倒されます。
ちなみに、二つのエリアをつなぐ道路はワイナリー内中心を貫くいわば幹線道路で、そこから畑の隅々へと繋がる道が分れています。この農場が完成時から使われている物を舗装して改修して使用していますが、かつては馬力の無かった石炭車が上がって行くために途中に設けられたスイッチバックがそのまま残されており、往時を偲ばせます。
さて、「技師長が語る特別ワイナリーツアー」では上記に記したワイナリー随所を時間を掛けて回りますので詳しい説明(しかもビデオ付き!)もゆっくり聴く事ができ、ワイン初心者でも充分楽しむ事が出来ますが、一番のお楽しみはテイスティングでしょう。この日は六種のワインが供されました。以下にざっと小生なりの見識も加えて頂いた順に記したいと思います。
登美の丘 白 (2005)
シャルドネ種によるベーシックラインのワインで若々しい感じの透明感溢れる淡黄色のワイン。果実味があり柑橘系の香りが沸き立ちます。爽やかな酸味でほのかに甘味も感じました。
登美 白 (2004)
こちらは、シャルドネ種でもフラッグシップラインになり、熟成感があり黄金色になってます。じっくり小樽で発酵と熟成をしていますが、良年であったことや樽発酵である事も手伝い樽香には負けていません。洋梨系とフローラル系の薫りに加え旨味がたっぷりと詰まっており、十二分に余韻も感じさせ風格が備わってます。
登美の丘 赤 (2005)
赤におけるベーシックラインのワインで、カベルネ・ソーヴィニョンを軸にメルロ、カベルネ・フラン、そしてプティ・ヴェルドーとをアッサンブラージュした「ボルドーブレンド」のワインです。透明感の有る濃いルビー色で、少々メトキシピラジンによる青臭さが残っており渋さもまだ強く感じますが、酸が端正な赤ワインです。黒スグリの香りもほのかに感じられます、もう一年、あるいはデキャンタする事で美味しく頂けるでしょう。
登美 赤 (2003)
カベルネ・ソーヴィニョンを軸にメルロ、カベルネ・フランアッサンブラージュした「ボルドーブレンド」のフラッグシップラインがこちら。熟成が進み、渋さと酸・旨味のバランスがよく取れ飲み頃になっています。少し紫がかった濃いルビー色の色彩で、ブラックベリー系やプルーン系の薫りとしなやかかつ複雑な味わいが高級感を感じさせます。
○特別瓶熟品・シャルドネ (1992・非売品)
琥珀色となった10年越えの年月を経たこのワインは、しっかりした芯のある酒躯でありながらもドライな中にも円やかさのある味わいが際立った長命なワインです。はちみつの様な香りの奥には熟成した果実香が漂い、しっとりさと果実味の調和に驚かされます。じっくりと頂きたいですね。
○紫玉台園 (1999・ワイナリーのみでの直売品)
メルロ100%の畑名入りワインで特別醸造品です。やや褐色がかったガーネット色ですが色褪せておらず透明感も備わってます。最初は閉じていますが胡椒と深いココアときのこの薫りが複雑に絡んで出てきます。しなやかなドライレーズンの様な風味と円やかな渋味が樽の香味とも溶け合い非常になめらかな仕上がりになっています。
通常のツアーでは見学出来ない貴重な畑ならびに設備の案内や、珍しいワインのテイスティング等と色々な嗜好が凝らされた「特別ワイナリーツアー」ではサントリーさんの登美の丘における長年の真剣な取り組みを色々と垣間見る事が出来ました。専用のパンフレットに加え、案内役の醸造技師長である庄内文雄氏やワイナリースタッフの方による真摯かつ明瞭簡潔な説明のおかげでツアー客の皆様はとても満足しておられました。募集開始ですぐ定員一杯になる人気企画である事が納得できます。収穫・醸造のクライマックスを迎える9月から11月のみの限定企画ですが、機会がありましたら是非とも申し込みされる事をお薦めします。
醸造技師長の庄内文雄氏やワイナリースタッフの方にはこの場を借りて改めて御礼申し上げます。案内ご苦労様&色々と有難うございました。)