堅実さと独自性のバランスを「ええ塩梅」に取っている総合酒造メーカー〜本坊酒造「マルスワイン・山梨ワイナリー」訪問

以前より催されている勝沼ぶどう郷YHワイン会(2006年5月27日記事、および2007年5月26日記事参照。)には、かねてより登場し何気に注目(特に、「ペティアン・ド・マルス」は驚きました!)していた本坊酒造さんは、焼酎好きな人では名の知らない人はいない鹿児島の「本坊グループ」の中核企業として様々な酒類を生産しています。その本坊さんが、1960年に山梨に進出してワイン生産拠点としたのが、今の「マルスワイナリー」の始まりです。(会社沿革のコーナー参照)

本格ワインに力を入れ始めたのは、2000年にかの有名な「穂坂日之城農場」(「リカーショップながさわ」さんのWebサイトより。農場は韮崎インターの近く)を設立してからと日が浅いのですが、現在では国産ワインコンクールで受賞するワインも増え、着実に実力を蓄えています。
しかし、本坊さんのユニークな点は、上記の「ペティアン・ド・マルス」はじめ、焼酎の技術を採り入れた「甕仕込み」シリーズ(「シャトーマルス シリーズ」のエンシェント・ファーメンテーション シリーズの項参照。2005ミレジムより「甕仕込み」と名称変更。)、最近開催された「やまなしワインフォーラム」(2008年1月31日記事参照。)でも取り上げられたヴィオニエの極甘口ワインを初リリースしたことに代表されるような独自性を常に追求している所であり、しかも単純な発想ではなく試行錯誤の末にかの独自性を編み出した事です。
実際、日之城農場では高貴品種のカベルネ・ソーヴィニョンやメルロ、シャルドネだけで無く、それ以外の品種を植えていますが、温暖化の影響に関しても昨今ありがちなセンセーショナルな受け止め方では無く冷静に捉えており、日之城の個々の土地区画に相応しい品種を取捨選択した結果ヴィオニエに可能性を見いだしたと言う事です。
このことは、甲州種で甲府盆地内の各地域別に仕込みを変え、上記「シャトーマルス シリーズ」の所で記されているように別々にリリースしていることからも分かるように、様々な可能性から多元的アプローチを繰り返している姿勢にも表れています。資本力だけでは無い、経営のよい意味でのしたたかさが会社の特徴としてエエ方向に回っていると感じます。
(余談ですが、高畠ワインさんは以前の訪問記で書きましたように系列会社ですが、カラーは違えどもやっている事は筋が通っており、そこは小生個人的に評価しています。)
今回の訪問では、企画主任担当の松島真仁氏によるレクチャーとご協力の元で実現出来ましたが、テイスティングについても小生注目の銘柄二点を頂くことが出来ました。以下に私なりの感想を記したいと思います。
○「シャトーマルス キュベ・プレステージ 穂坂日之城ヴィオニエ(2005)」
(特約店「日之城倶楽部」での扱いのみ。右写真参照。)
濃縮した果汁を発酵後約1年の樽熟後に瓶詰めした、極甘口の上質デザートワイン
琥珀色の輝かしい色彩で、ヴィオニエ独特の華やかなアプリコットの薫りと樽香が相まって物凄くうっとりとさせられます。濃厚な甘味ですが後口はいたって上品。造り込みが上手いと正直思いました。(Valentineのプレゼントに相応しいと思います。笑)
ちなみに、私個人はヴィオニエが好きで、記憶の限りでは山形のタケダワイナリーさんと長野のオブセワイナリーさん(共に訪問してます)が国内では他にリリースしているのみです。この華やかな薫りの品種は結構日本人受けするのではというのが持論ですが、奇しくも本坊さんサイドも似たような考えの様でした。
○「シャトーマルス 甕仕込 マスカット・ベリーA(2005)」
甕の効用(器の微細な孔に含まれる空気と触れるというのが触れ込みらしいです。)により温かみと柔らかさの有る味わいです。
ぱっと見は従来のベリーAのワイン独特の甘く柔らかい薫りですが、どうもボージョレ・ヌーボーの様なマセラシオン・カルボニック(MC)法独特のチャーミングな感じがします。私見ですが、甕でじっくりと仕込んでいるため、結果としてMC法と同様の造りになりそうなったのではと推察してます。でも、味わいは柔らかくとも骨格の芯はしっかりしているので、ワイン初心者から飲み慣れた人にも納得出来る品物に仕上がっています。
上記コメントからも分かるように、ワインそのものがしっかりした造り込みである事が如実に分かる本坊さんは侮れない存在です。次回は醸造ならびに栽培担当の方とも突っ込んだお話をしたいと思います。企画主任担当の松島様には改めてこの場を借りまして御礼申し上げます。