雪をも溶かす熱気がやって来た!〜「北を拓く道産ワインの夕べ」開催

新宿の東京ヒルトンへ、仕事を終えその足で駆けつけた小生が参加した東京初開催のこのイベント。道産ワイン懇談会と北海道の主催で開催されたのですが、非常に沢山の方が詰めかけており、注目度の高い事がよく分かりました。何しろ首都圏からですと、産地へ直接伺う機会が少なくなる北海道ですから尚更です。それに加えて、この日は本土のワイナリーや関係者諸氏、そして小生が左側にリンクを挙げてます日本ワインを愛し紹介しているサイトの管理人さん何人かに会場でお会いする事が出来ました。(世間は狭いです。笑)
ホスピタリティーもしっかりしており、とても気持ちよく過ごせたと共に収穫の大きいイベントでした!
では、実際に廻りましたブース(自分でも2時間で良くこれだけ回れたと思います。苦笑)の順に振り返りたいと思います。
月浦ワイン
まずは、日本ワインで数少ないドルンフェルダーのワインをリリースされている月浦ワインさん(洞爺湖畔)から廻る事に。近年、原産のドイツ(ヘルフェンシュタイナーとヘロルドレーベとの交配種です。)では愛好される品種で、まろやかな渋さに穏やかな酸といったキャラクターが日本人受けすると思う小生が注目する品種です。他は塩尻井筒ワインさん(2007年10月28日訪問)が手掛けています。
ノーマルの2006年ミレジム(=ヴィンテージ)と樽熟成の2004年ミレジムを頂きましたが、品種の特徴とブラックチェリーの薫りが良く出ているノーマル物に樽熟成品ではマイルドチョコの風味が加わりしかもブドウのキャラとうまく溶け合っています。また、侮れないのが、「ミュラー・トゥルガウ(2005)」。キレのある酸味が特徴の北海道を代表するこの品種を月浦さんなりの解釈で仕立てており、青リンゴのまろやかな薫りに果実味と爽やかな炭酸ガスの風味が品位を高めてます。
ワインリストを見て頂いて分かるように商品構成を絞り、幾分付加価値を高めてという戦略と小生は考えています。(クラスとしては樽熟成のドルンがフラッグシップで、他は例えて言うと、ボルドーでは「セカンド」物。日本ですと、「レ・フレールタケダさん)」「三之蔵(本坊酒造さん)」と言ったフラッグシップの次に位置する製品群と言った所でしょう。)かようにコンセプトを絞り込むというのは、松原農園さんや四恩醸造さんが普段の食卓にさりげなく溶け込むテーブルワインを推し進めるのとは違う難しさがあるでしょうが、私が想うにこのコンセプトを維持したままでさらに造り込みに磨きをかけ、この価格で完成度を上げて行って欲しいです。
山崎ワイナリー
北信のたかやしろさん(2006年3月25日訪問)と同様、農家さんの山崎家が一から立ち上げたワイナリーで、過去にツバイゲルトレーベを(何故か塩尻と近所のお酒屋さんで)頂き「おおこれは!」と感心したのが記憶に残っていて楽しみにしていましたが、今回はなんと高貴品種のシャルドネ(2006)とピノ・ノワール(2005)を出展されていました。
クリアですが、後味の良い奇麗な酸味と程良い果実の風味が印象に残ったシャルドネには驚きました。これは、三笠のキャラクターが出ているのではという雰囲気にさせられる出色の出来です。そして、日本でも最近果敢に挑戦されるところが増えているピノは、チャーミングなチェリー香に柔和なタンニンで、外国のそれとは違い背伸びしない感じに好感が持てます。少し大ぶりのグラスに入れて時間が経過するとさらに薫りが開き優しい所がより感じられました。旭洋酒さん(2007年3月11日記事も参照)やオブセさん(2007年6月7日記事も参照)のは完成度が高いですが、こちらは北海道ワインさんのピノ(シュペートブルグンダー)と共に今後が楽しみです。
一家の心のこもった逸品二種を貰い、ふと幸せな気分になりましたね。
(追記:2008.3.5)
丹波さんや高畠さん(これらのも実際に頂いてます)のも含め、日本のピノ・ノワールはまだ試行錯誤段階にあるとは言え、大分個性が確立しつつあります。
宝水ワイナリー
岩見沢近郊の新興ワイナリーで、小洒落たエチケットに魅かれましたが、中身はしっかりしております。特に驚いたのが、RICCAレンベルガー(2006)。北海道ワインさんの「鶴沼レンベルガー」が端正かつ品位の有る腰の据わった赤を余す所無く体現しているのに対し、しなやかさで勝負といった所にこだわりが垣間見えます。
また、白のRICCAケルナー(2006)とバッカス(2006)はそれぞれの品種の良さを奇をてらう事なく全面に出しており(前者が樟脳の様な独特の「ケルナー香」が、後者が華やかなモクセイとマスカット香が薫ります。)、素直な中にもじっくりと頂きたい味わいを醸し出してます。
醸造では、先に取り上げた山崎ワイナリーの立ち上げにも尽力した日本のワインメーカーの増子敬公氏がコンサルタントを務めており、短い間ですがお話を伺う事が出来ました。宝水さんのワイン造りで貢献されている事がよく分かりました。
○関連記事
2005年産ワインを初出荷した岩見沢の宝水ワイナリー(「WANDS online」より)
北海道ワイン松原農園2007年8月2日3日訪問)
道産ワインを牽引する存在と言って過言では無い北海道ワイン(おたるワイン)さん。今回は、醸造北海道ワインさんに委託している松原研二氏も会場にお見えになり、再会出来た事が嬉しかったです。また、小樽と鶴沼より、副社長の嶌村公宏氏や今村直氏、醸造統括の古川準三氏はじめオールスターキャストが勢ぞろいです!(代表取締役社長、嶌村彰禧氏も上京されてました。)
今回は、すでに頂いた事のある鶴沼ヴァイスブルグンダー(2004)始め、多くのラインナップの中から厳選された商品を出展されてましたが、最近発売されたばかりの「香り立つ生ワイン」シリーズも出されていました。とても飲みやすく、本当に心地よい香りがしますね。それと、「松原農園 ミュラー・トゥルガウ(2006)」ついに真価を発揮して来ました。豊かなボディー感と薫りのふくらみにハッとさせられる、北海道産ミュラーワインの真骨頂発揮です。
ちなみに、前日頂いた鶴沼トラミーナ(2005)」は、今村氏にお話を伺った所、やはり「期する物」を盛り込んだ自信作だそうです。(驚・「鶴沼」シリーズの今後がどうなるか、楽しみです!)
余市ワイン
ブランドリニューアルが今年の2月1日にされたばかりで、Webページも一新された余市ワインさんが今回のイベントでは輝きを放っていました。
清酒蔵が主体の此方の会社は堅実かつ気品のあるワインに仕上がっており清酒での実力を余す所無く発揮していることがよく分かりました。
まず頂いたのが、「ミュラー・トゥルガウ(やや甘口)」で、素直な中にも芯の通ったフレッシュ・フルーティーさが売りのワインで、赤の「ツヴァイゲルトレーベ」も同様に気品と筋を感じさせる逸品でした。
面白かったのが、「ケルナー シュール・リー」。独特の薫りと優しさと果実味が売りのこの品種に、敢えてシュール・リーを施している冒険には参りました。シュール・リーはややもすると澱由来のアミノ酸が強く出過ぎてブドウのキャラクターを隠してしまいがちですが、これはバランスをとる程度に施してありしかもケルナー香を損ねていないのに好感が持てます。小生、甲州にはノンシュール・リー派ということでシュール・リーに関して厳しく見がちなのですが、こういうのも有りかなと率直に思います。
ミレジム(=ヴィンテージ)表記がされていませんが、今回のはすべて2006年物で今後は明記するとのこと。今後の躍進に期待させられるワイナリーです!
十勝ワイン
北海道ワインさんと並ぶ道産ワインの雄で嚆矢と言える存在の十勝ワイン(池田町ブドウ・ブドウ酒研究所)さんは、昔('90年代後半)会社のスキー旅行で新千歳空港の「ノルディス」というお土産酒屋さんで一本親孝行に、と送っていたりした想い出のあるワインです。
まず頂いたのが、白の「凋寒(セイオロサム・2005)」。モリオ・マスカットとバッカス、ケルナーのアッサンブラージュで従来の十勝さんのイメージ(赤ワイン重視)を覆すエレガンスでマスカットの上品な薫りがする佳作です。
そして、此方は何といっても赤ワインが主役ですが、セイベルの改良品種である清見を用いた「清見(2003)」と、清見と山ブドウの交配種である「山幸(2003)」はまとまりの有るワインとして良い仕上がりでした。特に、後者は昔頂いた時の酸味が強くクセのある印象から一変し、こなれた風味でジビエ風の料理にピッタリの赤になっていました。(小生考えるに、これだけの長命な赤ですから、ボルドーブレンドならぬ十勝ブレンドで赤品種をアッサンブラージュしたワインを出すと面白いなぁと思います。←追記:赤でブレンド品が存在する事が確認出来ました。コメント欄参照。)
また、「ツバイゲルト(2003)」は、同じ道産のツヴァイゲルトレーべでも他には無いフローラル(薔薇系)の薫りが印象に残りました。此方も熟成が進み、今までのツヴァイの印象を有る意味覆い返す佳作でした。
ふらのワイン
以前池袋東武の物産展で、その技術力を垣間見たふらのワインさん。時間押し迫る中で、今回は「ミュラー・トゥルガウ(2007)」と「ツバイゲルトレーベ・2000ヴィンテージ」を頂く事が出来ました。
評判は聴いてましたミュラーのワインですが、これがまた出色の出来。キリッとした酸味と素朴な果実味が上手い具合に調和していて、野に咲く小さな可憐な花の如く何気に存在感を示していました。
そして、上記物産展でも賞味した「ツバイゲルトレーベ」(フレンチオーク1年後、6年瓶熟。)は、当時のコメント

長命でもあり、なおかつこれからも置いておきたくなるような腰の据わった樽熟の赤です。この品種独特のトゥが立った酸味が和らぎ、重みを加える事に成功してます。

を改めて噛みしめる事が出来(かつグラスとの相性が良かった)最後にとても得した気分になりました。

本イベントでは、下記のワイナリーさんも出展されていましたが、時間の都合で廻り切る事が出来ませんでした。(何か、申し訳ないなぁと思います。すみません。)

今回いろんなワイナリーを拝見しまして、感じた事は

  1. ミュラー、ケルナー、ツヴァイ等北海道に適合した品種が、ワイナリー毎に個性ある仕上がりでかつ完成度が高い。
  2. 多くのワイナリーがひしめく様になっているが、個々の持ち味が出ていて切磋琢磨している。

の二点です。経済状況が芳しくない中でも、これだけのヴァイタリティー溢れる皆さんが奮闘している様子を見ると、何だか小生が励まされる様な気がすると同時に、日本のワインが産地毎に(良きライバルとして)息の長い盛り上がり方で浸透して行くのでは?と予感を感じさせる一夜でした。
最後に、会場の道産ワイン関係者ならびにワイナリーの皆様には大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。有り難うございました。
●関連資料
小生所蔵書籍『日本ワインを造る人々 - 北海道のワイン』(2006年9月24日記事参照)
(追記)
北海道新聞さんのWebサイトにも、取り上げられてました!
道産ワインが東京酔わす 試飲会に愛好家500人