白馬に三名の“女将”が参上〜白馬ラ・ネージュ東館『北アルプス春の味覚のフランス料理 avec 日本を代表する女性ヴィニュロンのワインたち』参加記

本日のメインイベントはこちら。滅多に揃う機会が少ない御三方が白馬にお目見えになると聴き、「こりゃ行かねば損!」という訳で行って参りました。
もちろんイベントそのものも楽しみですが、料理とそれに合わせるワイン、何が出てくるかが楽しみです。
さて、今回は三名の“女将”

が登場。日本ワインを早くから関心を持ち、実際にレストランにて扱って来たマネージャーの吉田浩之氏が在籍するラ・ネージュ東館ならではのイベントです。ここ数年は定期的に(年2回のペースで)日本ワイン関係のイベントが開催されており、また常時レストランのリストにも日本ワインを積極的に取り入れています。ちなみに、長野県白馬村は関西からのお客さんも多く、関西出身の小生としては嬉しく思いましたね。(支配人さんも関西出身です。)
今回、メインのコースには
(食前酒)
○キザンワイン白(2006)
○ソレイユ・クラシック白(2007)
(前菜)
○ソレイユ プティ・ポワゼ(2006)
(魚料理)
○キザンセレクション シャルドネ(2005)→ワイナリーでは売り切れ
(肉料理)
○シャトータケダ・赤(2004)→ワイナリーでは売り切れ
が登場。それから、各社ごとにフリーテイスティングでは何と三名の“女将”が直に説明して下さるという凝った志向。これだけのサーヴィスは本当にお得でワイナリーの御三方とラ・ネージュさんに大感謝です。
それでは、頂いたワインを各社毎に振り返りましょう。
以下はこちら(↓)をクリック!!
タケダワイナリー
○シャトータケダ・赤(2004)→ワイナリーでは売り切れ
スティルワインのフラッグシップでこの年はメルロ:カベルネ・ソーヴィニョンが67:33の比率です。(その年の気候により比率が変る。2004はメルロが多い。)
2004ミレジムから典子様のカラーを前面に出すようになり始めた*1過渡期のワインですが、当たりがしなやかでそのキャラクターを確立しつつあることが改めて分かりました。以前頂いた2001ミレジムが先代であるお父様の影響もあり男性的なのですが、こちらはブドウの力を重視した趣きにシフトしていて、スグリやブラックチェリーのような薫りが溢れ出て、コクのある余韻がたっぷりのお砂糖無しなのに自然な甘みと酸味が調和した極上のプラムジャムのような感じの風味で、つくづく包容力に圧倒されるワインです。
(フリーテイスティングのワイン)
ドメイヌ・タケダ《キュベ・ヨシコ》(2003)→ワイナリーでは売り切れ
日本を代表するスパークリングワインといって過言では無い、『本物』のフラッグシップ
ノン・ドサージュ(澱抜き後の「門出のリキュール」無しで、素の味のまま。)でブラン・ド・ブランの手抜き無し本格派です!(しかも、シャンパーニュのミレジム物に習い、二次発酵後から澱抜きまでの熟成期間はちゃんと三年です。)
泡のきめの細かさ、いろんな味の要素のバランス、熟成感全てに置いて文句の付けようがありません。余計な事言わんとその真髄を素直に楽しむべし!
○ドメイヌタケダ・アッサンブラージュ白&赤(共に2005)→ワイナリーでは赤が売り切れ
かつては「蔵王スター・ヴィンテージシリーズ」と銘打った自家農園産ブドウによる中核商品でしたが、商品構成の見直しと共に中味の構成や造りを徹底的に見直したもはや「新製品」といっても過言では無い製品です。
こちらも、今後はミレジムによりブドウの比率が変って来ます。(気候特性に応じて最適の比で「アッサンブラージュ(=英語ではブレンド)」します。)このミレジムでは、白はシャルドネ55%、マスカット・ベーリーA45%(何で白にベーリーAかは昔の小生訪問記を読んで下さい。)で、赤はメルロ50%、カベルネ・ソーヴィニョン10%、マスカット・ベーリーA30%、ブラック・クイーン10%というアッサンブラージュです。(裏書きが丁寧で、商品の内容をしっかりと伝えたいという意図がハッキリしている所も評価すべし。)
前年秋に山形で開催のフェスティバルの記事にて書きましたように値段と質のバランスが取れた秀逸なワインで、白は切れのあるシャルドネにベーリーAをプラスすることでふくよかさを加味し、赤は果実味と渋みを程よくアレンジして演出するといった内容の濃いワインです。日常のワインだけどちょっと背伸びしたのが欲しいという方にピッタリです。
蔵王スターワイン赤(2007)
山形県産100%の普段飲みにピッタリの、日本のデイリーワインではお薦めの一本の一つ。後述する「サン・スフル赤(2007)」が直球勝負のケレン味無しの性格に対し、こちらはほっこりとした感じに仕立てています。囲炉裏の炉辺でちびちびと頂く(←絶対似合います・笑)も良し、今回のように本格フレンチでも良しと変に場を選ばないのがまたよろしいです。
サン・スフル赤(2007)
2008年4月13日の小生記事をご覧あれ。これは、凄い!
アストール《白・極甘口》(2005)
これまでは1999ミレジムでしたが、こちらは最近登場したばかりの最新ヴァージョン。
まだ年が経ってないので若いのですが、デザートワインとしての完成度とラブラスカ種なのにフォクシー・フレーバーさが無いところは1999年物となんら遜色ありません。上品さはこちらの方が上かも? どれもこれも完成度が高いのには感服しました。
機山洋酒工業
キザンワイン白(2006)
土屋幸三・由香里御夫妻のワイン造りを象徴する機山さんを代表する一本。
日常の食卓で飲まれることを目指しながらも、バランスを追求する一方で甲州ワインお約束の樽やシュール・リーに殆ど頼らない(シュール・リーをごく短期間のみ)という非常に細やかな心遣い溢れる「心に染み入る甲州ワイン」の一つです。
一言で言うと冷夏に悩まされた2006年ですが、その丁寧な造りは気候が何であれ「ブレない」。その年のブドウの成り様に誠実に、しかし最大限に甲州本来のアロマと旨みを引き出す御夫妻の志向に対しては本当に頭が下がる他ありません。
キザンセレクション・シャルドネ(2005)→ワイナリーでは売り切れ
2008年4月3日の小生記事をご覧あれ。「日本のシャルドネ三傑」の一つです!
ちなみに、樽っぽくないのはステンタンク発酵・樽熟成と樽発酵・樽熟成のをアッサンブラージュ(由香里様談)しているからです。こちらもきめ細やかな造り。納得です!
(フリーテイスティングのワイン)
キザンスパークリング トラディショナル・ブリュット(N.V.)
甲州スパークリング(しかも、瓶内二次発酵方式で)の代表的存在で、誰しもが唸る一本。ウチの両親がいたくお気に入り(両親は結構泡物、それも日本のが好き。「キュベ・ヨシコ」や「小布施スパークリング・E1」も買ってあげたりしています。)なのですが、お値段もさることながらその奥の深さ(甲州の渋みも隠さず加え、重厚感を加えることに成功しています。)は他の追随を許しません。まさに、甲州泡物の金字塔と言えますね。
○キザンセレクション・シャルドネ(2003)→ワイナリーでは売り切れ
エチケットを一新する前のヴァージョンで、2002ミレジムまではセミヨンがアッサンブラージュされていましたが、これ以来自家農園産シャルドネ100%としています。
2005年物よりも熟成が進み、奥行きの深さ(重厚感よりも味の複雑なテクスチャーが増している)はこちらの方が上。抜栓後も全然へたりが来ないのにはビックリしました。それだけ良いワインである証拠です。(実は、2003年も冷夏の年なのです。でも、悪い年であればある程御夫妻の力量が現れ、凡百のワインとは違うことを見せ付けられます。)
○キザンセレクション・メルロ&カベルネソーヴィニョン(2004)→ワイナリーでは売り切れ
エレガンスで品性溢れたセレクションシリーズのキャラクターはこの赤にも共通しています。非常に端正なのですが、柔らかなブラックベリーとカシスの薫りと味わいに加え、しなやかさの奥に芯を持ち合わせたタンニンがワインの骨格を優れたものにしています。
セレクションの赤ではこの年のが小生お気に入りです。キャラクターの筋が通っていることが機山さんのポリシー。「ブレない硬骨のワイナリー」が小生の謳い文句で硬派なのですが、ワインは本当に単なる「硬い」性格では無くその奥に慈愛が溢れてます。泣けますね、、、。
○キザンファミリーリザーブ(2004)→ワイナリーでは売り切れ
一家に一本の赤でお薦め!と過去にも記していますが、実は昔、ワイナリー来店者のウエルカムワインとして出されていたものを商品化した赤ワインなのです。
ウエルカムワインと言うことで柔和な性格です。しかも、メルロ、ブラック・クイーン、カベルネソーヴィニョン(順に55:35:10の比率)のええトコ取りしたような、それでいて単純にアッサンブラージュしたのではありませんよ、というのが今更ながら痛感します。研鑽の為、オーストラリアをちょくちょく訪問している由香里様が新たに受けた刺激をいかにしてこのワインに転化していくか、非常に楽しみです。
マール・ド・キザン
シンプルなラインナップの機山さんですが、実はブランデーやマールも手掛けていると云う何気に凝り性なところがこのワイナリーさんの凄みといえるでしょう。
このマール、また破格のコストパフォーマンスで、しかも余韻があって度数があるのにストレートで頂いても悪酔いは絶対にしません。(といっても、飲み過ぎには注意!)お酒の強い人(でも節操無い人はアキマセン)は、是非チャレンジして見てください。
旭洋酒
○ソレイユ・クラシック白(2007)
やはり、誰が何と云おうとも、『究極のちゃぷ台ワイン』(リンク先である小生2008年3月1日記事をご覧あれ)です。本当に親しみ込めてかの称号を送りたい。あなたの傍らにさり気に置いておきたいワインですね!
○ソレイユ 甲州プティ・ポワゼ(2006)
あまりにも真っ当かつスタンダードな甲州ワイン、「ソレイユ甲州」の上級ヴァージョンにあたります。
ベースが繊細な絹のような「ソレイユ甲州」で、プラス樽熟成により樽の香味も加わってますが、素地の繊細さを損ねずに上手く深みを出している所は鈴木剛・順子御夫妻の手塩にかけた協働の賜物でしょう。「ちょい樽(=プティ・ポワゼ)」の名前の通り、ちょっとした匙加減で樽のキャラがでしゃばり過ぎになる甲州ワインにて上手く樽を取り入れた数少ない逸品です。
(フリーテイスティングのワイン)
○千野甲州(2004)→ワイナリーでは売り切れ
あまりにも想い出深い、こちらは『究極の甲州ワイン』(こちらもリンク先である小生2008年3月1日記事をご覧あれ)
この甲州ワイン飲まずして、甲州種のコト語るなかれと言っても過言ではありません。「千野甲州」が無ければ、小川孝郎氏の甲州ブドウはホンマに埋もれたまんまになっていたかも? 最大限に敬意払って、渾身の力でこのブドウのポテンシャルを引き出している鈴木御夫妻と小川氏には改めて感謝しなくてはなりません。
○それいゆ メルロ(2005)→ワイナリーでは売り切れ
『原料から純山梨産の数少ないメルロ』(こちらもリンク先である小生2008年3月1日記事をご覧あれ)であるこのワインは素敵な味わいが存分に楽しめます。
しなやかながら腰のあるタンニン、それでいて上品なカカオとダークチェリーの薫りに数々の模様を折り込んだエチケットの如く多層的かつじんわりとした余韻が楽しめる非常に希有な存在のメルロのワインです。(下手なメルロでは、中庸な様でやたらボディーだけで押し込むような単調なモノになりがちです。それが、一切無い!)
○それいゆ ピノ・ノワール(2006)
有る意味、ターニング・ポイントとなった鈴木御夫妻想い出のピノ・ノワールのワインなのです。これは!
実はこのミレジム、ベレーゾンの直前に雹害に見舞われると云う本当に辛い出来事に遭遇したのです。流石に順子さんと小川氏は半ば諦めかけていたのですが、旦那さんの剛氏が不退転の決意で収穫すると宣言、残った房に傘掛けを施しそして無事収穫に漕ぎ着けたという代物なのです。これは、旦那さんの名前の通り「剛」な決心あったからこそ今有り難く頂ける至高の存在なのです。
ついに、千野甲州に劣らぬ「鋼の芯のキャラがピノに備わった」と小生がボトリングサンプルを頂いた時に体に衝撃が走ったのをいまだに憶えています。絶対にこのワインは大事に熟成させます!
○ソレイユ 千野シラー(2006)→ワイナリーでは売り切れ
上記のピノ・ノワールと同時にリリースされた、記念すべき初ミレジム。
それいゆ メルロにほんの少しアッサンブラージュされている千野ヤマヂ産のシラー単独で仕込んだもので、ドライレーズンの様な風味とヴィヴィッドだけど心地よい当たりのタンニンが好印象です。同じシラーのワインでも、ローヌのはやたら獣っぽかったり、オーストラリアのシラーズは濃すぎて墨汁のような感じがすることから、「うぇっ!」という度が過ぎた趣きが先行し、特徴的な黒胡椒のスパイシーさよりもこっちのせいであんまり良い印象をシラーには持っていません。(要するに、苦手な品種なんです。小生には。)
でも、あの「甲斐ノワール」さえ手なづける御夫妻のワイン造りはこのシラーでも発揮され、ちゃんと品種特性を備えながらも艶めかしくも上品な仕立てにしている所が凄いです。ホント、全てのワインにおいて外しが一切無いソレイユさんのワインはこれからもますます進化し続けるでしょう。

以上、沢山のワインをこうして白馬の素敵な宿にて素敵なお客さん(同席の方々と世間話から登山、スキー、ワインといろんな共通の話題に花咲かせることが出来ました!)と共に味わった“三大おかみ”のワイン達はまごうこと無き素晴らしいワイン達でした。これほどまでに、いろんな種類のワインを親切にサーブして下さった吉田浩之氏を始めとするラ・ネージュ東館のスタッフに美味しい料理を提供して下さったシェフの方々、そして“三大おかみ”の皆様には本当に感謝することしきりです。
これほどの会には今後滅多にお目にかかれないと思います。このような機会を提供して下さった白馬ラ・ネージュ東館様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。皆様本当に有り難うございました。

*1:この年のからルモンタージュ(=英語ではポンピング・オーバー)せず、ピジャージュ(櫂入れ)のみ。発酵はステンタンクからホーロータンクにて。また熟成の樽では新樽のみだったのが2004年物から古樽も取り入れてます。小生所蔵データー参照。