ココ・ファーム&ワイナリーの「グロワーズランチ」参加記

この日は久しぶりにココ・ファーム&ワイナリーさんへ訪問。購入したいワインがあったので、折角なら足運んで購入でも、、、と考えていた所に、年4回の「ワイングロワーズランチ」が5月の第4土曜に開催だったので、ならば聴きに行こうと思い、あらかじめアポを取りお邪魔して来ました。2006年8月3日の訪問2007年7月15日に道中お買い物(これを購入)のためお立ち寄りして以来、これで3回目になります。
詳細は、先に書いた2006年8月3日の訪問を参照して頂くとして、今回のトピックスは、原料が日本産へ(在庫分を除き)100%移行しつつあること(サイトに「にほんのぶどう」と銘打っています)と、ワイン醸造で(これも在庫分を除き)現行の全製品が天然酵母による発酵を実施していることです。
栽培担当の曽我貴彦氏と醸造担当の柴田豊一郎氏の名コンビで分かり易い解説の下、進められました。(お二人の掛け合いが、面白かった。笑 案内役本当にご苦労様でした。)小生は皆さんの質疑応答の様子も含めずっと横で見ていましたが、出来る限り化学合成から造られた農薬や肥料に依存せずに栽培を行うことや、醸造天然酵母を用いる点について、メリットだけではなくデメリットもあることも交えながら最終的には人が如何に手を掛けるかが大切である事を丁寧かつ一所懸命に解説される姿を拝見し、いやホント人に分かり易く納得してもらうのが如何に大変かというのをひしひしと感じました。
特に、天然酵母での発酵はなかなかピンと来ない人が多かった、、、。でも、それは自分の家庭で料理を作る時間が減り工業的に生産されるものしか口にしない世の中だと、そうなってしまうのも無理ないかなと。昔小生の実家では糠漬けの糠床があったからわかるのですが、糠床の様に外から菌をくわえなくてもきちんと手を施すことで発酵が始まることを知っていないと、なかなかイメージは湧かないでしょうね。(そういったことを昔は当たり前の知識として伝えられて来たのですが、、、。)
さて、ランチタイムでは、試飲も兼ねて現行の「にほんのぶどう」シリーズを頂きました。(右写真参照)以前紹介した『甲州F.O.S.(2005)』の新ミレジム2006年物を除いてさらっとコメントして振り返りたいと思います。(順番は試飲順。下記リンク先は全てココさんのWebショップのサイトより。PDFファイルです。)
○『足利呱呱和飲(2006)
かつては甲州100%の甘口系でしたが、新しいミレジムでは北海道産のバッカスと山形・上山産のシャルドネ(前者約2割・後者は残り1割)をアッサンブラージュして、飲みやすさと親しみやすさはそのままでより食中に楽しめる様に中口系にシフトしています。食事と合わせ易くなったので飲み方・楽しみ方の幅が拡がってきたのではと小生は感じました。
○『農民ドライ(2006)
『足利呱呱和飲(2006)』と対をなすかのようなこちらは名前の通りシャープでドライ(辛口)な白ワイン。シンプルかつストレートで奇をてらわない中にも、天然酵母由来による豊かな風味が醸し出されています。そこいらの辛口のワインにありがちな、単純すぎて味気ないのとは違います。
原料は、北海道・余市のケルナーが主体で後は、ミュラー・トゥルガウと山形・上山産のシャルドネ。ココさんは自前の畑でのブドウ以外はモティベーションの高い信頼の置ける農家さんとの緊密なタッグによるもので、細心の注意と農家さんに対する敬意を払ってワインへと醸し出しているのです。そういった優れた原料だからこそ、ケルナーとミュラー由来の果実味が良く出ています。シャルドネが絶妙な具合で脇をしっかり締めているのがGoo!
○『農民ロッソ(2005)
山形・上山産のカベルネ・ソーヴィニョンとメルロ、そしてワイナリーの目の前に拡がる自前の畑にて栽培されているノートン*1アッサンブラージュした、こちらも奇をてらわないワインで気兼ねなく頂けます。カベルネ・ソーヴィニョンの黒スグリの薫りのメルロのしなやかなタンニン、そしてノートン由来の上品かつ爽やかな酸味が絶妙に溶け合い、なおかつそれぞれの持ち味が十二分に発揮されているのでとてもお買い得感に優れた美味しい赤ワインです。
○『Climat Mozart モーツァルトびより(2006)
一転今度は落ち着いた趣の腰の据わった赤ワインが登場。こちらは北海道・余市産のツヴァイゲルトレーベをのみを原料に使用しています。過度な樽の成分の抽出を抑え、マロラクティック発酵により円やかな酸味へと施す等、ツヴァイゲルトレーベの良さを生かしつつも丁寧な造りですので、飲んでいて風格と落ち着きを十二分に感じさせます。
北海道の各ワイナリーさんとは、一味も二味も違う仕立てのツヴァイゲルトレーベの赤ワインです。北海道のワイン好きのみならず、いろんな人に頂いて欲しい美味しいワインです。お薦め。
○『のぼっこ(2007)
タケダさんの『サン・スフル赤(2007)』に近いイメージの、「メトード・アンセストラル」による古典的な造りの微発泡赤ワイン(ペティアン)です。
小公子という山ブドウ系のワイルドな風味のブドウをあっさりしたペティアンに仕立てて、気兼ねなく頂けかつブドウの果実味をあるがままに閉じこめたので飲みやすさと滋味が両立してます。これから熱くなるとどうしても泡物に手を出したくなりますが、これはユニークなキャラクターなので、人と違う泡物が欲しい!という方ならハマること請け合いです。(笑)


「にほんのぶどう」シリーズへの移行が進む中、自社畑産ではベストセラーのマスカット・ベーリーAの赤ワイン『第一楽章』や、先にも登場したノートンやフランス南西地方・マディランでの品種タナ(「タンニン」の語源となったブドウ)を用いた『タナ・ノートン』(いずれも現行品は完売)のような「高貴品種のみがワイン用ブドウにあらず」と云う問い掛けから産まれた固定観念に挑戦する意欲作もリリースされているココ・ファームさん。以前の訪問記に書き記したように、しがらみを超え様々な問題に向き合いながらも止むことなく模索を続けている姿は、日本のワイン界が抱える現実の縮図だと小生は考えています。しかし、支えんがために泥臭くとも邁進する姿には、時折垣間見せる「造る喜び」を糧にして生きる園生始め、日々思考を重ねに重ねるブルース氏・曽我氏と柴田氏の「3人のサムライ」の皆さんが「YOMIURI ONLINE」のこの記事にあるようにもたれ合うことことなく自立を目指す精神があるからこそだと思います。
ワインづくりに限らず、奇麗事だけではないのが世の中の常。そこに対し目を逸らさず向き合うことの大切さを痛感し、改めて考えさせられた一日でした。

*1:2006年8月3日の訪問でも記した、ヴィティス・エスティバリス種(Vitis aestivalis)に属するアメリカ系品種。酸味が特徴でヴィニフェラ系と寸分たがわぬ風味を有する。耐病性があり、夏季の多雨でも比較的良好に育つ品種。詳しくは『The Oxford Companion to Wine(Third Edition)』のp.486を参照。ちなみに、名前はヴァージニア・リッチモンドの栽培家、Dr. D.Nortonに由来しているとのこと。