埋もれさせて置くのが勿体無い日本ワイン!〜【特別編】

この日は知人の結婚祝賀パーティーにお誘いを頂きました。天気にも恵まれお二人の門出を祝うかのように太陽の光が燦々と降り注ぐ中、つつがなく進みました。
まずはメインの席で、お披露目された日本のワインを取り上げたいと思います。
○夏の陽(2007・四恩醸造
通称「クレマン・ド・エンザン(醸造元の主、“つよぽん”こと小林剛士氏談)」。初夏の陽気溢れる祝賀パーティーのスタートを飾るに相応しい瓶内二次発酵による本格派スパークリングです。
濃厚なパイナップルのようで程良いボディー感が伴った果実味に、爽快感溢れる酸と決め細やかな泡が華を添えています。敢えて王冠で封をし、威圧感のある重い瓶である通常のスパークリングワインよりも扱いやすい(瓶も然りです。)ので、野外でのパーティー等多彩なシチュエーションで飲めることも魅力です。(さり気にここまで気を遣っているのも有り難い話です。) 造り手の想いと細かい積み重ねが一つの方向へと収束して、よりこのワインを味わい深いキャラクターにしている所にも一票。
(ちなみに、サーベラージュにて飛んで行った栓の飛距離、『ビックリ日本新記録』を達成しました。笑)
○ソレイユ 甲州プティ・ポワゼ(2006・旭洋酒
先日の三大“おかみ”の会にて登場しましたので詳細は省略しますが、パーティーが開催された「愛あるお店」の優れたサーブによって引き出され、垣間見た新たな一面が「リッチな風味に負けない豊かな酸」。
そのリッチな風味が「ちょい樽熟」に基づくモノだけでは無く果実由来であること(冷やして出るという事は、樽によるのでは無く果実味が備わっている証拠です。)、また低音(大体8〜12℃位)で味覚に感じるリンゴ酸の風味を存分に味わえたことから良く分かりました。
やはり、ワインを良く知り尽くした人の手にかかるとこれほどまでに印象が違うのかと小生は驚嘆。『プロは出来て当たり前。』です。参りました。
それから二次会の席にて、お店のご好意により小生が持参したワインを持ち込みで、主役のお二人始め皆さんと一緒に頂くことにしました。
ベンチャーシャルドネ(2004・kidoワイナリー
創設期の頃に実験的に醸造された、ワイナリーオーナーの城戸亜紀人氏曰く『最初で最後』ときっぱり明言された唯一無二のシャルドネワイン。
輝きのある済んだ黄金色であることから、濃密な後口であることが伺われます。樽熟成31ヶ月という半端ではない期間もさることながら、収斂味がかった酸が熟成とともに円やかに変化し、醸し醸造*1由来の果皮に含まれる旨みや独特のほろ苦さと合わさって複雑な構造となり、他に無い性格です。しかし、飲み込む回数を重ねるにつれ、あくまでも熟した収穫期のシャルドネを丸かじりしたときだけに感じることが出来るブドウ本来の味*2が主役でありつつ、ワインでなければ堪能出来ない熟成によるプラスの転化を上手に取り入れたものであることが分かります。単調でありふれた風味では無く、グラスの中での変化も含めてじっくりと飲み込んで行きたいワイン。単に「Venture(冒険)」な精神から造り出されたワインでは無く、意欲的でなおかつ「Innovative」な精神がたっぷりと盛り込まれたワインですので、『味の違いが分かる真にワインを愛する人』にだけ味わって貰いたいです。
(ワイナリーではすでに完売。このBlogでも、今回コッキリの登場になります。)
○松原農園 ミュラー・トゥルガウ(2007・松原農園
あの秀逸なミュラーのワインの新ミレジムがついに手元に届きました。絶好のタイミングで届けられたので、とても嬉しいプレゼントになりました。(松原農園さん、本当に有難うございます!)
出来立てほやほやの桃のコンポートのような上品かつ余韻たっぷりの甘みと果実味に加え、爽やかなシトラスの薫りと白い花のようなブーケも感じられます。そして骨格をささえるのが、伸びやかかつ豊かな酸(ほんの少し・それも絶妙な加減でマロラクティック発酵を施しているので、ミュラー固有の豊富なリンゴ酸プラス乳酸の二重奏を楽しめます。)と、アルコールの度数や濃厚感だけに頼らないしっかりと感じられる果実そのものの厚み。だからこそ筋の通った酒躯であると小生は考えております。
本当は旅疲れを取るために暫くセラー等で寝かせてから頂くのが望ましいのですが、それにもかかわらずワインの風味が崩れていなかったのは、原料の持つポテンシャルが優れた証で、実際に訪問したあの畑の風景が思い出されます。ブドウの造り手である松原氏と、その美点を十二分に知り尽くした北海道ワインさんの緊密なコラボレーションだからこそ成せる業で、実に素敵な出来で、玄人素人問わず誰しもが納得の行くワインです。
幸運にも手に入れられた方に是非感じ取って頂きたいのが、単に優しい口当たりにおもねるワインでは無く、筋肉質かつボディーバランスの優れたアスリートの如き質実剛健さと「お家に帰って今日のひと時を振り返りながらしみじみと頂きたい」(二次会に同席された方の言葉を拝借させて貰いました。)といった鷹揚な包容力を併せ持っている事。時には気兼ね無く、時には五感を研ぎ澄ませてどうかこのワインを味わって見て下さい。
○国産メルロ(2006・カタシモワイナリー
最後は小生の愛する故郷、大阪の「飽くなきチャレンジ精神溢れる」老舗が、自社畑・合名山の中でも選りすぐりの区画にて栽培する『特別なメルロ(2003年植樹のまだ5年の若木。収穫当時は4年目。)』をカタシモブランドでリリースした一樽分のみ生産の限定品です。(ワイナリー直売場、店頭販売のみでの扱い。)
アメリカンオークの新樽にて約9ヶ月熟成後ノンフィルターにて瓶詰し、今年の早春にリリースされたばかりのカタシモワイナリーのフラッグシップで、今回は飲み頃を前に早めではありますが将来如何に化けるかを予想したく、抜栓することにしました。
驚いたのは、非常に深みのある艶やかなガーネットの色彩。色味は数ある日本の赤ワインでも濃厚な部類です。オーク樽のヴァニラやチョコの風味に負けないブラックベリーやダークチェリーの様な芳醇な果実味とローズマリーの雰囲気に近いハーブ香がスーッと湧き上がって来ます。
しかも、酸味も芳醇であることに併せて驚かされました。メルロといえばご存知長野の桔梗ヶ原が有名で、日本では南の部類の産地に入る大阪となると過熱気味で酸味が抜けると思われがちですが、同じ合名山の堅下甲州シャルドネと同様輪郭のハッキリした酸が感じられ、濃厚な風味でありながら野暮ったさや妙なくどさを感じさせません。(品種の違いによる風味の違いはあれども、ワイナリーの醸し出すキャラクターが堅下甲州シャルドネ、メルロと根底に共通しているのも注目。)この酸味が、樽に負けない果実味を演出するのに買っていると考えられます。また、よく熟し十二分に着色して豊富なタンニンの場合、ややもするとメルロのワインでは渋さだけが突出して泥水のような雰囲気になってしまいますが、絶妙な加減の樽熟成でジェントルな雰囲気に落ち着いてます。*3
実際真価を存分に発揮する飲み頃までには少なくともあと2・3年を要し、10年以上の長期熟成にも充分耐えられるワインとなるでしょう。その頃には、ざっくりした荒々しさが取れ樽由来の風味と酸・果実味の調和が進み一点に収束してエレガンスさが備わってくると思います。
コテコテのキャラクターばかりと思われがちな大阪のワインですが、さにあらず。イカラで洒脱な初代社長・作次郎翁(ワイナリーに飾られた写真より)の雰囲気が乗り移ったかのようなワインです。出来ればいつかお試し頂ければと思います。


今回紹介したワイン、いずれも甲乙付け難くしかも各々際立った特徴を有し、ブレ無い個性を持ったワイナリーの造り手さんが手塩に掛けて産み出したありったけの想いを感じられる『作品』達でした。ワインに限らず、優れたお酒を頂く時は正しい知識の下(たとえ酔っ払っていても)感性を鋭敏にすることが大切だということを改めて学びました。そんな造り手の皆さんと「愛あるお店」のオーナー氏始めシェフやお店の皆様にこの場を借りて改めて御礼申し上げます。有難う御座いました。


(追記)
昔取り上げた、パリ・テイスティングのリターンマッチ(リンク先は「YOMIURI ONLINE」より)で英米双方の審査員から評価され1位を獲得した、カリフォルニアワインの「カベルネ・ソーヴィニヨン モンテベロ(1971)」のワインメーカー、Paul Draper率いるRIDGE VINEYARDSのサイトに興味深いコラムが掲載されています。
アメリカ対ヨーロッパ--味覚の違い その2(立花峰夫氏:記述)

「風味はリッチで完熟しているが、濃厚すぎずエレガント」

ワインに求められる味わいに関し、王道かつ正論であることを、「大西洋の両岸で支持され、驚きの『二階級制覇』を果たせた」実績が何よりも物語っています。

*1:発酵初期は破砕して皮と残った果肉をフリーランと共に36時間醸し、その後絞って再度果汁のみで発酵を完了。城戸氏談。

*2:実際小生熟期のシャルドネを口にしたことがあります。緑色の皮をもつ生食用欧州系ブドウと比べ言葉には言い表せない独特の癖があります。

*3:端正な雰囲気なのは、柏原・合名山の土壌にも拠るのだろうと思います。普通メルロは粘土質の土壌が適正と解釈されていますが、このメルロは、花崗岩の基盤の上に風化して出来た非常に細かい砂が混合している土壌に覆われた傾斜地に、敢えて植えられています。こうすることで、重さよりも端正さが表出され、しかも瀬戸内気候に基づく完熟しやすい環境が果実味と色づきの良さを支えているのだと考察しています。もう一つの大阪メルロ『蝶メルロ』とは異なるキャラクターなのは、造り手の醸造での仕立て方は勿論のこと、2007年6月30日記事にて記した岩盤等の違いに起因すると考えられます。