「小さな声」が揺り動かすこともある!

よく拝見する、池田信夫氏のBlogに掲載されていた「中山信弘氏の情熱(2008年5月31日記事)」で取り上げられているインタビューには心を揺り動かされました。
知的財産権研究会100回記念シンポジウム―「著作権法に未来はあるのか」/中山信弘氏インタビュー
(ビジネスロー・ジャーナル、「BLJ Online」より)
中山信弘氏は知的財産法・著作権法に関する学会の第一人者でありますが、今回取り上げたインタビューやシンポジウムだけで無く、過去でも様々な公の場にて権威に臆すること無く斯様に気骨ある提言を理路整然と説かれている数少ない学識経験者として一目置かれる存在です。
注目したいのは以下の発言。

著作権法はこれまで創作者やそれを伝えるメディアなどごく限られた人たちのものでしたが、いまやインターネットを通じて全ての人・企業にとって関わりのある法律となりました。従来は、一般の方々の声は我々学者が代弁しなければいけないと思っていましたが、音楽レコードの還流防止措置に関する議論の頃から、燎原の火のごとく一般ユーザーの声が出てくるようにもなっています。私自身、それ以来、著作権法におけるユーザーである一般の方々の声は極めて重要であるという意識を持っています。一般の方々の声が、インターネットを通じてどんどん出てくるというのは面白いですね。著作権法を取り巻くプレーヤーが昔と大きく異なってきたということは、ルール自体も草野球のローカルルールからメジャーリーグのルールに変えていく必要があるということでしょう。社会の動きと合わせて、そういう目で著作権法を見るのも面白いのではないかと思います。
(上記インタビューサイト、3ページ目より引用)

この言葉に托された想いは、権威に寄り掛かリ胡坐をかくのみの人達に対する警鐘であり、なおかつ著作物や芸術作品の有り難みを享受する立場の消費者が、受け身では無く主体的に行動出来る立場となったことが消費者のみならず発信する側にとってもメリットがあることを示唆しています。そして、

「一般の方々の声が、インターネットを通じてどんどん出てくるというのは面白いですね。」

と語る言葉の裏には、「一般の方々」の声が大きくなった・或いは学者に代弁してもらわなくても語れることが可能になった以上、自身の購買行動や著作物に対する批評等の発言に対して責任を負う事は勿論、取り巻く環境や置かれた状況がどのようなものかをを充分認識しているか?、という「著作物や芸術作品の有り難みを享受する」権利と表裏一体化した義務も同時に背負う事への自覚を促す一言であると感じています。
即ち、主体的に行動出来る立場であるからこそ、秩序を自ら保つ『自律』が求められ、その権利を守るのは決して『お上』ではなく、権利者とそれを享受する消費者の双方に課せられたものだと云えます。しかもこういった行動意識は食糧や農業にも共通の課題で、昨今さまざまな所から伝えられるいろいろな事例からも自明の理です。
ワイン(そして、お酒全般も然り)が人の口に入るものでなおかつ農産物が原料である以上、単なる嗜好品としての存在を超えた「食」の一部として扱うのが本来の姿であり、食糧や農業に関するマクロな問題を避けて通る事は不可能です。
しかも、デリケートな存在でまだ微妙なミクロな問題を多く抱える日本ワインを話題として扱うとなれば、数少なくとも地道に情報を蓄積していくのは勿論の事、加えて正しい理解の下ブレゼンスを高める事を大なり小なり目指すとなると、その情報を慎重な扱いの下でより有用なものとして生かして往くことを情報発信者は念頭に置かなければなりません。
今回の話題では、知的財産・著作権という異なる分野での事例を引き合いに出していますが、「昔建てた温泉旅館に建て増しを重ねたようなもので、迷路のようになっていて、火事が起きたらみんな死ぬ。」・「技術力がないわけではないのに、法律や制度がイノベーションを阻害している。」状況は日本の食糧・農業事情でも同様で、日本のワインも無関係ではありません。こういった『重鎮』の方が発する熱い情熱を無駄にしてはならないし、それに応えるためにも、裾野を拡げるのと同時進行で造る側のみならず売る側・消費する側の意識の向上が無くては成立し得ない側面にさしかかっている事を理解しなくてはならない。これが現実であり、なおかつそうした中でも向上心を持たないと、実時間以上に時計の回りが早い時代では埋没して消え去るのみです。
中山信弘氏の発言から学ぶものは大きいと思います。そして、このような正論を『重鎮』の方が立場を超えて熱く・凛と唱える姿を目の当たりにし、実際に「小さな声」が大きな連鎖となるためにも、「ワインのお楽しみ」なごくごく私的な嗜好へと矮小化してお楽しみをわざわざ狭い所に閉じこめるといった内向きの情報だけに終わるのだけでなく、頻繁には扱えないが国内が抱える様々な問題の縮図たる日本のワインを微力でも良い方向へ昇華して行く手助けが出来ればと改めて想うと同時に、小生自身がその想いを大切に持続して行くよう諭されていると感じる次第であります。
(追記)
上記池田氏Blogのコメント欄にこんな投稿があったので、引用を。

影響力を伴ってこういう事を発言してくれる人が出てきたという事は、そろそろ消費者側も覚悟を持って議論について行かないといけませんね。

まったく、その通りだと思います。