シャルドネ至上主義の光と影(その2)

Winart (ワイナート) 2008年 7月号「多分次回は、山梨以西の産地が取り上げられるでしょう。」、との予想通り『Winart (ワイナート) 2008年 7月号』では「日本におけるシャルドネの適地を探る・後編(山梨、島根、九州編)」というお題で小特集(第2弾)が掲載されました。
前回の『2008年 5月号』と2回に渡り、ブドウやワインの成分・ならびに気象や生育時期といった各種データーを列記し適地探索を試みていましたが、欧州種栽培の歴史が浅くノウハウの蓄積が乏しい日本で適地を確定する事に関して小生はいささか時期尚早と考えています。
実際本文全てを読み込んでみると、著者(鹿取みゆき氏)も流石にはっきりと決めかねている模様で、例えば、
「気候的要素ではブルゴーニュやカリフォルニアのナパに最も近いされる箇所は塩尻で、適地としての可能性がある。」(注:小生による要約)
という意味の文章を記されていたものの、此処が適地であると最終的な結論に至るまでには非常に困難であった模様です。例えば、気候条件面で不利と思われる筈の、宮崎・都濃ワインさんのシャルドネ(アンフィルタードとエステート)が(飲む人の嗜好はともかく)キャラクターを確立して一定の実績を示していることを引き合いに出していることや、元々ニュートラルなキャラクターなワイン用白ブドウであるシャルドネでは醸造家のフィロソフィーの違いに起因するワインの仕上がり方の差異が大きくなる*1ことを伺わせる記述からも、執筆の苦労が偲ばれます。
また、各地の土壌や仕立て方を中心とした栽培技術に関しても触れていましたが、栽培に関しては、土壌管理*2に始まり、施肥・剪定・新梢管理・着房数・収穫時期と多様な因子が絡むだけでなく、ワイン用ブドウの栽培技術がまだ完全に確立かつ普及していない日本では従事する人の技量に左右されることも大きく*3、一概に推し量ることが出来ないのが現状であると云うのが、実際に見聞きして来た小生の率直な感想です。
ただ、前回の(追記)で記したように問題提起という意味でと、限られた紙面でのあれだけの内容を書き記した事に関しては評価しています。
日本酒という先達の存在のお陰で、醸造技術に関する技量が他国に優るとも劣らないものになっていることは事実です。しかし、ワイン用ブドウの栽培技術は発展途上。今後は如何に引き上げて行くか? 日本の農業が様々な問題を抱えるだけに、造る側にとってはそこが喫緊の課題であることを改めて感じさせられた記事でした。

*1:個性の確立しているブドウ(例えば、芳香の強いゲヴェルツ・トラミナーやヴィオニエは香気を生かすという方針で、あるいは爽やかな酸味と薫りのソーヴィニョン・ブランは清涼感のある風味が信条である。)では、そのキャラクターを損ねないことが前提。そうした一定の基軸となる仕上げ方に産地や造り手の個性を反映させて行く。そこが難しくもあり面白い所。

*2:同じ土壌でも管理次第で天と地ほどの差が生じます。ですから、固有の土壌の性質だけが全てではありません。もっとも、田んぼの跡のような湿地に代表されるような大前提から外れた所は論外ですが、、、。

*3:栽培に関する多様な因子の議論は、農業従事者の技量がほぼイーブンであることを前提にしないと語ることが出来ない。