風光明媚な洞爺湖畔にて自社一貫生産のワイン造りに励む〜月浦ワインさん訪問

サミットの喧騒が去り、普段の佇まいに戻った洞爺湖の温泉街。その一角に今年建てられたばかりの月浦ワインさんの直営ショップが建てられています。
少ない人数でワイナリーを切り盛りされているので、普段は必ずしもショップに詰めておられる訳ではありませんが、今回は「道産ワインの夕べ」でもお目にかかったワイナリー代表の岸本雅直氏が丁度店番役としておられましたので、こちらでお話を伺うことにしました。生真面目で率直な語り口の岸本氏、ざっくばらんに語り合うことが出来、小生共々時間を経つのも忘れる程でした。
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さて、月浦さんの設立の詳細な経緯については、過去に小生が2006年9月24日記事で取り上げている山本博氏著の『日本ワインを造る人々 - 北海道のワイン』に譲るとして、道内のバイオ関連有力企業岸本クリニカルラボラトリーグループ洞爺湖に検査センターを開設する際に虻田町(当時・現在は合併で洞爺湖町に。)から特産品開発の相談を受けたことをきっかけに、培った技術をワイン造りに生かせないかと着手したことが始まりです。以来、農業生産法人を立ち上げ、かつては委託醸造であったのを醸造まで全て自前で行うべく2000年に醸造免許取得まで漕ぎ着け、現在に至るまでブドウを全て自社畑(面積はおよそ6ha)にてまかないワインを生産しています。今の所、小生が聴く限りでは日本にて畑から自前で一貫してワインを手掛けているのは本日の月浦ワインさんと29日訪問予定の山崎ワイナリーさん(2002年から)と、大阪の仲村わいん工房さん(2006年4月6日訪問)のみです。世間の雑誌等で良く取り上げられているワイナリーは勿論のこと、全国津々浦々のワイナリーでも中々達成出来ていない悲願の話を月浦さんでは2000年に達成しています。この事は、ワイン専門誌始めどのメディアでもあまり取り上げられてませんが、新規参入からここまで現実にワイナリーとして理想の形態を築きあげたことは特筆すべき事実でしょう。
実際地元道内でもなかなか見かけない代物ですが、それもそのはず。全て自社一貫生産で、やれ天候だとかやれ契約農家さんがとかいった言い訳無用の潔く退路を断っての経営ですから、むやみに販路を拡げず会社自身が目の届く範囲の身の丈をわきまえた規模で、生産量も年間フルボトル換算約1万本と貴重な品物なのです。しかも、「北を拓く道産ワインの夕べ」の記事にて記したように、白はミュラー・トゥルガウ、赤はドルンフェルダーの樽熟成有りと樽熟成無しのシンプルなラインナップです。実際には洞爺湖畔にてワイナリーを開業するに当たり、当時グループ社長の岸本氏の父親・勝保氏がワイン造りを決意してから20年以上の歳月を要しようやく7年前に免許取得に漕ぎ着けたのですが、この土地の風土に適したブドウ品種に絞り込み、しかも日本人好みの味わいを醸し出せる物を選択出来たことは本当に幸いで、他に前例が殆ど無いドルンフェルダー(ヘルフェンシュタイナーとヘロルドレーベとの交配種でドイツ原産。日本で他には井筒ワインさんのみ。)が柱の一つとなっているのが特色です。
その自社畑はショップから離れた湖畔にあり、上記写真にあるように眺望が良く背後に小高い丘のある東向きの斜面に開かれています。(ちなみに、丘の頂上は例のサミット会場となったウィンザーホテル洞爺が建っていて、サミット期間中は警備が厳重で畑に行くのにずいぶん苦労したというこぼれ話も、、、。)


出荷量が少ないことから最近までは道内の主要地域にて限られた小売店での販売となってましたが、顔が見える対面での販売にも力を入れたいことから、今年の6月にワイナリー設立の地である地元・洞爺湖町への還元も出来るようにと湖畔の温泉街に直営ショップをオープン。お客さんが納得して購入して頂けるようにショップでは並設のカフェをこしらえて食事と共に味わう事が出来るようになっています。また、少しでも多くの人に行き渡って欲しいとの配慮から、いずれのワインも375(ハーフサイズ)、500、750ml(フルサイズ)と容量の異なるボトルを揃えていますが、ワインを沢山嗜む習慣が根付いていない日本の事情に即した賢明な判断であると小生は思います。とはいえ、少ない労力を6haの畑にも振り向ける必要があることから、機械による省力化を図るために複数のサイズが扱えるタイプのイタリア製の瓶詰機を免許取得時に輸入したのですが、その機械にて充填可能な小さいサイズの瓶がイタリア製しかなかったことから瓶も全てイタリアから取り寄せているとのことです。(ワイン関連の機械に関しては、日本製の物が殆ど無いのが現状。)
目下の課題は良質のワインをコンスタントに生産出来るかどうかで、それには年月の積み重ねがまだまだ必要であるとのコメント。そういった点から、この二品種でのワイン造りを地道に続けることが何よりも大事であると岸本氏は自覚されています。外部の動きを睨みつつも方針がブレる事が無ければ、このワイナリーは原産地ドイツにおいても注目されている赤ワイン用品種を特色としている事が有利になると小生は考えています。今後の躍進に期待しています。
(代表の岸本雅直様、この度は本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。)
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雪をも溶かす熱気がやって来た!〜「北を拓く道産ワインの夕べ」開催
(小生2008年2月23日記事)
●参考文献
日本ワインを造る人々 - 北海道のワイン』(2006年9月24日記事参照)