生粋の農家が一丸となって取り組むブティック・ワイナリー〜山崎ワイナリーさん訪問

国道12号をひた走り札幌から約50km、三笠市岩見沢より北に位置)郊外の達布山傍の丘の上に小洒落たログハウスが建っています。道の傍らには「YAMAZAKI WINERY」と看板があり、展望台の看板に気を取られこれに気付かなければ知らない間にあっと通りすぎてしまいそうです。ここが今日訪問する、山崎ワイナリーさんの、売店と宿泊施設(ファーム・イン)と醸造場の3棟が建つ丘への入口です。

前々日月浦さん、前日中澤さんと異なり、山崎さんは道内で元から農業を営んでいた一家でかつては麦やトウモロコシ等を耕作してました。いわばたたき上げの農家です。(ご当主の和幸氏で3代目。長男の亮一氏が4代目。)しかし、ワイナリーオーナーの和幸氏が農業研修でニュージーランドに視察に行った際に農業のあり方について触発を受け、ただ農産物を生産するだけでは無く、地域に根ざしなおかつ付加価値の高い農産物を作らなければと考えるようになり、たまたま出逢ったのが新潟のワイナリー、カーブドッチの落希一郎氏。その影響もあり、色々な出来事の故に行き着いたのがワイン造りであったとのことです。本当に、人の生きる道は予測出来ないもので、様々な偶然が重なった結果の末にこうしてワイン造りに携わる事となったのは興味深い事とつくづく思います。そして、2002年以来、月浦さんに続き2例目の自家畑から醸造までの一貫生産にてワインを世に出されています。
それでは訪問記、此方(↓)をクリック!

  • 栽培

一家が所有している農場は約6ha。もともとは麦畑だった土地で、醸造所等の建物等がある丘からは道路のある谷間を挟んで見渡せます。(右写真の鉄塔奥一面がブドウ畑)風が直接当らずしかも吹き抜けやすい南向きの斜面でブドウが完熟しやすい条件となっている事から、後述するように寒冷地にもかかわらずドイツ系以外の品種を栽培可能なことや、ワインのキャラクターの演出に役立ってます。耕作で機械を入れやすくするため、ブドウの樹列間はおよそ2.5mとゆとりを持って植えられており、当日は実際に防除のため薬剤散布を行っていたトラクターが通っていたのを拝見出来ました。(丁度、和幸氏が運転されてました。)畑の管理はとても行き届いていて、丁度機械による草刈り機によって奇麗に刈り込まれています。(草生栽培を採用)

主な品種は、赤ワイン用にピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)、メルロ、ツヴァイゲルトレーベを、白ワイン用にシャルドネ、ケルナー、バッカスの6種です。北海道では数少ないピノ・ノワール、メルロ、シャルドネにも力を入れ、ドイツ系品種とワイン用高貴品種の両軸で攻めている所は道内の他のワイナリーにない特色でしょう。収穫は、9月下旬のバッカスに始まり、ピノ、ツヴァイ、シャルドネ、ケルナー、メルロの順(年によって前後するが大体この順番)で10月下旬まで、家族総出でお手伝いの人の助けも借りながら立て続けに行われて行きます。

ワイナリーの建設にあたっては、日本のワインメーカーで知られている増子敬公氏(現在は同じ道内の宝水ワイナリーさんのコンサルタント役)のアドバイスにより、ポンプによる負荷をかけず重力により果汁を移動させる『グラヴィティー・システム』(カリフォルニアのワイナリーで多く採用されている。)を取り入れた機能的な設計にて建てられています。
ここは搾汁機と除梗・破砕機が置かれている2階です。写真に写っているのは600kgのブドウを一度に絞れるバルーン式の搾汁機で、バックの扉を開けてフォークリフトで上げられてきたブドウの入ったコンテナを収容し、このフロアにて白ワイン用ブドウは搾汁を行い、赤ワイン用ブドウは除梗・破砕します。白ワイン用ブドウは房のまま丁寧に絞るホールバンチプレスで搾汁することで、出来るだけえぐみの少ない果汁を得るよう務めているとのこと。ワイン造りではブドウ収穫後即仕込みに入るため、10月から11月の間は醸造場はさながら戦場となり、慌ただしい毎日になるそうです。
よく見ると、このように床には穴が開いています。搾汁した果汁を流す管が通されたり、除梗・破砕機で分けたブドウの粒がここを通して下に置かれている発酵タンクにそのまま落ちて行きます。

2階のフロアから見た発酵タンクの置かれている1階です。タンクは珍しく四角い形で、移動可能な容量の小さなタイプを揃えてます。写真に写っている上に蓋のある密閉型のが白ワイン用で、赤はシンプルな開放型になっています。少人数で切り盛りしているワイナリーならではの、配置しやすい小回りが利く構造で、左側には密閉型タンクに冷却水を流すための配管が設置されています。

こちらは樽貯蔵庫です。赤ワインとシャルドネのワインが貯蔵されてます。新樽と古樽を取り混ぜて使ってますが、基本的には余り樽香を付けず6〜9ヶ月の貯蔵に留めて果実味重視で仕上げてます。
実際に、メルロとツヴァイゲルトレーベ(いずれも2007年収穫)のを樽から頂きましたが、バレルサンプルでまだ安定していないことを差し引いてもソフトながらも艶やかな果実味に仕上がっており、特にメルロがブルーベリージャムの様な風味とスミレや薔薇のようなブーケであることに感心しました。ワインもしっかりと色が出ています。

  • その他

ワイナリーには売店と、ファーム・インの宿泊施設が併設されています。どちらも土日のみの営業ですが、ファーム・インでは山崎さんのワインと共に地元産の食材を楽しむ事が出来、実際に足を運んで下さった方に対し楽しく頂いて欲しいとの気配りがあふれています。売店からは石狩川の流れる平原が見渡せ、素敵なシチュエーションです。

売店の壁には、小生も拝見したことがあるブルゴーニュ・マランジェのワイナリーさん御夫妻が来日された際のサインが。これにはビックリしました。(笑)
因みに、ボーヌのシモン・ビーズ御夫妻(パトリック氏と千砂氏)も来日時に山崎さんを訪問されたそうです。

<総論>
道内のワイナリーで前例が殆どなかったピノ・ノワールシャルドネを手掛けたことで注目されたワイナリーですが、寒冷地系のブドウであるケルナー(ドイツ産)やツヴァイゲルトレーベ(オーストリア産)のワインも評判が高く、発足当初はコンサルタントの指導を仰ぎつつも栽培・醸造共に経験を重ね、創業から短い期間にもかかわらず地道に評判を上げつつあります。
個人的には、「北を拓く道産ワインの夕べ」にてシャルドネを試飲した時のコメントの通り、洗練されつつも変に化粧っ気の無いスタイルであることに好感を持っています。前述したようにニュージーランド訪問の影響が大きいかもしれません。(NZのワインは分かり易さも備えながらも、過剰な果実味に走らず繊細さも備わっている。)それと、醸造の現場を拝見しお話を伺って分かったのですが、短い期間で大きな結果を出そうと醸造の過程で個性確立に躍起になったりあるいは複雑なテクニックに走ったりするより、焦らずにブドウの長所を引き出すことに邁進する姿勢に努めていることも評価しなくてはならないと思いました。
本州と異なる冷涼な風土でありながらも恵まれた栽培条件が、シャルドネやメルロ、ピノ・ノワールの栽培を可能にし、しかも他に無い持ち味の風味となっていることも有利だと小生は考えてます。こうした点を生かして、素直に奇をてらわないワイン造りを積み重ね品質が更に向上して行けば、既に評判が確立しつつあるケルナーやツヴァイゲルトレーベだけで無く、シャルドネやワイン造りで最も難しいとされるピノ・ノワールの評判も自然と上がって行くでしょう。
家族が一丸となってワイン造りへと転身を図り、それが結果となって表れつつもまだまだ謙虚な姿勢であり続ける山崎家の皆さん。ワイナリーが今後も健やかな成長を続けるよう願ってます。
(案内をして頂きました山崎亮一様、この度は本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。)
(本日の行程)
札幌(札幌国際YH、7時発)→国道12号→ワイナリー訪問(10時から11時半)→国道12号→奈井江(道の駅にて休憩。12時45分から13時05分。)→深川イルムの丘YH(15時着)
走行距離:115km
以上です。
○関連記事
雪をも溶かす熱気がやって来た!〜「北を拓く道産ワインの夕べ」開催
(小生2008年2月23日記事)
●参考文献
日本ワインを造る人々 - 北海道のワイン』(2006年9月24日記事参照)