先達に負けない存在感を示す本坊系列「第三のワイナリー」〜熊本ワイン訪問

熊本市中心部から北に位置する郊外に、地元発の食品関連企業が入居する企業団地・フードパル熊本が造営されてます。ここは、様々な会社の工場やショップが立ち並ぶいわば、「県産の食文化発信のテーマパーク」として運営されており、市民の憩いの場としても開放されています。訪問したこの日は、園内の広場にてフリーマーケットが開催され、多くの人で賑わっていました。
このフードパル内に建っているのが、今回見学する本坊酒造系列で国内3番目のワイナリー・熊本ワインさんです。九州有数の食品関連企業で有名な本坊グループは本坊酒造さんを中核としたグループで、ワイナリーとして山梨にマルスワイナリー(所在地:石和温泉2008年2月10日訪問)、山形に高畠ワイン(所在地:高畠町2007年11月3日訪問)を展開していますが、熊本ワインさんは表題にも書きましたようにグループ内3番目(高畠さんの出資元南九州コカ・コーラボトリング株式会社本坊酒造さんとの共同出資)のワイナリーとして1999年に設立されました。
マルスさん・高畠さんともに地域に根ざした企業として地元産のブドウによるワイン造りを社是としていますが、ここ熊本ワインさんも例外ではありません。熊本は九州の中でも最も農業が盛んで果樹といえばミカンが有名ですが、実はブドウも多く栽培されていて、市中心部を挟む形で北側と南側の郊外にて生産されています。最も多い品種は巨峰の里・田主丸町(福岡・リンク先は「田主丸観光ぶどう協会」のwebページ)が近いことから巨峰で、デラウエア、キャンベル・アーリーの栽培も盛んです。
このように、周辺はラブラスカ系やマスカット・ベーリーAなどの交配種が殆どですが、市北側に位置する菊鹿町(現在は、合併で山鹿市に統合。)ではシャルドネカベルネ・ソーヴィニョンとワイン専用品種が栽培され、近年特にシャルドネのワインで各方面から評価を上げつつあります。
今回の見学では、マルスワイナリーや高畠ワイン(開設当初の立ち上げに参画された)にも従事されていた経歴もあるベテランの製造部長山本格氏の案内にて行われました。それでは、詳細な説明に入ります。(詳細は、以下をクリック!)

  • 栽培

熊本も他の九州内のワイン産地と同様新興の部類に入りますが、ここは前述したように1999年開設と比較的新しいことや地元産の生食用ブドウを中心としたワイン造りを志向していることもあり、周辺の農家さん(契約や農協経由)での原料調達となってます。従って、自社畑は所有していません。(農地法の関係もありますが)
その一方で本格ワイン製造を目指すべくワイン用ブドウ栽培に関しても色々と検討し、熊本ワインさんは候補地を捜していましたが、当時の菊鹿町より新しい名産品を作りたいという構想の下、働き掛けがありました。そして、町とワイナリーの共同で栽培に着手。現在では、シャルドネが2町歩(≒2ha)、カベルネ・ソーヴィニョンが0.6町歩(≒0.6ha)の面積を数え、仕立ては垣根にて、雨の多い九州ゆえにここでも例外に漏れずレインカット方式(もしくはサイド開閉式のハウス)で栽培されています。
ちなみに、旧菊鹿町はブドウ栽培に関してはゼロからのスタート(お米やお茶の生産が農業として営まれていた。)だったのですが、町とワイナリーとの緊密な連携や本坊グループにおける他産地での実績のお陰で県内唯一のワイン用ブドウの生産地の地位を確立しました。ワインに関わる様々な人の熱意と技術的なノウハウの蓄積の両輪が噛みあった結果であると云えるでしょう。

10日訪問した安心院さんと同様に、熊本ワインさんも総合酒類メーカー母体・最近開設という共通点からか設備はかなり充実しています。
見学者に分かりやすく説明できるよう、瓶詰めラインは高畠さんと同様、ガラス越しにその様子を眺めることが出来る見学コースの向こうに設置されています。
他産地と比べ歴史も浅いこともあり、ワイン用に納入されるブドウは生食用の余り物やクズ葡萄といった意識は全くなく、良質なブドウを納入して下さるそうです。ここが歴史の古い産地と違うところで、しがらみやワイナリーと農家との対立がごく少ないことから出来ているのだと思います。従って、フレッシュなワイン造りに力を注ぐことが出来、醸造時の亜硫酸添加を少なくすることにも一役買ってます。因みに、地下の貯蔵庫では9月に収穫されたばかりのシャルドネが樽発酵を終え、マロラクチック発酵(MLF)中で発酵によって発生する二酸化炭素が泡となって「ポコッ」と音を立てており、まさにワインが出来る時の息遣いが聴こえてくるかの様でした。


さて、試飲ですが、今回のは目玉のシャルドネ種のワインを中心に様々な種類のワインを一通り味わうことが出来ました。これらをシリーズ毎に振り返って小生なりの感想も交えて解説して行きます。
シャルドネ系>
今回は菊鹿シャルドネ ナイトハーベスト(2007)はすでにワイナリーショップでは売り切れていました。従って、試飲では頂いてません。参考までに先日開催された国産ワインコンクール公開テイスティング時での感想を記しますのでご承知置きください。
○菊鹿のせせらぎ(2007・ワイナリー限定品)
ステンレスタンクで醸造後、瓶詰めした何の奇のてらいも無いシンプルな造りで、タケダワイナリーさんのピュア・シャルドネに代表される、ノン・バリックタイプのシャルドネワインに該当します。
フレッシュな蜜柑系の薫りがあり、キレと爽やかな酸味がありながらも柔らかめのヴォリューム感が余韻となって口の中に良い感じで残ってきます。南の暖かい気候の下、程良く熟したことがヴォリューム感に繋がっているのだと思います。
レギュラー品を優先して原料を確保するために残念ながら2008年は生産されませんが、ワイナリー売店ではまだ販売されています。お勧めの品です。
菊鹿シャルドネ樽熟成(2005)
一部樽発酵のとアッサンブラージュした上級品で、ナイトハーベストよりはコク・重厚感が前面に出ています。少し樽の風味が強めですが、熟成により新鮮な果実の風味からドライフルーツ風に変わっています。
ワインに合わせるのも、濃厚なクリーム系のソースの物が似合いそうです。こちらは本格派といえるでしょう。
KISS KIKKA シャルドネ(N.V.)
樽熟成品とステンレスタンク品のアッサンブラージュとあって、『菊鹿のせせらぎ』と『樽熟成』の中間的なキャラクターで両方の良いトコ取りをしたような味わいです。スワーリングしますと、百合やハーブ系の薫りがして、これが印象的でした。コストパフォーマンスもさることながら、味も良質なので、日常の食卓から少し背伸びした食事まで合わせられる良いワインです。
菊鹿シャルドネ ナイトハーベスト(2007・参考)
熟したパインの様な味わいと薫りから来る果実の風味と程良い旨味・コクがあって、ワイナリー一番の自信作に相応しい出来です。古樽(一空き)と新樽半々でゆっくりと樽発酵・樽熟成を行い丁寧に造られているだけで無く、ナイトハーベストのお陰で先に挙げた三者とは別格の存在です。
ナイトハーベストの効用は高畠さん訪問の時にも記しましたが、生理活性の低い時に収穫することでブドウのアロマ・風味を損なわないことに有ります。お値段も低く抑えられている(2,000円代ギリギリで)ことから、かなりお買い得でしょう。
カベルネ・ソーヴィニョン系>
菊鹿カベルネ樽熟成(2006)
KISS KIKKA カベルネ(N.V.)
共に同じ菊鹿のカベルネ・ソーヴィニョンを原料とした赤ワインで、前者は小樽貯蔵品・後者は樽とタンク醸造アッサンブラージュ品です。
樽とブドウの渋味が調和していて厚みのある風味の前者に対し、滑らかで柔らかめの口当たりの後者と性格の違いが両方比べて頂くとよく分かります。特に、『KISS KIKKA カベルネ』は同じシリーズのシャルドネと同様にコストパフォーマンスを考えると良質なワインです。
<その他(交配種・ラブラスカ系)>
熊本ワイン マスカット・ベーリーA(N.V.)
マスカット・ベーリーAのタンク醸造によるレギュラークラスの赤ワイン。少し甘いキャンディー香が漂いますが、腰のある程よいタンニンと色づきがあることから九州のベーリーAはワイン用として相応しい原料ではないかと感じました。タンク醸造の特にテクニックも施してない銘柄なので、飲むと原料ブドウの性格が大分見えてきます。これは良さげな雰囲気です。
熊本 マスカット・ベーリーA 樽熟成(2001)
あいにく今回試飲したものは開栓してブショネであることが判明。ちょっと残念でしたが長期熟成により円やかなタンニンに仕上がっていました。先のN.V.物と併せて頂いて思うのですが、ベーリーAは素地を感じさせるものがあるので、栽培の段階から本腰入れて造り込みを行えば良い物が出来るのではと考えています。
巨峰のしずく(N.V.)
紅氷華(N.V.)
いずれも氷果仕込みで搾汁した甘口タイプのワインで、前者が多く生産されている巨峰を用いた白、後者がマスカット・ベーリーAを用いたロゼのワインです。
共に、べた甘ではなく穏やかな中にも果実の風味が生きている上質の極甘口ワインなので、デザート向けになります。

  • 総論

評判の良いシャルドネはワイン愛好家を中心に引き合いが多く、また多くの観光客が甘口をメインに購入することから堅実に経営を成り立たせてますが、いかんせん九州は焼酎王国であることから、地元ではどうしてもそちらに目が行き、県内での消費がまだまだであるいう課題が残されています。(これは、在九州のワイナリー全てにいえることですが、、、。)
そんな中、先に開設された系列内の二つのワイナリーでの経験を踏まえ、地元生産者へのフォローも欠かさず行っている事が幸いしワインへの理解が徐々には浸透していますが、生産から販売まで今後どのようなポリシーで進めるかが興味深いところです。
手堅いマルスさんや高畠さん同様の堅実な歩み(ガチガチのお堅い企業ということではありません。そこを誤解無きようお願いします。)であることから欧州系のワイン用ブドウ増産に対しては慎重な姿勢ですが、これだけの技術力(企業体力)も持っていてなお且つモノが評価されていることからシャルドネのワインだけで埋もれさせておくのは勿体無い気がします。個人的には、農家さんの協力を仰ぎながら純欧州系よりも栽培が容易なマスカット・ベーリーAで本格的なワインを造り出せばもう一つ脱皮できるのはないかと密かな期待を寄せています。(これは、10日訪問した安心院さんの記事でも触れたように、九州のベーリーAはやり方次第でしっかりしたワインがこしらえる素質を感じるからです。)まもなく開設以来10年を迎える熊本ワインさん、この節目をキッカケに何か一歩踏み出して欲しいと願わずにいられません。
今回の訪問企画は、お忙しい中専務取締役・製造部長山本格氏のご協力により実現しました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
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(『先駆者』のサイト、「自転車で行く 訪問・日本のワイナリー」より)