白馬ラ・ネージュ東館『COCO FARM FAMILY with 晩秋のフランス料理』参加記

さて、安曇野を自転車で回った後は白馬村へと移動。4月19日に来訪しましたラ・ネージュ東館にて、ココ・ファーム&ワイナリーのブルース・ガットラブ氏(醸造責任者)と曽我貴彦氏(ヴィンヤードディレクター)、そして今年の夏に訪問しました“Nakazawa Vineyard(中澤農園)”さんの中澤一行氏を招いてのイベントが開催されたので、参加してきました。何しろ、北海道から中澤さんを招き、なおかつ多忙なブルースさんと曽我さんとが一緒になって勢揃いする貴重な会です。この機会を逃す訳にはいきません。
ココ・ファーム&ワイナリーさん・ならびにNakazawa Vineyardさんの詳しい説明は過去に記した下記記事に譲るとして、今回は、頂いたワインに関するお話を中心に書き記して行きたいと思います。
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○『のぼっこ(2008)』
食前酒として出されたのが、今年の新酒で、「小公子*1」という山ブドウ系の品種を用いた古典的製法による微発泡赤ワイン(ペティアン)。ブルース氏曰く「余計なことを考えずに気軽に飲んで下さい。」との言葉通り、出来たてホヤホヤのフレッシュ&フルーティーな口当たりで、山ブドウ系独特の癖のある風味(強い酸味と独特の渋み)を感じさせないところがよろしいです。(後にひく酸味がちょうど良い按配になっていて、食前の雰囲気を高揚させるのに合っています。)
先日頂いたタケダワイナリーさんの『サンスフル・白(2008)』や、四恩醸造さんの『夏の陽(2007)』と同様、コルク栓では無く王冠で封印している所も気兼ねなく頂けるのに一役買っています。
「手軽なワインでも高価なワインでも、あらゆるワインはお客様に喜びを与えなくてはなりません。」と配布されたデーターシートに書かれている通り、中味はしっかりした優れもの。「こういうワインがあって、こういう楽しみ方もできるんだなぁ。」という懐の広いタイプなのでいろいろな食事やシチュエーションに合わせて見るのもいいかもしれません。
○『栗沢ブラン(2007)
日本の秀逸な白ワインというと、シャルドネ甲州一辺倒だったのがこれまでの傾向でしたが、この『栗沢ブラン』は上記以外の品種を用いたもので秀逸な部類に入る数少ないワイン。(本当にそう云っても過言ではない。)
中澤氏御夫妻の畑への訪問(用いている品種等の詳細はこちら訪問記に記載)にて記したように、アッサンブラージュによる演出で単一品種では味わえないハーモニーを奏でているところがこのワインの魅力ですが、とにかく今回サーブしてくださった温度が「計った」かのように絶妙の温度(中澤一行氏が「こんなにドンピシャで」と驚きつつも喜んでおられました。*2)だったゆえ、金木犀キンモクセイ)の様な上品かつ芳醇な薫りが立ち上がり・味の膨らみも申し分ないものでした。ホタテを始めとする魚介類と柚子と蜂蜜を絡めたソースとの相性もあって更に食が進みます。(柚子がシルヴァーナの酸・蜂蜜がゲヴェルツやグラウブルグンダーのコクと合うのです。)
今回改めて頂き、最初のミレジムである2006年物と比べ完成度が上がっていることがよく分かりました。どのような進化を遂げていくか、今後の成長をじっくりと見守って行きたい要注目の存在です。
○『風のルージュ(2006)
曽我貴彦氏が語るに、「北海道産の赤ワイン用品種の可能性を感じた」ターニングポイントとなったワイン。以前頂いた『モーツァルトびより(赤・2006)』の姉妹品(リリースは『風のルージュ』が先)といえるワインで、余市で栽培されたツヴァイゲルトレーベを丁寧に醸し出しました。コストパフォーマンスを追求しつつ(定価2,500円です。)、きめ細やかな造りにより円熟味を感じさせ、それでいて程よくスパイシー。
データーシートを拝見すると、完熟したツヴァイゲルトレーベを用いなおかつマロラクティック発酵を施しているために、固有の酸味を生かしつつもマイルドに仕上げ、なお且つ余韻のある味わいになっています。また、16ヶ月と長期間にも関わらず樽の効き具合も程よい加減です。それだけに、樽に負けない選りすぐりのブドウであったことが伺えます。
油の乗ったヤガラのポアレにトリュフを効かせた料理でしたが、ツヴァイゲルトレーベ独特の酸味とスパイシーさが相まって後味を引き立ててくれます。
○『タナ・ノートン(2006)
比較的高温多湿な気候の日本(特にワイナリーのある栃木・足利にて)で本格的な重く芯のある風味の赤ワインを造り出すのは困難というのがこれまでの通説でしたが、そのような挑戦的な問いかけに対してブルース氏を始めとする面々が率いるココファーム&ワイナリーさんが示した解答がこちらのワイン。
気候風土を念入りに調べ上げ、似た領域であるフランス・南西地方の濃い赤系ワイン用品種であるタナ(近隣のスペイン・バスク地方原産で、マディラン地区で古くから栽培されているタンニンの語源となった品種。)とヴィニフェラ系と寸分たがわぬ風味を有するヴィティス・エスティバリス種(Vitis aestivalis)に属するアメリカ系品種のノートンとをアッサンブラージュしています。
タナ単独ではへヴィーなだけの荒々しく渋いだけの単調な面持ちになったでしょうが、ノートンが合わさっていることにより*3カシスのような品位のある芳香を漂わせブラックベリー系の落ち着いた風味が堪能できます。そして、相乗効果によって余韻や渋味がジェントルな雰囲気になっています。しっかりとした骨格なのでジビエ系の肉料理との相性は申し分なし。カベルネやメルロといった高貴品種についつい目が行きがちですが、歴史のある品種でなおかつ気候風土に適したものをセレクトすることで頑健なコクのある赤ワインを造り出すことも出来るという見本です。


メインのコースにて頂いたワインは以上ですが、フリーテイスティングの時間も設けられました。今回出されたアイテムは

の5点ですが、本記事では特記すべきものとして『山のシャルドネ(2005)』と『第一楽章(2000)』をピックアップします。
○『山のシャルドネ(2005)
良質のシャルドネが収穫される山形県ではタケダワイナリーさん・天童ワインさん・高畠ワイナリーさんといった有力処*4がいずれも優れたワインを産み出していますが、山形・上山にてブドウを栽培している南果連協同組合さんのシャルドネを元に丹念に造りだしたリッチでありながらも複雑味も兼ね備えた白のトップキュベです。
芳醇な果実の風味にエキス分をたっぷりと含んだクリーミーな味わい、薫り立つシトラス系のアロマと高級感溢れる優雅なスタイルのワインです。エッジが尖っているいきり立ったものではなく、品位を感じさせる所がワインの表情を豊かなものにしています。データーシートにあるように木樽とステンレスタンクに分けて熟成したものをアッサンブラージュして絶妙な具合に仕立て上げていることが一役買っているのかもしれません。
○第一楽章(2000)
ワイナリーを訪れて目を見張るのが、山を切り開いて開墾した急斜面のブドウ畑。こころみ学園の園生達がスタッフの皆さんと共にその斜面の最上段にて長年世話をして現在も大切に栽培されているマスカット・ベーリーAを主体に樽貯蔵で熟成させた、もう一つのトップキュベです。(白のトップが前述の『山のシャルドネ』ならば、赤のトップがこちら。)
8年の間、じっくりと熟成を経ていただいたワインは濃密なガーネット色でしかも生き生きとした果実の味わいをしっかりと保っていました。それでいて、熟成によって角が取れ、まったりとしたコクのある滑らかな渋みと、紅茶・シガーの様なニュアンスを感じさせる薫りが立ち上がって来ます。日本の風土に根ざした赤ワイン用品種として注目されているマスカット・ベーリーAですが、ブドウ造りから醸造まで手間暇掛けて丹念に造り出されたものはやはり別格です。
威厳と風格を感じさせつつも、しなやかできめ細やかなワイン。タイムスリップして善兵衛翁にテイスティングして貰いたい、と想いを馳せてしまいます。
<まとめ>
普通の生業にとどまるのではなく園生の生きがいとなる場を確保することから始まったブドウとしいたけ栽培。それがやがて本格ワイン造りへと結実させたことの実績はさまざまな報道でご存知の方も多いでしょう。(先日9月4日のNHK総合の昼間の番組『生中継・ふるさと一番! *5』ワイン造りの現場を紹介されてました。)
単なる 「『障害者が造った』が特徴では意味がない。」と園長先生が語るようにココファーム&ワイナリーさんが共感を呼ぶのも、

  1. 既成概念に捉われることの無いワイン造りの姿勢(栽培から醸造まで様々な点で)
    甲州F.O.S.』や『タナ・ノートン』がその象徴的な存在。
  2. 農家さんとの対等かつ緊密な関係に腐心する姿勢
    例えば、『栗沢ブラン』や『山のシャルドネ』がその成果として現れている。忌憚の無い意見交換も躊躇しない。
  3. いずれのワインに共通するのが、ブドウの個性を生かしつつもその隠れたポテンシャルを引き出す姿勢の賜物であること。

が理由として挙げられるでしょう。功績に甘んじることなく緻密で真摯なワイン造りにいそしむ姿を保ち続けることは並大抵のものではありませんが、園生と共に日常を過ごし、そして北は北海道から南は山梨までブドウ産地を駆け巡るワイナリースタッフは今でも新たな「こころみ」にトライアルしているかもしれません。実際、ヴィンヤード・ディレクターを務めてきた曽我貴彦氏はその新しい「こころみ」を立ち上げる準備に入っています。その構想が具体化するのは来年(2009年)からになりますが、そのことも含めこころみ学園とワイナリー、Nakazawa Vineyardの“これから”についても長い目で見守って行き、出来る限り機会を捉えて伝えて行くことが出来ればと改めて考えている次第です。
(充実した内容の会を提供して下さった白馬ラ・ネージュ東館様、そしてブルース・ガットラブ氏・曽我貴彦氏・中澤一行氏にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。皆様本当に有り難うございました。)

*1:東京都の国立市にて研究所を興していたブドウ育種家の故・沢登晴雄氏によって交配・開発された日本独自の品種。ワイナリーでこの品種による商品をリリースしている所は(記憶の限りでは)奥出雲葡萄園2008年5月2日訪問)、白山ワイナリー福井県)と数少ない希少な部類になります。

*2:中澤氏曰く、「温度の違いによる変化も楽しんでみて下さい。」とのこと。少し冷やし気味の8〜12℃に始まり、ちょうど良い12〜16℃位、少し高めの16〜18℃と温度帯にもよって表情が変るのもこのワインを頂く時の楽しみです。

*3:実際、マディランのワインでもタナ100%だけで無く、カベルネ・フラン等もアッサンブラージュしています。

*4:タケダワイナリーさんは2006年8月1日天童ワインさんは2006年7月31日高畠ワインさんは2007年11月3日に訪問。

*5:この番組、何気に日本のワイナリーを時々取り上げていたりします。かつて、タケダワイナリーさんが2005年11月30日放映分にて、巨峰ワインさんが2006年8月30日放映分にて、池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(十勝ワイン)さんが2006年9月28日放映分にて、安心院葡萄酒工業さん(2008年10月10日訪問)が2007年9月11日放映分にて、ひるぜんワインさんが2008年9月29日放映分にて登場してます。