日本の農業問題を正しく理解するための三冊

変わるためには課題をクリアしないといけないと記した15日の記事ですが、本記事で取り上げた課題の本質はやはり『農業基盤』に尽きます。最初に紹介する書籍のp.116に『「神話」や「スローガン」が幅を利かせる』との一文がありますが、自給率の問題や安全の問題が単なる「神話」や「スローガン」の様に捉えられるのではなく、報道では見えてこない複雑怪奇な問題の本質を知り戦略的に考えるために好適な三冊の書籍を紹介します。
○『農協の大罪〜「農政トライアングル」が招く日本の食糧不安』(山下一仁:著)
農協の大罪〜「農政トライアングル」が招く日本の食糧不安
日本の農業を支える大集団としての農協(JA)は良くも悪くもいろいろな農業政策に関して影響を及ぼしてきたことが分かる1月に出版されたばかりの一冊。何が良くて・何が悪いかをつまびらかに明かし、農協だけではなくそれを取り巻く農水省族議員そのものとの「三角関係(本書では『農政トライアングル』と記述)」を俯瞰しています。
農水省の官僚が敢えて「聖域」の実態を説くため書き下ろした著作で、農協成立の歴史的経緯から事業構造、そしてもたらした結果を読みきり新書サイズながら詳細かつ簡潔に(もちろんデーターも掲載)記し、自活可能な本当の意味で『強い農業(単なる強者ではない)』へと転換していくための提言もしています。

○『農業再建−進化問われる日本の農政』(生源寺眞一:著)
農業再建−進化問われる日本の農政
こちらは、食生活・流通から農業経営・農地制度・国土や環境保全といった農業の多面的な機能を踏まえ、各機能の日本における現状と政策、そして諸外国との比較といった総合的な見地に基づいて日本の農業の問題点を分析した書籍です。
内容が多岐に渡り、ボリュームもありますが2008年に刊行されただけあり近年の状況が反映された内容となっています。単なる雑学ではない、真の「多事総論・異説総論」に向けた素材として執筆された一冊。

○『日本の食と農・危機の本質』(神門善久:著)
日本の食と農・危機の本質およそ一年前にも小生が書評を記事として掲載した農業問題に鋭く切り込んだ出色の一冊。
本当の意味での市民参加(決して「プロ市民」ではない。)による社会形成が未成熟であることが問題の本質をあいまいなところにさせ、農協(JA)や最も頭の痛い問題である農地転用規制に関する問題を、筆者自身のフィールド・ワークと明確な資料によって鋭くあぶり出し、具体的な対案を提起しています。
土地が限られた我が国で(農地に限らず都市空間も含め)利用計画というものが建設的に議論されず、リーダーシップ無きまま立案されていないことがこの書籍を拝読すると痛感します。

以上の三冊は、実像を知るためにも是非通読することをお薦めします。