大人の「社会見学」〜ワインツーリズムオプショナルツアー・山梨ワイン編レポート

既報の通り、今回私は運営スタッフの一員としてワインツーリズムにボランティアで参加しました。受付や案内も執り行いましたが、それだけでなく山梨のワインをより詳しく探求したい方を対象に応募したオプショナルツアーのアシスタントも担当しました。担当したのは、小牧康伸氏と上村英司氏の案内による山梨ワインさん(小生は2008年3月16日2007年3月17日の2回訪問。)のツアーです。


参加者ご一行とガイドの小牧氏と上村氏とは集合場所のワイナリーの駐車場前にて合流しました。出欠を確認後、最初に軽く挨拶を行い、ワイナリーの概要についてガイドのお二方より説明が行われます。瀟洒なたたずまいのご当主の旧家(現在は販売場とゲストルームを兼ねた接客施設として運用されています。)を前にして、参加者の皆さんは大正時代より続く山梨ワインさん、そして明治より続く勝沼のワイン造りの歴史を肌でもって感じ取ることが出来たでしょう。


続いて、四代目当主の野沢たかひこ氏が登場。ワイナリーの見学がスタートし、まずはブドウ造りの現場からです。自社畑の「七俵地(ひちひょうじ)」へと案内されました。主にシャルドネカベルネ・ソーヴィニョンを栽培しているこちらの畑では、近年の気候を踏まえた品種の選択や、自然環境に近い形での農法による栽培といった種々の取り組みを解説されました。この畑からは、カベルネ・ソーヴィニョン七俵地畑収穫(2005)等に代表される優れたワインが産み出されていますが、さらなる進化を目指し模索を続けております。


次に醸造・貯蔵の現場に移り、ワイン造りの現場へと案内が続きます。巨大企業と異なり、厳密な操作が可能になる高価な設備に頼らなくとも、改造されたタンクを有効に活用してワインの発酵を行っています。設備が大事であることは言うまでもありませんが、使いこなすのは人です。どんなに優れた設備でも使いこなせなければ、飾りにもなりません。如何に人が財産であるかをこの目で確認出来たことでしょう。




最後はお楽しみのテイスティング。最初に登場した母屋の客間にて5種類のワインを頂きました。今回頂いたワインは下記の通りです。

野沢氏とガイドのお二方による親切丁寧な解説に耳を傾けながら、参加者の皆さんはリラックスしながらもじっくりとワインを味わいました。ちなみに、ワインのお供は地元・勝沼で美味しいパンを販売しているパンテーブルさんが焼いて下さった本格フランスパンです。
今回の催しでとても印象に残ったのは、参加者の皆様がツアーを経て最後のトークや質問で率直な質問や感想を「自分の言葉」で述べるようになったことです。座敷でのワインのテイスティングではブドウ・ワイン造りの「現場」を垣間見ることが出来た直後だっただけに、普段の生活では味わえない感覚が覚醒されよりワインが「遠い世界のものではなくより身近なところから造り出されている」ことを知覚出来たからに他なりません。その中でも最も惹かれたやり取りは、「本日のワインはどれも美味しいが敢えてお薦めを選ぶとしたらどれか?」と云う質問に対し、小牧氏がソムリエという職業柄よく聴かれるとの前置きから、実は皆様それぞれにとって好きなワインがあり実際のお勧めは各人の心の中にあるとの解答をされた所でした。そして、「造り手との親身な語らいから、『それぞれにとってのお勧めのワイン』を探し当てて下さい。」とのニュアンスで締めの言葉を小牧氏から頂き、参加者一同頷かれておられました。
造り手の想いに対し畑や醸造場といった「フィールド」で耳を傾けることは何物にも変え難い経験で、ワインが遠く離れた全くの見知らぬ所では無く、手の届く身近な土地での空気・土・そして自然がもたらす恵みから産み出されると云うごく真っ当な真実を再認識させてくれます。ワインは、畑やワイナリーだけで造られるのでは無い。その「産まれる地」にて育て上げられ、やがて人々の食卓へと流れて行く。こうした事実を知ることが、受け身一方であった飲み手が、能動的にワインを選ぶ最初の一歩を踏み出すことに繋がるかと思います。
大切なことは、能書きに終始したり身構えて接してしまう従来の「ワイン愛好家」とはスタイルを異にする、スタジアムに集うサッカーのサポーターと同様に、観客(=飲み手)がプレイする人(=造り手)と同列になって「山梨のワイン」、ひいては「日本オリジナルのワイン」を浸透させていく一助を担う「ワインサポーター」を一人でも多く増やすことです。その役目を、ワインツーリズムは担っているのではないかと考えられます。
このオプショナルツアーを終えて、人々が「サポーター」になった。それを感じることを出来たのが、小生にとって一番の収穫です。