山形視察・2日目

続いて、2日目・8月8日の訪問記です。初日はこちらをご覧下さい。
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赤湯の温泉街で宿泊した我々は、酒井ワイナリーさんにすぐ伺いました。案内は、栽培醸造責任者の酒井一平さんです。*1 上真ん中の写真にありますように、国道の鳥上坂近くにある自社畑はかなりの急傾斜です。先の訪問で取り上げたように、機械の入れない急傾斜で下草刈りに活躍している羊さんは健在で、見た限り4頭がのんびり・気ままな佇まいでいました。大勢の訪問者が来ていても悠然とした雰囲気ですね。(笑)ちなみに、鳥上坂の急傾斜の畑では、棚と一本木仕立てと二種の方式で栽培され、赤系品種(カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、メルロ、マルベックが一本木仕立てで植栽され、カベルネ・ソーヴィニョン、マスカット・べーリーA、ブラック・クイーン、ベーリー・アリカントAが棚仕立て。)のみとなっています。
最近は、オーナー制での圃場も新たに開墾し、そちらでは白系品種をシャルドネリースリング、赤系品種をカベルネ・ソーヴィニョンとメルロとシラーとプティ・ヴェルドを植栽し、今年初収穫を迎えるとの事です。
(右写真がその畑でのショットです。)

  

一連の自社畑を巡回した後は醸造場を見学し、その後時間が迫っている中で慌ただしい中ではありましたが、試飲出来ました。特に、印象的だったのが、自社圃場産のカベルネ・ソーヴィニョンとメルロをアッサンブラージュした『バーダップ樽熟成 鳥上坂・名子山(2009)』です。収斂味のある渋さがガツンと来て、その渋さを洗い流す程際立った酸が特徴的な、野趣溢れる粗削りだけど味のある赤で、3〜4年寝かせることを前提に造られている、ある意味シチュエーションを選ぶワインです。小生なら、絶対に5年は寝かして置きたい。その後はきっと調和が取れ、喉ごしが滑らかになると感じました。これは、今飲むには本当にそのポテンシャルを知ることなく終ってしまうので、勿体無いです。しっかり保管して、年月を経てから頂くことでその真価を味わうワインでしょう。
赤湯の将来を担う一平さんが家族と共に邁進し、東北最古のワイナリーがこれからどのように変貌して行くか、固唾を呑んで見守って行きたいと思います。

そして、視察最後の訪問先は山形一番の規模を誇る高畠ワインさんです。前述しました様に2009年より醸造責任者を担っています川邊久之氏と、栽培を担当されている四釜伸一さんの案内で場内を見学しました。
  

前回訪問時に植栽されたばかりであった、ワイナリー正面の試験園場のピノ・ノワールはしっかりと生育しており、とても手入れが行き届いてました。(上写真の右端)園場には、ミネラルを多く含有し多孔質形状を有する地元特産の「高畠石」とゼオライトが敷き詰められてます。伺った所、水分ならびに養分の保持や微量要素を補給することを目的に敷き詰めたとの事です。
  
醸造の設備は、前回訪問記で記したように機械化が進んでいますが、その改良は随時薦められていて、最近は機能を分担しても電子機器により各セクションの連動を容易に取れるようになったことから、レイアウト変更が簡単に出来るようなモジュール化への動きの対応が進められている最中です。この辺は、川邊氏が海外での経験豊富でコネも有していることから実現している訳です。また、近傍に優秀な機械工の町工場が存在し、様々な機具の製作始め、発酵タンクの温度管理のコントローラー取り付けなど沢山の要望に応える“よろず屋”として活躍されているとのこと。日本の中小企業、ここにありと云った感じです。


最後の試飲では、貴重な未発売のワインを御厚意により賞味出来ました。

の4点です。定評のあるシャルドネですが、川邊氏が就任以後の『ナイトハーベスト』はカリフォルニアンスタイルでありながらそこはかとない日本らしさを織り交ぜたスタイルに変貌しています。(お値段も4,000円と少し下り、コストパフォーマンスも上がったのも有り難い。*3)また、『ベリーズブレンド』は「問題作(川邊氏:談)」(笑)とおっしゃていましたが、個人的には他にない面白い作品で、敢えて波紋を投げかけた意欲作です。*4 小生は、ラングドックのグルナッシュ主体の混醸赤のようなイメージだと口にして思いました。(ワイン4点の詳細は、WebサイトでPDFにて公開されています。こちらを参照下さい。)

大胆な機械化と、野心溢れるワイン造りで旋風を巻き起こそうとしている高畠ワインさん。ここも目が離せない所です。

  • 最後に・・・。

あくまで私見ということで、この後は読んで頂ければと思います。
これは、実際にあるワイナリーの上層部の方から聴いたのですが、毎年櫛の歯が欠けるように、ブドウ栽培農家の方が次々と鬼籍に入ってしまうとしんみりと仰ってました。
では、そこから後継者が担って行くのか?それは非常に厳しいのが現実です。
右の写真は、赤湯地区の畑をバスの車窓から撮ったものですが、よく見ると分かるように、虫食いのようにビニールハウスが有ります。実は、これが雨除けを施したデラウェアの棚ですが、棚が斜面全てを占有していたのは昔で、今はこのように逆に元畑だった所の区画がじわりと侵食して行く構図がこれでも伺えます。
冬季は積雪がありそれまでに剪定を終えなければならず、また雪害で倒壊しないようにしなくてはなりません。(ビニールはもちろん外します。)しかも、この傾斜地(山形では山間部が多く、殆どの条件の良い平地は、米作に優先して充てられる。)ですと、作業性は困難であることが容易に想像出来ます。
このような状況を翻すだけのアドバンテージを、何らかの形で展望を持って造り出さない限り産地として繁栄させることは本当に難しいと痛感します。
それは、小生の生まれ故郷・大阪がかつてブドウの大産地であったにも関わらず、現在は衰退している現状を知っているだけに尚更です。
ブドウ栽培農家が衰退しているのは、山形・山梨に限らない日本全国の問題であります。そこを当事者であるワイナリーも含め、何らかの打開策を率先して示して行かなければならない。そのためには、今まで通りのやり方ではうまくいっていないことから、ドラスティックに変えなければならない。そういった変革が何よりも求められており、我々は(直接の当事者だけでなく、間接的に関わる人も含め)担って行くことが差し迫って求められてます。
これから日本のワインを語るに当たっては、嗜好品としてのワインと云う範疇では無く、農業問題・経営問題としてもしっかり捉えないとなりません。
(終わり)

*1:社長さんは、御尊父の又平さんが務めています。

*2:「ナイトハーベスト」は親会社の登録商標で、本坊酒造グループのワイナリー(他は熊本ワインさん)がこの商標を用いている。

*3:2008年産までは5,000円。2009年から値下げ。

*4:ベーリー・アリカントAとマスカット・ベーリーAとブラック・クイーンの「善兵衛」品種が用いられ、隠し味になんとナイアガラを入れている。南仏・ローヌ等の赤白多種混合の赤ワインをヒントにしたとのこと。