大手の戦略的ワイン新商品(前編)

先日、「お手並み拝見」と、興味のあった大手酒類メーカーさんから登場しました、戦略的ワイン新商品を購入して頂きましたが、これはちゃんと記録に残しておこうと記事にすることにしました。

滅多に記事がアップされず恐縮なのですが、気が向いた時に記録を挙げて行く事を出来ればと思います。

今回のお題は、
【前編】メルシャン・ワインズ ボルドー(本日アップロード)
https://mercianwines.kirin.co.jp
【後編】サントリー・ワインカフェ ワインソーダ2022年5月5日公開
https://www.suntory.co.jp/wine/original/wine-cafe/winesoda/
です。

  

全く形態は異なりますが、片やメルシャンさんはワインというフォーマットの範疇を崩さない中で、もう一方のサントリーさんは違うカテゴリーにワインを導入するというアプローチで、いずれも日本市場によりワインを戦略的に浸透させていこうという意欲溢れる新商品でしたので、取り上げることにしました。

少子高齢化などにより酒類の需要が縮小する状況下において、今後を占う上での率直な感想と小生なりの分析を記して参ります。

<メルシャン・ワインズ ボルドー


「日本のお客様のための優れたテーブルワイン」
を至上命題に、メルシャンが著名なMW(マスター・オブ・ワイン)による監修のもと、威信を掛けて作り出した新商品群が「メルシャン・ワインズ」シリーズ。(下記リンク1参照)
【リンク1】 ワイン業界異例の取り組みへ。2つの国のおいしさをかけ合わせた「ブレンドワイン」誕生 (キリン公式noteより)
現在は、2系統のラインナップが登場していて、一般消費者向けの「ディスカバー」シリーズの“ブレンド”と、今回取り上げる飲食店向けの「ラグジュアリー・コレクション」シリーズの“ボルドー”が展開されています。この内、「ディスカバー」シリーズの“ブレンド”では、輸入ワインのジャンルでは異例の国をまたいだブレンドという余り見かけなかったアプローチを取り、意欲的な試みをされていますが、こちらの“ボルドー”も後述の様にユニークなブレンドを取っております。

プレスリリース
【リンク2】 キリンホールディングス公式プレスリリース(2022年2月2日発表)
にも記されている通り、「日本のお客様にとってより飲みやすく、より果実味が前面に出た新しいボルドーのスタイルをお届けしたい」とのコンセプトから出来た、メルシャンのボルドーワインの新商品で、珍しくマルベックが主体になります。
【リンク3】 キリン公式オンラインショップDRINXの商品詳細によると、マルベック50%・メルロ50%の比率。

アサヒビールの大ヒットワイン“アルパカ”が、研究に研究を重ね日本向けの味わいにシフトしているのは、周知の事実ですが…。(下記リンク4参照)
【リンク4】 ダイヤモンド・オンライン「輸入ワイン売上1位「アルパカ」はなぜ量販店で“自動的”に売れるのか 」(2021年12月21日)
このメルシャンの“ボルドー”も上記の例に漏れず、「日本向けの味わい」(下記リンク5参照)
【リンク5】 ワインバザールニュース「メルシャンの新しい挑戦、「国を超えたブレンドワイン」開発秘話を紹介! ~Mercian Wines体験会①」(2022年3月11日)
を追求しています。なるほど、酸味を抑え目にまろやかな味わいと、日本人好みの風味でまとめており、

●果実味を追求した飲みやすさ
●長期熟成よりも、若いうちから美味しく頂ける

といった近年のモダンボルドーを体現した中で、日本市場向けにチューンしたところと言えるのが特徴です。
そんな訳で、カベルネ・ソーヴィニヨンを構成からあえて外したのは、上記の風味を満足させるための敢えてな選択だと思いました。五月蝿いワイン通なら「えー」とか言いそうですが(笑)。それと、“アルパカ”の単なる後追いに終わらず、独自のテイスト(相対的に、“アルパカ”の赤は甘味を感じる)に落とし込んでいるのも良いところでしょう。

ここまで書くと非の打ちどころは無さそうだが、「どうしても」書きたかった事があります。それは下記の2点です。
(1)「日本人好みの風味」だからこそ、日本ドメスティックなスタイルは、『シャトー・メルシャン』ブランドで追求してほしい。
(2)モダンボルドーの潮流に、新品種をどう取り入れていくか?も問われている。

(1)に関しては、現在シャトー・メルシャンでは上位クラスから「アイコン」「テロワール」「クオリティ」の3階層でラインナップが構成されていますが、メルシャン・ワインズの“ブレンド”に相当するのが、「クオリティ」クラスの“藍茜(あいあかね)”や“萌黄(もえぎ)”などが価格帯からも相当するものと考えられます。
で、今回の“ボルドー”とクラス的にも価格帯的にも相当するものが残念ながら今のラインナップからは見当たらない事です(「テロワール」シリーズの、“城の平”は価格帯が8,000〜9,000円台、本商品は公式オンラインショップDRINXにて3,000円台)。
しかも、「日本ドメスティックなスタイル」であればこそ、日本ワインとして「メリタージュ」と称されるAOCボルドーの品種構成に捉われず、マスカット・ベーリーAをはじめとする善兵衛品種も含めて、オリジナルの品種構成でネオスタイルを追求して行けば面白いのでは?と、思います。
(2)に関しては、これは次回の課題になると思いますが、温暖化を見据え、気候変動に対応した新品種がINAOによって承認されたとボルドーワイン委員会より公式に発表されていますが(下記リンク6参照)これらの品種の内、今回の“ボルドー”に関係している赤ワイン用品種では特に
マルスラン(Marselan)
○トウリガ・ナショナル(Touriga Nacional)
といったブドウが、モダンボルドーの潮流に則った「飲みやすく果実味が出ている」タイプの品種だけに、これらをどう取り入れていくかが課題になって来ると思います。
【リンク6】 Climate-change-in-Bordeaux-compressé.pdf CLIMATE CHANGE 〜 How the Bordeaux vineyards are planning ahead(ボルドーワイン委員会 公式プレスリリース、2019年8月)
そして、こうした品種を他国、いやボルドーのある本家フランスよりもいち早くモノにしていく事で先取りしていく「攻め」の戦略が可能になると考えられます。

以上の2つの課題は、「日本のワインにおける、リーディング・カンパニー」だからこそ出来る事では⁉︎ と、期待を込めて書いております。
チャレンジャブルな課題へ果敢に取り組んで行って欲しい。それが筆者の希望です。

後編に続く)