大手の戦略的ワイン新商品(後編)

前編は、こちら(2022年5月2日公開)。

サントリー・ワインカフェ ワインソーダ

 
「ワインをもっと自由で、開かれたものへ」
のキャッチコピーの下、RTD(レディ・トゥ・ドリンク)やビール類に慣れ親しんでいる一般の層をワインに目を向けさせるため、日本人の味覚や食文化に合う形で提案することで、本格的なワインへの入り口となる新需要開拓商品、それが、“ワインソーダ”です。(下記リンク1参照)
【リンク1】食品産業新聞社『サントリーワインインターナショナル「“ものづくり”ベースに、新提案で“日本ならではのワイン文化創造”」/吉雄敬子社長インタビュー』(2022年1月26日)

甘さ控えめ、程よい酸味と、いわゆる“RTD”のジャンルの中ではちょっと異色で、単にワインをソーダで割ったのでは無く、特許技術(下記リンク2を参照)も屈指してチューニングした形跡が窺える「計算した味」になっています。
決して、某社の「氷結 シャルドネスパークリング」では無い❗️(笑・尤もこちらはベースはワインでは無いが…)
【リンク2】サントリーグループ企業情報・ニュースリリース(2022年1月21日発表)

RTDの中でもちょっと異色な「逆張り」になっているのは興味深く、その前身の「ワインサワー」が結構受け入れられていることを考えると、食中酒としての本来のあり方に添った有り様で求められつつあるのかもしれません。そうしたことは、下記の「市井の評価」にも反映されております。

【リンク3】むねさだブログ『サントリーの「ワインカフェ ワインソーダ」シリーズが甘さ控えめで美味しいぞ!』(2022年3月24日)

【リンク4】京都チューハイLab「【新商品レビュー】サントリーワインサワー赤と白を飲んでみた!」(今回の“ワインソーダ”の前身商品・2021年2月19日)

いずれのリンク先3・4の記事でも記されていますが、実際食事と合わせやすいという評価に加え求められているのが、「本格的な味」ということです。すなわち、従来の甘めな「お子ちゃまチックなワインもどき」よりも、ちゃんとした味のを飲みたいということで、評価が上がっているのを見逃してはいけません。それも、ワインに飲み慣れていない層だけでなく、健康志向というところから時にはアルコール度数が低いもので構わないというワイン好きの左党からも要望があるようで…。
その証拠に、「低アルコールワイン」という需要が実際にあって、なんと大手さん(アサヒとサッポロ)から奇しくもこの4月から、低アルコールワインのラインナップが「スーパー系」のカジュアルな輸入ワインに加わったことからも伺えます。

【リンク5】アサヒビール株式会社公式ニュースリリース(2022年3月30日)

【リンク6】サッポロホールディングス公式ニュースリリース(2022年2月1日)

さて、“ワインソーダ”は、入り口となる「新需要の開拓」にあって、その狙いは果たしつつある様な気がします。だが、その先に課題があると思います。
すなわち、先の【リンク1】での記者の問い

「入口づくり」の手応えを感じたと思うが、カジュアルワインからプレミアムワインへの道筋を作る取り組みは?

に対し、何をしなければないかは、まだ抽象的な解答に留まっており暗中模索の途上かも思われます。実際に、同じ食品産業新聞社の取材(下記リンク7参照)にて

「若年層をワインサワーからワインへどう誘導するかは、社内でも常に議論している。」

とある通り、未だに社内でも議論の最中にある模様です。

【リンク7】食品産業新聞社『「サントリーワインサワー」販売計画を35万ケースに上方修正、新カテゴリー「ワインサワー」創造へ/サントリーワインインターナショナル』(2021年3月31日)

とはいえ、【リンク1】での文中にもあるように、一つの解として考えられるのが、

「造り手の顔や声、ぶどう畑など、より親しみやすい形でプレミアムワインの価値を伝えたい。」

とあるように、ワインがこうやって造られるんですよと分かり易く目に見えるような形で伝えることです。
それは、大手さんだからこそ出来ることで、人が限られた小規模の造り手さんではなかなか手に負えないことです。実際、大手さんでは国内のワイナリーを公開してお客様を呼び込む体制が出来ており、

メルシャン→勝沼ワイナリー椀子ワイナリー
サントリー登美の丘ワイナリー
サッポロ→グランポレール勝沼ワイナリー岡山ワイナリー

では、見学ツアーも組まれております。(注:メルシャン桔梗ヶ原ワイナリーは公開休止中。グランポレール勝沼ワイナリーではツアー休止中)しかし、コロナ禍が落ち着きを見せる中でようやく観光需要が元の勢いに戻ろうとはしていますが、遠距離への足がなかなか遠のいているだけでなく景気的にも日本だけが落ち込んでいるこの状況で、ワイナリーへ足を運ばせる前に「人目に触れる機会を多くする事」が求められると、筆者は思います。

ただ、ワインは輸入物が多くひしめき、スーパーでは廉価の国内製造ワインか安価な輸入物、専門のワインショップや飲食(ワインを置くレストランやワインバーなど)では輸入のファインワインががっちりと喰い込む中で(“日本ワイン”を扱うお店が増えてはいますが、そういうところでは“個性的な”中小のワイナリーがむしろ人気である…)、大手さんの“日本ワイン”を積極的に取り入れるには結構壁があるかもしれません。

なので、積極的に体感できる機会を増やすためにもアンテナショップとなる「飲めるお店」を、まずは人口の多い地域に出す事が先決なのでは?と思います。そして、「ワインの価値」を伝える場としての現場となって、より深く体感してもらう場であるワイナリーへの橋渡し役を担って貰うのです。

そんな中、孤軍奮闘しているのはサッポロさんで、実際東京大阪「GRANDE POLAIRE WINEBAR」を開店されており、大手さん発日本のワインを堪能できる数少ない場となっております(大阪店は開店早々訪れました)。それだけに、メルシャンさんの「シャトー・メルシャン トーキョー・ゲスト・バル」が閉店(2018年5月31日)してしまったのは誠に残念でした…。

今、酒類の中でも厳しい状況に置かれているのが「日本酒」ですが、ナショナルブランドとしての灘の大手の酒蔵は、自ら露出の機会を増やすべく、「灘五郷酒所」をこの最近(2022年4月29日)にオープンさせました。
nadagogo.com
オンラインストアで入手が出来る世の中になったとはいえ、一人一本消費して開けるのは大変ですし、何よりも実際味を確かめて愉しむ機会があれば、確率が低くとも気に入って貰えれば今度はオンラインストアでも、「買ってくれる」ことに繋がるかも知れません。
背水の陣ではありますが、灘五郷の各社が枠を超えてかように攻めの戦略に出たことは注目に値します。

すなわち、“ワインソーダ”のような「商品としての入り口」だけでなく、「リアルな場所の入り口」も必要だと云うことです。それは、AppleApple Storeをオンラインだけで無く路面店を開いているのも同様で、そこでは実際に商品を手に取って見る事が出来るだけで無く各種セミナーが随時開催され、いわば「ランドマーク」となっています。こういったリアルな店舗は、アパレルなどに限らず、工業製品も含め単なる広告塔の役目だけではないのが伺えます。

日本ワインのプレゼンス向上が言われて久しいですが、ここ10年、ワイナリーの数は一気に増え、400社を超えたとのこと。(リンク先は、国税庁Webサイトの「酒類製造業及び酒類卸売業の概況(令和3年調査分)」のワイン製造業の項、2022年4月25日公開)これからは群雄割拠の中で迎える乱世の時代になりそうです。
少子高齢化などにより酒類の需要が縮小する状況下では、なかなか大変かと思いますが、その中で、今回取り上げたメルシャンさん・サントリーさんに加え、サッポロさんやマンズさんの大手組は、輸入物やワイン以外の酒類を手掛けておられる中で、より一層リーディング・カンパニーとしての“日本ワイン”への取り組みを本腰を入れて出来るか?が問われています。

そのためにも、これら大手4社には以下の提言を進めて行って欲しいです。
●家飲みなどで重宝される「商品としての入り口」だけで無く、コロナ禍で落ち込んだ飲食店需要を喚起させ、刺激となるような「リアルな入り口」を設けること。
●それに加え一歩踏み込み、遠隔地であるワイナリーと消費地である人口集積地区を、「リアルな入り口」から有機的に結びつける施策を少しずつ形にしていくこと。

この二点が今後の宿題ではなかろうか…。

以上、長くなりましたが、大手の戦略的ワイン新商品を通じて今後を考えてみました。
拙文にお付き合いくださり、ありがとうございました。(了)