(書評)『ジンファンデル―アメリカンワインのルーツを求めて』を読んで

ジンファンデル―アメリカンワインのルーツを求めて6月28日の記事で紹介しました表記の書籍、一通り読破しました。ホンマに勉強になり、買った甲斐の有る本でした。
内容は「ジンファンデル」というアメリカ、特にカリフォルニア固有の醸造用ブドウがどのように根付き育まれて行ったかを、アメリカの歴史(特に、重要なのが「ゴールド・ラッシュ」と「禁酒法」)と絡めて描いたもので、しかもジンファンデル以外のワイン用ブドウ(カベルネ・ソーヴィニヨンシャルドネピノ・ノワール等の国際高級品種)の育種にも触れており、さながら「アメリカワイン史」の教科書です。
「そのジンファンデル、ロゼ、軽い赤から重厚な赤、遅摘みの甘口から酒精強化に至るまで、多種多様で質の良いワインを産している。」と前述の記事に書きましたが、ジャグ(安物)ワインからファインワインへブラッシュアップして行った進化の過程で産み出されたものであり、それがアメリカのワイン文化の「伝統の1ページ」として大切に残されている結果なのです。
(重要人物として、ロバート・モンダヴィやルイス・マティーニ、そして「RIDGE VINEYARDS」のポール・ドレイパー等が登場します。特に、ドレイパーはジンファンデルと切っては切れない深い関係にあります。)
また、このようなワイン文化は、キリスト教との関わりが深く。単なる「酔っぱらう為のお酒」ではなく、「人の心を豊かにするための食中酒」として大切にされています。日本では酔っ払いに対しては寛容ですが、逆に欧米ではキリスト教価値観の下で日々の安寧な生活を送れるための感謝の証としてワインが捧げられ、それを人々が頂き、楽しい食事を演出して心安らぐ場としての「食卓」が重要視されていたことが伺えます。
(なんか、今の日本が失ってしまったような光景ですな。向こうは個人主義でもホームパーティーなんか頻繁にやってますからねぇ。かえって家庭的なのではないのでしょうか?)
特筆すべきなのは、ワイナリー同士が連携して出資し、愛好家有志も寄付などをしてまかなわれているZAP(Zinfandel Advocates and Producers)なる組織が存在し、会費は実験農場の運営や大学等の研究機関(当然、アメリカンワインの発展に欠かせない存在であるカリフォルニア大学デイヴィス校も登場します。)援助に使われ、会員は定期的なイベントに参加出来、セミナーやテイスティングが開催されるだけでなく生産者と消費者を繋ぐ掛け橋として、また地のブドウである「ジンファンデル」の存在を誇りとし、保護・研究を援助して「ジンファンデル」を支えているのです。
オシム氏ではありませんが「日本人特有のいいものがあり、日本の道を見つけることが大切だ。」の言葉通り、ぜひ、「甲州種」の今後の発展のためにも見習って欲しいですな。
最後に、面白いエピソードを一つ。
ジンファンデルがクロアチア原産である事はこの本にも触れられてますが、その伝播の過程で南イタリアに分化して残った「プリモティーボ」(DNA鑑定でほぼ同一と認められている。)がイタリアでワインとして醸造に用いられ「ジンファンデル」ワインとしてアメリカに輸出して安ワインとして売り出した事にカリフォルニアの生産者達が立ち上がり、「アメリカ固有品種を守る」ために呼称統制論争が起っているという、いかにも「自由と権利を大切にする」アメリカらしいエピソードで、逆に言うと、「ジンファンデル」がこれほどにまで成長したのは「固有品種」としてアメリカ人が誇りを持って大切に扱ってきた証拠といえましょう。
何にせよ、ホンマ勉強になりますなぁ〜。ワインファンは必読の書ですし、歴史本としても面白いです。オススメします。