“北の巨人” 北海道ワイン

この業界の「中の人」になる前から、そして今でも日本ワイン界の中で小生が畏敬の念を抱いている企業がある。
お題の通り、北海道ワインさんである。
www.hokkaidowine.com

そんな北海道ワインさんが、この度創業して50年を迎えた。おめでとう御座います。

当Blogの過去記事でも幾度と取り上げているが、初めて鶴沼の圃場を見学させて頂いた時、そのスケール感にはただただ圧倒され、感動する他無かった…。
okkuu-daaman.hatenablog.jp

(上記当時の記事投稿の冒頭に紹介している、「私のなかの歴史 『大地に描くワインの夢』」に関しては、掲載許諾期間が過ぎリンク切れとなっているので、後述の文献紹介を参照されたい。)

今や、北海道のワインを牽引する“リーディング・カンパニー”としてワイン愛好家の方々などに知られてはいるが、創業者の故・嶌村彰禧氏(2019年7月25日に逝去。92歳でした。)が山梨出身であること、そして“紳装”という衣料メーカーをワイナリーより先に立ち上げていた事は余り知られてはいない…。
(一度だけお目にかかったことがありますが、そのオーラには圧倒されると同時に何か温かみのあるものでした。)

その波乱万丈の一代記は、涙なくして読むことは出来ない。

当時、北海道新聞の夕刊に連載(2006年の12月12日から28日にかけて)された「私のなかの歴史 『大地に描くワインの夢』」である。日本経済新聞の「私の履歴書」のような連載読み物で、彰禧氏の生い立ちや会社設立に関するいきさつが、御本人の語り形式で綴られている。

この連載を画像で取り込んだものは今でも大切に保管しており、小生のiPad miniでいつでも見れるようにもしている。本当は、日本のワインを嗜好する方だけでなく、経済書として経営的な観点からも多くの人に読んでもらいたいが、新聞の切り抜きや過去記事を集めるのは至難の業である。

幸いにもそれに代わるものがあり、実際に手に取って読むことが出来る書籍や論文が存在している。

一つは、惜しくも先日逝去された、故・山本博先生の『日本ワインを造る人々:北海道のワイン』。下記の過去記事を参照して下さい。
okkuu-daaman.hatenablog.jp

そして、もう一つが、小樽商科大学名誉教授の故・篠崎恒夫先生による『二足のわらじ経営 北海道ワイン(産研論集 / 札幌大学経営学部附属産業経営研究所 編に掲載)
sapporo-u.repo.nii.ac.jp

この2つの文献は、是非目を通して頂きたい。

皮肉にも、当時“紳装”に引導を渡した北海道拓殖銀行はその後破綻の一途を辿り、債務を抱えても生き残った彰禧氏は不死鳥の如く蘇ったのである。そして、“先駆者”十勝ワインさん(池田町ブドウ・ブドウ酒研究所)と共に北海道のワインの祖を築くことになる。

現在、事細かに説明するまでもなく、北海道は一大ワイン産地として認知されるようになり、フランスからも、ド・モンティーユ(あの、『モンドヴィーノ』で取り上げられた時は思いもよらなんだ…笑)が進出するなど海外からも注目されている。そして、小規模ながらも個性あるワイナリーがひしめき、ワイナリー数の伸びは著しい。

しかし、そんな隆盛の祖となった“リーディング・カンパニー”の存在無くして、今の北海道のワインの発展はあり得なかったはずである。苦闘の歴史を経てやがて牽引車となり、GI北海道の設立に尽力され、農業面でも多大な貢献をされている。だからこそ、多くの人々に、“先駆者”と“北の巨人”を是非知って頂きたい。

Webサイトもこの2月になって刷新し、小樽のワインギャラリーもリニューアルオープンされてホスピタリティ溢れる魅力的な観光スポットとして生まれ変わった模様ですが、久しぶりに小樽市朝里川温泉の本社へ訪ねたくなる。現社長の嶌村公宏氏にも、久しく会っていないのでまたお目にかかりたい。

そんな北海道ワインさんに敬意を表し、乾杯❗️


写真は、昨晩3月9日、“戦友”との飲みの席で開けた当方保管の“鶴沼ヴァイスブルグンダー 2011”。
開けてどうなることやらと心配していたが、綺麗に熟成が進んでおりホッとした。

折角ですので、“1995年北海道ヴァイスブルグンダー”を小樽バインさんで頂いた、当時の記事も挙げておきます。
okkuu-daaman.hatenablog.jp

“アヴァン甲州”の風に吹かれて…

甲州種、山梨県を中心にいまや全国各地で栽培されてつつある日本の固有品種。

そのルーツも解明され、現在はOIV(国際ブドウ・ワイン機構・http://www.oiv.int)にも登録され、国際的にも認められつつある。

【参考】独立行政法人・酒類総合研究所 広報誌NRIB(エヌリブ) 第27号『<特集>「甲州」ブドウのルーツ』
(こちらをクリックすると広報誌の内容がご覧頂けます。→ NRIB 第27号
https://www.nrib.go.jp/sake/nrib/pdf/NRIBNo27.pdf

そして、甲州種ワインは日本のワインを代表する存在であると言えよう。

しかし、国内では様々な種類の甲州種ワインが存在しており、星の数ほどまでは行かないが多種多様なスタイルのものが市場に溢れている。

日本ワインにとっつこうとするならばまずは甲州をとなるが、じゃあどれを選べば?となるといきなりは難しい。
なので、まずはタイプ別にということから見ていけば良いのではと考える次第である。

具体的には、市場に下記のタイプが出回っている。

  • シュール・リー系
  • 樽系
  • バランス系
  • 醸し(オレンジワイン)系
  • ニュージャンル

これらのタイプの詳細は別途後ほど記す図表を参照して頂きたいが、今年ほぼ期を同じくしてこれまでのタイプ別の概念を抱合した新しい世界観の甲州種ワインが登場した。

“アヴァン甲州” …である。

当初私は、“新時代甲州”というネーミング(あの、「ウタ」に引っ掛けてである・笑)であったが、昨日(11月11日)“アヴァン甲州”を取り上げた会にてN氏が命名したそれがなんかしっくりと来るので、以後これで通すことにする。

アヴァン甲州とは?となるかと読者の諸兄は感じることだろうが、私はこのように考えている。

  1. 緊密な関係である契約農家さんとの共勤、ないしは自社による栽培によって、原料となるぶどうの生産地・生産者により焦点を当て、ぶどう栽培側にオリエンテッド(立脚)した姿勢の下取り組まれている。
  2. ぶどうの持つ特質と置かれた環境を踏まえて、持っている潜在能力を十二分に引き出し味わいの中に表現して行く(あくまで、醸造の手法は目的でなく手段。技法を包含しそれを超えたところに本質がある)。

かような前提で、繊細な風味や薫りという甲州種ワインの通説を超え、従来のタイプ別のスタイルに捉われない世界観の甲州種ワインである、と云えよう。

具体的には、現在下記のワインが登場している。

アヴァン甲州を代表するワイン。

左から、

(いずれも、2022年ヴィンテージ。)

それぞれのワインを改めて相対してじっくりと味わってみた。簡単にコメントを付記しておく。

  • 甲州キュヴェSN、キュヴェSU、キュヴェWW → コンベンショナルなシュール・リー系と思いきや、それぞれのぶどうの特徴が際立っている。生産地ごとの味わいがストレートに表現されていることに加え、丁寧な仕事ぶりとポテンシャルの高さが伝わって来る。
  • A Table 白 天屋原甲州 → ぶどうを知り尽くした篤農家と、栽培・醸造両面で豊富な経験と確かな知識を持つ醸造家とのタッグによるコラボレーションが高い次元で成り立っている。今までの甲州種ワインには見られない、凛とした中にものびやかな余韻を紡ぎ出すスタイル。
  • Opening Act 甲州 → ポップな味わいの、開放的な面持ちのワイン。これまでの甲州種ワインは、繊細さが主体で静謐な(あるいは内省的な)世界観のものが多かったが、まるで甲州種ぶどうそのものを“齧った”かのような豊かな味わいと薫り。

甲州種を使ったワインで、ここまで語れるのは中々お目にかかれない。
日本ワインがメディアに盛んに取り上げられようとしていた、2000年代半ば(2004年頃)から甲州種のワインをウォッチし続けているが、時代がようやくここまで来たかと思うと感慨無量である。

今までも、甲州種ワインでは生産者や生産地にフォーカスされて来たもの、あるいはエポックメイキング的なワインが幾つかあった。例えば、…。

こうした、これまでの技術の蓄積の上に成り立ってきた甲州種ワインは、『特徴のないのが特徴』とされてきたのを翻すかのごとく、光を当てる存在となって甲州種ワインの知名度を拡げるキッカケにもなっている。

ただ、下記図表に示すタイプ別の分類*2にもあるように、いわば醸造的手法・技法に基づくものがタイプ別のスタイルとして定着していった面は否めない。

甲州種ワインのタイプとその変遷

よって、そうした醸造的手法を主体とするものだけではなく、栽培面からの見地も踏まえもっと俯瞰的なものからのスタイルの登場が待たれていた。これは、どうしても日本が外国のワインの銘醸地と比べ栽培環境面で不利な点から、ポテンシャルの高い醸造用のぶどうを得ることが難しいという事情も関係している。

多くのワインが国外から輸入され、産地はもちろんのこと多種多様な品種・有り様のワインが存在する日本国内だけでなく、諸外国へ輸出も視野に入れての生産活動が日本のワイン界でも取り組まれているが、そうした動き如何に関係なくよりレベルの向上は急務で、

「日本ワインだから、良いよね〜♪」

といった贔屓の下、暖かい目だけではなかなか生き残りが難しいのは正直な所ではある。

そんな中、先だってのデラウェアのワインに関する投稿と同様に、甲州種においてもより上の次元へと向上して行くような存在のワインがこうして登場したことは素直に喜びたい。

緻密なワイン造りに、畑でのたゆまない歩みで造られたぶどう、そしてこれらがセットになった総合力を元に日本ワインを取り巻く状況を打破していくことが、未来に繋がる。

*1:甲州きいろ香に関するネットでの記事はいくつか挙げられているが、技術的にも詳しく・かつ平易に描かれているこちらの記事を参照されたい。iewine.jp

*2:図表作成においての参考資料は以下の通り。
雑誌『ワイン王国』(第26号、2005年4月20日発行、株式会社料理王国社)
雑誌『ワイナート』(第83号、2016年7月1日発行、株式会社美術出版社)
『本当に旨い甲州ワイン100』(新田正明:著、イカロス出版

続・デラウェアはワイン用ブドウの夢を見るのか?(前回の補足)

デラウェアはワイン用ブドウの夢を見るのか?(2023年10月3日投稿)
okkuu-daaman.hatenablog.jp

前回↑の記事を投稿しSNSでも共有したところ、それなりに反響を頂きました。
そこでご指摘頂いたこともあるのですが、私自身気になることでもあったので少し深掘りしてみる事にしました。

以下は、そうした点を踏まえての補足です。

***** 以下、本稿 *****

日本国内でポピュラーなぶどう品種の一つ・デラウェア
その栽培面積が減少し、新進気鋭のシャインマスカットに追い越されたのは前回の投稿で取り上げた通りだが、醸造用のデラウェアについての生産実態はこの資料だけでは推し量りにくいところもあるのが正直な所だ…。

現在、果樹についての生産に関し省庁で公開されている資料は、前回の投稿でも参考にした農林水産省の統計一覧(品目別分類:果樹)によると、

  • 作況調査(果樹)
  • 特産果樹生産動態等調査 ←前回参考資料

の2種が挙げられる。
上記後者の資料には、「果樹品種別生産動向調査」の生食用ぶどうの栽培面積累年統計(2001年から2020年まで)が計上されており、この統計を元にグラフ化して調べたのだが、「果樹品種別生産動向調査」にはぶどう用途別仕向実績調査という項目も存在し、デラウェアに関しては“生食用品種別(加工兼用品種含む)の加工向け利用状況”にて、「栽培面積(加工目的の栽培園地・下記注釈参照)」「収穫量」「用途別仕向量」が分かる様になっている。
ここで、それぞれの項目は、<特産果樹生産動態等調査の概要>の利用上の注意にて定義が記されており、該当のWebサイトより抜粋すると以下の通りである。

(ア)「栽培面積」については、加工場又は加工を目的とする業者に出荷するために栽培した園地
(イ)「収穫量」については、上記アの園地から収穫量された量
(ウ)「用途別仕向量」のうち「生食向け」については、加工場又は加工を目的とする業者に出荷するために栽培したものの、品質が高かったこと等により、収穫後に生食向けに出荷したものの量
特産果樹生産動態等調査の概要・利用上の注意より

実際に、『ぶどう用途別仕向実績調査累年統計』において「生食用品種(加工兼用品種含む)の加工仕向量の推移」がデーターとして計上されており、この統計からデラウェアに関する項目を抜粋してデーターをグラフ化したものが、下記の【グラフ1】である。【追記:2023年10月17日にグラフ修正しました。下記追記詳細も参照。】

【グラフ1】ぶどう用途別仕向実績調査・生食品種別の加工向け利用状況(デラウェア)累年統計(修正版)


加工用と銘打った栽培面積は年によって大きな開きはあるが、これは農業者である個人ないし農業法人が加工用としているだけで、実際の用途は生食用のが大きく占めている事が分かる。醸造用の仕向量は統計上は1,000トンを超える事が無く、多くて800トン台・少ない時は100トン台でしかない。
一応、念のため最近国税庁にて統計データーが計上されるようになったので、果実酒製造業の概況にて公開されている国内製造ワインの概況(平成27年〜30年度調査分)と、酒類製造業及び酒類卸売業の概況にて公開されている個別調査項目のワイン製造業(令和2年〜令和5年調査分 *1)の調査結果より、果実酒製造免許場へのデラウェアの受入数量が判明しているので、こちらも抜粋した。

平成27(2015)年=1,517トン304トン
平成28(2016)年=1,473トン371.1トン
平成29(2017)年=1,566トン290.3トン
平成30(2018)年=1,446トン438.1トン
平成31および令和1(2019)年=1,392トン479.7トン
令和2(2020)年=1,231トン370.5トン
令和3(2021)年=1,131トン・N/A
令和4(2022)年=834トン・N/A *2
前者(赤文字)国税庁調査による、果実酒製造免許場へのデラウェアの受入数量、後者(青文字)農林水産省調査によるぶどう用途別仕向実績調査での醸造用仕向量

ご覧頂いたら分かるように、国税庁調査(ワイナリーでの受入量)と農林水産省調査(醸造用の仕向量)が異なるが、これには理由がある。
実際、双方の省庁の担当窓口まで電話にて問い合わせさせて貰ったところ、

  • 国税庁調査→果実酒製造者(ワイナリー)側の視点であること、出荷時点では生食・醸造のルート別如何に関わらず入荷した量が記録されている。
  • 農林水産省調査→農業者(個人農家ならびに農業法人)側の視点であること、加工用としての園地であったが実際には品質の良いものを生食用で仕向けられ計上されている。

という統計手法や観点に起因するもので、そこを留意してデーターを見て頂きたい。また、農林水産省調査の加工向け累年統計【グラフ1】を見ても分かるように、年の出来次第で生食用に振り分けられる変動要因が大きく、単価が高い生食用への供給が基本的に優先される傾向にあると云ってよい。

では、実際に日本の国内で、デラウェアがどれぐらいの面積でどれぐらいの生産量で出荷されているかについては、唯一の手掛かりがある。
農林水産省調査の、作況調査(果樹)である。

実は、前回の投稿で、この資料をソースのデーターとして用いようとしたが断念した経緯がある。
理由は、以下の通りである。

  1. 品種別で、「シャインマスカット」の項目が無かったこと。
  2. 作況調査(果樹)の概要の「Q&A」に記されているように、平成19(2007)年3月に作物統計調査全体について見直しが行われ、平成19(2007)年以降のデーターにはデラウェアや巨峰などの品種別の統計が行われなくなったこと。

実際、こちらの長期累年の統計資料では、ぶどうに関しては全国のExcelデーターを見て頂けば分かるように、平成19(2007)年以降はデラウェアの結果樹面積・収穫量・出荷量が記録されておらず、全てのぶどうの合計のみとなってしまっている。

ただ、前回の投稿で用いた「果樹品種別生産動向調査」の生食用ぶどうの栽培面積累年統計(2001年から2020年まで)と、「作況調査(果樹)」でのデラウェアの結果樹面積・収穫量・出荷量(1973年から2006年)を比較して見た。

【表1】作況調査と特産果樹生産動態等調査の比較

「結果樹面積」と「栽培面積」の定義の違いを考慮しつつも、比較しての通りこの2項目はほぼ同じ数値として考えて差し支えが無い。
そこで、この数値を代用し、出荷量は過去の作況調査の数値からデラウェアの単位面積当たりの確認したところ、ほぼ毎年1haあたりだいたい10.14トンと出た。

作況調査の推定とその値の算出について

この値から、後はExcelでの計算で2007年以降を特産果樹生産動態等調査からの「栽培面積」の値で補った推定値という含みおきでこしらえたのが【グラフ2】である。

【グラフ2】ぶどうの結果樹面積・出荷量累年統計(昭和48・1973年~、2007年以降は推定値)

あの、巨峰(現在の栽培面積1位)ですら、10万トン超えを記録していなかった(「作況調査(果樹)」の2006年までの統計数値より最大で7万トン台)ことを考えると、デラウェアが“キラーコンテンツ”的な存在でまさに化け物であったのだ。如何に人気が高かった上に需要もあったかを偲ばせるグラフである。

しかも、2007年以降は推定出荷量ではあるが、生食加工問わず両方込みの量であることも考えると、国税庁調査のワイナリー受入数量に比べ生食用が如何に桁違いの出荷量であることが如実に示されていると云えよう(2020年で出荷量が18,000トン台である!)。

いずれにせよ、前回の投稿のデーターも併せて考察すると、デラウェアに関しては、

  1. デラウェアは栽培面積・出荷量とも年を経る毎に減少している。
  2. 醸造用向けには一定の需要が存在するが、生食用に比べると多くてもおよそ10分の1以下。
  3. 現状では、ワイナリーでの受入数量も減少傾向にある。

というのが、大方の結論では無いかと考えられる。

なお、最後にデラウェアについての出自が、“Vitis International Variety Catalogue(VIVC・ぶどう国際品種カタログ、http://www.vivc.deに記されている。
このデータベースによると、片親がVitis Vinifera種でもう片方がVitis Labrusca種 × Vitis Aestivalis(エステバリス)種 *3の交雑種である事が判明している。

www.vivc.de
https://www.vivc.de/?r=passport%2Fview&id=3498(Vitis International Variety Catalogue, 2023年10月14日閲覧)

この点についても、付け加えておきたい。

以上、前回の補足でした。

【追記:2023年10月17日】
『ぶどう用途別仕向実績調査累年統計』においてデラウェアに関する「生食用品種(加工兼用品種含む)の加工仕向量の推移」のデーターをグラフ化したものが、上記【グラフ1】であるが、平成24(2012)年の収穫量の数値が仕向量の合計を下回っていたため、このデーターについて農林水産省の担当部門様に問い合わせしたところ、当該数値に誤りがあることが判明した。当時の記録についても照会して頂き結果正しい数値もフィードバックして貰った。

今回のデーター作成に関しては、国税庁の担当者、ならびに農林水産省の担当者からご教示頂きありがとう御座いました。改めて御礼申し上げる次第である。

*1:この時より調査年で記されており、統計上は1年前の年度(従って、令和2年調査分は平成31年度と令和1年度(2019年))の調査結果である事に注意!

*2:年によりけりだが、国税庁統計では近年はシャルドネよりデラウェアの受入数量が下位になる傾向にある。

*3:ココファームワイナリーさん・安心院葡萄酒工房さん等で栽培されているノートン(リンク先は安心院葡萄酒工房さんのサイトより)がAestivalis(エステバリス)種との交雑種で知られているアメリカ系品種

デラウェアはワイン用ブドウの夢を見るのか?

正直、私は過去、ワイン用のぶどうとしての可能性を余りデラウェアには見出していなかった…。

日本のワインで言うと、純然たるワイン用のぶどう・いわゆるVitis Vinifera 種(以下、ヴィニフェラ種)のものや、甲州種、マスカット・ベーリーAに代表される“善兵衛品種”などが確固たる地位を築いており、デラウェアは安価な一(いち)原料用としての役割に過ぎないと云うのが、これまでの通念であった感は否めない。

しかし、メーカーさんの努力により、タケダワイナリーさんの『サン・スフル 白』やカタシモワイナリーさんの『たこシャン』などに代表される、広く人口に膾炙する存在のワイン達が、デラウェアのワイン原料としての存在感を高めて行った。

また、高温多湿の日本の気候条件下で“栽培しやすいぶどう”と云う観点から、安定して原料が確保できる“入門編”的な位置付けのワイン原料用ぶどうとして、デラウェアは重宝されて来た。

加えて早生のぶどうなので、早期に収穫して新酒としていち早くリリースさせる事も可能ゆえ、経営的な観点でもキャッシュ・フロー面で直ちに資金化出来る。ある意味これほど利点のあるぶどうは他に無いと云えよう。

しかし、デラウェアの地位が実は安泰でも無い…と云う岐路に差し掛かっている。

これは、農林水産省の統計資料として公開されている、 『特産果樹生産動態等調査』 *1 における「果樹品種別生産動向調査」の生食用ぶどうの栽培面積累年統計(2001年から2020年まで)よりデーターを抜粋しグラフ化したものである。

ぶどう[生食用]の栽培面積累年統計(2001年から2020年まで)、農林水産省:『特産果樹生産動態等調査』における「果樹品種別生産動向調査」より作成


シャインマスカットの勢いが、もの凄い…。
定番のデラウェアを、既に栽培面積で追い越しているのだ❗️

唯一の「勝ち組」と言っても差し支えない存在で、種無しはおろか皮ごと食べれるし、特に子供にウケている甘い食味が市場を席巻している。

この人気は、生食用ぶどうにおいて他の追随を許さぬ一方で、品種登録制度の抜け穴による海外流出や開花異常の現象、最近では生産過剰に伴う値段の下落(個々の問題については本題から外れるので、割愛)など、急速に人気が高まったところに起因すると思われる「光と影」が交錯しているのが現状である…。

かように人気が急上昇したため、シャインマスカットは他のぶどうから品種の転換が進んでいることは否めない。特に、デラウェアの凋落傾向は顕著で、農林水産省の広報誌『aff(あふ)』の2019年5・6月号に掲載されている『品種別栽培面積の割合の変化』を見ると、デラウェアがかつては人気No.1であったことに驚く他ない。

デラウェアというぶどうは、明治の頃米国から導入されたアメリカ系の雑種のぶどうで、当時の殖産興業政策によって全国に広まった
(その辺りの経緯は、当方が事業主を務める「おおさかぶどう・ワインの郷」の歴史の項目に挙げられている【参考文献】を参照されたい)。

しかし、大粒でより甘いぶどう「巨峰」がほぼ戦後に出現したことは、当時において現在のシャインマスカット以上の衝撃であったかも知れない…。

「たしかな事実」のあかし「巨峰」を創った大井上康と仲間たち 〜 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会 Webサイトより
栄養週期理論と巨峰栽培の苦難の歴史 〜 日本巨峰会 Webサイトより

そこを翻しても、定番ぶどうとしてベストセラーの地位を揺るぎなきものにしたのが「無核化(種無し化)」の技術であった。この技術を、着実にものにして技術を積み上げて行ったことで、生産が順調に伸びた。当時は、現在のシャインマスカットの急速な拡大の頃とはまた状況が異なっているとはいえ、農業技術の進歩している現在と比べ環境的に劣る状況にも関わらず、種無し化への転換がデラウェアの地位向上に大きな役割を担っていたのである。

種なしブドウの誕生(1)稲の病菌毒素から生まれたジベレリン 〜 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会 Webサイトより
種なしブドウの誕生(2)若者の情熱取り入れた技術革新 〜 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会 Webサイトよりhttps://www.jataff.or.jp/senjin/dera.htm

だが、確実な種無し化にはジベレリン処理の適期を逃さずにしなくてはならない。人気を博する大粒系のぶどうは基本新梢一本に一房(「一枝一果(“いっしいっか”と呼ぶ)」)が基本なのに対し、小粒で房の小さいデラウェアは新梢一本に2から3房を着けさせる。そして、一房一房満遍なく時期を逃さずジベレリン処理をして行く*2となると、単純にデラウェアは他の大粒系ぶどうの2から3倍の工数を要するのである。これでは、大変である*3

また、デラウェアは小粒系でなおかつ房型も小さいため、一房重が軽くなってしまう。取引単価は生食でも醸造用でも、基本重量単位での単価を元に買い取りされる事が多いので、量をある程度増やさないと、収入面で厳しいものがある。しかも、他のぶどうと比べ相対的に単価が下がっているため余計に不利である。

すなわち、市場の人気面(皮ごと食べられる・甘みの強い食味)だけでなく

  • 特に種無し処理で工数を要し、手間が掛かる。
  • 安い単価や一房重の軽さに起因する、売上の低さ。

の2点で、デラウェアの地位は市場・生産の両面で下がらざるを得なかった…。

今までは老若男女親しまれる生食用として人気を博していたが、この状況では安価で確保しやすいワイン用原料用ぶどうとしての地位も危うくなっている。
質の面では著しい向上が見られる昨今の日本ワイン市場で、課題である「量の面」をなんとか支えれられる可能性があるぶどう品種が廃れようと云う局面に入って来たのだ。
筆者である私自身も、大阪だけで無く山形や山梨の大産地の方々からデラウェアの肩身が狭くなっている事は耳にしている。
ある商品が“終売”となって大騒ぎというのが良くメディアで取り上げられているが、大騒ぎの段階ではある意味“終わっている”のであって、遅きに失した状態である。

だからこそ、打開策は今のうちに必要なのだ…。

しかし、ここに来てかつての“安ワインの原料用ぶどう”と云う通説を覆い隠す、「スペシャルなデラウェアのワイン」が最近登場している。

セブンシダーズワイナリー『デラウェア & ジーガレーベ スパークリングワイン(2022)』

セブンシダーズワイナリー『デラウェアジーガレーベ スパークリングワイン(2022)』

タキザワワイナリー『デラウェア(2021)』

タキザワワイナリー『デラウェア(2021)』

タケダワイナリー『KOANA 樽熟成 白(2020)』

タケダワイナリー『KOANA 樽熟成 白(2020)』

広島三次ワイナリー『TOMOE デラウェア(2022)』

広島三次ワイナリー『TOMOE デラウェア(2022)』

生食用としてもクセが少ないながらもジューシーで滋味深く、ワインにしてもVitis Labrusca種(以下、ラブラスカ種)やその雑種特有のフォクシー・フレーバーが特別強い訳では無いデラウェアでは、質的な面を向上させることによってワインとしての価値を高められると考えられるが、上記のワインはそれぞれ異なるアプローチだがデラウェアの可能性を追求した意思に基づくワインとして挙げられる例である。特に、『TOMOE デラウェア(2022)』は、今年で第19回目を重ねる日本ワインコンクールにて、今まで金賞受賞ワインが無かった「北米系等品種・白」の部門で、初の金賞にしかもデラウェアで唯一輝いたワインである*4
(もしかして、当方が知らない他の逸品もあるかもしれないが、お許しを。)

こうした、質の高い逸品が登場し、中には価格帯でもヴィニフェラ系と遜色ないものが登場した事は、デラウェアのワインの価値を高め新たな可能性を提示してくれただけでなく、量産型の廉価版ワインへのフィードバックで全体の底上げに繋がる。
“ニワトリが先かタマゴが先か”では無いが、乱暴を承知の上で述べると『機動戦士ガンダム』のガンダムとジムの関係性のようなものである(笑)。

もはや、ワインの質が、「デラウェアだから」とか、「たかがデラウェア」とは言わせない…の域に来た事は、醸造面で課題改善に取り組んで来た先人の方々の技術向上による賜物であり、誇りである。
高品位なデラウェアのワインを手掛けている小生にとっても、大きな刺激になっている。

栽培の面についても考察してみると、種有りであれば確かに容易なのは事実ではあるが、質の高いデラウェアを作出するとなれば、また訳が違う。
剪定・萌芽・芽掻き・開花・新梢管理・収量調節・収穫の各段階で基本を踏まえつつより高度な管理を施すことで、質を高められる。これは、他の醸造用ぶどうにも通じるもので、栽培管理のエッセンスが存分に学習できる“打ってつけ”のぶどうだと、デラウェアにきちんと向き合うことで教えられたと思う。また、酸やpHとのバランスに注意を払うことを考慮しなければならないが、果汁糖度の面では割と上げることが可能(18度以上)である。従って、新規参入者には最初に導入する上で、第一候補となるぶどうとして推奨出来る品種だと考えられる。
その一方で、上記の通り原料ぶどうの安定的確保が日本のワイン市場での課題の一つだが、耐病性を有し農薬散布を減らせることが可能なデラウェアであれば、高温多湿の日本の環境で栽培しやすい事から、省力化の技術と結び付ければ量産は可能だと考えられる。
よって、量産性と高付加価値を両立可能となれば、何よりも栽培に向けての動機づけが高められ、作付け面積の減少に歯止めをかけられるであろう。

かつて、「種無しデラ」が新たな付加価値の創出だけで無く、需要と技術の進歩の起爆剤*5となった訳だが、歴史の因果か、今度は「種有りデラ」がワイン用ぶどうとなり、その潜在能力を開花させたファインワインが軸となって、他の量産型ワインを牽引する可能性が出て来た。


釣りの、「鮒に始まり、鮒に終わる」では無いが、生食用ぶどうの世界でも栽培面だけで無く飽きのこない味わいから「デラに始まり、デラに終わる」と言われているが、同じ「ぶどう」が関わるワインの世界でも、実は「デラに始まり、デラに終わる」のかも知れない…。


*1:『特産果樹生産動態等調査』の中に「果樹品種別生産動向調査」の項目があり、この累年統計をグラフ化したもので有る

*2:実際の、ジベレリンによる無核化の処理の仕方については、わかりやすい解説のサイトがあるので、こちら(“やくも果樹研究所”の「デラウェア ジベレリン処理【1回目】」と「同【2回目】」)を参照のこと。

*3:種が入っていると、消費者からのクレームがあるのは事実。

*4:過去の受賞結果についてはこちらを参照のこと。

*5:大粒系ぶどうの無核化技術の詳細については割愛するが、基本はジベレリン処理を中軸にしたデラの無核化技術を発展させたもので、果粒肥大促進のためのフルメットと確実な無核処理のためのストレプトマイシン(商品名「アグレプト」)の併用により、大粒系では難しかった種無し処理が可能になったのである。

「評価」を評価する事の難しさ(その2)〜「最もまずい」と評価されたワインが金賞受賞した話

今、SNSの界隈でワインに関するこちらのネタが話題を賑わしている…。

ソムリエに「最もまずい」と評価された400円の激安ワインが国際コンクールで金賞を受賞してしまう(Gigazin、2023年9月14日記事)
gigazine.net

SNSでのシェアや引用などでは…
「ソムリエは信用ならん…」
と息巻いたり、
「結局自分の舌が全て!」
とニヒリスティックになっていたりしますが、お題にある様に「評価」を評価する事は意外に難しく、ややもするとお門違いの批判もあったりする。

さて、このGigazineの記事と周りの反応を見て思い出すのは、昔小生が、
「評価」を評価する事の難しさ〜国産ワインコンクール再考(2022年9月13日記事、*1
で色々記した事ですが、コンクールの実際を知らないで批評するのでは拙速で、単なる「批判のための批判」になりがちなことが多い。

こうしたワインコンクール(ワインコンペティション)の実態を知ることはそうそう無いかと思いますが、先の過去記事でも取り上げました
国際ワインコンクール体験報告(1)
国際ワインコンクール体験報告(2)
国際ワインコンクール体験報告(3)
(いずれも、「楽天Blog - モーゼルだより」より。)
ドイツワインに造詣の深いライター・北嶋裕氏*2のBlogでの記事を読んで頂くと非常に参考になります。

こうしたコンペティションでは、スポーツ(今ラグビーW杯真っ盛りですね!)でのルールと同様、然るべき状況でイコール・コンディションの下で競われることになります。すなわち、ルールが適切なもので無い限り、この競技の正当性が問われるわけです。その一方で、「俺はこのルールが気に入らん!」と云って文句を垂れるだけでは駄目で、そういうのは丁重にご退場して頂く他無いのです。

そこで議論の的になるのが、審査の公正性ですが、サッカーでも審判の誤審が大問題となったりすることが過去ありましたが、VARやゴールラインテクノロジーの導入も進めることで公正性を担保したりするなど、また野球ではリクエスト制度やコリジョンルールにブロッキングベースの導入などと運営側も真摯さと進化が求められる訳です。
そういったものに対する答えとして、ワインコンクール(ワインコンペティション)の場合、審査方法はもちろんの事、出品の規定、審査員の質など運営全般についてまで実はOIV(国際ブドウ・ワイン機構、http://www.oiv.int)で定められており、明文化(PDFファイル・英文)までされております。また、結果のトレーサビリティーについてもきちんと担保されており、出品者個々の審査員の評価シートまで遡って確認出来る*3ようにもなっていることから審査の透明性が確保されているとも云えます。以上の記述は、 前回の(その1)の時と何ら変わらない考えに基づきます。

こうした議論と検討の結果出来た“レギュレーション”は、公的な機関によって担保されたものであればある一定の水準であるとみなし、“レギュレーション”に準拠したコンペティションであればその結果に対して一定のお墨付きが得られたとして世間の認知を受ける訳です。
で、“レギュレーション”が正当かどうか分からんやんけとツッコミ入れる御仁もおられるかもしれませんが、少なくとも公的機関の認定を受けたものであれば、そうした難癖をつけることがそれこそ「お門違い」になってしまいます。
FIFA国際サッカー連盟)やワールドラグビーラグビーユニオンの国際競技連盟)が「気に入らん!」と言ってW杯の結果を受け入れないという人は流石にいない(いるかも知れないがごく少数・笑)のと同様、所定の“レギュレーション”を満たしている以上、大会は成立する訳です。

で、今回話題のネタにされた「Gilbert & Gaillard International Challenge(ジルベール&ガイヤール インターナショナルチャレンジ)」ですが、果たしてこのコンペティションがOIV準拠の規定に則っているかは、主催者側であるこちらのサイトの“Who are we ?”のページ
www.gilbertgaillard.com
を拝読してもそうした記述も無く、Gigazineの記事中にもある様にエントリーに関してもかなり“ゆるい(苦笑)”条件なのでコンペティションとしての信頼性が???となる訳です。

よって、今回のGigazineの記事で云えるのは、
「このコンクールの信頼性については公開されている媒体からは何とも言えない」
というそれ以上でもそれ以下でも無い結論…に落ち着いてしまいます。

ワインのコンペティションは、世界に星の屑・いやもしかしてそれ以上の数の無数のワインが出品される訳では無いので、コンクール(コンペティション)に「絶対」は有り得ません。
そして、コンクール(コンペティション)が全てでも無いのも確かに事実です。

しかし、コンクール(コンペティション)は単なる権威的なものでは無く背景を知った上で、厳正なる審査の下もたらされた結果を、出品者は厳粛に受けとめ・メディアや売る側や飲み手はあくまで事実として知る、そうした姿勢が最も大事なのではないのか?
色々と考えさせられる一方で、変に斜に構えるのではなく素直に見ていく事の大切さを改めて痛感した次第です。

*1:「国産ワインコンクール」は当時の名称。現在は、「日本ワインコンクール」として開催され20ております。

*2:現在は、インポーター・ラシーヌのスタッフとして活動されており、コラムも寄稿されています。

*3:恐らく、一般の方々は閲覧不可で、出品者など関係者のみが閲覧可能かと思います。その辺の情報はご存知の方は可能な範囲で教えて頂けると幸いです。

リーデル大阪店に“甲州グラス”のことで聴きに伺いました。

残暑が厳しい今日この頃ですが、今年の夏は大変ですね…(何度この言葉が挨拶に出てくるか・苦笑)
当方の収穫が一段落し、ワインの発酵が進みはじめたので、少し安心です。

8月26日、梅田のHarbis ent内に開店してもうすぐ1年となります、リーデルの大阪店にお邪魔して来ました。
www.riedel.co.jp

甲州グラスが、山梨でのワークショップで選定され、はや数年経過しました。私も自宅で評価や嗜む時にはこのヴェリタス甲州シャンパーニュグラスを愛用しておりますが、知人が興味を示していて聴きたいことも有りましたので、お邪魔させて頂いた次第です。

リーデル大阪店

youtu.be


現在、リーデルで“甲州”の名前を課したのは、4シリーズ(ハンドメイドのファット・ア・マーノスーパーレジェーロ、マシンメイドのヴェリタスとヴィノム)が有りますが、実用的にはマシンメイドのが購入検討範囲にあたると思います。
ただ、もう少し廉価のが無いのか?というのもあります。

甲州”の名を課したのは、新世代型シャンパーニュグラス(白ワインとして愉しむのが最近の流れ)になっていますが、このシェイプでは、ヴィノムより廉価で、フツーの一般家庭でも使える最近登場したワインフレンドリーシリーズもターゲットに入ります。4個セットのみの販売ですが、1個あたりのお値段は安く扱いやすいので、実際どうなのか気になります。

(写真1)

まず、写真1ですが、左から、ワインフレンドリー・ホワイト/シャンパーニュ、ヴィノム・シャンパーニュ/甲州、ヴェリタス/シャンパーニュ甲州を並べて見ました。
お店の方によると、シェイプはほぼどれも同じで、厚さが右の方に行くほど薄くなるので、味わいを敏感に感じ取る方では差異があるかもしれませんが、特段グラスの厚さを気にしなければほぼ同等の味を楽しめます。
大きな違いは、グラスの重量でヴェリタスはヴィノムよりも25%軽量なので、手に取った感がかなり違います。あと、ステムとグラスの繋ぎ目がヴェリタスは滑らかで、しかも細い。ヴィノムは触ると継ぎ目の凹凸が目立ちます。ワインフレンドリーは無骨かもしれませんが、ヴィノムとは大差が無いです。
なので、グラスのハンドリング感は
 ヴェリタス>>>ヴィノム>ワインフレンドリー
といった感覚。むしろ、一般家庭ならヴィノムよりワインフレンドリーの方でも遜色なく使えます。
もちろん、本気モードの甲州種ヲタク(笑)ならヴェリタス一択です!

(写真2)

次に写真2ですが、左から、ワインフレンドリー・ホワイト/シャンパーニュ、ヴィノム・シャンパーニュ/甲州、ヴェリタス/シャンパーニュ甲州、ヴェリタス/リースリング・ジンファンデル、ヴェリタス/ソーヴィニョン・ブランを並べて見ました。
ヴェリタスの3種違いですが、上記のワークショップのYouTubeや製品紹介にも有ります様に、最終選考で残ったのがこの3種です。
3種はシェイプが異なり(卵型で底部が尖り気味のシャンパーニュ甲州、角度が浅いリースリング・ジンファンデル、開口部がややおおきく膨らみもあるソーヴィニョン・ブラン)、それぞれの品種に合った特性を考慮しての形状です。

リーデルのお店の方によりますと、

  • グラスの口の傾きの角度
  • 注いだ後の空間(ヘッドスペース)の容積

が重要な要素として挙げられるとのことです。(他にもあると推察されますが、まずはこの2点です。)

(写真3)

「グラスの傾きの角度」は薫りの閉じ込め具合に関わります。甲州は他より香りが繊細なので角度がついているシャンパーニュグラスが良いとの見解です。開口部もソーヴィニョン・ブラン型よりも小さめなので適合しているのも理解出来ます。
あと、角度があることにより、ある程度傾けないと口の中へ注がれ無いので、同じ傾け方で一口あたりの量が少なめになるシャンパーニュグラスの方がより繊細に味を汲み取ることになるとのこと。
優しい味わいの甲州種ならば、フィットしやすいとも言えます。

そして、「空間(ヘッドスペース)」の容積」ですが、薫りを感じ取るためにこの空間が必要でここに成分が広がることから、薫りの量は底面積ならびに容積、鼻腔にすぐ届くかは高さが関わって来ます。
繊細な泡を感じ取りつつも、その薫りを閉じ込めじっくりと味わって頂くにため近年のシャンパーニュグラスはより白ワイン的なシェイプ*1になりましたが、甲州種では品種の特質からもリースリング・ジンファンデル型やソーヴィニョン・ブラン型よりも、新世代型シャンパーニュグラスが合っているとワークショップでも評価された模様です。
実際に3種の比較も、ワインを口にしてのが出来たらいつか試みて見たいと考え中です。

以上、備忘録も兼ねてまとめてみました。

私も、実物で確かめてみたかったので、お店に伺いお話を聴かせて貰ったのですが、色々と参考になるお話を聴けたのは収穫でした。
購入のガイドとして一助になれば幸いです。

この度は、関西地区のエリアマネージャを務めておられます、リーデル大阪店の木下義文様にはお世話になりました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。
ありがとうございました。

*1:パーティでよく使われるクープ型や泡立ちの良いフルート型は、液面から開口部までの距離が近く空間の容積が小さいので、薫りがすぐに抜けてしまう。