ワインに惚れ込んだ北海道を愛する人々が咲かせた大輪の花〜北海道ワイン&鶴沼ワイナリー訪問

小生の訪問記に先立ちまずはこれ(↓)を読んで下さい。万人必読です。

私のなかの歴史 『大地に描くワインの夢』 
北海道新聞夕刊連載、北海道ワインさんWebサイトにリンク)
掲載許諾期限が2007年12月31日までなので、早めに読んで下さい。

(追記:残念ながら掲載許諾期限が過ぎ、リンク切れとなってしまったので、拙Blogの最新記事(2024年3月10日掲載)から、参考文献紹介していますので、そちらもご覧下さい。)

北海道ワイン代表取締役社長、嶌村彰禧氏の波乱万丈の一代記です。この会社を語るには嶌村社長のお話を外す訳には行きません。しかし、社長さんだけで無く幾人の人々が黎明期から会社を支え今でも貢献している事実も忘れてはなりません。リンク先の会社Webページに掲載された記事で、沿革や社の姿勢に関し事実を知って頂ければ幸いです。
(謝辞)
当日は(有)鶴沼ワイナリー代表取締役社長の今村直様、小樽本社ワインギャラリーの渡辺様にはお世話になりました。また、総合企画室の佐々木様には厚く御礼申し上げます。有り難うございました。
(追記)
内容の校正を行い、加筆訂正を行いました。ご指摘を頂き有り難うございます。(2007.8.8.記)
では訪問記、↓をクリック!
その北海道ワインさんが道産原料100%を達成するには、自社の力だけでは限界があります。そこで道内の農家に対し先駆者として自ら指標を示すことが課題でした。鶴沼ワイナリーは実践論のシンボルとして北海道ワインさんの屋台骨を支える存在としてスタートし、現在は「有限会社・鶴沼ワイナリー」としてフラッグシップ商品(『鶴沼シリーズ』)を中心とした原料の栽培農場として運営されています。
この日は農場長兼代表取締役の今村直氏の案内により説明を聴かせて頂きました。総面積447haという広大な敷地の内、栽培地が約220haとまだ拡張の余地を残しており、将来の輸出需要(主に、アジア方面)を見込んでの余力を確保しています。
そうした広大な敷地を管理する為には機械化が不可欠ですが、技術指導を仰いだのがドイツのワイン技師という縁から主にドイツ製のを導入し、品種や対象商品により積極的に使用しています。そして、その余力をフラッグシップ商品用の葡萄に振り向け、人力で丁寧に世話しています。圧巻はハーベスター(ブドウ収穫機)、巨大なトラクターにアタッチメントとして取り付けられるのですがその内部機構の説明を聴き目から鱗が落ちました!(可搬式除梗機といった感じでしょうか。それも木にも実にもダメージを与えないシンプルかつ精巧な仕組みです。)
こういった広大な敷地に点在する畑の各区画の地勢を今村氏は全て把握しておられ、「肥沃なこの区画にはミュラー、粘土質の区画にはヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)、強い風が当たり痩せ地のこの区画には樹勢の強い品種。」といった具合に使い分けてます。また、谷筋を2本有する南東方向の斜面の高台にあるこのワイナリーは水はけも日当たりも申し分無い所です。
悩みの種は、ドイツとほぼ緯度が同じであるにも関わらず積算日照時間が北海道特有の秋の長雨で少なくなること(それでも、適度に乾燥し気温もそこそこなので気候は良い土地柄です。) と、野ネズミの存在(冬場に雪の下で幹回りをカジって枯らせてしまう。地面近くの幹にネットを張って対処。)。しかし、栽培が難しい高貴品種のリースリングと希望の星的存在であるシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)に関して多数のクローンを欧州から取り寄せ、鶴沼の気候に合ったものを選抜しモノにしつつあるのには驚きました。

そして、搾汁で得た果汁もしくはブドウの房で小樽の工場へ持ち込み醸造濾過および瓶詰め(1)(2)へと移ります。それぞれ特記事項を下記に。

自社農園「鶴沼」産の物だけでなく、全道各地の契約農家の分も含めここに毎年2,500トンもの葡萄がワイン用として全て集結します。(但し「鶴沼」産を含む浦臼町産の葡萄は前述した様に鶴沼ワイナリーにて搾汁を行い果汁で本社工場に運び込まれます。)
滴下タンクは8本設置されていてこれらは白ワイン専用で、3本のマイシェタンク(発酵前果皮浸績、すなわち“醸し”タンク)が赤ワイン専用に使われています。また、発酵・貯蔵タンクは300本。内100本が2万リットルの内容量。タンク置き場の風景は圧巻の一言に尽きます。

化学を専攻していた私にとって、一番驚嘆したのがこの工程。風味を損なわない生詰めを貫くためにこれほどの設備投資を躊躇無く踏み切ることに対し賞賛の拍手を送りたいです。
「2.クロスフロー濾過」で酵母除去のために用いているのが、精密濾過装置人工透析が最も多い用途)で、そして瓶詰め前に行う「3. メンブラン濾過」では加圧濾過装置(いずれもリンク先は、Wikipedia)を使ってます。いずれも投資したら数百〜数千万円単位の金額をゆうに要します。

ドイツ製の機械が多い北海道ワインさんにおいてココの工程だけはイタリア産が幅を利かせているようです。瓶詰めおよび打栓は、1立方フィートあたりの空気に粒径0.5マイクロメートルの塵埃が1,000個(外気は1,000,000個程度)のクリーンブースで行い、衛生管理はトップクラスと言って過言ではありません。
どうですか、読んでみて凄いでしょう! で、こうして大切に作られたワインを試飲させて頂きました。今回は分かりやすく葡萄の品種毎にコメントします。


ミュラー・トゥルガウ
北海道ワインさんのイチ押しの品種。ドイツでは二線級扱いの白葡萄ですが、道産のワインは秀逸の出来。何故かは翌日訪問しました松原農園さんのレポで。
ミュラー・トゥルガウ 一番搾り(2006)」(リンク先は2005ミレジム)
搾りたてのフレッシュな果汁を発酵したもので、酸味のパンチが効いてます。後口もスッキリです。(ちなみに、小樽バインさんで2000年物のハーフを購入し、宿で頂きました。搾りたてのフレッシュ感が多少こなれつつも、長命であることを実感! 北海道産ミュラーの素晴しさを目の当たりにしました。)
北海道 ミュラー・トゥルガウ(2005)
此方はスタンダード物。やや甘の分類ですが、実際は爽やかな酸味と軽やかな後口が相まってきっちり作り込まれた端麗(あえて、「淡麗」では無い!)辛口に近い。なぜなら、余韻と芳香が素晴しいです。
○ケルナー
余市といえばケルナーと言うぐらいの有名なドイツ系白葡萄。樟脳に近いような独特の「ケルナー香」と上品さが人気の元の様です。でも小生は優等生すぎて中途半端なキャラかなと感じます。
北海道ケルナー(2005)
リースリングより軽快なのであまり身構えずに飲めるのがこの葡萄からのワインの特色です。ミュラーよりも酸が穏やかなので、そこが人気の元かもしれません。
○ゲヴェルツ・トラミナー
ライチの薫りと後味に余韻と共に残るほのかな甘さが特徴のアルザス地方で有名な品種。房が密着し葉も密生しがちで樹勢も強くなく、その所為か細心の注意を払って栽培をしなくてはなりません。今のところ『鶴沼シリーズ』のみです
鶴沼トラミーナ(2003=金ラベル・20022001)」
工場案内担当の渡辺氏の粋な計らいにより垂直試飲が出来ました。
2004は「金ラベル」で第4回国産ワインコンクール銀賞受賞とマスコミで大きく取り上げられたためにあっという間になくなってしまったそうです。(苦笑)でも、これらのミレジムも秀逸。ちゃんとライチ香と後味の余韻も出ています。
天候不順にもかかわらず、2003年は金ラベル(!)。2004年物ほど爆発的な薫りの出方ではありませんが上品さでは一番だと思います。また、大穴は2002年物。何故これが黒ラベルかが不思議なくらいです。2001年物は初期のまだ粗削りな感じがありますが、後で小樽バインさん(道産ワインを頂けるイチ押しのお店!)で食事と一緒に楽しんだ時はとても美味しかったです。
マスコミに躍らされず、他のミレジムも楽しみましょう!
○ヴァイスブルグンダー(独、仏ではピノ・ブラン)
鶴沼で最も適地適作の品種で今村氏が現在イチ押しの品種。渡辺氏もオススメでした。で、小生も頂きました所、、、
鶴沼ヴァイスブルグンダー(20042002=いずれも金ラベル)」
高畠さんの「上和田ピノ・ブラン」と異なる性格で、ほのかな洋梨の薫りが漂いしかもスッキリ辛口でありながらもコクがある目玉商品! 2004年物はフレッシュ・フルーティー感が、2002年物は熟成の風味が感じられました。此方はワインを嗜む人にオススメ。ピノ・ブランに対する評価が変わりますよ!
バッカス(バフース)
マスカットとモクセイのような薫りと白とは思えない重厚なコクが特徴的です。
実は小生隠れファンの品種です。^^;)
北海道限定バッカス(2006)
バッカスの特徴を十二分に出しながらも、幾分飲みやすくしたもので中口仕立てにすることにより誰もが安心して頂けます。(味わい・香りを生かす点から中口仕立てがこの品種ではマッチしていると個人的に考えてます。)今年6月17日の日記に掲載した「葡萄作りの匠・藤本穀バッカス(2005)」はより高級感を増した風味となっており、葡萄の質が風格に現れています。
○シュペートブルグンダー(独、仏ではピノ・ノワール
今回驚愕させられた出色の出来のワイン。(一番の収穫と言えるでしょう。これだから現地訪問はやめられない!・笑)リースリングと共に開発中の品種ですが、これから記すのを頂いた時には本当に腰抜かしました! 本格的に力入れて造り出した時のことを思うと今後が楽しみです。
ピノ・ノワール 木樽熟成(2002)」
本社ワインギャラリーのみで販売の貴重なワイン。(Webショップのとは別商品)まだ開発途上の時に作られた作品で、洗練さ等出来としては改良の余地はあります。しかし、抜栓して頂いた瞬間、チェリー香の後にスミレの薫りが漂い、カカオのような風味がします。また旨みがあって余韻もあり味わいも優れてます。
アルザスのそれに似ているかと一瞬思ったのですが、枯れた風味とミネラル感が豊富なアルザス産のとは違い、道産物ではふくよかさが特徴的でチャーミングです。(それが特色と言えるのでしょう。)
まさに、遅れて来た主役と言って過言ではありません。今からが飲み頃です!
○トロリンガー
チロル産の黒葡萄。北海道ワインさんではロゼワインに仕立てていますが、葡萄の特性を生かす為に賢明な選択をしたと思います。
鶴沼トロリンガー(2004)
日本のワインで辛口ロゼの良品は少ないのが玉に傷なのですが、このワインはイチ押しのロゼワイン。穏やかな渋さを持っている葡萄の風味を引き出し、厚みと口当たりの良さのバランスを無理なく引き出してます。
レンベルガー
今回初めて賞味するドイツ系の黒葡萄。ドルンフェルダーが柔和で女性的とすれば、レンベルガーは力強く男性的。その上、品位も持ち会わせており。ワインとしては出色の出来でした。
鶴沼レンベルガー(2003)
ようやくこの年になってこなれてきたかの熟成感があります。これからが飲み頃という力強くも端正な赤。薫りもフローラルの芳香が漂いウットリとします。(本当)下手なメルロやカベルネのワイン購入するのなら、此方を飲んで欲しいなぁ〜♪
濃厚な味の肉料理でも充分合わせられます。まさに「ヨッ、男前!」といった感じ。(笑) 是非試してみて下さい。
○ツヴァイゲルトレーベ(ブラウアー・ツヴァイゲルト)
ドイツの隣国オーストリア産の黒葡萄で、道内では広く導入され様々なワイナリーでも販売されてます。北海道ワインさんでも勿論ラインアップに含まれてます。特徴的なトゥの立った酸味が印象に残りますが、ここのワインでは総じてエレガントに酸味が出て全体の雰囲気を壊さない変に突出していない所に感心しました。また、バラエティーに富んだ構成から北海道の赤ワイン入門編として選んでみてはいかがでしょうか?
葡萄作りの匠・北島秀樹ツヴァイゲルトレーベ(2006)
まだリリースしたばかりの新作ですが、既に大物の予感が。新しいものですと、こうした酸の強い品種ではまだ調和が取れず酸味に引っ張られがちですが、若飲みでも美味しく頂けました。流石藤本毅氏と共に『匠シリーズ』に名を連ねる北島秀樹氏作の葡萄だからと考えてます。これから寝かせて置けばさらに飛躍すること間違い無し!
おたる・ツヴァイゲルトレーベ(2005)」(リンク先も2005ミレジム)
普及版の『北海道シリーズ』と並ぶ中核商品である『おたるシリーズ』のプレミアム版に位置づけられますが、お安い値段で購入出来るのが嬉しいところ。少しこなれ、酸味が柔和になっています。タンニンも穏やかになり、渋味も程良いです。
遅摘み・ツヴァイゲルトレーベ(2004)
収穫をギリギリまで遅らせ、糖度が上がり切った時点での葡萄を用いており旨みがタップリと込められています。残糖感をわざと残すことで酸味を包み込むようにし、長期熟成向きに仕上げています。限定醸造品だけあって造り込みには人一倍気を遣って出荷され、その出来栄えは優秀です。
(附記)
「ドリンク&ワイン : YOMIURI ONLINE」の「ほろ酔ひ流」に「鶴沼ツヴァイゲルト・レーベ(2005)」が登場してます。(2007.9.10.)
以上、栽培から醸造・試飲まで振り返ってみましたが、幾多の苦難を乗り越えつつも愚直なまでに道産100%にこだわり、信頼と実績を積み重ねて行った北海道ワインさんの次なる課題は、アジアを中心とした海外市場への進出と高貴品種(特に、リースリングとシュペートブルグンダー)のワイン発売です。後者は一つの光明が見えている、あとは商品としてどのように出して行くか詰めさえ誤らなければ大丈夫と小生は見ております。問題は海外市場、日本との商慣習が異なる海外では一筋縄では行かず、困難が待ち構えていることが予想されます。しかし、大胆な中にも堅実な歩みを嶌村社長の下、多くの社員がその想いを絶やさずに邁進して来たスピリットが健在である限り、この会社は必ずや乗り越えて行くでしょう。
次代(勿論、副社長の嶌村公宏氏がリーダーとして。本当にお世話になっております。改めて御礼申し上げます!)にも引き継がれ、やがて何時かは「日本ワイン」のリーディング・カンパニーとして発展して行くことを切に願ってます。
●関連資料
今回の参照文献は、『日本ワインを造る人々 - 北海道のワイン』です。とても参考になりました。(2006年9月24日記事参照)