おたるワインギャラリーにて“北海道ワイン特別講座”。




小樽の毛無山山腹の本社に併設された「おたるワインギャラリー」。売店では北海道ワインさんの全製品(限定物も含め)が整然と陳列されており、その光景は圧巻です。
 昨年に引き続きお邪魔しましたが、今回は、おたるワインを誰よりも良く知っているワイナリー専属のシニアソムリエ兼北海道フードマイスター阿部眞久氏のレクチャーの元、白ワインを中心にその魅力を再確認することが出来ました。今回も品種毎に阿部氏のコメントも交えながら振り返ってみたいと思います。
相変わらずですが(苦笑)、ヴォリュームたっぷりの内容でお伝えします。続きは、此方(↓)をクリック!
○ケルナー
今や北海道の顔といえる有名なドイツ系白葡萄。一大産地の余市が注目されていますが、北海道ワインさんは浦臼鶴沼ワイナリー含め道内各所の契約農家さんより原料を仕入れています。
<頂いたワイン>
『北海道ケルナー(2007)』と『葡萄作りの匠・北島秀樹ケルナー(2006)』
定番の北海道シリーズでは最近出たばかりの2007年物を(昨年は2005年物)、そして今回初めて頂くのが「鉄人」北島秀樹氏(北海道ワインさん専属の契約農家さん。「先生」藤本毅氏と並ぶ二大『匠』の一人。共に余市在住。)のケルナーです。
軽やかな中にもほんのりとしたコクと独特の薫り(俗に言う、「ケルナー香」。小生は樟脳っぽいと良く言い表します。)が漂うのが特徴です。2007年物は以前に比べ厚みがあります。
そして、北島氏のは物凄い重量感が。以前の物産展で頂いたはこだてわいんさんの『余市収穫葡萄ケルナーフリーラン(2005)』よりも骨格がガッシリとし、深みと味わいのあるコクが出ています。流石『匠』のワインだと感心させられることしきりです。
阿部氏によると、「片親のトロリンガー(トロリンガー×リースリングの交配種です。)が黒ブドウであることが影響しているかもしれません。」とのこと。本来の性格がしっかりした造り手ではより鮮明に表れるのかもしれません。
ミュラー・トゥルガウ
名刺代わりともいえる北海道ワインさんを代表する品種。小生ファンであるこの品種のワインは日常の食卓に是非並んで欲しいと常々思ってます。
<頂いたワイン>
『北海道ミュラー・トゥルガウ(2006)』と『葡萄作りの匠・北島秀樹ミュラー・トゥルガウ(2004)』
共にほんのりとした甘味を残し中口に仕立てたこれらのワインは、強い押しよりも繊細かつ優しさが信条ですが、北島氏のは年が経過していてもエレガンスさを失ってません。また、酸味も奇麗で奥行きも備わってます。強烈な個性の性格では無いブドウなのであくまでも優しい仕立てのワインでこそ真価を発揮しますが、北島氏はブドウの性格を把握したかのように、優しい味わいのブドウはよりエレガンスに、コクがあるブドウはより豪胆にと、性格をねじ曲げず長所を生かすブドウに出来上がっています。本当に不思議だなぁと思いました。
因みに、北島氏はたたき上げの農家さんだけあって、シーズン時は朝から晩まで慈しむように熱心な世話をしてブドウを育てあげているプロ中のプロだそうです。(阿部氏のお話から。他からも「この人には頭が上がらない。」といったコメントを良く聴きます。)きっと、二人の『匠』の存在は計り知れないものがあるのでしょう。(またいつか足を運ばなければと思います。)
○ヴァイスブルグンダー(独逸名、仏蘭西ではピノ・ブラン)
鶴沼ワイナリーの農場長、今村直氏が精魂込めて造る品種。ピノ一族の品種で、こちらは白ブドウになります。最近「鶴沼ヴァイスブルグンダー(2005)」を頂く機会が有り、「まだ堅いなぁ」と感じてました。また、去年の試飲でも2002年物(←既に売り切れです。残念。)の方がこなれていた感じがしていたので、これは「長期に熟成させないと真価を発揮しないのでは?」と考えてました所、、、。
<頂いたワイン>
鶴沼ヴァイスブルグンダー(2005・2004)』と『北海道ヴァイスブルグンダー(1995)』(一番上の写真の右から3本。右から1995、2004、2005。)
今回の試飲で最も驚かされたのがこの試飲! 他の産地のと違い、やはり長きにわたって寝かせて置くことで飲み頃を迎えることを実感しました。北の厳しい気候に揉まれ鍛え上げられ、丹精込めて造られたブドウ故の長寿だと思います。
北海道ワインさんのワインの中では一番辛口に仕立てているので最もごまかしが利かないワインと考えてますが、もし並のブドウだと長期熟成では馬脚を表わしスカスカの水のようなワインになってしまいます。
しかし、小生が予想した通り年月を経るごとにコクが増し(恐らく、現在の在庫品では2001年物が旬と思います。)、1995年物(鶴沼シリーズの前身時代のワインです。なんとこちらも販売中。)ではほんの少し酸化していますが、それも気持ち程度。これは今飲まずして何時飲むか!という本物の「年代物」。前者二点が涼やかな花のよう/なブーケが濃密なものになり熟成によってワインの味わいが深まる見本を体感出来ました。
ステンレスタンクでの発酵後、瓶詰め(阿部氏談)とありのままの状態での勝負なので尚更ハッタリは無用。このワインを頂く機会があれば是非お試し下さい。本当にワインの醍醐味を味わうことが出来ます。
(おまけ)
1990年の『石狩ヴァイスブルグンダー』もお試しで頂きましたが、流石にこのワインは酸化が進んでました。ただ、全く飲めない訳ではありません。フィノのような辛口シェリーの様な面持ちでした。このワインに関しては好みは人によってかなり分かれますが、そこの所は皆さん承知の上で読んで下さい。小生はシェリーも好きなので、許容範囲ですが、、、。

○シュペートブルグンダー(独逸名、仏蘭西では(ピノ・ノワール
まだこれからの品種ではありますが、29日に訪問した山崎ワイナリーさんがリリースされているように、北海道の可能性を感じさせます。(他では「中央葡萄酒株式会社 千歳ワイナリー」でも最近リリース。)
<頂いたワイン>
ピノ・ノワール(2002)』
こちらは昨年頂いた機樽熟成物では無くタンク発酵・瓶熟成物。味わいはやはり木樽熟成の方に軍配が上がります。やはり、ピノ・ノワールは樽とのハーモニーが重要と感じます。まだ試作段階ではありますが、昨年も書きましたようにこの品種に北海道ワインさんが本腰を入れた時がどうなるのか? これからの行方をじっくりと見守るべきです。

(おまけ)
1991年の『石狩シュヴァルツリースリング*1』です。まだ試作レベルの頃の一品で色が薄いですが、この当時のは熟度が結構あって、アルコール度数が12.5度の道産にしてはアタックが強い部類です。よくここまで耐えたなぁと率直に思いました。これは滅多に頂けないお宝ワインです。

<まとめ>
今回の一連の訪問含め、またまた北海道のワインは奥が深いとつくづく感じました。
昔、新千歳空港の土産物街の酒屋さん(「ノルディス」さんです。以前はもうちょっと売り場が広かったのですが、、、。)で十勝さんの良く買っていたと過去記事にも書いていますが、あの時代から思うと隔世の感があります。
ワインの楽しみといえば、一所に縛られることなく多様な視点で色々な所の色々な品種を味わうことが挙げられますが、北海道のワインは単にドイツ系品種が多いというだけでなく、同じ品種でも他にない風味を醸し出していたり等日本の何処にも無い個性がたっぷり備わっているという点で際立ってますし、気候の厳しさを差し引いても農業の比重が大きい自治体で土地が広大ということもあって農家さんのスケールの大きさは他に無い魅力です。
小生思うに、北海道はまだ眠れる獅子でいろいろな面で可能性を秘め、これだけの素地が備わっているのですからもっと真価を出来るのではと考えております。
リーディング・カンパニーの重責を背負う北海道ワインさんは、守備範囲にワインに馴染みの無い一般の人からワイン通までと全方位外交を取らなくてはならず、様々な面において難しい舵取りを迫られますが、そこを跳ね返す底力を有していることは過去の嶌村彰禧社長の立志伝を読めば明らかです。道内はもちろんのこと、日本国内で北海道のワインの実力が正当に知られ、本州の産地と良きライバル関係を築き上げ、今後の日本ワインの発展に結びついて行って欲しい。それが小生の素朴な願いです。
(阿部眞久様、今回の試飲では本当に勉強(いや、知的な「遊び」かな?)になりました。阿部様はじめ、北海道ワインの皆様にはいろいろとお世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。)
○関連記事
雪をも溶かす熱気がやって来た!〜「北を拓く道産ワインの夕べ」開催
(小生2008年2月23日記事)
池袋東武の北海道物産展(大北海道展)
(小生2007年9月22日記事)
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(小生2007年8月2日記事)
●参考文献
日本ワインを造る人々 - 北海道のワイン』(2006年9月24日記事参照)
(追記)
8月5日発売の某ワイン専門誌でも、北海道ネタが取り上げられてます。(偶然にしては出来過ぎだ、、、。笑 あ、小生も読みました。)y

*1:独逸語では「黒いリースリング」と称されるピノ・ムニエです。シャンパーニュ地方での発泡ワインに欠かせない三つのブドウの一つ。「黒いリースリング」と呼ばれてますが、実際はピノ一族のブドウです。詳しくは『The Oxford Companion to Wine(Third Edition)』のp.440と616を参照。