甲州種、山梨県を中心にいまや全国各地で栽培されてつつある日本の固有品種。
そのルーツも解明され、現在はOIV(国際ブドウ・ワイン機構・http://www.oiv.int)にも登録され、国際的にも認められつつある。
【参考】独立行政法人・酒類総合研究所 広報誌NRIB(エヌリブ) 第27号『<特集>「甲州」ブドウのルーツ』
(こちらをクリックすると広報誌の内容がご覧頂けます。→ NRIB 第27号)
そして、甲州種ワインは日本のワインを代表する存在であると言えよう。
しかし、国内では様々な種類の甲州種ワインが存在しており、星の数ほどまでは行かないが多種多様なスタイルのものが市場に溢れている。
日本ワインにとっつこうとするならばまずは甲州をとなるが、じゃあどれを選べば?となるといきなりは難しい。
なので、まずはタイプ別にということから見ていけば良いのではと考える次第である。
具体的には、市場に下記のタイプが出回っている。
- シュール・リー系
- 樽系
- バランス系
- 醸し(オレンジワイン)系
- ニュージャンル
これらのタイプの詳細は別途後ほど記す図表を参照して頂きたいが、今年ほぼ期を同じくしてこれまでのタイプ別の概念を抱合した新しい世界観の甲州種ワインが登場した。
“アヴァン甲州” …である。
当初私は、“新時代甲州”というネーミング(あの、「ウタ」に引っ掛けてである・笑)であったが、昨日(11月11日)“アヴァン甲州”を取り上げた会にてN氏が命名したそれがなんかしっくりと来るので、以後これで通すことにする。
アヴァン甲州とは?となるかと読者の諸兄は感じることだろうが、私はこのように考えている。
かような前提で、繊細な風味や薫りという甲州種ワインの通説を超え、従来のタイプ別のスタイルに捉われない世界観の甲州種ワインである、と云えよう。
具体的には、現在下記のワインが登場している。
左から、
- セブンシダーズ(7c)ワイナリー(https://www.7cwinery.com)甲州キュヴェSN、キュヴェSU、キュヴェWW
- Cave an(https://cave-an.com)A Table 白 天屋原甲州
- cfaバックヤードワイナリー(https://winemaker.jp)Opening Act 甲州
(いずれも、2022年ヴィンテージ。)
それぞれのワインを改めて相対してじっくりと味わってみた。簡単にコメントを付記しておく。
- 甲州キュヴェSN、キュヴェSU、キュヴェWW → コンベンショナルなシュール・リー系と思いきや、それぞれのぶどうの特徴が際立っている。生産地ごとの味わいがストレートに表現されていることに加え、丁寧な仕事ぶりとポテンシャルの高さが伝わって来る。
- A Table 白 天屋原甲州 → ぶどうを知り尽くした篤農家と、栽培・醸造両面で豊富な経験と確かな知識を持つ醸造家とのタッグによるコラボレーションが高い次元で成り立っている。今までの甲州種ワインには見られない、凛とした中にものびやかな余韻を紡ぎ出すスタイル。
- Opening Act 甲州 → ポップな味わいの、開放的な面持ちのワイン。これまでの甲州種ワインは、繊細さが主体で静謐な(あるいは内省的な)世界観のものが多かったが、まるで甲州種ぶどうそのものを“齧った”かのような豊かな味わいと薫り。
甲州種を使ったワインで、ここまで語れるのは中々お目にかかれない。
日本ワインがメディアに盛んに取り上げられようとしていた、2000年代半ば(2004年頃)から甲州種のワインをウォッチし続けているが、時代がようやくここまで来たかと思うと感慨無量である。
今までも、甲州種ワインでは生産者や生産地にフォーカスされて来たもの、あるいはエポックメイキング的なワインが幾つかあった。例えば、…。
- 千野甲州(旭洋酒・https://soleilwine.jp) → 新短梢剪定の生みの親・小川孝郎先生が手掛ける、甲州市塩山千野の山路にて栽培する単一畑甲州の銘柄。数少ない樽に負けない甲州種ワイン。
- アルガブランカ ヴィニャルイセハラ(勝沼醸造・https://www.katsunuma-winery.com) → 笛吹市金川地域内で、かつては小字名で伊勢原と呼ばれていた地域の特定の畑のみを用いた甲州の銘柄。他の地域には無い特有の品種香を産み出す。
- シャトーメルシャン 玉諸甲州きいろ香(メルシャン・https://www.chateaumercian.com/) → ボルドー大学にて在籍された故・富永敬俊博士とメルシャンとの共同研究により産み出された銘柄。甲州種にもソーヴィニョン・ブランと同様の香気成分を有することを見出し、その成分を引き出す醸造手法を取り入れた。*1
- 甲州F.O.S.(ココファームワイナリー・https://cocowine.com) → 醸し甲州(いわゆる、オレンジスタイル)の先駆け。初出の2004年ヴィンテージでは「ミスター・ブラウン」の名を纏った、野心あふれた意欲作。まだ、“オレンジワイン”という名称も無く、ジャンルとして定着していなかった頃であっただけに、驚きの声を持って迎えられた。
こうした、これまでの技術の蓄積の上に成り立ってきた甲州種ワインは、『特徴のないのが特徴』とされてきたのを翻すかのごとく、光を当てる存在となって甲州種ワインの知名度を拡げるキッカケにもなっている。
ただ、下記図表に示すタイプ別の分類*2にもあるように、いわば醸造的手法・技法に基づくものがタイプ別のスタイルとして定着していった面は否めない。
よって、そうした醸造的手法を主体とするものだけではなく、栽培面からの見地も踏まえもっと俯瞰的なものからのスタイルの登場が待たれていた。これは、どうしても日本が外国のワインの銘醸地と比べ栽培環境面で不利な点から、ポテンシャルの高い醸造用のぶどうを得ることが難しいという事情も関係している。
多くのワインが国外から輸入され、産地はもちろんのこと多種多様な品種・有り様のワインが存在する日本国内だけでなく、諸外国へ輸出も視野に入れての生産活動が日本のワイン界でも取り組まれているが、そうした動き如何に関係なくよりレベルの向上は急務で、
「日本ワインだから、良いよね〜♪」
といった贔屓の下、暖かい目だけではなかなか生き残りが難しいのは正直な所ではある。
そんな中、先だってのデラウェアのワインに関する投稿と同様に、甲州種においてもより上の次元へと向上して行くような存在のワインがこうして登場したことは素直に喜びたい。
緻密なワイン造りに、畑でのたゆまない歩みで造られたぶどう、そしてこれらがセットになった総合力を元に日本ワインを取り巻く状況を打破していくことが、未来に繋がる。