続・デラウェアはワイン用ブドウの夢を見るのか?(前回の補足)

デラウェアはワイン用ブドウの夢を見るのか?(2023年10月3日投稿)
okkuu-daaman.hatenablog.jp

前回↑の記事を投稿しSNSでも共有したところ、それなりに反響を頂きました。
そこでご指摘頂いたこともあるのですが、私自身気になることでもあったので少し深掘りしてみる事にしました。

以下は、そうした点を踏まえての補足です。

***** 以下、本稿 *****

日本国内でポピュラーなぶどう品種の一つ・デラウェア
その栽培面積が減少し、新進気鋭のシャインマスカットに追い越されたのは前回の投稿で取り上げた通りだが、醸造用のデラウェアについての生産実態はこの資料だけでは推し量りにくいところもあるのが正直な所だ…。

現在、果樹についての生産に関し省庁で公開されている資料は、前回の投稿でも参考にした農林水産省の統計一覧(品目別分類:果樹)によると、

  • 作況調査(果樹)
  • 特産果樹生産動態等調査 ←前回参考資料

の2種が挙げられる。
上記後者の資料には、「果樹品種別生産動向調査」の生食用ぶどうの栽培面積累年統計(2001年から2020年まで)が計上されており、この統計を元にグラフ化して調べたのだが、「果樹品種別生産動向調査」にはぶどう用途別仕向実績調査という項目も存在し、デラウェアに関しては“生食用品種別(加工兼用品種含む)の加工向け利用状況”にて、「栽培面積(加工目的の栽培園地・下記注釈参照)」「収穫量」「用途別仕向量」が分かる様になっている。
ここで、それぞれの項目は、<特産果樹生産動態等調査の概要>の利用上の注意にて定義が記されており、該当のWebサイトより抜粋すると以下の通りである。

(ア)「栽培面積」については、加工場又は加工を目的とする業者に出荷するために栽培した園地
(イ)「収穫量」については、上記アの園地から収穫量された量
(ウ)「用途別仕向量」のうち「生食向け」については、加工場又は加工を目的とする業者に出荷するために栽培したものの、品質が高かったこと等により、収穫後に生食向けに出荷したものの量
特産果樹生産動態等調査の概要・利用上の注意より

実際に、『ぶどう用途別仕向実績調査累年統計』において「生食用品種(加工兼用品種含む)の加工仕向量の推移」がデーターとして計上されており、この統計からデラウェアに関する項目を抜粋してデーターをグラフ化したものが、下記の【グラフ1】である。【追記:2023年10月17日にグラフ修正しました。下記追記詳細も参照。】

【グラフ1】ぶどう用途別仕向実績調査・生食品種別の加工向け利用状況(デラウェア)累年統計(修正版)


加工用と銘打った栽培面積は年によって大きな開きはあるが、これは農業者である個人ないし農業法人が加工用としているだけで、実際の用途は生食用のが大きく占めている事が分かる。醸造用の仕向量は統計上は1,000トンを超える事が無く、多くて800トン台・少ない時は100トン台でしかない。
一応、念のため最近国税庁にて統計データーが計上されるようになったので、果実酒製造業の概況にて公開されている国内製造ワインの概況(平成27年〜30年度調査分)と、酒類製造業及び酒類卸売業の概況にて公開されている個別調査項目のワイン製造業(令和2年〜令和5年調査分 *1)の調査結果より、果実酒製造免許場へのデラウェアの受入数量が判明しているので、こちらも抜粋した。

平成27(2015)年=1,517トン304トン
平成28(2016)年=1,473トン371.1トン
平成29(2017)年=1,566トン290.3トン
平成30(2018)年=1,446トン438.1トン
平成31および令和1(2019)年=1,392トン479.7トン
令和2(2020)年=1,231トン370.5トン
令和3(2021)年=1,131トン・N/A
令和4(2022)年=834トン・N/A *2
前者(赤文字)国税庁調査による、果実酒製造免許場へのデラウェアの受入数量、後者(青文字)農林水産省調査によるぶどう用途別仕向実績調査での醸造用仕向量

ご覧頂いたら分かるように、国税庁調査(ワイナリーでの受入量)と農林水産省調査(醸造用の仕向量)が異なるが、これには理由がある。
実際、双方の省庁の担当窓口まで電話にて問い合わせさせて貰ったところ、

  • 国税庁調査→果実酒製造者(ワイナリー)側の視点であること、出荷時点では生食・醸造のルート別如何に関わらず入荷した量が記録されている。
  • 農林水産省調査→農業者(個人農家ならびに農業法人)側の視点であること、加工用としての園地であったが実際には品質の良いものを生食用で仕向けられ計上されている。

という統計手法や観点に起因するもので、そこを留意してデーターを見て頂きたい。また、農林水産省調査の加工向け累年統計【グラフ1】を見ても分かるように、年の出来次第で生食用に振り分けられる変動要因が大きく、単価が高い生食用への供給が基本的に優先される傾向にあると云ってよい。

では、実際に日本の国内で、デラウェアがどれぐらいの面積でどれぐらいの生産量で出荷されているかについては、唯一の手掛かりがある。
農林水産省調査の、作況調査(果樹)である。

実は、前回の投稿で、この資料をソースのデーターとして用いようとしたが断念した経緯がある。
理由は、以下の通りである。

  1. 品種別で、「シャインマスカット」の項目が無かったこと。
  2. 作況調査(果樹)の概要の「Q&A」に記されているように、平成19(2007)年3月に作物統計調査全体について見直しが行われ、平成19(2007)年以降のデーターにはデラウェアや巨峰などの品種別の統計が行われなくなったこと。

実際、こちらの長期累年の統計資料では、ぶどうに関しては全国のExcelデーターを見て頂けば分かるように、平成19(2007)年以降はデラウェアの結果樹面積・収穫量・出荷量が記録されておらず、全てのぶどうの合計のみとなってしまっている。

ただ、前回の投稿で用いた「果樹品種別生産動向調査」の生食用ぶどうの栽培面積累年統計(2001年から2020年まで)と、「作況調査(果樹)」でのデラウェアの結果樹面積・収穫量・出荷量(1973年から2006年)を比較して見た。

【表1】作況調査と特産果樹生産動態等調査の比較

「結果樹面積」と「栽培面積」の定義の違いを考慮しつつも、比較しての通りこの2項目はほぼ同じ数値として考えて差し支えが無い。
そこで、この数値を代用し、出荷量は過去の作況調査の数値からデラウェアの単位面積当たりの確認したところ、ほぼ毎年1haあたりだいたい10.14トンと出た。

作況調査の推定とその値の算出について

この値から、後はExcelでの計算で2007年以降を特産果樹生産動態等調査からの「栽培面積」の値で補った推定値という含みおきでこしらえたのが【グラフ2】である。

【グラフ2】ぶどうの結果樹面積・出荷量累年統計(昭和48・1973年~、2007年以降は推定値)

あの、巨峰(現在の栽培面積1位)ですら、10万トン超えを記録していなかった(「作況調査(果樹)」の2006年までの統計数値より最大で7万トン台)ことを考えると、デラウェアが“キラーコンテンツ”的な存在でまさに化け物であったのだ。如何に人気が高かった上に需要もあったかを偲ばせるグラフである。

しかも、2007年以降は推定出荷量ではあるが、生食加工問わず両方込みの量であることも考えると、国税庁調査のワイナリー受入数量に比べ生食用が如何に桁違いの出荷量であることが如実に示されていると云えよう(2020年で出荷量が18,000トン台である!)。

いずれにせよ、前回の投稿のデーターも併せて考察すると、デラウェアに関しては、

  1. デラウェアは栽培面積・出荷量とも年を経る毎に減少している。
  2. 醸造用向けには一定の需要が存在するが、生食用に比べると多くてもおよそ10分の1以下。
  3. 現状では、ワイナリーでの受入数量も減少傾向にある。

というのが、大方の結論では無いかと考えられる。

なお、最後にデラウェアについての出自が、“Vitis International Variety Catalogue(VIVC・ぶどう国際品種カタログ、http://www.vivc.deに記されている。
このデータベースによると、片親がVitis Vinifera種でもう片方がVitis Labrusca種 × Vitis Aestivalis(エステバリス)種 *3の交雑種である事が判明している。

www.vivc.de
https://www.vivc.de/?r=passport%2Fview&id=3498(Vitis International Variety Catalogue, 2023年10月14日閲覧)

この点についても、付け加えておきたい。

以上、前回の補足でした。

【追記:2023年10月17日】
『ぶどう用途別仕向実績調査累年統計』においてデラウェアに関する「生食用品種(加工兼用品種含む)の加工仕向量の推移」のデーターをグラフ化したものが、上記【グラフ1】であるが、平成24(2012)年の収穫量の数値が仕向量の合計を下回っていたため、このデーターについて農林水産省の担当部門様に問い合わせしたところ、当該数値に誤りがあることが判明した。当時の記録についても照会して頂き結果正しい数値もフィードバックして貰った。

今回のデーター作成に関しては、国税庁の担当者、ならびに農林水産省の担当者からご教示頂きありがとう御座いました。改めて御礼申し上げる次第である。

*1:この時より調査年で記されており、統計上は1年前の年度(従って、令和2年調査分は平成31年度と令和1年度(2019年))の調査結果である事に注意!

*2:年によりけりだが、国税庁統計では近年はシャルドネよりデラウェアの受入数量が下位になる傾向にある。

*3:ココファームワイナリーさん・安心院葡萄酒工房さん等で栽培されているノートン(リンク先は安心院葡萄酒工房さんのサイトより)がAestivalis(エステバリス)種との交雑種で知られているアメリカ系品種