本格甲州種ワイン試飲リターンならぬ再現マッチ

再現マッチのワイン達

帰宅後は、行きつけのお酒屋さんで、日本ワインの試飲会が開催されたので顔を出しました。
試飲会では日本の銘醸ワイン赤白問わず数々のものが出品されてました。
個人的には、原茂ワインさんの『甲州シュール・リー(2004)』、オブセワイナリーさんの『Sogga pere et fils 小布施ルージュ特別ヴァージョン クラシック・カベルネ(2005、2006年11月5日記事参照。)』、大阪・仲村わいん工房さんの『超もとい、蝶メルロ』(2002、2006年4月6日記事参照。←「蝶メルロ」、会に来た人誰もが結構旨いと唸っていたそうです。因みに2番目に評価が高かったのが「クラシック・カベルネ」。店主様によると、雨中の新酒祭りに出かけていた土曜日、小生も知っている某有名ワイナリーの方が東京営業の際にお店へ寄られ試飲し、「蝶メルロ」「クラシック・カベルネ」の2本を購入されたそうです!)』が美味しく、小生の好みでした。
で、特別試飲(別料金)として、あの「ドイツの甲州」に加え、以前7月に飲み比べた「デュブ甲州」「きいろ香」「イセハラ」が特別に用意されてましたので、店主のご了解を得てカタシモさんの「甲州葡萄辛口」と昨日の新酒祭りで手に入れた大泉葡萄酒さんの「甲州新酒」を加えてもらいリターンならぬ再現マッチを行いました。
もう一度、再現マッチのアイテムを整理しますと

  • 『ミッテルハイマー・エーデルマン・ラインガウ甲州(2005、2006年9月4日記事参照。)』(ドイツ産、ショーンレーバー・ブリュームライン家さん)
  • 『KOSHU Cuvée Denis Dubourdieu(2005)』(山梨産、甲州ワインプロジェクトさん)
  • 甲州きいろ香(2005)』(山梨産、メルシャンさん)
  • 『アルガブランカ・ヴィニャル・イセハラ(2005)』(山梨・勝沼産、勝沼醸造さん)
  • 『キングセルビー・甲州葡萄辛口(2005)』(大阪・柏原産、カタシモワインフードさん)
  • 甲州新酒(2006)』(山梨・勝沼産、大泉葡萄酒さん、注:「新酒」と言ってもヌーボーの新酒に、柑橘系の香りを加えた新しいタイプのワインという意味を掛け合わせたネーミングなので紛らわしい、、、。)

今度は、情報も豊富な状況でそれぞれのワインの生まれた背景も大分仕入れていることから、その情報を交えながら飲んだ順にコメントを、、、。(味の甘辛度を考慮し、下記の順に飲みました。)
○『デュブKOSHU』
かつて7月の時はスイスイ飲めるがなんか引っ掛かりが無さすぎて飲み応えがないと評しましたが、この時期になると大分還元的雰囲気が取れ、ボディー感が出てきました。ただ、ボディー感が出てきても元が素直過ぎて、そこが足を引っ張り特徴が無さ過ぎてかつ果実味に欠けるのが残念。
○『きいろ香』
7月と比べ、酸と甘味のバランスが少々落ちているような気がしました。ボディー感が上記『デュブKOSHU』と同様少しおとなし目なせいか、それが欠点とまでは行かないのですが目立ちます。香り立つグレープフルーツ系の柑橘香は、2004ヴィンテージより控えめながら健在なのは前回と同様。
○『甲州葡萄辛口』
これまで幾度も取り上げたように、補糖やシュール・リーや樽に入れるなどの小細工無し辛口ワインですが、前の二点が還元的雰囲気を保つために炭酸ガス雰囲気下で醸造を行っているのに対し、こちらは低温でのスキンコンタクトと果汁の冷凍濃縮を行っていることと、高価な設備も無いローカルワイナリーですから還元的雰囲気を保つためにこのワインではSO2(亜硫酸)を前者二点に比べ多く添加してます。(もちろん、日本の厳しい規制範囲内でです!)そのため、7月は亜硫酸に由来する刺激的風味を感じましたが、今回の試飲では次第に抜けて元々あるボディー感と豊かな風味(酸・甘のバランスも含め)がいい塩梅になりつつあります。今年の8月、社長さんにこの事を伺ったところ、その点は百も承知で「三・四年寝かせても大丈夫なように」云うことで意図したものであって、2006年4月6日記事にあるように「またまだ完成形では有りません!」とキッパリ仰られていたことから改良の余地があるもののこれから先が楽しみです。
特筆すべきは、前述の8月訪問で、テロワールの違いや同じ甲州種でも原始の姿に近いことから、ボルドー液無散布で香りを引き出すのではなく、醸造で香り(またそれも「堅下本ブドウ」元来ので、同じ柑橘系でも南国系の夏みかん伊予柑デコポン等に近い。)を引き出すことに注力していると語っておられたことです。カタシモさんも徹底した減農薬で栽培されてますが、地の葡萄を知り尽くした社長さんが地力のある良質なブドウを栽培されていることから生み出せる逸品と考察してます。
(小生の故郷のワインということで贔屓がかっていることを差し置いても、前日の日記のサドヤさんや大泉さんと同様にいい意味で「It's my style!((C)yasuさん)」をさり気に出してます。)
○『甲州新酒 2006』
勝沼の地酒』で有名なこの会社もある意味地のブドウを知り尽くし、こちらは元来山梨で普通である甲州種ワインの伝統的風味の『完成形』である「残糖を残しやや辛にした優しい口当たりの仕立て」に仕上げてます。で、香りも上品なグレープフルーツ系柑橘香が出ており、安心感のある味わいです。こちらは、香りを引き出すために『デュブKOSHU』や『きいろ香』と同様、ボルドー液無散布でブドウを栽培しております。
飲み比べでは、ワイン歴問わずいろんな方から結構好評でした。やはり、「いつもの味」ということで安心されるのでしょうね。新酒独特のフレッシュ・フルーティーさもこれに拍車をかけているのだと思います。(前回の7月のときは1年近く経過した2005年の新酒で、同様のフレッシュ・フルーティーさを感じたことからシッカリとした技術を持ってらっしゃる事が推察されます。)
○『アルガブランカ・ヴィニャル・イセハラ』
同じ「残糖を残しやや辛にした口当たりの仕立て」でも、こちらは「カツジョー」さんらしいキャラの立ったスタイルで何処にも真似出来ない硬質なミネラル感(←風間さんの畑の特質は柑橘香よりもむしろこの「硬質感」に表現されている。勝醸さんはこの点を把握して柑橘香を引き出す「硬質感」と素直に宣伝したらエエのとちゃうのかなぁ?)を強く感じます。柑橘系の香りはミネラル感も相まってロワールのソーヴィニョン・ブラン系(決してボルドー・グラーブのそれではない)に最も近い爽快感のあるもので、勝醸さん独特の路線を示すシンボリック・ワインと記したのを思い出しました。
○『ミッテルハイマー・エーデルマン・ラインガウ甲州
今回の真打ち。小生もこのBlogでよく取り上げてましたが、「山梨の方にとってはカルチャーショック」だったというのが口にしてよーく分かりました。
ふくよかな味わいの中に、まず丸みを帯びた独特の酸味(鳥居平の甲州の酸味とはまた異なる!)が口の中に広がります。そして、次に甘味と他に比べる際立つ独特のミネラル感(『イセハラ』の硬質さとは異なります。)があいまった風味が現れ、その後の複雑な余韻が特徴的です。特定の要素がエッジを立てている風味では無く、全体の調和を重視していると見受けました。
目隠しされて飲まされたら、誰も絶対に「甲州種」とは言わないと思います。むしろ、リースリング系のブドウの風味が乗り移った(また聴きですが、知人が「バッカス(ドイツ系ブドウ品種の一種)のようだ!」と語っていたのには納得。)かのようです。そういう訳で、(山梨の)甲州種ワインを飲みなれている人には物凄い違和感を感じるかもしれません。ただ、それはテロワールの違いが反映された結果「異質で口に合わないもの」に感じてしまうと小生は考えており、ワインそのものの完成度は高いと思います
その根拠として、荻原葡萄園さんのブログのレポートにもあるように、ショーンレーバー氏が甲州種の特性を把握した上で「樽に入れるのは疑問」とか「シュール・リーは考えられない」などハッキリと言っておられることから(因みにスキンコンタクトのみで補糖は無し。)ある意味、「ドイツのテロワール」全開というのが際立っているのでしょう。また、ドイツワイン醸造の根底に流れる歴史は日本のそれとは当然違いますから、異なる流れになって来るのは当然だと思います。
小生が考えるに、「この味わいを単に真似する」のでは無く栽培や醸造に対する姿勢を学び取り、「甲州種が醸し出す日本の滋味」を地域やワイナリー毎に個性を打ち出しながら小手先のテクニック無しで引き出していくことが重要だとつくづく感じました。