失われて行く『食の意識』への警鐘。

タイトルだけ見ると「え?」と思われるかもしれませんが、中身は地に足着いた至極真っ当な内容です。
よくある国産だったらなんでも安心と勘違いしている「国産原料100%原理主義」や、地域ブランド至上主義の功罪にも触れた上で、

 『自分たち(国内)ではまかなえないもの」に対しては、海外からやってくる恵みをありがたく享受すべきでしょう。しかし、「自分たちでまかなえる(のに、安易に輸入品に頼っている)もの」に対しては意識的に「国産比率」をあげていく努力が必要だと思います。』
(173ページ)

と訥々と述べておられます。
そして、

『消費者が正しい知識を持って情報を知ること、すなわち「大人にとっての食育」もまた、いまの時代に求められていることだと思うのです。』(127ページ) 

完全「国産」主義と書かれてます。小生が常々このBlogでも書いているように、単純に「食の自給率上げよう」とか「ただ国産ワインの消費量増やせ」だけでは手詰まりになるのは自明です。農家さんが胸張って収穫したのを送り出せるようになり、造る人も・頂く人もお互いに敬意を払えるようにならないと、今の食のゴタゴタはおさまらない。
生産者に対し安直な姿勢を責めるだけでは不毛な論争になりがちで、実際消費者が生産者におんぶに抱っこになっているのも事実です。このような状態では、単なる保護政策や過剰なコンブライアンス(法令遵守)に陥るだけで、経済の活性化や生産者の矜持回復といった本質的な面での解決から遠のくばかりでしょう。
ブドウ生産者への敬意を丹念に綴りながら、「ワイン業界人」ではなく「食の生産者」と云う大局的かつ多面的な視点で問題提起をしています。専門的な話に終始せず一般的な話も交え、かつ分かりやすく丁寧な文章で書かれているので、一度手に取って読んで貰えればと思います。お薦め。
完全「国産」主義 〜 食品メーカーのあるべき姿 〜
東洋経済新報社:刊、嶌村彰禧:著)
(追記)
この本を読んで思い出すのが「北海道拓殖銀行」。
拓銀の悲劇山一の廃業が再び世界で繰り返されているのを見ると、『筋を通した』ことが運命の分かれ道になったことを思い知らされます。
拓銀に融資を断られ、生業としかつ道内の産業振興を目指して設立した会社を畳まざるを得なくなり、ワイン一本で身を立てる事を決意して転身した著者が今こうやって生き抜く事が出来た。一方、その拓銀は融資した会社と共にこの世から退場せざるを得なくなった、、、。
本当に世の中は諸行無常やなぁと思い知らされることしきりです。
(追記2:2008.9.22)
一部加筆を施しました。