(書評)『リアルワインガイド - ブルゴーニュ』を読んで

リアルワインガイド - ブルゴーニュ
某氏の影響はさて置き(笑)2006年12月17日での記事でも触れた「ブルゴーニュワイン」、各人好き嫌いはあってもワイン愛好家にとってはどうしても気になる存在であることは間違い無いでしょう。
為替の問題はともかく、最近は中国やロシアマネーの流入で銘醸ワイン全体の価格がつり上がっている現状でどうしても価格に見合う形で手にしたいのはファンならずとも当たり前の話ですが、生産や畑の管理が部外者には把握しきれないほど細分化されているという理由から、ブルゴーニュのを購入するために何処で誰がどうブドウやワイン造りに関わっているかの情報を仕入れるのは至難の業です。ましてや、極東のこの地では生の情報を知ることはもうお手上げです。
そんな逆境を跳ねのけ、単身渡仏し体当たり取材を敢行した堀晶代氏の著作は現地の生情報を知る上でも貴重な本である事と、近年のワイン界で常に議論となる二つの話題についても著者なりの考えで持って一つの解答を示していると云う二点で評価されて然るべきと感じてます。
その二つの話題とは、最近流行の『「自然派(ビオ)」ワイン』と値段と味のバランスが見合ったものになってる『本当に美味しいワインとは何ぞや?』云うものです。前者は近頃のメディアで盛んに取り上げられている課題であり、後者はワインを始めて味わう人からしょっちゅう頂く人までいつも頭を悩ませる永遠の課題でしょう。
まず、前者についてですが、ボクは以前、あんな記事(2006年5月8日)こんな記事(2006年7月21日)を書きましたように、近頃のブームを見るにつけ『「自然派(ビオ)」』という言い方はあんまり好きや無いんです。と、いうか『敬意を払って真っ当に農作物(ブドウ)造ってる人』、その方が相応しいと思うてます。ただ、昔は科学技術が発達してなかったから良きにつけ悪しきにつけ自然と寄り添わんと生きて行かれへんだっただけで、現代において何でもかんでも「自然礼賛」は「ちょっとちゃうやろー!?」とツッコミ入れたくなります(苦笑)。昔の日本でも、氏神様にお祈りして五穀豊饒を願う素朴な信仰がありましたが、それは人々が心の安寧を求めるだけで無く多面的な自然観察に基づく農事サイクルの見極めという経験論を構築する過程で産まれたのでは?と考察してます。
そういった経験則を体系化する試みの一つがルドルフ・シュタイナー(リンク先はwikipedia)のバイオ・ダイナミクス理論であり、その存在の是非についてはとやかく言う積もりはありません。ただ、ボクは「自然現象を一つの側面からしか見ていない」「シュタイナー本人はともかく唱えてるコトが現実一種の宗教と化している」「中には手段が目的化している生産者がいてる」という三点と、理系出身である理由からどうも斜に構えてしまうのです。やっぱり、前述の5月8日の記事の様に人智と自然の力を頭使うて取捨選択し営むのが普通とちゃうのかしらん。そんな所にこの書籍が発刊された訳で、安易な『「自然派(ビオ)」』ブームに警鐘を鳴らすと同時に、できる限り噛み砕いて正しい知識を説いている数少ない書籍でしょう。
(専門書はともかく、一般書で「リュット・レゾネ」、「ビオロジー」、「ビオディナミ」の三つの言葉の定義に関してチャンと区別して解説している本にお目に掛かった事はムッチャ少ないです。)
それと、後者についてはパーカー氏云々以前に、技術の発達で「アルコール入り濃厚ブドウジュース」でも遜色無いワインが造れるようになり「結果だけ良けりゃエエやん」の道を辿るワイン業界に対して心ある人々が憂い、真っ当な選択肢を取る事が却って窮屈になっている(というか、最近食品全般や農業でそうなんですよね、、、。)と誰しも感じているのではと思います。
そうすると、出来るだけテクニックに頼る事なく何でもかんでも手作業のワイン造りが原点に返るという意味では正しいですが、それが単なる「温故知新」に留まっている限り産業として成り立たないし、却って敷居の高いものにしてしまう矛盾も抱え込む危険性も孕んでます。
当然造る人が生計を立てる事も必要やし、飲む人も普通に手の届く所に無ければ経済そのものが成り立たない。無尽蔵に生産出来るものではないので、需給のバランスを取りつつというのが実際ですが(確かに、この本に掲載されている生産者全てのワインをさあ買えるかというとどうしても限られたルートと数になってしまいます。)、それこそ人智と自然の力を取捨選択しつつ、それでも手塩に造ったものを限りある中でもチャンと売りたいと想う心の行き場を、こういった情報発信により埋もれてしまわない様にすることこそが何よりも大事なのでは?と思わずにいられません。
幸いにも、真っ当な造り手の心を伝えることに関してはネットが発達した今では大分恵まれてます。ただ、いろんな情報が錯綜しているのも否めません。あとは消費者の責任と切って捨てる事は簡単ですが、それは経済的なトコロだけでなく人の「心の繋がり」を切ってしまいかねないのです。よって、この書籍は「ワイン界」というごく限られた領域だけど、人が生きて行くために必要な「食」の観点から見ると形あるものとして情報を残すと言う意義で役目を果たしていると同時に投げ掛けたものは大きいではと感じるのです。
ワインに限らず、誰しも物を買う時にはやっぱり迷いは生じます。(小生もまだまだデス。そう考えると、ウチの両親はその辺の見極めを色々と教えてくれただけで無く、いまだに勉強させられるコトが多いです。) そんな時、飲み手が個々の嗜好に応じてどんなワインが良いのかな?という選ぶことの楽しみを再確認させてくれる。それだけでもこの本を手に取る価値はありますヨ。
(追記 - 2007.3.9.)
折角ですので、仏でのビオに対する関係者ならびに堀氏の見解が載っている「フランスの小さなワインニュース(2003年9月、ニコラは、学者か魔術師か?)」を参考記事として紹介します。