傾聴に値する所もあります〜リアルワインガイドの特集を読んで

Real Wine Guide(2009年 1月号)発刊されたのが12月の中頃ですので一月近く経過していますが、今なら冷静に俯瞰出来るでしょうと云うことで(ちょっと言い訳? 苦笑)、新年最初の記事として今回取り上げるのは、表題の雑誌『リアルワインガイド(2009年 1月号)』。
巷のblogやSNS等日本ワイン関連の話題を扱うネット界隈では結構賛否両論で(何となく否定的見解が多い様な気がする。)、ちょっとした物議をかもしているようだが果たしてそうだろうか?と言うのが小生の意見。
中には強引な持って行き方や独りよがりな批評はあるのは事実ですが、特に着目した所は、22ページの『大手メーカーの本格志向のワイン、そして会社が執るべき方策の提案』の項。二点問題を指摘しています。すなわち、

  1. 守旧的なワイン観に基づく路線
  2. 「日本産もどき(雑誌本文では「偽日本のワイン」)」が存在する事実

についてです。つまり、本格派志向と言っても前時代的な面が尾を引いていて実際に市場での「嗜好」とは部分的にしか当てはまっていないところや、一方でコストの安いデイリーの領域にてわざわざバルクやマスト(濃縮果汁)を海外から仕入れて国内で発酵して製造し何故か「国産」と銘打って販売する*1のは、並行して安価な輸入ワインも製品として輸入していることを考えると二重投資による経営資源の分散で無駄が生じているのは間違いありません。*2
以前(2008年4月11日記事)にも小生が

『リーディング・カンパニー』としての責務だと思います。

と記したように、酒類のシーンをリードしている大手だからこそ、曲がりなりにも採算と造りを両天秤に図りながらワインに関しても(ビール類は勿論のこと)製造・販売をやってのける芸当が出来るはず。例えば、サントリーがかつて「シャトー・ラグランジュ」で行った高級ワイン市場の製造への参入をヒントに、発想を転換して一般的なデイリーワイン製造は世界のワイン産地の農場やワイナリーと提携して現地で生産する形態としてブドウ栽培のノウハウ蓄積・原料と加工地の近接・現地産業の育成といった面の拡がりを見据えたものへと変え、インポーター事業と共に輸入ワインで投資を回収し、その利益の一部や海外での栽培・醸造で得た蓄積を応用して(こういうのこそ日本のお家芸だ)日本産のブドウに特化した国内製造へ還元して農産業の発展に繋げるようなブドウ栽培・ワイン醸造へと集中する方が理に適っていると考えるのは小生だけでしょうか? (時代が変化している今こそ、負の方に考えるのではなくある意味チャンスかもしれない。)
結局、メインストリーム(=大手)が本腰入れてワインで「(良い意味で)儲けよう」としない限り、輸入も含めワインは色物の域を超えることは無く、日本ではブームで消費されるだけの浮ついた存在のままで未来永劫推移するだけに終始し、隙間を埋める中小の個性的なワイナリーがもたらす活性化も望めません。 (この事は、農業・製造業・IT・サービス業問わず全ての産業に普遍的な事実です。)
あと21から22ページにも触れているように、中堅どころや優良ワイナリーで秀逸なものも見いだしている一方で、なんと言っても同価格帯の海外の真っ当な造り手さんのワインと比べると全てがそうとは限りませんが根負けするのは否めないでしょう。特に、高価な製品ではコストパフォーマンス的な所(高価でもコストパフォーマンスは重要なファクターです。)だけで無く、言葉では説明出来ない「華」となるプラスアルファの演出で差が出ているのも事実なのでは無いかと思います。*3
日常ならびに非日常の場といったシチュエーションを問わず「飲まれる」ことに焦点を絞って考えると、まだ日本のワインのレベルは実際問題それだけレベルが追いついていない所もある一方で、逆に言うと未知数でありこれから伸びしろもあるという事だ! 小生が実際に飲み聴きして、かように実感することは間違いないことで、そう考える方が建設的では無いかと思うのです。
一つ注文を付けるとすれば、今回ワイナリーさんへの取材は敢行せず、あくまで白紙の状態でワインを評価したことにより、中途半端に背景を知る事により却って評価の内容に「色目」が付くことを防ぐ意味ではよかったと思います。ただ、これだけ取り上げたのですから、これからはしっかりとした取材による一次情報を元に日本のワインを取り上げて貰いたいと云うことです。
(追記)
本題とは外れますが、貴族主義的であまりにも日常と乖離した「ワインライフ(笑)」に染まっている『ワイナート』や『ワイン王国』(「スイーツ(笑)」に通じる物がある。実際この2誌に取り上げられるワインを飲んでるのはごく一部の層なのにねぇ、、、。)に対する「カウンターカルチャー」として登場した『リアルワインガイド』。
そういう面で登場したばかりの頃は異彩さを放ち一線を画してはいたが、最近方針が迷走気味でまた一面的な批評が目に付くのが気になります。ちょっと「リアル」さが抜けてきているのは気の所為かな?
○関連記事
まずは、小生記事。「【小連載】本当に「日本のワイン」が認知されるためには」
その1は2008年3月11日、その2は2008年3月13日、最終回は2008年3月14日に掲載。
それと、こちらも。
失われて行く『食の意識』への警鐘。(2008年9月20日小生記事)
「日本産もどき」のワインに関する問題をバックデータを踏まえて理路整然と指摘している書籍を紹介しています。

*1:日本産ワインの原料に関する指摘は常々小生が過去にも記事にて記してますが、「無添加」とか「有機酸・ポリフェノール含有」といった、お酒なのに健康志向を謳う本末転倒な所(苦笑)にも疑問点があります。それに、安いのをのべつ幕無しにつくるのは過剰生産になるだけです。

*2:まだ、サッポロさんが2月から販売予定の輸入ワインを国内で瓶詰めして「輸入」と謳っている方がマトモ。(リンク先は「YOMIURI ONLINE」。プレスリリースはこちら。)

*3:よく日本のワインを「癒し」や「和み」といった括りで取り上げがちですが、それは単なる逃げ口上というか言い訳にも聴こえかねません。優れたワインは陳腐なキャッチフレーズを超えた新鮮な感動や発見があって然るべきかと。