植物(ブドウ)の生理を理解していない剪定方法を提示するのはいかがなものかと、、、。

ある果樹園芸技術の雑誌に、甲州種におけるX字型長梢剪定の解説が掲載されており、師匠と栽培者仲間・私の3名でこれを読んだところ、絶句する他ありませんでした。(3人とも、「間違ったことを平気で書くなんて、、、。」と呆れてました。技術書がこのようなことをしてはいけない。)


上記図は、例の雑誌に記されているものを小生が起こしたものです。『図2:結果母枝の剪定(甲州)』という題で「はさみ枝を残す場合の例」とキャプションが振られてました。実際にこのような枝の置き方では、この枝が強い勢力となり尚且つ枝全体でのバランスが崩れます。よって、このような剪定は「ありえない」。理由は、以下の通り。

  • (1)と(2)を置くはさみ枝(剪定技術用語で、先端の2本を残すこと。)は、生長点となる部位の生育が加速される頂部優勢を増進させ、養分流入が強くなって太い導管が形成される。
  • (3)と(4)と置く車枝(剪定技術用語で、隣接する2本を残すこと。)では、2本の枝に養分が集中し、(4)の部位までの枝の生育と先端までの枝の生育が不均一となる。

特に甲州種では、はさみ枝と車枝は厳禁です。顕著にこれらの作用が表れ、取り返しのつかないことになります。
実際は、下記の図に示す通りの枝の配置が考えられます。2本配置の場合が左、3本配置の場合が右です。この側枝だけを見る限りもっとも望ましいのは、状態の良い枝を出来るだけ残すことを念頭に入れた(1)と(6)の枝を置くやり方です。(背景に色をつけた図)


根に近い基部の枝でも、間隔をおいて尚且つ内向枝(剪定技術用語で、先端と逆方向を向いた枝を指す。ここでは、(2)(4)(6)が内向枝。対義の用語が「外向枝」。)であれば、状況によっては残すことも可能です。従って、3本配置の場合も候補になります。
良質の果実を、品質のばらつきを最小限に抑え最大限収穫するためには、程よい樹勢でバランスの取れた樹体でなくてはなりません。この枝だけを見れば背景に色を付けた枝の配置((1)と(6)を残す)が模範解答であってもこの枝1本の局面だけであって、現場では周囲の空間や同じ樹にある枝全体のことを考慮すると4通りの答えから最善の剪定を選択します。
X字型長梢剪定の技術的詳細はここでは省きますが、なぜこれが難しいかと問われると1本の枝単体では無く、4本の主枝全てにおいて適正な配置を施す必要があるからです。しかし、植物の生理に基づく原理原則を理解し、論理的に枝の配置を検討することでこの剪定方法が体系的に理解出来ます。
最後に、X字型長梢剪定を行う上のポイントは、

  1. 先端となる枝を吟味した上でまず決定し、そこから手を付ける。
  2. 次に、内向枝スタートを基本とし外向枝スタートも含め基部からどの枝を残すかを選択する。選択においては、樹型に拘るよりも良質な枝の状態であることや空間配置を考慮する。
  3. 先端から基部まで均整のとれた勢力となりうる枝となる様に仕上げを行う。

の3点です。この方法は単なる「カン」ではなく、経験と理論の蓄積に基づいた知的頭脳労働で、最もエキサイティングな作業です。(実際、剪定鋏を使ったり枝を手で取ったりと肉体労働もありますが、それよりも脳味噌がフル回転し頭脳の方が疲れます。全く最初の頃は本当に「頭が疲れる」。)
まだまだ駆け出しですが、もっともっと技能を高めて行きたいと思う今日この頃です。
[追記(2010.1.21)]
一部加筆訂正を行いました。(剪定枝の配置について)