「みちのくのグラン・ヴァンから世界に誇れる日本のグラン・ヴァンへ」タケダワイナリー訪問

ついに、待ちに待った日が来ました。ようやく実現した「憧れのワイナリー」への訪問です。上山温泉といえば歌人で作家の斎藤茂吉がまず思い浮かびますが、もう一つ忘れてはいけないのが「みちのくのグラン・ヴァン」として名を馳せるタケダワイナリーさんです。
タケダさんは、数年前、日本でも希少なヴィオニエのワインを生産していた(2000年のヴィンテージ、他は記憶の限りではオブセワイナリーさんです。)のを捜していたところ、辿り着いたのが最初の巡り合わせです。その後、NHKテレビの『生中継 ふるさと一番!』(2005年11月30日放送。この番組はたまたまウチの親も見ていた!)と3月22日の記事で取り上げたTBSの『ワイン大国を夢見た男たち』を見た事と、偶然にもほぼ日を近くして平塚でのぶる魂氏の企画東京の「る・ぴあの」でのワイン会代表取締役社長の岸平典子氏にお目にかかる事が出来(感無量でした)、その存在がボクにとって大きなものになって来ました。
こういう事だけでしたら、「伊達や酔狂で」や「とんだ贔屓の引き倒し」になりかねませんが、私がタケダさんを高く評価する理由として、

  • 年間40万本(720ml換算、石井もと子氏監修の「休日はワイナリーに行こう」(イカロス出版刊)より。)の中堅クラスながら「造り手の顔が見えるワイナリー(先代:武田重信氏、現社長の岸平氏共々)」であること。
  • そのワイン全てが、山形県産のブドウ100%でまかなわれていること。
  • レギュラークラス(何と、税込みで1,071円!)からトップクラス(スティルのシャトー・タケダシリーズとスパークリングのドメイヌ・タケダ《キュベ・ヨシコ》)まで非常に高い酒質のワインであること。

が挙げられます。加えて、そういった偉大なワイナリーにして決して奢らず高ぶらず、敷居が高くないアットホームな雰囲気を共有しているのが最大の魅力です。その例として、顧客に送付されるダイレクトメールに同封されている「ワイナリー通信」(四季毎に発行)の巻頭を飾る『菅井由美子のワイナリーひとり探検隊』がホンマに面白いエッセイで、フツウのワインが大好きな主婦がタケダワイナリーを中心としたワイン造りから食べ合わせ(敢えて、マリアージュとは言わない。)大実験(笑)まで幅広い話題を楽しく綴っておられます。(ホームページの"What's New!"の所をクリックするとバックナンバーも含め見れます。ちなみに、ボクはこのコーナー読むのを無茶苦茶楽しみにしています。)
さて、当日は宿泊していたひがしねベアフットYHさんから天童最上川温泉「ゆぴあ」まで車で移動し、そこを起点にロードバイクで往復する事にしました。時間差し迫る中大急ぎで上山市に向ったのですが、途中道に迷い上山のガソリンスタンドのオッチャンに尋ねたところホントに親切丁寧に教えて下さったのに涙が出そうでした。そんなシチュエーションで遅れてワイナリーに到着した所、颯爽と赤い車で畑から戻って来られました岸平典子様と「あら、コンニチハ〜♪」と鉢合せになり、憧れの大スターに再びお目にかかる事が出来、頭の中は嬉しさの余り沸騰寸前でした。(スミマセン、ミーハー丸出しで。) そんなはやる心を抑えつつ、落ち着きを取り戻しまずは社員の三部様のご案内にて畑と設備を見学しました。
番組やワイン会等で既に知ってましたが、現地で生で見て驚いたのは15ha(東京ドーム2.5個分!)の自社畑と夏でもクーラー無しで約15℃に保たれた整然とした貯蔵庫(セラーというにはデカ過ぎる)と綺麗に整備された機械設備(フランスやイタリアなどの外国産が殆どですが、行き届いたメンテナンスにより10年以上は稼働しているのです。)、そして当然中には入れませんが圧巻は大型タンクが30から50近くは入っている醸造室で、赤ワイン用に日本酒でも使われるホーロー製、白ワイン用に温度管理の出来る水冷ジャケット付きのステンレス製のが整然とあつらえています。また、山の斜面に切り開かれた自社畑は上の車道からも眺めることが出来、その風景は壮観です。ちなみに、最初に触れたヴィオニエの畑はワイナリーの建物のすぐ側にあり、見た感じ50m強四方の広さですが、ワインにするとたった一樽分の貴重な量なのです。
で、今年は天候不順でブドウの出来が心配だと社長の岸平典子様にお尋ねした所、なんと全ての畑で例年以上に低農薬で進めており、「ケミカル(農薬)1回でここまでもったのは自信になりました。」と語っておられたその目には『確信』の二文字がハッキリと見えました。さすがに、4月14日の記事で取り上げた「豆畑」は少々元気が無いようだと語っておられましたが、今は完全無農薬への移行期間でもありブドウが自然に備わる生命力を復活させている最中なのでこれからからが正念場と感じました。(でも、自然の力は偉大です!きっと復活するでしょう。小布施さんのブドウも雹害から立ち直りつつあるとDMのお便りに記載されてました。)とにもかくにも全ての畑に関しては、今回登山でも泣かされた梅雨空から一刻でも早く開放されればと思いますが、あとは気候次第で良くなる可能性はまだあるので、今後の天気が良くなることを願ってやみません。
その後は試飲ですが、今回はわざわざ時間を割いて下さった岸平典子様同席の下で頂くことになりました。まずは、シャトー・タケダ(赤・2001)とドメイヌ・タケダ《キュベ・ヨシコ》 (2001)からです。とにもかくにも、「グラン・ヴァン」の名に相応しい余計な寸評など無用な銘醸品です! 途中、岸平典子様が「シャトー・タケダ(赤・2004)も試飲できますよ。」と教えて下さったのを聞き、すっかり頭の中から抜けていた『専門料理2006年8月号』(柴田書店刊)に記されていた8月1日予約開始を思い出し、「いや、こちらはあとのお楽しみとして取っておきます。」ということで予約をお願いしここでは敢えてシャットアウトする事にしました。そこで、2001との違いに話題が移ったのですが、ボクが「以前のワイン会などで感じたのですが、身体に優しく、押しつけがましくない。でも、しっかりとした味わいと余韻を兼ね備えたモノですか?」と質問を振った所、ほぼ図星のようなことを仰っていて、「これからは、最初の印象だけが強くなりがちなアタックの強いものではなく、果実味を備えながら深い味わいと余韻を楽しむ優しいワイン造りを目指したい。」という意味の穏やかながらも秘めたる決意を込めた台詞を語っておられたのが印象的でした。そこには、日本のワインの目指す指標の一つがこの上山に産まれつつあることに感慨深いものがありました。そして、2004ヴィンテージ「シャトー・タケダ(赤)」を味わうのを想像した瞬間は胸が高まると同時に、社長就任となって一年近くなったこれからが『岸平典子氏のタケダワイナリー』の真のスタートだと感じたのです。
さて、その他にも試飲させて頂いたものについては、頂いた順に私なりに感じたままを記したいと思います。
蔵王スター 特別限定醸造ワイン ソフトドライ(白・2005)
当時の新酒ですが、最初の2点とはまた異なるオドロキを垣間見たワイン。
山形県デラウェア100%のレギュラークラスの品物で、とても優しく端正な味の飲みやすい辛口白ワイン。ダイヤモンドさんのデラドライも驚愕ものでしたが、路線は異なるがデラワインととしては出色の出来!
(当然、今年も出荷予定です!)
○ピュア・シャルドネ(2005)
典子様のカラーを全面に押し出した新生タケダワイナリーの名刺代わりの一本と言える名作。
最近、樽に入れずに直瓶詰めするタイプのシャルドネワインが日本でもボチボチ出てきてますが、既に2003ヴィンテージより手掛けているこのワインは所謂「元祖」的存在で、完成度の高さは他の瓶熟タイプの追随を許しません。日本、いや上山のシャルドネを素のままパッケージングした正に夏向き(他の季節でもオッケー)の果実味あふれたスッキリ辛口シャルドネワイン。他社の瓶詰めタイプが相対的にとんがった感じがしますが、この「ピュア・シャルドネ」は角が立っていないので美味しく頂けます。お値段も財布に優しい税込1,806円也〜♪
レ・フレール タケダ (白・2003)
こちらは、樽発酵・樽熟成のシャルドネワイン。ほぼ無色透明な「ピュア・シャルドネ」と比べ淡いイエローがかかってます。また、樽の風味も出しゃばることなく効いており、ブドウの果実味と樽の風味がエエ塩梅で同居してます。新樽と古樽のをアサンブラージュし絶妙に仕立てている高品位なワインです。
シャトー・タケダのセカンドグレードとはとても思えません。
マスカット・ベリーA サン・スーフル(2005)
長きに渡りお付き合いのあるタケダさんの契約農家・花輪和雄氏(山形県天童市)のマスカット・ベリーA種を、製造工程中において亜硫酸を一切使わずに作られた本当の意味の「亜硫酸無し」ワイン。ブドウが高品位だからこそ出来るモノで、こちらも典子様のカラーを全面に押し出したワイン。
とにかく、マスカット・ベリーAの風味を存分に堪能出来る適度な渋味をもった赤ワイン。タンク発酵のみですが、口当たりが優しいのに加え適度な厚みもあります。こちらも財布に優しい税込1,460円也〜♪
○アストールワイン(白・1999)
完熟したデラウェアをベースに使用した極甘口のワイン。古酒独特の蜂蜜の風味が印象に残ります。このワインもデラを使ってますが、完熟したものをベースに用いているにも関わらず狐臭(フォクシー・フレーバー)が殆ど感じられず、またベタベタした甘さになってないのが好感が持てます。
ラブレスカ種のワインは長熟に適してないのですが、そこはタケダさんの高度な「業」でもって克服したモノと言えます。これを含めたデラ2種のワインの出来には本当に驚かされます。
○アストールワイン・艶(赤・2002)
こちらは樽熟成したブラック・クイーン種のワイン。極甘口に仕立てながらも特有の刺激的な酸味がほんのりと残っており、アクセントになってます。
アストールワインは赤白共に非常にユニークなワインで、それでありながら奥行きのある味わいが楽しめます。地味ですが、存在感のある逸品だと率直に感じました。
蔵王スター ヴィンテージ・ワイン(白・2004)
自社畑のシャルドネとマスカット・ベリーAをアサンブラージュした白ワイン。蔵王スター白はレギュラーもマスカット・ベリーAを使用してますが、なんで赤ワイン用が白に使われるのかなぁと疑問になってたので典子様に伺った所、「甲州と一緒で搾り始めは色が付かないのですよ。」とのことで、納得。
食事を選ばないワインで、特にあっさり系の味付けの和食にピッタリ。ちなみに以前同じヴィンテージ・ワインの赤(2003)を山仲間とスキーの時に持って行って宿で空けましたところ、大好評でした。
蔵王スターシリーズは、レギュラー・ヴィンテージ共飲み飽きないもので、かつコストパフォーマンスに優れているので手元に置いておきたい(というか、近所の「行きつけのお店」にあります。笑)逸品です。マジメな話、皆さんバンバン買って飲みましょう!!
典子様が社長になられて、今タケダワイナリーさんは、同じ名門であるルミエールさん(5月20日訪問)と同様生まれ変わると同時にさらなる成長を目指してます。その志の高さに感服すると同時に、地元の人々に愛され上山に根ざした「蔵王スター」として存在しつつ、プラス「日本のスター」として日本ワインをリードする存在となって発展することを期待しております。
(社長の岸平典子様は勿論のこと、案内して下さった三部様を始めとする社員の皆様にはお世話になりました。改めてこの場を借りて厚く御礼申し上げます。)