伊豆ワイナリー・シャトーT.S訪問

伊豆ワイナリーの自社畑を望む

関東近郊の観光地としては最もバラエティーに富み充実した所といえる伊豆の地に一件の秀麗なワイナリーがあります。そのワイナリーとは、中伊豆の修善寺近くに居を構える伊豆ワイナリー・シャトーT.Sさんで、親会社が供食サービス&カラオケ業(と、一時期野村克也氏を監督に招聘した社会人野球チーム)で有名なシダックス株式会社の会長志太勤氏がオーナーを務めております。
後述しますようにワイン好きでもある会長さんが故郷に錦を飾りたいというのもあったでしょうが、「食の総合サービス業」を目指しているシダックスさんがワインとそれを取り巻く食文化の振興に目をつけ、大資本の余興ではなく真剣にワインビジネスを展開されておられます。そして、その一端として栽培地として山梨や長野・山形と比べハンディーのある中伊豆の地であえて国産ブドウ100%の『志太』シリーズを作っておられるのです。
実際にその成果は今年の国産ワインコンクールにおいて
○志太シュール・リー(2005)=銀賞(甲州・辛口の部)
○志太シャルドネ(2004)=銀賞(欧州種白の部)
○志太ヤマソーヴィニヨン(2003)=奨励賞(国内改良種赤の部)
という形で現れており、実力を発揮志太、もとい、し出している事が伺えます。(まぁ、駄洒落には目をつぶって下さいな。)
ちなみに、今回の訪問は小生が入会している「日本ワインを愛する会」の行事参加で実現しました。ナビゲーターは会の理事を務めておられ、以前『それいゆ』御披露目会旭洋酒さん)でも進行役をされた石井もと子様です。(例の本の監修もされてます。) 会の行事は理事の持ち回りなのですが、今回はリゾートワイナリーで極楽気分というテーマで、協賛ワイナリーとして「あの」都農ワイナリーさん(2006年4月4日訪問)と奥出雲葡萄園さんとココ・ファームワイナリーさん(2006年8月3日訪問)、のワインも頂くという事で、裏テーマとして伊豆ワイナリーさんも含め『新興だけど頑張ってるぞー』軍団を堪能するといった感じでしょうか。(笑・でも、新興頑張ってるぞー軍団がいて下さるからこそ、老舗も頑張り、全体がレベルアップ!に繋がる。エエ事やと思います。)
さて、その伊豆ワイナリーさんでは、
白=シャルドネ(Ch)、信濃リースリング(マンズさんがRiとCh交配により開発した品種)
赤=カベルネ・ソーヴィニヨン(CS)、メルロ、ヤマソーヴィニヨン(山梨大で開発されたCSと山ブドウとの交配種)、プティ・ヴェルドー
等をシャトーの建屋の目の前に拡がる5haの畑で栽培されております。(ちなみに、甲州勝沼の下岩崎地区にある自社農園にて栽培)
ビックリするのは、その密植度でなんと50cmの間隔にて垣根式で植えられており、どの品種もほぼ樹齢10年程ですが、主幹は細くさせて出来るだけ実に栄養を行き渡らせるように植えている事で、なおかつ比較的雨が多いことから、当然マンズ式レインカットやグレープガード(レインカットは樹の上部にビニールハウスのような覆いを立てるが、グレープガードでは実の部分だけにビニールシートの覆いを掛けて樹全体に湿気がこもらないようにする。)を施したり、シャルドネの畑ではマルチ農法を取ってます。
これらの施策は、気候のハンディーを乗り越えるための工夫で、マンズワインさんから招聘された木下研二社長が陣頭指揮を取って行ってます。(レインカットを施すのも当然でしょう) そして、おおよそ一反(10a)あたり1トン弱でありながら、山ソーでは糖度23度、酸度8(木下社長談)までとワイン用としては申し分無い良質のブドウを得る事に成功してます。
このように、栽培に心血注いでおられる一方で、おもてなしの設備も充実しております。詳しくはWebページを見て頂くとして、一つはオーナーの志太勤氏のワインコレクション、これがまた圧巻で、フードビジネスをカリフォルニアで行っていた時にワインの虜になり、ロバート・モンダヴィとCh.ムートン・ロートシルトのジョイント・ベンチャーであった『オーパス・ワン』(現在はコンステレーショングループとバロン・フィリップ・ド・ロッチルト(ロスチャイルド)=Ch.ムートンとのジョイント・ベンチャーに。映画『モンドヴィーノ』パンフレットより引用。『オーパス・ワン』もこの物議を醸した映画に出ましたからねぇ〜。)や、ボルドー5大シャトーや『ロマネ・コンティ』を始めとするブルゴーニュのグラン・ヴァン、そしてブドウ根アブラムシことフィロキセラに侵される前のボルドー一級の『マルゴー』『ラトゥール』『ラフィット・ロートシルト』の古酒が保存されているセラーは見物です。(もう、バンピーではついて行けません。苦笑)
また、もう一つは「ぐらっぱの丘」と呼ばれるバーベキューレストランを併設したグラッパの蒸留所があります。ここでは、3年前からモスカート種(伊太利におけるマスカット)を使用したグラッパを製造しております。日本でグラッパ手掛けているのはここと、くどいようですが我が故郷の誇りカタシモさんの『葡萄華』シリーズです。(2006年4月6日記事参照、こちらはなんと国産100%です! 後は機山さんのマールですね。) ちなみに、こちらのグラッパはモスカート種を使っているだけに優しい口当たりで40度という度数を知らずに飲んでしまう美味しくて危険なお酒です。(笑) 皆さん気をつけませう。
それと、今回は石井もと子様の特別な計らいで、日本で数少ない樽扱いの商社の(有)オークバレル様のご協力により、フレンチオークとアメリカンオークの樽のによる風味の相違を体験出来る貴重な機会に恵まれました。伊豆ワイナリーさんのシャルドネをサンプルにその違いを見たのですが、オークバレルさんの担当者とワイナリーの担当者曰く、「貯蔵期間が短かったので違いがハッキリと感じて頂けるか微妙ですが、、、。」と仰ってましたとはいえ、アメリカンオークではストレートでハッキリとしたヴァニラ香が、フレンチオークでは柔らかながら樹由来のタンニンが感じられ複雑な風味になっているのがよく分かりました。(チップを嗅いだのですが、木材そのものの香りが全然違います。)
こうして、ワイナリーツアーは一通り終り、残すはメインの料理を楽しみながらのワインの賞味です。今回は、
○食前:都農ワイナリー「キャンベルアーリー・ロゼ(2005)」
○前菜:伊豆ワイナリー「志太シュール・リー(2005)」
都農ワイナリー「シャルドネエステート(2005)」
奥出雲葡萄園「奥出雲ロゼ(2005)」
○主菜:ココ・ファームワイナリー「第一楽章(2003)」
伊豆ワイナリー「シャトーT.Sメルロ(2004)」
同上「志太カべルネ・ソーヴィニヨン(2003)」
同上「志太ヤマソーヴィニヨン(2003)」
を頂きました。都農さんは以前の記事を参照して頂き、奥出雲さんはまたの機会(実は、このロゼ誕生の裏には泣かせるドラマが、、、)にという事で、今回は主役であるホストワイナリーのワインについてコメントさせてもらいます。
○志太シュール・リー(2005)
上記で述べたように勝沼甲州種100%使用。2005ヴィンテージからはフリーとプレスランを分けてタンクで醸造し、それぞれ別の樽で貯蔵(確かフリーランの方を発酵させた方が新樽貯蔵かな? スミマセン記憶があやふやで。)したのをアサンブラージュしています。
造りに手をかけて丁寧に扱ったことが効を奏し、コンクール受賞に繋がったのだと思います。スッキリした中辛口でツボを抑えたクリーンな甲州種ワインです。
○シャトーT.Sメルロ(2004)
ビロードのような滑らかな舌触りにビックリ。艶めかしい中にメルロ独特の土とキノコの香りがじわじわと出てくる味わい豊かでありながら飲みやすい赤ワイン。
○志太カべルネ・ソーヴィニヨン(2003)
○志太ヤマソーヴィニヨン(2003)
ちょうど同じヴィンテージであったこともあり、品種の違いを比較出来る絶好の機会です。山ソーヴィニヨンは、甲斐ノワール(ブラック・クイーンと交配)のようなキャラが立った感じや、山ブドウ交配種では他に有名な小公子みたいにヤンチャな所が無く、適度にワイルドな酸味がアクセントとなり、複雑な香りと深い味わいを有するカベルネの長所をそのままに、それでいて異なった雰囲気をさりげに醸し出しているのが山ソーヴィニヨンの特徴やとボク自身は感じました。
「日本のジビエ」といえる鹿肉やしし鍋にピッタリなのが山ソーヴィニヨンと思います。希少な品種故価格がチト高い(3,500円、カベルネの方が2,320円)のが残念ですが、日本のカベルネ系赤ワインに多くありがちな青臭さはどっちもほとんど感じませんでした。後になって、「ああ美味しかった」としみじみ感じるワインです。
今回のワイナリーツアーは短い時間の中にも充実さを存分に感じました。
ナビゲーターの石井もと子様はじめ、事務局長の遠藤誠様、伊豆ワイナリーさんの木下社長、オークバレルさんの早川雅巳様には、いろいろとお世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
(追記)
ワイナリーの今後を占う上で、小生は「山ブドウ」が一つのキーワードと思いました。
有名産地からコチラに目を引かせ個性を打ち立てるためにも、山ソーを中心とした独自の山ブドウ系赤ワインで傑出したのを造る。「山ソー(2003)」が良い出来に仕上がっている事や「行者の水(和名:サンカクヅル)」の試験栽培をしている事から一つ選択肢で入れても良いのではと考えております。