前略、盆略様へ、そして日本のワインが好きな皆様へ、、、

いつも山梨を中心としたワインの話題を提供してくださる盆略様ブログでいくつか考えさせられる記事がありました。
『ブドウの絞り粕の有効利用』に関して小生からの情報を含めこのような形で整理して下さったこともあり、それのお礼も兼ねてボクなりの意見をまとめて答えさせてもらうことにしました。それぞれ異なる話題なので話がトンでしまってる所もありますが,そこはご容赦を、、、。(どの話題も元を正せば根底は共通の問題点が原因にあるのですが、その点は話がややこしくなるので置いときましょう。)

  • 甲州種は本当に「成熟商品」になったのか?

先日、山梨県内ワイナリー22社の出展により、山梨県産ぶどう100%の原料であるワインを各社毎に説明ならびに商談行うことを目的とした『山梨県産ワイン・試飲商談会』が甲府で開催されたそう(東京では12/7に開催予定)です。
盆略様の感想では、「ワイナリーによって多少差があるとはいえ、レベルが一定程度保たれている。」とのことです。
確かに、ほぼ同時期に開催された、小生も先日出席し、大盛況の内に終了した『第5回甲斐Vin 2006ワインセレクション』でも、甲州種ワインを中心とし、山梨県産のワインのポテンシャルが年々上がっている事を実感しております。(日本全体も含め。)
しかし、本当にレベルが上がっているとはいえ、その点は「醸造技術」の賜物で原料ブドウそのものからの根底からのレベルアップには完全に至っていないのは事実ですし、また「柑橘系の香り」が大ブレイクしていたりや先日小生も取り上げた「薔薇の香り」がクローズアップされたりとブドウそのものの風味ではなく香りだけという本質でない所でフィーヴァーしていると云うのが率直な実感です。
何処かの掲示板にも書きましたが、甲州種ワインもそろそろバラエティー溢れる種類を収斂させるべき時期に差し掛かってきているのかなぁと考えてます。現実問題、2006年9月27日の記事に取り上げた、『日本のワイナリーに行こう!2007』でも「様々な種類があって迷っている読者諸兄の皆様に」ということで147〜153ページに甲州種ワインの種類と風味別ガイドが掲載されてますが、裏返すとじゃあ何が本当に甲州種の特性を生かしたワインはというと即答出来ないのが現状だと答えざるを得ないのがこれを見ると一目瞭然です。
では、どういった製品が『甲州種の特性を生かしたワイン』を考えてみましょう。(あくまでも小生の意見です。) それには、甲州種の特徴を振り返る必要があります。その特徴とは、

  • 繊細で優しくありながらも酸も適度に乗った味わい豊かな果実味(但し、生食用に改良されたものではなく元来のヴィテス・ヴィニフェラらしい甲州種。果実味とボディーをしっかり兼ね備えたポテンシャルを持ったブドウであれば香りは後から付いてきます!)
  • 白ワイン用ブドウでありながら果皮が赤く染まり、それに基づく独特の渋みと苦み(プラス特有の旨み。これこそが甲州種独特の特徴!この旨みを逃すのは勿体無い。)を有する。

こういった点から考えるには、ボクが前々から唱えているようにいずれは「シュール・リー」や「樽」といった小手先のテクニックに頼ることなく

  1. 柔らかな甘味をもった日本古来のオーソドックスなタイプである残糖感のあるやや甘口白
    後記二点に比べるとメインのラインでは無くなります。しかし、今まであるスタイルが現実に広く受け入れられていることを考えると先人の築いた礎が確かなものであったからであり、そういった良い伝統は大切にしたいです。(但し、過去のスタイルそのままではしつこく・くどい甘さとなりがちなので、そこから少し視点を変え“上品な”薄甘口を演出することを考慮した方が望ましいです。)
  2. 後口の爽やかな切れ味ある酸が乗った繊細かつ味わいの豊かな辛口白
    食中酒であることを前提としたワインとして広く通用するためには辛口は必須条件ですが、それよりも本来の醸造用ブドウとしての甲州種の風味の真髄を発揮できるのはやはりこのカテゴリーであり、コレこそがこれからのスタンダードで有るべきと思います。但し、完全に辛口に切ると、酸が浮き足立ち・取ってつけたのでは無く自然に香り立つ上質な薫りや旨みが出ず淡白になってヴォリュームに欠けるので、隠し味的に残糖は要。それだけ酸度と残糖の許容範囲が狭く、ほかのワイン用ブドウと異なる。(←即ち、甲州は難易度の高いブドウです。もし、栽培の時点でレベルの高いものが実れば、ある程度は楽に醸造出来るかもしれません。
  3. 「醸し」により皮が持つ他の醸造用ブドウには真似できない独特の風味かつ色彩のワイン
    ここがポイント!世界にも「グリ」系ブドウはありますが、醸しで味を演出できるのは他にそう無いでしょう。嗜好品なので好き嫌いはともかく、「嫌い」だけでこのカテゴリーを全否定するのはチョット淋しいかなぁと思います、、、。実際、地元の方の「正しい食べ方は」口の中で皮離れした皮の裏を舐めて味わっているのです。それから「醸し」なら、樽もアリだと思います。なぜなら、赤ワインと同様で皮に含まれるポリフェノール等の渋み成分を樽熟成によって風味を変化させて醸成して行くことがこのカテゴリーでは生かせるからです。1と2の白に関しては果実味を生かすという点で樽はなるべく避けたいと云う小生の考えに基づくモノです。

へと集約しつつその中でワイナリー毎の個性を打ち出して行くことが、将来「本格ワイン」として国内で認知させることは勿論、世界へ通用していくための進むべき道という意見です。そして、この事は自然と真摯に対話することで生まれる『栽培によるブドウのポテンシャル向上』が前提であるのは言うまでもありません。

  • 国産ワイン表示に関する基準

「食」に対する関心が高まりつつある今日、日本のワインが存在感を示すには他の日本産農産物と同様、その出自を明示し消費者の信頼を獲得するだけでなく、地産地消の考えに基づき日本全国のブドウ産地でその地の風土に根ざした料理と合わせて相乗効果で浸透させて行くのが望ましいと思います。これだけ広く、しかも沢山の国々で生産されているお酒はワインを置いて他には無いと思いますが、「高級品」が全てではなくそれぞれのお国柄に合った「風土に根ざしたワイン」が存在し、地域の人々が日常の嗜みとして名物料理と併せて楽しんでいるのが普通であって(清酒本格焼酎がまさにそういった存在です!)、明治の文明開化に伴って西洋化が進む過程で何故か日本ではワインが「レストランで頂くための特別なお酒」といった変に神格化された存在と捉えられてしまったのがそもそも間違いの始まりだと思います。
で、話を元に戻すと、「日常の嗜み」として広く浸透して行くには分かりやすいように「ラベル表示の統一基準」をシッカリと定めることが急務で、それにより丹精込めて造るブドウ農家やワイナリーへの心強いバックボーンとなって経済的な面だけでなくいろんな面で貢献出来るだけでなく、先程述べたようにワインが国際的存在である酒類である以上、「自国の論理」だけでなぁなぁにしてしまうのは経済大国として日本が認知されていることから流行語大賞ではありませんが「品格」が問われかねません。
ワインに限らず、清酒や焼酎やビールやウイスキー等などお酒は、単なる「酔っぱらう」ためや税金の徴収源といった単なるモノとしての存在ではなく、日常において「人の心を豊かにし、楽しませる」存在であることから、嗜む人が安心して購入出来るのが何よりも大切な事だと思います。そして、こうしたボトムからのレベルアップがやがて「プレステージ・キュベ」とか「グラン・ヴァン」といったトップレンジ品の地位向上に繋がるのではと考えております。
理想を言えば、農産物として農林水産省管轄とし、JAS法の中に酒類の表示基準を明文化するのがイイのですが、当面は盆略様の仰る通り新たな立法で対応して将来はJAS法に取り込むのが現実問題として手っ取り早いでしょう。(何せ、税金が絡んでいるだけに国税庁、いや財務省との関わり等、利害関係が絡み合い一筋縄で行かない事が予想されるのが目に見えてますから、、、。)
(日本のワインが好きな方々へ)
一度は自身の頭の中だけでも構いません。上記二点の事に対してどんな些細な考えでも良いので自分なりに考えて頂ければ有難いです。
ブドウ生産地の行政機構や農家さん、ワイナリーの方々の自助努力だけでは限界があります。売り手(酒販店や飲食店)だけでなく飲み手自身もいつかは真剣にコミットし、一緒に市場を育て上げる時が来つつあると思います。
●関連記事
試飲商談会(2006年11月29日エントリー)
ワイン醸造技術管理士(2006年12月4日エントリー)
グラッパ・マール(2006年12月4日エントリー)
(いずれも「【盆略ワイン倶楽部 ブログ篇】」より)