「たとえ一樽、いや一雫でも最高のものを、、、」勝沼醸造訪問

「カツジョー」の愛称で親しまれ、勝沼御三家(あとは丸藤さんと中央さん)の一つに数えられる勝沼醸造さん。今回は、気楽斎氏とmutsu氏の粋な計らいにより、有賀雄二社長との面会が実現しました。
勝醸さんといえば、甲州種に対して特別な想いを持ち続け、2004年からは甲州種に特化したトータルブランド「アルガ・ブランカ」を展開されており、そのこだわりは尋常なものでは有りません。それは、地元勝沼の生食用葡萄栽培の歴史に根ざしつつも、醸造用への取り組みに真剣に向き合うという気概が無ければ出来無かった事で有るが故に、高く評価されて然るべきだと思います。
そんな訳で、今回の訪問では甲州種に焦点を絞り「甲州種の現状と勝醸さんが求める今後のあるべき姿」を中心にお話を伺い、試飲することに致しました。
母屋のテイスティングルームの奥に有る何と座敷に通され、有賀氏との話が始まり、開口一番、驚かされたのが「いまだに勝沼では甲州種を生食用という認識で造られている。」という話です。その例として引き合いに出されたのが、NHK出版の教育テレビのテキストバックナンバー「知るを楽しむ・なんでも好奇心2005年 8・9月号 - ワイナリーへいらっしゃい」に出てくる鳥居平のある有名な甲州種栽培農家が、実は「オレはワイン用にブドウを作ってんじゃねぇ。」と発言していることだそうです。この本持ってるボクにとっては、のっけから目ん玉が飛び出そうになりました。そして、ピオーネや巨峰に人気が移り生食用としての需要に陰りが出ているのは私も知ってはいましたが、有賀氏はそういう状況を鑑み、
(1)栽培家に醸造用への転換を図る為、意識改革をして頂く事
(2)従来のスタイルの甲州種ワインの固定観念に囚われがちなワイナリーも意識改革が必要
醸造は勿論のこと、酒質、農家や消費者との関わり方等々全てに渡って)
ということで、「お客様に感動を与える」ワイン造りを目指し、お高く止まりがちなワイナリーとは一線を画して私が常々語っている「下から目線で」栽培家や消費者と接し、信頼関係を構築するのがウチのポリシーであることを訴えました。そして、生食用としては斜陽化しつつある甲州種が醸造用としてポテンシャルの高いものに生まれ変る事で付加価値の高いワイン用ブドウとなり、やがては日本の「代表種」として世界に認知されることが出来ると考え、長期に渡り未来へ目を向けたワイン造りのため研鑽を続けていることに感心することしきりです。(結果は直ぐに出ないのを承知の上でですヨ!)
非常に情熱あふれる有賀社長からはバイタリティーあふれるものすごいオーラを感じます。でも、その情熱は単に「熱い」のではなく知性に裏付けされたものであることが話をしていて強く感じました。このことは、勝醸さんのWebページにある、有賀氏自身の言葉で綴られた「アルガのコラム」を読んで頂ければ本当に良く分かります。必見のページです。ブドウ農家との信頼関係構築は2005 年 3 月のコラム2006 年 5 月のコラムが一例として、 お客様との信頼関係構築は2005年 5 月のコラム二題が一例として記されております。そして、実際にワイナリーに来られる方々の姿を拝見すると、皆賑やかにかつ楽しそうな顔をしてワイナリーに溶け込んでいる姿が印象的でした。このホスピタリティーの良さが、高品質のワインを産み出しながらも「カツジョー」と親しみをこめて称される所以でしょう。そんな熱い社長自身もホスピタリティー溢れる人なので、ホンマに楽しく過ごさしてもらえました。
私も負けじと話が熱くなり(笑)、時間があっという間に過ぎたところで、有賀氏自らがグラス(後述するリーデルグラスギャラリーに訪れたゲオルグ・リーデル氏が、甲州種に会うグラスとして選んだ『ソムリエ』シリーズのロワール【No.400/33】と同じシルエットの『ヴィノム』シリーズのソーヴィニヨン・ブラン【No.416/33】)を用意して下さり試飲と相成りました。
○『アルガ・ブランカ クラレーザ』(2004)
食中酒に最適なキリリとした風味の辛口甲州白ワイン。シュール・リー製法で造られていますが、それっぽさはあまり感じない程度にうまくアミノ酸系の味を抑え、辛口の風味を大事にしています。「デュブKOSHU」なんかより、これこそ寿司や刺身等のあっさり系の和食にピッタリのワイン。
○『アルガーノ ボシケ』(2004)
従来のスタイルの甲州種ワインの固定観念に囚われない勝醸さんですが、そこは地元に根ざしたワイナリー。そこで伝統的な若干残糖を残した風味に仕立てたやや辛口の甲州白ワインです。でも、田舎風なやぼったい感じはそれほど感じません。宣伝文句通り「スッピンの甲州」で飲み飽きない形ながら洗練されたスタイルです。
○『アルガ・ブランカ ピッパ』(2002)
勝醸さんのシンボリック的存在である二大白ワインの一つ。冷凍濃縮により補糖補酸せず、フレンチオーク樽で発酵後、瓶熟成した甲州種とは思えない厚みと優雅さを兼ね備えたワイン。このワインの存在の元となったのがフランス醸造技術者協会主催の国際ワインコンテスト「第9回ヴィナリーインターナショナル2003」にて銀賞受賞した『甲州特醸樽醗酵』(1999)と「第10回ヴィナリーインターナショナル2003」と「リュブリアナ国際ワインコンテスト2003」にて銀賞受賞した『勝沼甲州樽醗酵』(2002)です。つまり、勝醸さんは少なくとも1999年から甲州種ワインに関する真摯な取り組みをされていた事になります。その蓄積がようやく花開きつつありますが、有賀社長はそれよりももっと先のゴール、すなわち冷凍濃縮無しでもしっかりと糖と酸の乗ったところまで甲州種ブドウのポテンシャルを上げ、それからさらに酒質の高いワインを作り出す事を目標としています。その為に2003年4月21日に山梨県の「ワイン産業振興特区」(「農地法第3条」で農業生産法人以外が農地を取得するのを禁止していたのを規制緩和して出来た特区。)が認定されたのを受けて自社栽培の畑を借り受けにより拡大し、ブドウの生産からワイン造りまで一貫して行うことも視野に入れてます。
ちなみに、「ピッパがさらに熟成するとこのようになる」という見本で、『甲州特醸樽醗酵』の2000年ヴィンテージを頂くことが出来たのですが、まるでスコッチウイスキーが年月を経てまろやかになったかの如く、甲州種ながらも長期熟成に耐えうる長熟ワインとして仕上がっていたのには驚きました。本当に美味しかったです!
○『アルガ・ブランカ イセハラ』(2005)
笛吹市伊勢原地区の単一畑(契約栽培者は風間正文氏)から産まれたもう一つのシンボリック的存在である白ワイン。生食用には適さないとされた土に小石がまじる、水はけの良い痩せた土地で毎年「柑橘系」の香りがするワインが産み出されていたことに気がつき、これを「天恵」と受け止めて丹精込めてワインとしたものです。昨日の飲み比べでは独特のミネラリー感が際立っていると書きましたがまさにその通りで、なぜか他の畑では再現出来ない畑の個性が如実に反映されたワイン。「イセハラの前にイセハラ無し、イセハラの後にイセハラ無し。」と言って過言では有りません。
余談ですが、傑作なエピソードとして有賀社長本人も語っておられましたが、こういった個性的かつ従来の甲州種と異なる味わいをあえて押し出した勝醸さんの甲州種ワインに対して、「あんたとこの甲州はおかしいで」という忠告を意に介さずむしろ誉め言葉だと受け取る大胆不敵な姿勢は、有賀氏の熱きスピリットを感じさせずにはおれないエピソードです。(リンク先はフォルスタージャパンのワイン総合情報サイト「WINE21」より。)
とにかくオモロイ、そして行って楽しい気分にさせられるワイナリーです。先程話にもでたリーデルのグラスギャラリーは母屋隣の土蔵の2階にあり、『ソムリエ』シリーズが全て展示されてます。これも是非見る事をオススメします。
(今回の訪問に関しては、気楽斎氏とmutsu氏の多大なご尽力により実現しました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。)