今年も熱い生命力をみせる古木の堅下甲州〜カタシモワイナリー訪問

GWの帰省時にはまずはココを訪れなければなりませぬ。小生の故郷の老舗、カタシモワイナリー(カタシモワインフード)さんです。
この日は朝から晴れ渡り、朝の9時半頃にワイナリーを訪れた頃には、もう汗がじわりと出てくるほどの暖かさです。社屋に着きますと、社長の高井利洋氏始め社員の皆様が愛想よく丁寧に挨拶して下さり大変恐縮です。
折角の晴天ですので、高井社長は徒歩で自社農園の合名山へ案内して下さりました。生駒山地の山裾に開けた急斜面の農場では、棚栽培での堅下甲州始め、垣根栽培の欧州品種(主に、シャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニョン)等が栽培されており、いずれのブドウも萌芽が終わり勢い良く展葉していました。古木の堅下甲州もまだまだ健在。ブドウの力強い生命力をひしひしと感じます。そして、斜面の上方ではワイナリーブログでも記されているように新しいメルロやシャルドネ、堅下甲州等がさらに植栽されています。かつては、大阪の河内(柏原・羽曳野地域)ではブドウ栽培が盛んでしたが、今では都市化の波に押され減少しつつあります。そこで、昔から続くブドウ栽培の歴史と伝統、そしてこの景観を守るべく、自社畑では今の需要や嗜好にも対応した高品位ワイン用ブドウの生産へ幾分軸足を移しつつ、周辺の農家と連携して大阪特産のデラウェアや堅下甲州、マスカット・ベーリーAの生産も絶やすことなく続けておられます。
その合名山からの眺めは壮観。大阪平野はもちろんのこと、自社の畑やワイナリーを見渡すことが出来、何度も訪れて見慣れているはずのこの風景も、その時に応じた様々な顔を垣間見せてくれ、またこういった良く出来た眺めを見れるブドウ畑が存在していることを誇りに思っています。
その後、国の登録有形文化財指定のワイン貯蔵庫にしつらえたティスティングルームに場所を移して、今回は最近出た新製品を中心に、頂く事になりました。
合名山・白(2007)
良年にのみリリースされる、自社農園産での高品位のブドウを100%用いたスペシャル・キュベのシリーズで、白はシャルドネを用いています。
以前のミレジム(2003)ではタンク発酵・樽貯蔵のごく普通の造りのシャルドネワインでしたが、今回リリースした2007ミレジムは、古樽での樽発酵・樽貯蔵というクラシカルな造りを取っています。
実は2002年にこの造りでシャルドネのワインを出す予定でしたが、ワイン造りに安易な妥協を見せない社長さんの心意気故にどうしても納得が行かず敢えてリリース見送り、2003年では上記の普通の造りで世に出し、今回ようやく念願の出来で出荷となったモノなのです。
堅下甲州がとかくクローズアップされがちですが、3代目となる利洋氏がワイナリー業に就任後約30年近く地道に研究を重ねて続けてこられた大阪の地における欧州系品種の栽培技術の結晶というべき傑作です。
かすかに沸き立つシトラス洋梨香ですが、時間を置くことで端正ながらも芳醇な薫りへと変化し、ドライマンゴーやパインの様な濃厚な果実味が口の中にじわりじわりと、そして華やかに膨らんで来ます。皮ごと食べれるタイプの欧州系生食用ブドウをかじった時に感じる若干の皮の苦味の奥に旨味が感じられ、しかもミネラリー。昔の青臭くもえぐみもある、だけど旨味が爆発的に感じる野性的だけれども滋味たっぷりの野菜を彷彿とさせられますね。
まだ瓶熟が進んでおらず若々しいワインなので荒々しさがありますが、美しい黄金色でグラスの内壁の滴には「足」がしっかり出ています。それだけブドウ自身の旨味がぎっしりと詰まっていて濃厚な証左といえます。時間が経過しても、風味が落ちるどころかますますその味わいが深く染み入るように発揮されるタイプで、タフで個性的、しかしごり押しで独りよがりな性格のワインでは無く、飲めば飲む程に杯が進む魅惑のワインです。
フランスのシャブリやコード・ドールのでも無く、新世界(米国や豪州、NZ)等や日本の著名産地のシャルドネワインとも似ても似つかぬ個性を上手に表現されています。万人ウケを狙ったタイプではありませんが、これは面白い。是非一度お試しあれ!
Candy Dolce(酒精強化・甘口デザートワイン
地元の農家さんが栽培されているブドウの有効活用として、練りに練って考え出されたのが一昨年より出されている大好評の「デラウェア・スパークリング」。瓶内二次発酵の本格派で、とても生食用を用いたとは思えない出来(もちろん、元のブドウも優れた出来だからこそのモノなのです!)なのですが、今回試飲したフォーティーファイドのワインは、キャンベル・アーリーとマスカット・ベーリーAを用いたという高井社長の凝り性と飽くなきチャレンジ精神が産み出した賜物です。
その耽美な甘味の奥には、まるでメルロの様なコクと深みの有る渋味が漂っています。プルーンやドライレーズンの風味も感じられ、本格的なデザートワインとして出色の出来。キャンベル・アーリーとマスカット・ベーリーAが原料ブドウとは到底感じられない仕上がりには驚かされます。
諸々の事情によりリリースはまだですが、非常に待望されます。リリースされた暁には、本格フレンチやイタリアン等の洋食系の食後酒として堪能することをお薦めします。


地元に残された数少ない農家さんから頼りにされるカタシモさん。しかし、その裏には農家さんと胸襟開くも馴れ合いにはならない関係を模索する一方、率先してワイン用ブドウの栽培を取り組み指導へとフィードバックする姿勢はまさに『運命共同体』そのものなのです。
何かと暗い話題の多い大阪ですが、社長さんを始めとするその『熱きスピリット』がこの大阪で健在である限り、大阪・ひいては日本のワインの将来は何とかなるかも知れぬ。私は、そう思います。
その精神が、少しでも多くの方々に知られ・かつ理解され、やがて花開くことを切に祈っています。
(社長の高井利洋様はじめ、従業員の皆様には大変お世話になりました。この場を借りて改めて厚く御礼申し上げます。)
○関連記事
カタシモワインフード訪問(小生2006年4月6日記事)
やっぱり熱いよ社長さん!〜カタシモワイナリーにてラインガウ甲州と堅下甲州ぶどう(2006)の比較試飲(小生2007年5月2日記事)


(追記)
大人気商品の、「ジャパニーズ・スパークリング デラウェア」を紹介してはります岡昌治氏(リーガロイヤルホテル大阪)の記事がコチラです。
マスターソムリエ 岡昌治の「心に残る今月の一本」 Vol.4 (2007年12月21日)
「Japanese Sparkling Delaware(ジャパニーズ スパークリング デラウェア) KING SELBY(キングセルビー)」
(『あまから手帖』主宰の門上武司氏が運営する、「門上武司食研究所」より。)