Sonomaのワイナリーを訪ねて(後編)

ひなびた感じのSonomaは、ヨーロッパに通じるそこはかとない郷愁と古き良きアメリカの大らかさといった雰囲気を併せ持つ地域で、居心地の良い感じが漂います。後半は奇しくも日本人が手掛けているワイナリーを二軒、連続して訪問しました。
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Freeman
Akiko & Ken Freemanの二人が営む小さなワイナリーである、Freeman(フリーマン)。約20年前にワイナリーを御夫妻で立ち上げ、夫のKenさんはその傍ら投資銀行を経営して精力的にワイナリーを支えています。そして、有能なワインメーカー、Ed Kurtzman氏(カリフォルニア州立大学フレズノ校でワイン造りを学んだ。)を迎え、現在はピノ・ノワールシャルドネを併せ年産5,000ケースの規模でリリースしております。

醸造設備を見学後は、山腹のセラーに案内されテイスティングです。今回は、わざわざ出荷前のバレルサンプルを頂いた上に、現行販売分の2007年ヴィンテージの製品版を試飲することが出来ました。
 一口頂いてすぐさまピンときて私の印象に残ったことは、凛とした面持ちの綺麗な酸であること。しかも、果実の風味もしっかりと感じられとても琴線に触れるタイプのワインです。そのことを伝えると、Akikoさんはとても喜んで下さり、酸味を重視し・凝縮感とのバランスを取ることを信条としていると、穏やかな中にも芯のある丁寧な語り口で説明して下さりました。

上記の信条に関しては、日本の代理店(インポーター)である成城石井さんのサイトでも説明されています。特徴として、Freemanではカリフォルニアの中でも相対的に酸味を重視しています。しかも、果実は糖度24度をコンスタントにたたき出す土地柄ですからしっかりしたブドウの味わいがワインに醸し出されます。それと、Akikoさんの説明によると基本的には天然酵母を使用して発酵し、発酵が滞る(スタックする)様な状況では培養酵母を加えるオペレーションを取っており、出来る限り複雑味を演出する方針でいます。よって、Rochioliとは違った個性で、エレガンスさと緻密さ・表情の豊かさが富に感じられるワインであると私は考えております。

文字通り爽やかに吹くSonomaの風と大地のぬくもりのイメージを感じる“Ryo-fu(涼風) Chardonnay”、繊細なタッチの中にも芯を持つ“Russian River Valley Pinot Noir”、心地よいタンニンのアタックがアクセントとなっている“Sonoma Coast Pinot Noir”、華やかな花のブーケに心魅かれる“Keefer Ranch Pinot Noir(日本未発売)”、そして、Akikoさんの理想を追求し、複雑なテクスチャーの中に拡がりを感じさせ西陣織の着物に通じるような「美学」を持つかのような“Akiko's Cuvée”。いずれのワインも期待は裏切りません。カリフォルニアのワインに対する先入観を良い意味で覆してくれます。
Rochioliと併せて、このFreemanのワインには驚嘆しました。本当に良いワインに出逢うと、心が揺さぶられます。それが、二度も連続すると尚のことです。

Maboroshi(幻)
ブドウ畑に囲まれた高台の懐にRebecca & 私市友宏御夫妻の白い家が建っています。景色に優れた丘陵地で素敵なロケーションの小さなワイナリー、それがMaboroshi(幻)Vinyard。大阪府出身(!)の友宏さんは夫妻でワイン造りを志し、まずはフランスに旅立ち、90年代にアメリカへ移住。ワイナリーに勤務しつつ自分達の「城」となる畑を探し出し、ついに90年代の終わり頃に念願がかないます。それが、現在の住居と畑のある土地です。

ここでは、最もお気に入りの品種のピノ・ノワールを栽培してます。面積は約12エーカー(≒4.86ha)。サステイナブル(持続可能な)農法を実践してますが、最近はバイオダイナミック(ビオディナミ)も一部取り入れてます。また、カベルネ・ソーヴィニョン等はソノマの中心地・サンタローザとナパのセント・ヘレナ(昨日のAnderson’s Conn Valley Vineyardsの近傍)の間にあるスプリングマウンテン地区のを用いてます。晴天ならこの畑のある丘の頂上から景色が見渡せますが、あいにくの天気となってしまい今日は堪能出来ませんでした。残念。

試飲では、メインラインのMaboroshiシリーズとセカンド的位置づけの“Rebecca K”シリーズのシャルドネピノ・ノワールを頂きました。こちらのワインも基本的には天然酵母を使用して醸してます。Maboroshiシリーズが男性的で力強さを備えているとすると、“Rebecca K”シリーズでは女性的で艶やかさを備えているといったキャラクターで互いを補間しており、お二人の雰囲気が乗り移ったみたいに思えます。このように、二つのラインは異なる面持ちを醸し出していますが、共通するのは、手造り感溢れた・素朴な感じの味わいであること。長年、ワイン造りを追い求めて挑戦し続けた二人の歩みが滲み出ているかの様です。




以上、一日で四軒だけでしたが、昨日も含めてカリフォルニアのワインの本当の姿を少しかもしれませんが垣間見ることが出来ました。勿論、これらはほんの一部でさらに深く知るためには、より日数と軒数をこなさなければならないでしょう。
とは云うものの、伝聞や日本で飲むだけでは感じ取れない“生の雰囲気”を味わうことが出来たのは事実です。
それと今回の訪問でつくづく感じたのが、ワインの造りの原点にひたすら忠実であること。テロワール”と云う言葉の「神通力」と事実上無縁なこのカリフォルニアでは、旧世界・特にフランスと比較するとワインの本質で勝負する他ありません。しかし、下手に芝居がかった物語を持って来て色々と理屈をつけることには目もくれず、ブドウとワインの質そのもので世に問うことがかえって「本家」よりも筋の通った姿勢となってワインに現れていると云うことです。従って、「フランス=エレガント」で「カリフォルニア=濃厚でパワフル」という図式はステレオタイプ固定観念以外の何物でもありません。
短いながらも、その土地の「風」を感じ取ることが出来た一日。また、機会があれば尋ねてみたい。とても有意義なワイナリー訪問でした。