ワインの知識を養える書籍

長らく更新を控えておりましたが、情報共有の手段でちょうど良いアイテムである事から(似たような手段で”note”が最近流行っていますが…)、折角ツールとしてこのBlogで発信すればと思い、記事を書くことにしました。

そんな訳で、今回のお題は『ワインの知識を養える書籍』。


ワインに関することはまことしやかな風説がよく飛び交っています(特にネットで)が、科学的な見地での「知識」がきちんと伝わらず埋もれがちになってしまっています。そうした知識を分かり易く伝える日本語の書籍は中々お目にかかれなかったのが、その原因の一つです。(ワインが産業として盛んな国々では、多く出版されていています。事実、英語の成書は多い。)

 でも、最近になっていくつか目ぼしい日本語の成書が出版されている事から、これを機に紹介して、ワイン生活のお役に立ててもらえればと思います。 

 

<入門編(対象:ワイン初めての人から上級者と全ての層に)>

○『科学者が書いたワインの秘密〜身体にやさしいワイン学』
PHP研究所:刊、Kindle版あります!

https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-76635-5

著者の清水健一氏は、協和発酵に入社後、ドイツのガイゼンハイムワイン研究所に留学、サントネージュワイン~アサヒビールを経て、現在は酒類や微生物の研究関連のコンサルタントを務めておられます。

web.archive.org

【追記】(2022年5月11日)

上記のリンク先がサイト閉鎖に伴い無くなってしまいましたので、ウェイバックマシンによる、インターネットアーカイブを参照しています。

清水氏の書籍と云えば、講談社ブルーバックスで長らく続くベストセラーの『ワインの科学-「私のワイン」のさがし方こちらもKindle版あります!がよく知られています。

『ワインの科学…』が基本のお話をかいつまんで軽妙なタッチで描かれた名著とすれば、最初の『科学者が書いたワインの秘密』は、最新のトピックスに焦点を絞り分かり易く伝えてくれています。

出来れば、両方の書籍を買って読んでもらいたい。眉間にしわ寄せることなく読めるワイン製造の入門書として最適です! 

 

 <上級編(対象:ワイン愛好家やワインヲタク・笑)>

○『ワインの科学(文庫版)』

 (河出書房新社:刊、Kindle版あります!

https://www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784309467269/

www.kawade.co.jp

 

【追記】(2023年12月2日)

文庫版が再販されたことから、こちらをBlogに掲載いたしました。

世界的ベストセラーとなった『ワインの科学』(日本語版は2008年出版)と『新しいワインの科学』(日本語版は2014年出版)の出版を経て2021年に文庫版が刊行されました。栽培・醸造・人体とワインの3つの章毎に、技術全般では無く、ワインを嗜む人々が非常に関心を寄せる数々のテーマに関して焦点を絞り、科学的に解明されている事実を詳しく説明してくれています。

元の単行本は結構なボリュームの本ですが、コンパクトな文庫版になっただけでなくKindle 版もございます。長年のベストセラーが、手に入りやすい形で再販されるのはありがたいことです。時の流れは早い。

 

○『きいろの香り : ボルドーワインの研究生活と小鳥たち』

(フレグランスジャーナル社:刊、Kindle版あります!

https://www.fragrance-j.co.jp/book/b211473.html

富永敬俊氏と云えば、ワインに通じている多くの方々が「甲州きいろ香(シャトー・メルシャン)」を想起されるかと思いますが、多大な功績としてボルドー大学にてソーヴィニョン・ブランの香りの元となる物質を発見した上に、香り発現のメカニズムについて解明されたことが挙げられます。

この功績を伝える伝記も出版されておられますが、当コラムでは『ワインの知識を養える書籍』という趣旨から、こちらの書籍が相応しいので紹介いたします。

科学的な記述による「きいろの香り」の詳細についてのご本人による解説もさることながら、現地での生活を通じての様々な日常風景も交えたお話は、富永先生の人となりが垣間見え殺風景な技術書に止まらない良書と云えます。残念ながら富永先生は2008年6月8日に逝去(享年53)された上に、この単行本も絶版となって入手出来なくなってしまいましたが、近年電子書籍化されたことは朗報でした。是非とも手にとって頂きたいです!

ワインの香り全般に関する著書(『アロマパレットで遊ぶ:ワインの香りの七原色』)もお勧めです。

 

【追記】(2022年9月12日)『もっとMBA』を追加しました。

○『もっとMBA マスカット・ベーリーAの魅力と可能性』

山梨日日新聞社:刊、単行本のみ 

https://www2.sannichi.co.jp/BOOKS/seikatsu.php

「日本のワインづくりの父」、川上善兵衛翁が育種した、マスカット・ベーリーA(以下、MBAと略します)。いまや、日本のワインシーンには欠かせない品種となっており、OIV(国際ワイン葡萄機構・http://www.oiv.int)にも品種登録されました。

本書籍は、こうした背景にも関わらず、名前は知られてもいまだ認知度が低いMBAに関する詳しいお話を、名だたる執筆者陣が分かりやすく・丁寧に記した解説本です。

MBAが産まれた背景やその歴史、特徴、手がけているワイナリーやおすすめの銘柄などを多角的に紹介しています。是非手に取って、一読してください!
(この単行本で紹介しきれなかったお薦めの銘柄もございますが、どうしてもと云う方はSNSを通じて、小生のアカウントまで連絡下さい。但し、プロフィール非公開や鍵付きアカウントの方にはお答え致しかねます。)

 

<ワイン製造(醸造・栽培)を生業とする人編(もちろん、一般の方々も!)>

○『イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門』

エクスナレッジ:刊)

https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767825397

イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門

イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門

 

 書名に、「化学者」とあったことから、元化学の研究に従事していた私としては買わずにいられませんでした。(笑)

冗談はさておき、ワイン造りの工程が川上から川下まで全てにおいて詳しく、しかも平易な言葉で噛み砕いて説明されていますので、技術的なことをきちんと知りたい人にはうってつけであります。一般の飲み手だけではなく、売り手や造り手などの業界関係者のプロの方々にこそ一度は目を通して欲しいです。

近代的なワイン醸造、いわゆる”モダンワインメイキング”がテクノロジーの塊という印象を持たれて久しいですが、実際は”古の技”のメカニズムが解明され取捨選択された結果、先人の経験と知恵に基づく過去の造りの積み重ねの延長線上にあることが、この書籍を読めば理解出来るかと思います。

 

○『新ワイン学』

(ガイアブックス:刊)

http://www.gaiajapan.co.jp/books/food/wine/3697/

新ワイン学

新ワイン学

  • 作者: 
  • 発売日: 2018/11/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

最後に挙げるのは、もはやワイン造りに携わる造り手向けの、純粋な専門技術書になってしまいますが、日本語での成書が少ない事から貴重な書籍として挙げておきたいと思います。

この本の前身となった『ワイン学』という書籍が1998年に刊行されていますが、時を経てちょうど20年後に現在の日本のワイン製造に携わる第一線の技術者が集結して新しく書かれたもので、旧著とは内容が完全に変わっています。

製造現場での技術革新は、徐々にではありますが絶え間なく進んでいるのがよく分かります。

 

以上ではありますが、レベル毎に合計7点、日本語でのワインに関する知識を養える書籍を紹介しました。ネットで様々な情報が飛び交う今日この頃だからこそ、こうした書籍をじっくりと読んでもらいたいと切に願っています。